召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、拉致される? (前編)
アメリカ陸軍所属のラハニ・エラン中尉が最神玲と物部かすみのところで召喚術の修行を始めてから数日経った平日の午前、玲のスマホに1通のメールが送られて来た。それは玲がロムリアから帰還後、スマホのチェックをした時に膨大なメールの中に埋もれていたM Mへの依頼メールに対する返信である。 こんなに時間が開いてるのに大丈夫なのか?”と不信に思ったりするものの、どうやら除霊ではなく降霊術の依頼であった。そうであれば、まあ特に急ぐこともないのかな、あるいは本来ならお盆に向けて準備する筈だったとか、などとあれこれ考えてしまう。また、丁度ラハニが降霊術に慣れてきたところなので、場合によっては自分かかすみのどちらかとラハニが向かうでもいいかな、とも考えていた。ちなみに、先方の希望日は今週金曜日の午後3時とあった。場所は米野市郊外の住宅となっていた。まあ、転移する分には日本のどこにあっても問題はないが、まさか地元からと言うのは何やら考えてしまう。こういう時かすみは、「玲、そんな小さい変な事ばっか考え過ぎや!!」と注意してくるが、まさにその通りなので、玲はあまり深く考えないようにした。そして、
「じゃあ、かすみとラハニさんで
行ってくれるかな?」
「ええで。丁度ラハニさんの降霊術を
実践するのにもええみたいやしね」
と言うことでかすみとラハニが現地に向かうことになった。
さて先方から指定された金曜日の午後2時50分に、かすみとラハニは目的の家から少し離れた大きな公園の植え込みに転移して来た。平日の午後と言うことと、しかもまだ真夏日真っ盛りの日中であるため、流石に公園をうろつく人は誰もいない。そして、
「ラハニさん、初転移どやった?」
とかすみはラハニに転移の感想を尋ねた。ラハニは、
「ホントウニ、アットイウマニ
ベツノバショニイドウスルデスネ!!」
と言うように、その顔は驚きと興奮に満ちていた。ただし、地球では転移自体があってはならない技術のため、転移場所を探すのには一苦労することをかすみはラハニに伝えた。そしてラハニに対し、
「とにかく見つかると
ややこしいことになるから、
気ぃつけなあかんねんで!」
とかすみはアドバイスをした。面倒でも人のいない所を探しそこに転移することを心がけないと、そのうち謎の転移者現るとかで動画投稿サイトにアップされる危険性が出てきかねないのだ。
さて、かすみとラハニはそんな転移あるあるを話しながら、目的地である米野市郊外の住宅に歩いてやって来た。そこは二階建ての築数十年という、かなり古い木造の住宅であり、所々外壁の塗装が剥がれたり、恐らく風呂場だろうか、窓ガラスにひびが入っていたりして、建てられてから殆どというか全く手入れをされてないのではと思わずにはいられない。そしてその古さ故か、あるいは人の気配を感じないからか、何となく空き家っぽい印象を受けるかすみである。だが、表札には[佐藤]と出ていたのでここが目的の家であることは間違いない。とりあえずインターホンを押すと、暫くして年配の女性の声で「はい」と返事が来たので、かすみは早速来意を告げた。すると
[あー、霊能力者の方ですね。
お待ちしてました]
と言うことで暫くすると玄関ドアが開けられた。そこでかすみとラハニはそのまま扉を開けて中に入ると、そこには地味な感じの60代か70代位の年配の婦人が立っていた。そしてかすみはその女性に対し、
「すいません、M Mに
依頼された方でしょうか?」
と念のため相手に尋ねた。すると、
「はい、あっ、いいえ、
正確には私ではなく主人ですが...」
と言いながら、「ちょっと主人を呼んできます」と言って奥に引っ込んだ。”そんなん後でもええんちゃう?”とかすみは疑問を持つが、仕方ない、そのまま玄関で待つことにした。するとこの家のがやって来て、「すいません、私が依頼を出しました佐藤隆です」とその場で自己紹介を始めた。かすみは仕方なく、自分とラハニを紹介し、
「それで、御主人が降霊を依頼された
ということで宜しいでしょうか?」
と確認した。佐藤隆は「はい、そうです」と返事して、「こちらでお願いできますでしょうか?」と言いながらかすみとラハニを家に上げて、そのまま奥の部屋に案内した。そして、「すいません、ここで少しお待ち頂けますか?」と言って佐藤隆は部屋を出て行った。仕方ないということでかすみはその部屋で待つことにしたのだが、その部屋の雰囲気はと言うと、じめっとした感じのどことなく黴臭い感じを受ける。特に足元の畳が何やらフニャフニャする感覚に見舞われており、
ここ、絶対人住んでないんちゃう!
と思わずにいられなかった。また、玄関からこの部屋に来るまでの様子を思い出すと、
“なんや、この家って生活感が
まるでない気がするねんけどなー”
とかすみは感じた。そう、実際に生活している雰囲気や匂いが全く感じられないのだ。例えば台所で何か料理をするとその匂いが漂ってきたり、あるいはそこら辺の日用品に臭いが浸み込んで何となくその家独特の匂いがするものだが、この家は
“うーん、何か臭いというか臭いというか、
長年放置されていた感じがするねんな”
とかすみは嗅ぎ取った。尤も、元は彼らの両親の住まいで、暫く空き家にしてました、と言われたら納得してしまうレベルの話ではあるのだが。
さて、10分程待つが誰もここに来る気配はない。あれ?何か問題でもあったんか?と疑念を抱きそうだが、そのうち何やら部屋の中に甘い香りが漂い出した。”ん?何かお菓子でも作ってのか?”とかすみは勘違いしてしまうが、ただその香りを吸い込むと何やら気分が落ち着いて来て、眠気に襲われてしまいそうになる。実はその香りは全身麻酔で使われる笑気ガスのものであり、かすみとラハニは知らないうちにそのガスを吸い込んでしまい、その結果2人とも立っていることが出来なくなり、フニャフニャした畳の上で横になって気持ちよく寝てしまったのだった。