召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、拉致される? (後編)
物部かすみとラハニ・エランが霊界に到着した途端、首を絞めつけていた電流がピタリと止んだ。電流を流す命令が途絶えたせいであるが、だがこの攻撃は2人の体にはかなりえたようだ。かすみとラハニは膝に手をついてぜぇぜぇと喘いでいたが、何とか苦しみから解放されて安心したのかその場にへたり込んだ。その後、かすみとラハニの首の所にある箱のLEDランプも明滅したかと思うと直ぐに消えてしまった。
“やっぱ、思った通りやんか!!”
とかすみは思惑通りに事が運んだことでご満悦の表情である。一方のラハニは、何やら暗く霧の濃い世界に迷い込んだため、かすみにここはどこか尋ねようとした。だが彼女の声はかすみに届かないし、しかも自分の耳にも聞こえない。まさか音のない異世界に迷い込んだのかと思った途端、パニックに陥りそうになったが、ラハニの動揺を知ったのか、かすみが再び手を握ってくれたお陰で何とかパニックに陥らず平常心を保つことが出来た。そしてかすみが手持ちのホワイトボードとマーカーを召喚し、ラハニにこの場所に関する説明を行った。まさか、ここが噂に聞く霊界とはつゆ知らず、ただ自分の声も相手の声も耳には届かないことから、何時も暮らしている世界とは違うことは実感していた。そしてかすみは、
[とりあえず 元の世界に戻るね]
と書いて、少し離れた所に降霊転移門を設置して外の様子を確認した。
“そう言えば、何時ぞや玲が、
どこかの惑星のある街に
アクセスしたことがある言うてたな~”
「あそこはやばかったー」と笑いながら最神玲がかすみに語っていたことをかすみは思い出したので、恐る恐る首を突っ込んで外の世界を確認してみた。おっ、空気があるし、外も明るいし、どっかの森の中かな?と確認できたことで、ラハニを伴って外に出てみた。
「ラハニさん、ここどこやと思う?」
マッタクワカリマセン、とお手上げのポーズでラハニは答えた。空は青空であり、太陽は一つだけ輝いている。少なくとも玲と言うか宇宙人のカーンフェルトが暮らしていたサモナルドではないことだけは確かだった。だがここが地球かどうかはまだ確定できない。そこでとりあえず転移門を設置して周辺を確認することにした。すると、「うわー、まじかー!!」とかすみが驚いたのは、少し先に大きな都市があり、そこには時計塔と巨大な観覧車が見えた。
「ラハニさん、わかったわ、ここロンドンや!」
かすみはラハニに転移門の様子を見せた。ラハニは
「エッ、エエ、タ、タシカニビッグベンデスネ。
アト、アレハロンドン・アイデスネ」
とかすみの言葉に同意した。尤も、今のかすみであれば、ここから美土路神社への転移は全く問題ないので、ラハニに「ロンドン観光はまた今度で、とりあえず日本に戻るね」と言って2人で転移して行った。
かすみとラハニが美土路神社の自宅に到着したのは、日本時間の午後8時を少し回った頃であった。流石にかすみも、ヘキサグラム型召喚門の設置から霊界への移動、そしてロンドンからの転移と目まぐるしい勢いで召喚術を使ってきたため、召喚エネルギー不足からか少し疲れ気味である。だが、この事態を一刻も早く玲に知らせないと、と言うことで早速玲の部屋に向かった。
「玲、玲、居てる?」
とかすみは玲の部屋の扉を勢いよくノックする。すると
「そんなに勢いよく
ノックしなくても良いのに」
とぶつぶつ文句を言いつつ、「かすみか、遅かったね。何かあったの?」とかすみに尋ねるので、かすみは玲を連れてリビングに向かった。そこでかすみはラハニと自分の身に起きたことを玲に話した。そして、かすみは
「なあ、玲、この首輪やねんけど、
外されへんかな?」
と玲に相談するので、玲は立ち上がって手元にボルトカッターを召喚してかすみの後頭部側の金属部を切断した。そしてラハニの方も同様に切断し、これで彼女達は自由になった。
「くそー、あいつら、
絶対この仕返ししたるからな!!」
まじでしばいたる!と鼻息も荒くかすみはし立てるのだった。
「ところでかすみ、その監禁された場所に
転移門マーカーは設置したんだろ?」
と玲が尋ねると、
「そんなん、当たり前や。
うちもどこにおるんか知りたいから、
転移門でサーチかけてんけどな...」
どっかの山の中なのか知らんが、森に囲まれてて、よう分からんかった、とぼやき出した。流石にここからその場所を探すのは大変だが、もし何かの時に近くを通ったら分かる筈である。それと、
「なあ、玲、こんなんするの
誰やと思う?」
まさかアメリカちゃうよな!と口にした途端、ラハニがビクッとした。確かに自分の国が疑われるのはちょっと嫌だよなと玲は思うのだが、
「多分、その可能性は低いと思うね。
少なくともアメリカ軍が
そんなことする理由はまずないしね」
ここにラハニを預かっているのも、そもそも彼女に転移を学ばせたいから、と言う思惑がある。従って、わざわざその邪魔をするような真似はまず有り得ないのだった。
「後はCIAかな。でもあそこも、
きつくお灸を据えておいたからね」
また何か動き出したら、玲はホワイトハウスに怒鳴り込みに行くつもりであった。そしてこちらの線も薄いか殆ど無いと見ている。そうなると、
「今の所はアメリカ以外の国か、
組織というところまでしか
絞れないよな」
と玲が呟くが、かすみも確かに玲の言う通りだと思っている。
「ただね、かすみ、もしかしたら近いうちか、
あるいはほとぼりが冷めた頃に
また接触してくると思うけどね」
ああいう連中は諦めが悪いからね、と玲はかすみとラハニに向かってそう口にした。「それよりも、かすみ達お腹空いてないの?」と玲が尋ねると、かすみの腹時計が「ぐぅー」と鳴った。本当、かすみの胃袋は正直だよな、と玲はかすみに向かってそう呟くと、かすみは「はぁ?玲さん、何かうちのこと馬鹿にしてはるんですか?」と凄んできたので、「とりあえず、何か用意するよ」と言って、かすみにしばかれる前にさっさとキッチンに向かった。そしてかすみとラハニのために簡単な夜食を作って彼女達の遅い夕飯となったのだった。