召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M vs. 絵画窃盗団 (第3幕)
さて、11月になって漸く本格的な秋の気配を感じることが出来るようになった。あと何週間もすれば美土路神社の綺麗な紅葉が楽しめる......筈だったが、残念ながら今年は神社の紅葉は期待できない。まあ、境内にあるは無事なので、見事に赤く色づく楓を愛でることは出来るかもしれない。そんな少し寂しくなりそうな秋の訪れと共に美土路神社に今年もあの人がやって来た。だが今回はサプラーイズではなく、予定した訪問であった。
「かすみ、準備できてるの?行くわよ!」
と神職用住宅の玄関から物部かすみに声を掛けたのは、かすみの母の物部京子である。今日は平日のため玲とかすみは社務所にて仕事をすることになっており、玲は既に社務所にて仕事中である。一方、かすみはと言うと、京子と共にこれから米野市に向かうことになっている。実はこの日、米野市にある県立美術館で、デルベッキオの作品が一般公開される。その記念式典に神薙家の関係者と言うことで京子とかすみが招待されたのだ。本来は当主の神薙宗座衛門の家族である妻の千絵子、長男の、そして長女の華蓮の3名が参加すべきなのだが、平日と言うことでそれぞれ仕事や学業があり、そちらを優先してもらっていた。そのため、神薙家の親族と言うことで、物部家の2人が代理参加と言うことになった。
そしてかすみはと言うと、今朝から何を着て行こうか迷っている所である。セレモニーだから少し華やかなボルドーの膝下丈のワンピースにするか、いやいや自分が主役ではないから、ここはシックに黒っぽい感じにするか、などと悩み続けていたが、結局は深緑のミディ丈のワンピースに落ち着いたのだった。ちなみに彼女の衣装は、全て自分でデザインし召喚した衣装である。ただ、これだけだと非常に寂しいのだが、自分の持っているアクセサリーではこの雰囲気に合わない。さてどうしようかと考えていた時、スカーフを巻くことを思いついた。そしてスカーフと言えば、”やっぱ、あれやな!”とかすみが思いついたように、この世にかすみだけに贈られた一点物のスカーフである。そう、初めてタチアナと出会った時に、彼女からプレゼントされたスカーフである。今まで大事に仕舞っておいたのだが、ファッションデザインを始めてから、やはりスカーフは使わないと意味がないことを理解するようになった。そこで早速首元に巻いてみたのだが、「うん、これならいけるな!」と納得した。勿論、結び目のところに[Kasumi]の文字が出るようにする演出は忘れない。そうやって何とかまとまったところで、
「ゴメンね、お母さん。待たせちゃったね」
と京子に謝罪した。まあ、女性であればそれ位のことは当然あってしかるべき、と京子も思うものの、一応自分の娘であるのでそこはちゃんとけることにした。
「かすみ、事情は分かりますが、
もう少し相手のことも考えなさい!」
これにはかすみもぐうの音も出ない。そのまま「その通りです。ごめんなさい」と謝るしかなかった。そして、漸くかすみの支度が整ったので、京子とかすみは、参道に待たせているタクシーに乗って県立美術館に向かった。
デルベッキオ作[ふるさと]は、正午のセレモニーの後から一般公開される。そして今、その絵画はメインホールの一番目立つ場所にガラスケースに囲まれた内部に飾られている。まさかこの絵がこんな風に公開されるとは、と宗座衛門は感無量な表情でじっとその絵を見つめながら、亡き友の面影を思い出していた。
”あいつも、これで満足してくれたかなー”
ところでこの絵画は、昨日、専門の業者の手で神薙家から県立美術館に運ばれてきたのだが、当初は宗座衛門自身が持って来るつもりであった。ところがその場合、万が一の事故や盗難が発生した時に保険適用外になることを指摘され、宗座衛門もそう言う事情があるのであれば、と言うことで渋々専門の業者にお願いしたのだった。尤も、神薙家から県立美術館への輸送に関しては、警察の護衛もあるので、それこそ途中で強奪されるなどの心配は皆無である。そして何事もなく県立美術館に到着し無事展示されたのを見て、今はホッとして胸を撫で下ろしている。そのうち彼の隣にかすみと京子もやって来て、2人が宗座衛門をいながら、各人もそれぞれ何かを思いつつその絵を見つめていた。ちなみにかすみは、”おー、無事に飾られているな”であった。やはりあの装置に内蔵されていた謎の通信機能がどうしても気になってしまう。そこで玲と2人である対策をしたのだが、今の所問題はないようだ。まあ、何か発生しても、直ぐに自分達なら対応できるので、実はそこまで心配はしていないのだが。
そして正午になったところで、いよいよセレモニーが始まった。この日の出席者は、県知事や県議会議長などの政界の要人、差間見町の町長、美術館関係者などなど、そしてマスコミである。それと、美術館の入口前には、既に朝から数百人の一般来館者が公開を待ち侘びている。そしてまずは県知事の挨拶から始まり、その後緊張した表情の宗座衛門が挨拶を行った。そして絵画を収めたガラスケースの前でテープカットがされるのだが、何故かかすみと京子も参加することになった。しかもなぜか叔父の宗座衛門の隣であり、そこは結構目立つ位置である。そのためかすみも緊張してしまったようで、少しぎこちない表情をしていたのではと心配し出した。それよりも、カメラのフラッシュやテレビカメラのライトの前に佇む自分のこの衣装がうまく会場の雰囲気と合っているか、実はそちらの方を心配し出した。やはりボルドーの方にしたら良かったかなとちらっと思うものの、床の赤絨毯の上だと却って同系色で埋没しそうな事に気づき、やはりこちらで正解だったと、少しだけホッとしていた。そんなかすみの思惑を他所に、何とか無事にテープカットを終えることが出来、これで今日の任務は完了である。その後、かすみと京子は宗座衛門と別れて、折角だからと言うことでホテルランチを楽しんだ。そして京子はそのまま大阪に戻ることになったため、かすみは1人で美土路神社に戻って来た。まだ午後3時少し前である。仕方ない、玲の奴を手伝うか、と言うことで何時もの作務衣に着替えて社務所に向かった。
定時になったので、玲とかすみは社務所の戸締りをして自宅に戻って来た。そしてかすみは、開口一番
「はあー、メッチャ疲れたー」
と口にしながら、着替えもせずそのままリビングのソファーにぐったりした。
「まあ、絵の方はとりあえず無事なんだから、
良かったんじゃない」
と玲は何事もなく無事公開を迎えたことを喜んだのだった。
「せやねんけどな、
まだ安心はでけへんからなー」
とかすみは、まだこれから何かあるんちゃう、と言う予感がして気が抜けないのだった。その後何時もの様に神室霊華がやって来て、早速今日のセレモニーの様子をかすみから聞いたりした。そして、夕方のローカルニュースで早速昼間のセレモニーの様子が映し出された時は、かすみはドキドキしながらその様子をじっと見つめていた。
「師匠、あのドレス凄く素敵でしたよ。
場の雰囲気とピッタリでしたね」
と神室霊華からのお褒めの言葉を貰ったかすみは、これで漸く落ち着いた。それから3人で何時もの夕食を共にして、秋の夜長を満喫した。