召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル11: 神室英魔のケース (第3幕)
翌日、待ち合わせの時間まで十分余裕がある物部かすみとラハニ・エランは、美土路神社の自宅で昼食を共にした後、一度神室霊華の自宅の彼女の部屋に直接転移することにした。かすみは何度も訪れているので勝手知ったる我が家の感覚に近いのだが、ラハニは神室霊華の純和風の住宅に感動を覚えたようで、あちこちキョロキョロしながら神室霊華に色々尋ねたりしていた。そして神室邸の見事な日本庭園に心を打たれたようで、暫しその場に佇んで眺めていたりした。そんなラハニを見つめながら神室霊華は
「ラハニさん、その制服凄く似合ってますね」
とM Mの夏用制服姿のラハニに見惚れていた。このラハニの制服は、当然玲とかすみからのプレゼントになるのだが、神室霊華の時と同様、10日程前にラハニが就寝中にロムリアの現社長であるエレナ・ニールバウムがやって来て、早速採寸をしてもらった。そして昨日の晩に制服が出来たということで届けてもらい、早速今日から着始めた。そんなラハニは、最初気恥しそうにするも、かすみや神室霊華と同じ衣装に身を包むことで何かしら責任感と言うか使命感が出たようで、お礼を述べつつ「キョウノシゴト、ガンバリマス!!」と張り切っていたのだった。そしてかすみはと言うと、確かにラハニの姿は女性から見ても惚れ惚れするようなスタイルなのだが、そんなラハニと神室霊華に挟まれると、何だろう、
“昔雑誌で見たことある、
捕まった宇宙人の心境やんか!”
と自虐を込めたそんな思いに捕らわれていた。”あー、もう少し身長が欲しい!!”とはかすみの心の叫びであった。
さて現地へは転移で行くか、それとも神室霊華の車で行くか、実はまだ決めていなかった。時間からしてやはり人が全くいない所を探すのは大変であるが、神室霊華が言うには1km程離れた所に大きな公園があるという。そこなら転移しても見つかる心配はなさそうだが、問題はこの暑い日中をとぼとぼ歩いて行けるかどうかである。「今日って真夏日だよなー」とかすみがぼやくが、そうするとやはり神室霊華の車で向かうのがヒンヤリ心地よくて安心かな、と思う訳で、運転する神室霊華には申し訳ないが、結局かすみの鶴の一声で車で向かうことにした。そして呪いの動画のディレクターである藤波と最寄り駅にて無事合流を果たしたところで、やはりと言うか、神室霊華を見た途端ビックリしたようで「神室霊華様までお出ましですか?」と何やらやたら丁寧な言い回しでそう尋ねてきた。かすみは何やら面白くないような表情をするも、少し悪戯心が出てしまい
「一応、うちの玲が女装しているのとは
ちゃいますからね~。
本物の神室霊華ですよ~」
と何時ものボケをかますのだった。とは言え誰からも突っ込まれることが無いため、内心寂しい思いを味わうのだが、それよりもこの何とも殺伐とした状況を打開したいのか、あるいは滑って心にダメージを負った師匠のかすみを救いたいのか、神室霊華が
「これから行くところは
私のかつての先生に当る方の
お宅なんです」
なので私が案内することになりました、と至極真っ当なことを説明した。全くかすみが余計な事を言うからややこしくなったのだが、一応それで納得した藤波は早速車の後部座席に乗り込んだ。すると今度は隣に見知らぬ女性が同乗していたので、再びかすみが同じボケをやらかしたが、やはり誰からもツッコミを受けることは無く、再び一人寂しい思いを味わったのだった。仕方なく、
「彼女はな、ラハニ・エラン言うて、
うちの所の新入社員なんよ」
とちゃんとまともに紹介を行った。しかしM Mの新入社員と言うことは、「彼女も霊能力者なんですか?」と藤波は助手席のかすみに尋ねるが、「勿論、そうでっせ」とかすみは軽く返事をした。こうしてお互いに自己紹介を済ませた所で、神室霊華は目的地である神室英魔の住んでいた住宅に向かった。
そこは都内でも有数の高級住宅街にあり、問題の神室英魔の自宅もそのような住宅街の中に今も残されていた。だが、その佇まいを見た途端、神室霊華は大きな衝撃を受けた。十数年前に自分に霊能力のいろはを教えてくれた神室英魔が失踪してから恐らくその家は全くの無人状態だったことが見て取れた。猫の額と評された庭は雑草が伸び放題であるだけでなく、外壁や雨戸は一部朽ち果てていたりした。神室霊華は念のため近所に聞き込みをするが、その家が無人であることに皆同意した。そしてかすみはと言うと、早速転移門を設置して内部をサーチするが人が居る気配を見出すことは出来なかった。そして最終的には、
「どうやら、ここはハズレみたいやなー」
と言う結論に達した。そうなるとここではない別の所にいるのではないか?ということになるのだが、果たして。
「藤波さん。谷重さんのスマホって
今持ってるん?」
とかすみが尋ねると、藤波は鞄の中から問題のスマホを取り出した。そしてかすみに渡してかすみが早速メールを確認すると、
「何や、メールの返信とかあるやんか!」
とぼやき出した。どうやら、返信メールを含む一連のやり取りが折りたたまれて表示されなかったようであった。そこで返信メールを確認すると、
「おー、何かここに来て、
みたいなメールを受け取ってるで!」
とかすみが口にして、その画面を神室霊華に見せた。そして、
「師匠、ここはもしかして...」
と神室霊華が暫し沈黙するが、かすみがその画面を見た途端、「ここって、東京の山の方やな?」と神室霊華に尋ねた。神室霊華は頷いて、「はい、どうやらそのようですね」と呟いた。さてどうするか?転移なら直ぐだけど、藤波が同行しているため車での移動となる。そして神室霊華の見積もりだと途中まで高速を使っても片道2時間弱はかかりそうとのこと。尤も日没まではまだ時間があるので行くなら直ぐに行動した方が良い、とのかすみの判断で一行はそのまま現地に向かうことにした。幸い高速道路の渋滞もなくスムースに現地に向かうことが出来た。そして一行は、ある廃校にやってきたのだった。
そこは20年程前までは中学校があったところで、統廃合の影響で廃校となった。そしてかすみ達一行が校庭に車を停めて降りると直ぐに、かすみは転移門を設置してサーチを行った。すると、恐らく柔道場らしき場所に何名かが畳の上で胡坐をかいて座っている様子を確認した。念のため校舎や体育館をサーチするも、そこには人影は見られない。どうやらその道場が生活の中心となっているようだ。そして探している人物、神室英魔らしき人影もその道場にいることを確認した。早速神室霊華の耳元でそのことを伝えた。
「も、物部さん、た、谷重はここに、
い、いるんでしょうか?」
と藤波が恐る恐る尋ねてきた。かすみは今見た状況を説明することは出来ないが、「何となくやけど、居てる感覚はあるねんな」と無難な回答をしておいた。そしてかすみは、藤波に向かって
「藤波さん、もう隠し撮りせんでもええで。
しっかり分かってんねんで!」
と言いながら、藤波の肩から下げている鞄を指差した。”あっちゃー、見つかってたのか”と冷や汗を搔くも、仕方ないバレていたのであれば堂々と取り出して撮影するだけだ、と何やら腹を括った。そして、
「すいません、物部さん。
皆さんのことを隠し撮りする心算は
無かったんですが...」
と言い訳をし出した。勿論かすみもその辺のことは分かっており、むしろ神室英魔がどう反応するかが分からないから隠し撮りしていたのだろうと言うことを伝えた。藤波もうんうんと頷いて同意して、何とかかすみの機嫌を損ねることは回避できたと安堵した。そして
「ほな、行くとしよか!!」
とのかすみの合図で一行は柔道場に向かった。
日没まではまだ時間があるものの、太陽が山影に隠れてしまったため、辺り一帯は一気に明るさを失くし、薄暗い静寂に包まれていた。そんな中、かすみ達一行は慎重な足取りで進んで行くのだが、どうやら柔道場の方で動きがあることをかすみは感じ取った。そこで神室霊華とラハニに対し、それぞれ自分の周りに降霊召喚門を設置することを指示した。そして藤波には自分から離れないように忠告して、一行は柔道場の入口の扉を開けて中に入って行った。
柔道場の中に足を踏み入れた途端、悪臭と言うかえた匂いが全員の鼻を突いた。かすみとしては本当はガスマスクを召喚したかったが、藤波が居る手前それは避けて、ハンカチで鼻を覆った。その状態で内部を確認すると、中は薄暗く、人の顔を判別するのは難しいものの人の気配は感じ取れた。かすみは急ぎ鞄の中からLEDライトを召喚して取り出しその場を照らし出した。すると、道場の中程の畳の上におよそ6名の者達がかすみ達に背を向けた状態で胡坐をかいて座っているのを確認した。そして更にその奥にも胡坐をかいて座る人物がやはりかすみ達に背を向けて座っていた。かすみは瞬時に危険を察知し、その集団の所に降霊召喚門を設置した。これで少なくとも集団からの奇襲を受ける心配は無くなったのだが、同時にこちらから除霊をするのも難しくなった。と言うのは、悪霊相手に降霊召喚門で除霊できるとは思っていないし、しかも今のかすみの実力でも複数体の悪霊を一度に除霊する力はない。尤も降霊召喚門ではなく降霊転移門を設置して強制的にお見送りすれば一網打尽となるのだが、問題は悪霊に憑依されている人達もそのまま霊界に送ってしまうことである。そのため、如何にしてこの者達から悪霊を取り除きつつそれらを除霊するかは、実はかなり厄介な問題であった。その時、隣の神室霊華が小さな悲鳴を上げた。
「あっ! あ、あの方は...」
一番奥に座っていた人物が、薄暗い中でゆっくりと立ち上がりこちらを振り向いた。そして
「だー、れー、だー、邪魔したやつは?」
とまるで魂が揺さぶられるようなざらついた声でそう叫んだ。そしてその声を聞いた藤波は「ひいー」と悲鳴を上げてから耳を塞いでってしまった。かすみは直ぐにLEDライトの光をその人物に当てた。するとライトに照らされた人物が手で明かりを遮るような仕草をするが、その顔はあのホームページにあった人物その人の顔であった。そして神室霊華は意を決したように一歩近づいて、
「せ、先生!! 私です!! 弟子の霊華です!!」
と大声で呼びかけた。だがかすみは
“うわー、最悪やんか!!
あの人もしっかり憑りつかれてるやんか!”
と動揺するように、光に照らし出された神室英魔自身が既に悪霊に憑りつかれていたのを目にした。そんな悪霊に憑りつかれた自分のかつての先生に対し、神室霊華は懸命に「先生、弟子の霊華です。覚えてますか?」と何度も問い掛けた。すると、漸く何かしら思い出したのか、そんな素振りをしながら、
「おー、おー、霊華か!
元気にしておったか?」
と、さも何事もなく久しぶりに会った時のような軽い感じの言葉が返ってきた。その声を聞いた神室霊華は、直ぐにも懐かしい先生に近づいて抱き着こうとした時、
「霊華さん、あかん!!
近づいたら絶対アカン!!
あいつ、悪霊そのものや!!」
とかすみは神室霊華を後ろから羽交い絞めにしてそう叫んだ。するとかすみの声が届いたのか、はっとした表情になり、直ぐに神室英魔に対し身構えた。そしてかすみに「師匠、有難うございます。もう少しであそこに向かう所でした」と謝罪した。かすみは漸く神室霊華が正気に戻ったのを確認してから羽交い絞めを解除したが、さて、これからどうするか?とりあえず、神室霊華とラハニを含めた3人の作戦会議をその場で行った。
「師匠、どう対処したら宜しいのでしょうか?」
「うーん、うちには分からんわ。
やっぱ、玲に聞いてみるしか無いねんけどな」
「デモ、カスミサン、レイサンシゴトチュウデハ?」
「ラハニさん、それはもう大丈夫や。
そやから、直ぐにでも連れて来れるねんけど...」
とかすみはちらりと藤波の方を振り向いた。相変わらず彼は蹲ったままブルブル震えていた。”そや! 魂分離して暫く気絶してもらうか!”と思い立ったかすみは、藤波に向かって降霊召喚門を設置し、魂を分離した。するとそのままの状態で藤波はその場で気を失ってしまった。そして念のためにビデオカメラの録画を止めてから、かすみは「とりあえず、玲を連れてくるわ」と言って美土路神社に転移して行った。