召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル11: 神室英魔のケース (第4幕)
5分程すると、物部かすみは最神玲を伴って神室霊華とラハニ・エランの待つ柔道場に戻って来た。玲はかすみが展開した降霊召喚門を目にした途端、
「なるほどね、全員悪霊に
憑りつかれているということか」
と呟いた。そして腕組みをして考え込むが、
「やはり、あの方法しかないかなー」
とポツリとそう呟いた。隣にいたかすみは玲が何やら解決策がいたのを耳にして「玲、どないすんの?」と問いかけた。そこで玲は悪霊に憑りつかれた人から悪霊を取り除く唯一の方法を皆に説明した。それは、
「過去に一度行ったことがあるんだけど、
結局ね、霊のことは霊界へ、
ということなんだよね~」
つまり悪霊に憑りつかれた人物を霊界に連れて行き、そこで円空に霊体を分離してもらう、と言うことであった。玲以外の3人は、そんな方法があることすら想像しておらず、呆気に取られた表情で玲をじっと見つめていた。そして漸くかすみが
「れ、玲、それって、冗談ちゃうよな?」
と何とか口にするが、玲は至って真面目に「本気だよ」と言うのだった。勿論一般人を霊界に連れて行った場合、短時間でも命を危険に晒すことがあるので、ここは時間との勝負になるのだが、
「まあ、円空は直ぐに来てくれるとして、
問題はね...」
寿命の1年分を要求されることである。幸いと言うか、ここに捕らわれている者達はを除きその心配はなさそうである。だが、
「神室さんの先生かな、
あの人はどうなるかは分からないんだ」
と玲もこれだけは予測できないことを皆に伝えた。ところで、ラハニはまず玲が何をしようとしているのかについて今の段階でもまだ把握できてないが、それよりも霊界に人が居ること自体想像できず、恐る恐るそのことを玲に尋ねた。
「あっ、そうか。ラハニさんはまだ
知らないんだっけね」
と玲は笑顔になってラハニに円空のことを説明した。そして、
「とりあえず、この場で考えていても
何も進まないから、
これで行くけどどうだろうか?」
と皆に問い掛けた。その時神室霊華が
「れ、玲さん。もし先生の寿命ではなく、
私の寿命を代わりに差し出しても、
問題はないでしょうか?」
と玲に尋ねてきた。玲は暫し考えるが、「それは僕には分かりません。円空に聞くしかないですね」と答えるのみである。
結局玲の立てた案で行くことになり、先ずはかすみが降霊召喚門を解除した。そして直ぐに神室英魔を除く6人の足元に再び降霊召喚門を設置し、彼らの動きに制限をかけた。そして神室英魔に対しては、その後方に玲が降霊転移門を設置し、直ぐに神室霊華と2人で神室英魔に向かって体当たりするように走って行った。勿論そのまま体当たりすると神室英魔の体が傷つくため、玲と神室霊華は神室英魔の腕を捕まえて、抵抗する神室英魔を引き摺るような形でそのまままっしぐらに降霊転移門に向かっていった。そして玲と神室霊華、そして悪霊に憑りつかれた神室英魔は揃って霊界にやって来た。
神室霊華は外から霊界を見ることは何度か体験していたが、霊界に足を踏み入れるのは初めてである。師匠であるかすみが言うには、降霊転移門を使う上でとにかく自分が霊界に足を踏み入れることは必須だということで、「一度霊華さんには死んでもらわなあかんねんで、ヒヒヒ」と下卑た笑いをえていたのを思い出したが、これで自分もあの術が使えるのかと思うだけで、何やら嬉しくなった。勿論この場に相応しい考えではないので、顔には出さないようにしていたのだが。
そして玲は早速円空を呼び出した。すると「カーンフェルト様、紀麗華様、何か御用でしょうか?」と頭の中に声を掛ける人物が彼らの直ぐ近くに現れた。神室霊華はまず頭の中に声が聞こえたことに驚き、また声を掛けた人物が急に現れたことで更に驚き、序に”あれ?玲さんって最神玲じゃないの?何で外人の名前になっているの?”と言う疑問までおまけとして沸いてきた。だが今はその問題ではなく、目の前の自分のかつての先生である神室英魔の対応である。そこで早速玲が、
「円空さん、この女性に憑りついている
悪霊と言うか霊体を取り除いて
欲しいのですが」
と尋ねると円空は、
「はい、それは可能です。ただし...」
寿命の一年分を頂戴しますが、この方の寿命はどうでしょうか...と言葉を濁してしまった。そこで神室霊華は、
「円空さんですか?
私の寿命で代用できませんでしょうか?」
と提案した。円空は「はい、問題ありません」と即答したので、神室霊華は逡巡することなく「ではお願いします!」ときっぱりと答えた。そこで円空は神室霊華に近づき、彼女の頭に触れた。神室霊華は一度ピクンと反応するが直ぐに「これで頂戴しましたので、では早速霊を分離します」と言って神室英魔から悪霊を引っ張り出した。文字通り手で摘まむように悪霊を引っ張り出した様子を見ていた神室霊華は、「そ、そんなに簡単に除霊できるんですか?」と頭の中で誰にともなくそう呟くが、玲は「みたいですね、ははは」と笑っていた。まあ、この世界は自分達の常識が通じないから、何があっても驚くことはないですよ、との謎のフォローを玲から貰ったが、神室霊華はやはり腑に落ちないようである。何れにしてもこれで神室英魔は悪霊から解放されたのだが、その時円空が驚くことを伝えてきた。
「こちらの神室英麻様ですが、
既に亡くなられております」
「えっ、本当ですか?」
と神室霊華は余りの衝撃的な事実を知ったことに驚きで目を見張るのだが、一方の玲はそれほど驚いていない。
「やはりそうですか。この悪霊は
長い時間この女性に憑りついていたので、
その可能性は否定できなかったんですが、
そうですか...」
と言ってから暫し無言になった。そして神室霊華に向かって、玲は
「ただね、まだ望みは捨てない方が良いですよ。
場合によっては蘇生できる可能性は
ありますからね」
そうか、その手があったか! と言うことを思い出した神室霊華は、直ぐにでも元の世界に戻りませんか、と玲に提案した。玲もこのままここにいるのは意味がないので、円空と別れた後、玲は手元にホワイトボードとマーカーを取り出し神室霊華にある提案をした。
[神室さん 折角だから ここに
降霊転移門を設置してみてください]
これが出来れば、除霊とかかなりスムースに出来るようになりますよ、と言うことで、玲の提案に従い、神室霊華は玲の指定した場所に降霊転移門を設置した。念のため外の様子を確認すると、あの道場の中であることが分かったので、玲が神室英魔を抱き抱え、神室霊華と一緒にそのまま元の世界に戻った。
初めて霊界に足を踏み入れた神室霊華は自分の体感では20分近く居たように思われたが、早速神室霊華の元にやって来たかすみとラハニに尋ねると、「精々数分だったよ」との返事が来たため、やはりあの世界は自分達の居る世界とは全く違うことを実感した。そして、玲は早速蘇生の準備を始めるのだが、「神室さん、やれますか?」と玲は神室霊華にお願いした。神室霊華は「勿論、やらせてください」と言うことで、早速畳の上に横たわる神室英魔の所に降霊召喚門を設置し、彼女の魂を呼び寄せてみた。すると、
「あっ、せ、せ、先生!!」
と神室霊華が叫ぶように、神室英魔の魂は転生せずに霊界に留まっていた。そこで、かすみから「霊華さん、とにかく落ち着いてね」と声を掛けられて気持ち的に落ち着いたところで、魂の同期を行った。すると、神室英魔の口から「うっ、うー」と言う呻き声が漏れてきた。どうやら同期は成功したようである。
さて神室英魔の対応は神室霊華に任せ、残りの6人に対しても同様に霊界に連れて行って悪霊を分離してもらうことにした。この時はかすみが3人を担当し、残りは玲が担当するという形で進めた。そして何とか6人から悪霊を取り除くことが出来たとき、1人ずつ意識を取り戻し始めていた。幸い、神室英魔のように自分の魂が霊界にある、と言う状況は無かった。「あっ、そうや、あの人も戻さな」とかすみは何やら思い出して、藤波の魂を元に戻した。そして玲は、「彼に気づかれる前に僕は戻るよ」と言って、そのまま自宅に転移で戻って行った。暫くすると彼も意識を取り戻して、「あっ、あれ?ここはどこですか?」と言うようなことを呟いた。そして漸く自分が何をしに来たのか思い出したようで、「あっ! た、た、谷重君は?」と騒ぎ出した。その時、6人の集団の中で「は、はい、ぼ、僕ですが」と手を上げて答える人物が居た。かすみがLEDライトをその人物に当てると、「た、谷重!」と藤波は叫ぶと同時に、谷重の所に向かって行った。そして、「谷重、探したぞ。でも無事でよかった」と涙を流しながら谷重を抱きしめていた。尤も当の谷重本人はと言うと、まず自分がここに居ることが良く分かっておらず、更に上司の藤波が泣きながら抱き着いてきたことに対し、少しだけ嫌悪感を抱いたりしていた。だが、藤波から状況の説明を聞くに及び、自分に起きたことを理解するやいなや、驚きの余り卒倒しそうになった。
さて、騒がしい2人はこのままにしておいて、かすみと神室霊華はこの状況をどうするかについて相談していた。やはりまずは救急車を呼ぶことにした。救急車が到着するまでの間、かすみと神室霊華とラハニは、意識を取り戻した人達に近くに置かれていた水を飲ませて落ち着かせることにした。恐らく長期間風呂に入っていないのだろう、えた匂いに包まれているものの、特に衰弱している様子は見られない。一方神室英魔の方はと言うと、こちらも漸く意識を取り戻したようで、早速神室霊華が介抱に向かった。
「先生、先生! 私のこと、覚えてませんか?」
先生の弟子の霊華です、と伝えるが、どうやら記憶が曖昧になっているようで、呆けたような表情で神室霊華をじっと見つめていた。
暫くすると、救急車のサイレン音が近づくのを耳にしたかすみ達一行は、救急隊員を案内すべく表に出て待つことにした。神室霊華も一緒に外に出ようとするが、かすみから「霊華さん、傍にいてあげな!」と諭されたので、かすみの言葉に甘えて神室英魔の傍に居ることにした。そのうち救急隊員と一緒に警察も柔道場に入って来たことで、現場は騒然となった。かすみがとりあえず警察に事情を説明しつつ、恐らくこの人達は行方不明の届けが出ているのではないかと言うことを伝えた。少なくとも一名は確実に届けが出されているのは事実である。そして神室英魔を始め、その場にいた全員は救急車に乗せられて少し離れた先の医療センターに送られていった。後に残ったかすみ以下M Mのメンバーと呪いの動画のスタッフの藤波は、最早そこに留まる理由が無いため、藤波を最寄りの駅に送り、M Mの3人は神室霊華の自宅に戻ることにした。
「それよか、霊華さん、
運転大丈夫なんか?
結構召喚エネルギー使って
疲れてんとちゃうん?」
とかすみは心配気にそう尋ねるが、
「大丈夫ですよ、師匠。
先程玲さんから召喚エネルギーを
補充してもらいましたから」
と言うことで、今はかなり元気だという。神室霊華が降霊転移門の設置と、その後の魂の同期による蘇生を行った後、玲が神室霊華の様子を目にしたとき、LEDライトに照らし出された神室霊華の顔色が少し悪いことが気になって、急ぎ召喚エネルギーを注入したのだという。
「そっか、まあ、玲のことやから、
その辺のケアは豆にしよるねんけどな」
とかすみも心なしか安心した表情でそう口にした。そして、後部座席のラハニの方を振り向いて
「ラハニさん、結構疲れたやろ。
戻ったらゆっくり休んでもええねんで」
とラハニをうが、その時かすみの腹時計が鳴りだして「あっ、そや、まだうちらご飯食べてへんかったな」ということを思い出した。神室霊華もラハニもかすみの腹時計の鳴る音を耳にした途端、クスっと笑顔になった。
「まあ、これで本件は
一応解決ちゅうことやね」
とかすみの言葉で今回の仕事は幕を閉じた。