召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、家出少女に困惑する (後編)
実は今現在、物部かすみの部屋は最神玲の部屋か?と見間違う状態となっていた。まず召喚したマネキンが4体、しかもこのマネキンにはロムリアからプレゼントされた4着のドレスが飾られている。そして壁一面にロムリアから贈られた衣装が透明な袋の中でハンガーに吊るされてディスプレイされていた。勿論コレクションを見てニヤつく訳ではなく、デザインの勉強に役立つと考えていたからである。そんなかすみの部屋を目にした華蓮は、文字通り目を丸くした。素人目からでもそれらが高級品であることは一目で分かった。しかも、
「このドレス、凄く素敵なんだけど...」
と呟く華蓮だが、その後言葉を失った。「ん?どないしたん?」とかすみが心配になり声を掛けると、
「これってかすみちゃん専用なんだよね?」
うん、そうやね、所謂オートクチュールと言うものになるね、とかすみは答えた。「ねえ、ちょっと触ってもいい?」と華蓮に尋ねられたので、かすみは「いいよ」と気軽にそう答えた。そこで華蓮は恐る恐る飾られているドレスを手に取ってその感触を確認し出した。そして「うわー、これ、めっちゃ生地が薄いんだね」、「この飾りって凄く細かいんだー」などと感想を口にし出した。それに対し、かすみは
「洋服のデザインって、
単にデザインするだけやなくて、
生地選びから、裁断、そして縫製まで
全て手掛けて、それで完成やって」
と言うことをタチアナさんが言うてたんよ、と華蓮に説明した。ただね、うちは生地選びも、裁断も縫製もまだでけへんけどな、と笑いながらそう付け足した。ん?タチアナさんって、ロムリアのですか?と華蓮がかすみに尋ねると、
「うん、そやで!ほら、この人」
と言ってかすみの机の上に飾られているタチアナと2人で撮ったスナップショットを華蓮に見せた。うわー、本物だ!と思った途端、
「そうすると、かすみちゃんの先生って
タチアナさん何ですか?」
と尋ねたので、かすみは「そう言うことやね」と答えた。多分、この世界で最高の先生の下でかすみがファッションデザインの勉強してるんだと目にして感動した途端、華蓮は
「ねえねえ、そうしたら、
私をかすみちゃんの弟子に
してもらえない?」
と相談を持ち掛けた。流石にかすみも、既に別の弟子を取っており、これ以上弟子を取るのは勘弁して欲しいというのが本音であり、しかも自分はデザインする以外に何もできないため、ここは丁重に断りつつ、
「やっぱな、うちみたいに
非正規なルートやなくて、
ちゃんと学校で学んだ方が
ええと思うよ」
てか、うちは本職は霊能力者であって、ファッションデザイナーちゃうからね、と華蓮にはそう釘を刺した。そんなかすみの言葉に華蓮は少し、いやかなりショックを受けたのだが、でも自分の夢は諦めきれないし、それを諦めろとはかすみは言っていないことが分かったので、
「じゃあ、ちゃんと学校に通って
基礎を学んだら、
改めてかすみちゃんに
弟子入りするけどそれでどう?」
と提案してきた。かすみもこれ以上断るのは可哀想と判断したので、「まあ、そのときになったらやね」と無難な回答をしたのだった。
さてそんな感じで初日は過ぎて行き、翌日から数日間、華蓮はかすみに付きっ切りでかすみの真似をしながら洋服のデザインを行っていた。そしてお盆の8月15日を迎えた。この日か翌日には玲が帰還するだろうとかすみは思うのだが、残念ながら何時帰って来るのか分からない。そして明日は、高校時代からの親友が集まって村上希美を励ます会がかすみの地元大阪で開催される。勿論かすみは参加する予定である。そうすると、華蓮にはそろそろ自宅に戻ってもらわないといけないのだが、そんな時神職用住宅のインターホンが鳴らされた。ここを訪れる人は実は滅多にいない。もしかして玲が帰って来たんか?と思いながら、モニターを確認した所、そこには華蓮の母親の千絵子の姿が映し出されていた。”あっちゃー、もしかして修羅場になるんか?”とかすみは内心に不安を抱えたのだが、とりあえず急ぎ玄関に向かい千絵子を招き入れた。
「おばさん、お久しぶりです」
とかすみが先ず挨拶をした。続けて、
「あら、かすみちゃん、
ご無沙汰してます。
元気にしてましたか?」
はい、うちはこの通りです、と言いながら来客用のスリッパを用意して、リビングに千絵子を招いた。それから来客用の湯飲みに冷蔵庫から取り出した麦茶を注いで千絵子の前に置いた。さて、
「おばさん、華蓮ちゃんのことですよね。
今呼んできますね」
と言ってかすみは華蓮の部屋に向かった。華蓮は机に向かって自分の考えたデザインをデッサンしている最中であった。
「華蓮ちゃん、お母さんが見えたけど、
どうする?」
華蓮は、お母さんと言う言葉にハッとして、かすみの方を振り向いた。すると、丁度その視線の先、部屋の入口に、千絵子が姿を現したので、華蓮はかなり緊張した、いや戦闘モードに入ったというべきだろう。
「ちょっと、お母さん、何しに来たのよ!!」
と華蓮は眉間に皺を寄せた険しい顔で抗議する。かすみは「ん?」と華蓮の視線の先を辿って振り返ると、そこに千絵子が無表情で立っているのを目にした。
”あっちゃー、
バトル始まるんとちゃうやろな?”
とのかすみの不安を他所に、華蓮は尚も母親に対し攻撃的な態度を続ける。だが、千絵子は特に華蓮の攻撃に怯むことなく、まあ恐らく慣れているのだろうが、そのまま部屋の中に入って来た。
”うわー、ここでパチーンとか
ちゃうやろなー?”
とかすみは違う方向に想像を膨らませてあたふたし出すのだが、現実はそんなことは無く、ただ机の上に広げられている華蓮の描いたデッサンを一枚手に取り、繁々と眺め出した。
「ちょっ、ちょっとお母さん、
勝手に触らないでよね!!」
と華蓮の怒りは最高潮に達し、ますます母親を挑発し出す始末である。「華蓮ちゃん、ちょっと落ち着きや!」とかすみは何とか華蓮に対しそう口にしたが、華蓮は黙る代わりに母親を険しい顔でずっと睨み続けた。その時千絵子が、
「ねえ、かすみちゃん、
華蓮のデッサンって
どうなんでしょうか?」
と華蓮の評価を恐らくかすみに委ねてきたのだった。それに対しかすみは、どう返答しようか一瞬迷うも、ここは正直に話した方が良いよな、と思い、
「おばさん、うちは本業とは違うので
華蓮ちゃんのデッサンに関して
評価は出来ませんけど、ただ...」
うちにはない発想力と言うか想像力は凄くありますね、と千絵子に伝えた。そして、
「例えば、そこに書かれているのは
男性用でも女性用でもどちらでも使える、
所謂ユニセックスと言うタイプなんですが」
そこに書かれているデザインの発想力は、うちには全くないですし、他で同じような物を見たことないですね、と正直な感想を口にした。それから千絵子は何枚かのデッサン画を手にしてそれを眺めていたが、再びかすみに問い掛けた。
「ねえ、かすみちゃん。この子、
これでやっていけると思いますか?」
“うわー、ド直球な質問やんか!”とかすみは心の中でそう叫ぶが、正直分からない。
「うちは正直分かりません。
ただ、ここで培った想像力って、
他にも色々と役立つことは
あると思ったりしてます」
例えばうちらのやってる創成召喚は、この想像力が凄く大事なんですよ、と叫びたかったが、絶対口には出せない。そのため無難なところで、
「例えばスタイリストだと、
その人物を想像しながら
ベストな衣装の組み合わせを
考える場合に役立つと思いますし、
あっ、デザインだけなら、
例えば映画や広告用のCGとか、
あとゲームのキャラクターの
衣装デザインとかはありますね」
実際にファッションデザイナーになろうとすると、かなり高いハードルがありそうだけど、それ以外を考えると結構仕事先は沢山ありそうだから、食べるには困らないと思いますが、と言うことをかすみは熱弁した。いつの間にかかすみは、華蓮の為に熱心に援護射撃していたのだった。そんなかすみの態度を見て華蓮は味方がいることにホッとしたようだ。そして千絵子の方は、相変わらず無表情のままに見えるが、少なくとも彼女からは先程感じた険しさは無くなったようだ。しかも僅かに口元が緩んだようにかすみには見えたので、千絵子に何かしら心境の変化があったのかと期待した。そして、
「かすみちゃん、華蓮のことを
助けてもらって本当に有難うね」
と先ずはかすみを見つめながら、千絵子はかすみに礼を述べた。そして、
「華蓮、自分で選んだ道である以上、
弱音は吐かず最後までやり切りなさい!!」
と華蓮を見つめながら、そう口にした。その顔には、もはや優しい母親の顔しか存在しない。華蓮は目に涙を溜めながら、
「お母さん、わ、私、頑張るわ!」
と宣言したのだった。どうやら、無事に華蓮の進路は確定したようであった。そしてこの決断が、後に[K.Karen]のブランド名で世界に衝撃を与えることになるとは、かすみも当の本人もこの時は予想していなかったであろう。
その後3人はその場で暫しファッションに関する雑談をしていたが、急に華蓮が
「お母さん、そう言えば
かすみちゃんの部屋にね、
凄く綺麗な洋服が沢山あるのよ」
と言いながら何故かかすみの部屋に千絵子を連れて行こうとしていた。「おい、華蓮、何勝手にうちの部屋に行こうとすんのや!」とかすみは訴えるが、2人してそのままかすみの部屋に直行した。全く華蓮の奴、とかすみはボヤキながら自分の部屋に向かった。すると、やはりと言うべきか、千絵子はマネキンに飾られているドレスに目を奪われていた。
「かすみちゃん、
これって凄く素敵なんだけと、
その分高価なんでしょ?」
と千絵子は視線をドレスに固定したままかすみに問い掛けた。かすみは
「すいません、おばさん。
これはうちの誕生日に頂いたものなので、
値段のことは分からないんですよ」
と正直に答えた。千絵子はドレスを隅から隅までじっくりと眺め、手で触りながら「これって、全てロムリアなんですね...」と溜息を漏らしながらそう呟いた。かすみは、「はい、ロムリアのタチアナさんから頂いた物です」と答えた。そして千絵子はに華蓮の方を振り向いて、
「華蓮、あなたもどうせやるんだったら、
このドレスを越えるデザインが
できるようになりなさい!」
そしてそれが出来たら、最初は私にプレゼントすること、いいわね。と何やら勝手に将来の話を進めてしまった千絵子だが、華蓮は笑顔で「任せて!絶対に凄いドレスを作ってみせるから!」と千絵子に対し宣言した。千絵子としては、女性である以上、年齢に関係なく、素敵なドレスに袖を通したいとの夢と言うか願望がある訳で、その願いをもしかしたら叶えてくれそうなのがまさか娘の華蓮であるとは、と思うと彼女の将来にかなり期待を持ってしまったのだった。そしてこのことが切っ掛けで、千絵子と華蓮の親子は無事元のに収まったということであった。
「ほな、華蓮ちゃん、
もう家に戻っても大丈夫やね?」
とかすみは期待を込めてそう伝えたのだが、
「ゴメンね、かすみちゃん、
明日までお願い!!」
と手を合わせて拝みながらかすみにお願いして来た。
”えー、まだ居るんかい!”
とはかすみの心の中の叫びであるが、仕方ない、と諦めつつ、ただし、
「明日は、午前中に大阪に向かうから、
その時には一緒に出てくれへんと
困るねんけどな」
と言うことで、今夜一晩はここで寝泊まりできることになり、華蓮は早速
「じゃあ、お母さん、
これからまた勉強するんで、
部屋に戻るね」
と言って華蓮はそのまま自室に戻って行った。そして千絵子は、
「かすみちゃん、
華蓮のこと宜しくね!」
と言いおいてそのまま帰って行った。
”おいおい、うちはどうなんねんな!”
とはかすみの心の中の叫び、パート2である。結局、かすみの大事な夏休みの1日は、この親子に良いように引っ掻き回されたのだった。