召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、拉致される? (中編)
「あっ、あれ、うち何時の間にか
寝てしもうてたんか?」
と物部かすみは目をりながら漸く目覚めた所でそう呟いた。まあ、かすみの場合、どこでも眠くなれば寝てしまうので、実は麻酔ガスは必要ないのかもしれないが、そんなかすみが目覚めたのはコンクリートの壁で囲まれた部屋の中である。
”ん?あれ?こんな部屋って
あっこになかったよな?”
と何となくだが思い出したかすみだが、ではここが何処なのかは全く分からない。そして、何やら首に違和感を感じたのか、手で首元を触れてみた。すると
「うわー、なんなん、これ!
何でうち、首輪されてるねんなー!!」
と騒ぎ出すが、かすみの騒ぐのも当然で、今のかすみの首には金属の首輪が取り付けられていた。何となくチョーカーとも呼べなくはないのだが、こんな所でチョーカーを首につけられる理由が分からない。それに喉の所には何やら箱のような物が取り付けられている。
“もしかして、いんや、もしかせんけど、
これって誘拐されたっちゅうことか?
あるいは......えっ! ま、まさか......”
「改造されたんちゃうやろな!?」と何やら変な空想してしかけるかすみだが、もしここに全身黒ずくめで黒い目出し帽の男たちが現れたら、そう疑ってしまいそうになるだろう。
さて、かすみの騒がしさで目を覚ましたかけたのか、ラハニ・エランが「うっ、うー」と呻き声をあげた。かすみは傍に倒れているラハニを起こそうと振り向いた時、ラハニの喉のところにも何かが取り付けられているのを目にした。そしてその箱が何やら点滅しているようで、
”こういうのって、映画やと、
大抵発信機とかとちゃう?あるいは...”
「ば、爆弾か!?」と又もや変な空想をしてえだす始末である。尤も、これが発信機だったとしたら、逃げても直ぐに居場所が分かってしまうだろうな、とかすみはその箱を見てそう感じた。
さてかすみは、何とか落ち着いたところで一応念のため、転移門を使って今どこに居るのかを確認したが、少なくとも建物内に人が居る気配は感じられない。まあ、見る範囲が限定されるから、建物内全てをサーチした訳ではないのだが。そしてどうやらこの建物自体は何やら廃墟っぽい感じがし、またその周りには森か林があるだけ、民家などは全く見当たらない。そんな時”ここは日本なのか?”と遂には疑い出してしまった。
そのうち、ラハニも完全に目を覚ましたところで、天井付近から声が聞こえて来た。
「お目覚めのようで、物部さん、エランさん」
ん?日本語で話しかけてるな、てことはここは日本と言う可能性もある訳だ、と考えた途端、少しだけ気が楽になった。と言ってもかすみの場合、別に地球の裏側でも問題なく転移で帰って来れるのだが。それよりも、何やら上から目線のあの声の主は何かまだ話したいようなので、ここは黙って聞くことにした。
「おや?物部さん、何か不機嫌な様子ですが、
如何されましたか?」
何や、こいつ、白々しい。
うちをってんのか!”
と思わず相手の挑発に乗ってしまいそうになるかすみだが、何時もであれば売り言葉に買い言葉でガンガン攻めていく。ところが今のかすみはなぜか冷静になっていた。と言うのは、
“うちを誘拐してこれから玲にでも
身代金を要求するんかな?”
などと呑気に考えていたからなのだが、要するに何か犯罪の匂いがプンプンして来て、
この展開めっちゃおもろそうやんか!!
と言う好奇心が彼女の冷静さに繋がっていたのだった。まあ、いざとなったらラハニと一緒に転移で逃げればそれで済む訳だし。そうとは気づかない声の主は、かすみが驚きもせずに無反応なことに少し不安と苛立ちを募らせたようで、
「物部さん、無理して黙ることはないぞ。
お前が大の喋り好きであることは
分かっているんだ」
おや?丁寧な言葉遣いが急に乱暴になって来たぞ、とかすみも相手の苛立ちが分かったのか、仕方ない少し付き合ってやるかと言うことで、
「なあ、一体うちらどうするなん?
身代金でも要求するんか?」
と一応この場に相応しい質問をした。すると、
「いいえ、金は要りません。
それよりもあなたに
協力して欲しいことがありまして...」
と一旦そこで間を置き、
「転移術を我々に公開して欲しい」
と言うことを要求してきた。かすみは「はぁ?」と口にしつつ驚きの表情を浮かべるが、この「はぁ?」は要求されたことへの驚きと言うよりも、
“召喚術師じゃないお前らに公開しても意味ないし、
それ知ってどないすんねや?”
アホちゃうかこいつ! というある意味相手を侮辱し、罵倒し、そして挑発する時の「はぁ?」であった。勿論質問している方としては前者で捉えたようで、
「別に驚かなくとも、
少しだけ我々に協力してもらえれば、
それで十分だが」
とやはり召喚術を理解していない者の考えで進めようとした。そこでかすみは、少し悪戯心が芽生えてしまい
「せやなー、日本円で百兆円でも
用意してもらえれば、考えたるわ!」
と訳の分からない金額を要求した。相手は暫し無言になるが、この時
この我々をなめ切ってやがる!!
と怒りに震えている心境であっただろう。だが、立場的にはこちらの方が上であることは火を見るよりも明らかである。そこで、
「そうですか、大人しく協力して
もらえないのであれば、
少しだけ痛い目に合う必要がありますね」
と言うや否や、かすみとラハニの正面の壁が突然開かれた。そしてそこから体長2mを越えるであろう1頭のツキノワグマの雄が現れた。一応首輪を通して鎖でつながれているようだが。
「この熊は、人を襲うことをいませんし...」
今は腹を空かせてますので、どうなるか分かりませんよ、と声の主は笑いながらそんなことを説明した。そしてラハニは熊を見た途端「ヒィー」と短い悲鳴を上げたが、一方のかすみはじっと熊を見続けていた。そして降霊召喚門を熊の周りに展開して、魂の分離を行った。すると熊は急に大人しくなりせになってしまった。そしてラハニは、初めて見る術式に驚きと興奮に見舞われていた。それよりも、声の主は熊が突然全く動かなくなるという想定外の事態にかなり動揺していたようで、マイクのスイッチを切り忘れてたのか、小さな声ながらも「おい、どうしたんだ!!何でこんなことになるんだ?」と呟いた声がかすみ達の居る空間に伝わって来た。
さてかすみだが、もう少し挑発することにした。
「なあ、熊さん寝てもうたで~。
どないすんの~?」
と平坦な調子で問いかけると、声の主は苛立ちを募らせて
「仕方ない、あれを使うとしますよ」
と言うや否や、いきなりかすみとラハニが装着する首輪に電流が走った。そのためかすみもラハニも首を絞めつけられる感覚に陥ってき苦しみだしたのだ。流石にかすみもこの攻撃は予想しておらず、頭に血が上って顔を赤くし、額から汗が滴り落ちるほどの傷みと苦痛を首に受け続けていたのだが、
“やばいな、これが続くと体がもたへん。
仕方ないさっさとあっこに行って
無力化しよう”
とどうやらかすみには奥の手があるようで、苦しむラハニに対し、「ラ、ラハニさん、う、うちの手をしっかり握りや!!」と無理やりラハニの手を握った。そして苦しみながらも前方にヘキサグラム型召喚門を設置し、つい最近玲に教えてもらった 魂の門を叩く者 の術式を作動させた。すると彼女達の目の前に猛吹雪が発生し、天井に設置されている複数の監視カメラの視界を完全に奪うだけでなく、それら全てを凍り付かせた。勿論声の主は何が起きたか理解できず
「物部ぇー!! お前何をしたんだー!!」
と叫び声を上げて怒鳴りつけて来た。だがかすみはその声を無視し、猛吹雪の中に降霊転移門を設置した。そしてラハニの手を引いて霊界に向かって逃げて行った。