召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、家出少女に困惑する (前編)
最神玲がロムリアに召喚されてから、物部かすみは1人、美土路神社で記帳作業とお札の販売を行っていた。幸い、梅雨明けから差間見町は真夏日が続き、今は猛暑日になることもあるため、日中に美土路神社にやって来る参拝客は以前に比べると半分以下になっていた。それでも、昨年の今頃と比べると1桁以上は多いため、その対応に追われる日々を送っていた。だが、あと少し待てば連休があり、その後はかすみにとっての夏休みである盆休みとなる。それまでは何とか頑張るぞ、と気合を入れたかすみであったが、途中で警視庁の千歳警部補からの連絡を受けて神室霊華と共にその対応に追われたりした。まあ、こちらは特に問題なく対応出来たが、それでもあいつがあの時の呪い返しを受けた奴かと思うと、少しだが腹が立ったりした。
そしてかすみが待ちに待った連休がやって来た。かすみは例年であれば帰省するのだが、今年の大型連休と同様、帰省する予定を立てていない。ただし、盆休み最終日に高校時代の親友と地元に集まる予定があり、そこには参加するつもりである。今年は特に、結婚式をある事情で中止したを励ます意味もあり、出来る限りかすみも参加して希美を元気づけようと思っている。ちなみに希美は、あの出来事の後会社を退職し、今は実家に戻っているという。なので、地元の大阪市内で飲食店を経営している幹事役のが色々と相談に乗ったりして面倒を見つつ、今回の励ます会も京香の発案で企画されたのだった。
さて、盆休みの後半はそのようなスケジュールが組まれているかすみだが、前半は特に何かする予定はないため、何時ものデザインの勉強をすることにしていた。特に今はドレスのデザインに関して猛勉強中だ。だが、そんなかすみの所に、予期せぬ人物が現れた。ちなみに、かすみの母親の物部京子ではない。
「お願い、かすみちゃん、
暫くここに泊めてくれない?」
とかすみの目の前で土下座して懇願するのは、神薙家の長女であるである。今彼女は、かすみが暮らす神職用住宅の玄関にいる。今日は連休初日の午後であり、今日も猛暑日になるとの予報が出ていた。そんな日に華蓮はキャリーケースを持ってかすみの所を訪れて、いきなり玄関先で土下座したままそんなお願いをしたのだった。「そんな所で何だから」と言って、かすみは華蓮を連れてリビングに向かった。そこでかすみは華蓮と向き合って話を聞くことにした。
実は華蓮は、母親と喧嘩してしまい、それで家を出たということだった。ところで、差間見町の神薙家には、現在当主のと華蓮だけが住んでいる。長男のは地元の大学に通うために普段は下宿している。そして母親のは、現在東京に住んでいる。これは夫婦仲が気まずくなって家庭内別居状態にある様にみられるが、全くそうではない。むしろ夫婦仲は良好である。ではなぜ千絵子だけ東京に住んでいるのかと言うと、彼女はビジネスソフトを開発している会社で働いており、その会社が東京にあるから、というただそれだけである。要は単身赴任中なのだが、ただしその会社は千絵子自身が立ち上げた会社である。つまり、千絵子は社長なのであった。なお、会社の規模は現在100人程度の社員を抱えるに過ぎないが、将来は勿論クライアントを増やして、更に規模を拡大しようと目論んでいることは言うまでもない。
それよりも、華蓮がなぜ母と喧嘩したのかだが、丁度お盆と言うことで、千絵子は自宅に戻っていた。そして、かすみも過去に経験したことだが、父と母が揃うと、子供の将来についての話し合いがもたれるのは、時間の問題だった。華蓮は今年高校3年生で、受験に向けて猛勉強中と思われたが、実はそうではなく、大学進学よりも専門学校に通うことを考えていた。一体どんな専門学校かと言うと、ファッションデザインを学ぶ専門学校である。つまり、将来はファッションデザイナーを目指したい、と言うのが華蓮の描いた未来像である。どうやら、身近な存在であるかすみが、ファッションに凝っているのを目の当たりにし、しかも最近ではロムリアの衣装を着こなしたり、自分でも何やらデザインしているぞ、と勘繰ったりしたことで、自分の中の何かに火が付いたようだ。そうやって自分の将来をどうしたいか明確に描けることは、非常に素晴らしいことなのだが、神薙家としてそれが許されるのかどうかは別であろう。母の千絵子とすると、デザイナーで食っていける人は極限られた天才位だろうと思うわけで、自分の娘にその才能があるかというと分からない。そんなギャンブルをするよりかは、より堅実に生きていくべきだろうと思う訳である。そのためには、やはり大学に行って、大企業じゃなくても中堅の企業でも、あるいは公務員でもなって家庭を築いてほしい、という安全志向に向かうのだが。そんな、親の心子知らずか、子の心親知らずか、何れかは分からないが、お互いヒートアップした状況では話し合いも何も進むわけはないので、華蓮は一旦家を出ることにしたのだとか。そして、その家出先がかすみの住む美土路神社の神職用住宅であった。まあ、確かに、1部屋空いているから、住む分には何も問題ないのだが。
そんな事情を聴いたかすみは、正直言って困惑していた。と言うのは、そもそも華蓮の家出の原因の元は、かすみの行いが原因だからである。では華蓮をってかすみがデザインの勉強を止めるかと言うとそれはしたくない。それとこれとは別だと思うからである。だが、華蓮としては、身近な存在のかすみの影響が大きいため、やはりかすみの意向は華蓮の将来に重要な影響を与えてしまう。
”そんなことにうちを持ち出すなや!”
とかすみは心の中で叫ぶが、その叫びは誰にも届かない。さて、どうすべきか?まあ、卒業するまでここに居つく訳ではなく、盆休み中であればここに暫く滞在しても問題はなさそうだが、一つ懸念点があるとすれば、玲が何時帰って来るかである。残念ながら玲に連絡を取る手段が無いため、何時帰る予定かを確認できない。そしていきなり美土路神社に帰って来て、もし華蓮と鉢合わせした時、何が起こるか想像すると恐ろしくなる。尤も、玲は最低でも2週間はロムリアに滞在するということなので、あと数日は大丈夫と見ている。まあ、とりあえず少しの間であればここに居ても問題ないことを華蓮に伝えるが、ただし神薙家には華蓮が家出とか行方不明とかで捜索願を出されるなどの勘違いをされない様に、こちらからここに居ることは伝えておくよ、と言うことを華蓮に話した。華蓮としては本当は誰にも知られたくないのだが、そうするとかすみに迷惑が掛かることも分かるため、渋々ながらかすみの提案を受け入れた。
一先ず華蓮には真ん中の空き部屋に入ってもらうことにした。そこで荷物を置いて休んでもらう間に、かすみは自分のスマホから、叔父の宗座衛門にだけは華蓮の居場所についてメールで伝えておいた。それで少なくとも叔父さんだけは知ってることになるから大丈夫だろう、とかすみは考えたのだ。それから華蓮を伴って、家の中を案内するが、まあ、見て周る所は余り、いや全く無いと言っていいだろう。「神薙家とちゃうから、狭くてゴメンやけど」とかすみは言いながらも、とりあえず家事は分担制であることを伝えておいた。そして一度リビングに入り、そこで今後の相談をすることにした。相談と言っても華蓮の進路ではなく、
「とりあえずな、盆休みの間だけ
居てもええけど、
それ以降は自宅に戻ること。
ええな?」
華蓮としては8月一杯はかすみの傍でファッションデザインの勉強をしたいと考えていたが、かすみも仕事があるため、そこは妥協した。それから、
「一応この家はシェアハウス
みたいな感じ何で、
家事に関しては当番制に
なってんねんけど、そこもええね?」
華蓮は、黙ってうんと頷いた。華蓮としては掃除、洗濯位はまあ何とか出来るが、料理となると...その時はかすみに手伝ってもらおうと考えていた。そして、
「あとな、玲が最終日辺りに
帰ってくると思うねんけど、
あいつが帰ってきたら、
有無を言わさず家に帰ること、
ええな?」
それはちょっと困る華蓮としては、かすみに「なぜ玲さんが一緒ではだめなの?」と聞き返した。すると、
「実はな、あいつな、
めっちゃ変態やねん!!」
だから、可愛い華蓮ちゃんを守るためにも、帰った方がええんよ、とかすみは適当な事を言い出した。もし玲がこのことを聞いていたら、速攻でかすみに猛抗議しつつ、かすみをシバキにかかっただろう。とんだ濡れ衣を着せられたものである。尤もかすみとしては、赤の他人同士の未婚の男と未成年の女性が一つ屋根の下で暮らすことは世間もそうだが、神薙家に対し申し開きできなくなる、と考えたのだ。多分そのことをちゃんと伝えれば何も問題なく華蓮も理解できたと思うのだが、かすみはその部分を全て素っ飛ばして、玲を変態に仕立て上げることで同じ効果を期待したのだった。全くかすみには困ったものである。ただそうすると、なぜかすみは大丈夫なのか?と疑問を持つのだが、これに対しかすみは、
「うちはもう免疫できてるから、
ええねん」
であった。一体何の免疫なのか分からないのだが。ただ、とりあえずは、盆休み期間中はここに住むことは問題ないと分かったことで、早速華蓮はかすみに対しデザインに関するあれこれを質問し出した。かすみは何やら専門家と言うかプロのファッションデザイナーかと勘違いされそうになるが、満更でもないため、華蓮の質問に快く答えていた。なお、かすみがデザインを行う中で得た結論は、「良い物をじっくり見て観察する」と言うことであった。量販店で売られている洋服を見た所で余り得るものが無いとかすみは思っており、それよりも一点ものの高級品はやはりデザインが洗練されていると感じていた。そう言うデザインを取り入れながら自分のオリジナル感を如何に出すか、そこがポイントやねんで、などと語りだすかすみであった。ただ、言葉だけでは伝わらないことがあるため、かすみは自分の部屋に華蓮を連れて行った。