召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M vs. 絵画窃盗団 (第4幕)
米野市の県立美術館で開催されていたデルベッキオの絵画[ふるさと]の特別展示は、今日で終了となる。この間、県立美術館始まって以来の来館者数を連日記録しており、1週間の公開であったが、延べ十万人近い来館者数となっていた。大盛況のうちに幕を閉じた県立美術館での展示の後は、東京の国立美術館にて一般公開される。それまでは神薙家にてその絵画を保管しておくことになる。次の東京での開催まで10日弱あるためなのだが、宗座衛門は特別展示室にてデルベッキオの絵画が梱包される様子をじっと見つめていた。ちなみに、宗座衛門が持ち帰る場合、単に風呂敷に包んで持って帰る心算だったのだが、目の前で行われている梱包作業を見ると、そんな風呂敷如きで持ち帰ったら罰が当たるな、と思わずにはいられなかった。先ず、専用のジュラルミン製のケースが用意され、蓋が開けられた。その中は黒いフェルトで覆われているようだが、その中に梱包材で包まれた絵画を寝かせるように安置する。そして蓋を閉じて鍵をかけるが、この鍵は宗座衛門が預かることになっている。そして更にそのジュラルミン製のケースを特殊なコンテナに入れて後は運び出すだけとなる。ちなみに、そのコンテナは、数十トンの衝撃にも耐え、更に火災や水没にも耐えられるというものである。それだけ頑丈に包まれているのであれば大丈夫だろうと宗座衛門は安心した。加えて、警察の護衛も付くので、至れり尽くせりとはこのことだろうと思われた。
それから1時間後の午後4時前、無事にデルベッキオの絵画は神薙家に到着した。早速自宅の応接間にてジュラルミンのケースを開けてデルベッキオの絵を取り出した。梱包を解いて確認すると、特に損傷等は無く、何時も見ていた風景を見せてくれていた。宗座衛門は、運んでくれた業者と警戒に当たってくれた警察官に感謝を述べて彼らを見送りに出て行った。そんな中、宗座衛門の要請で神薙家に来ていたかすみは、一人残された応接室で、
“えっ?何か違和感ある!”
と警戒を強めた。叔父の宗座衛門が見送りに行っている間にかすみは目の前にあるデルベッキオの絵画に対し降霊召喚を行った。だがそこには何も現れない。当然か、とかすみは納得するが、それもその筈、本物のデルベッキオの絵画には玲とかすみである変更がされていたのだが、その痕跡を目の前の絵画から感じなかったのだ。玲とかすみは、その絵画の額縁と裏蓋に対し、それぞれ創成召喚した物に置き換えていたのだ。なお、額縁はかすみが、裏蓋は玲が担当した。これによりその絵画が万が一盗まれたとしても、創成召喚物であれば召喚術師はその痕跡を追跡できるため、それらを変更したのだ。尤も、かすみであれば、絵画そのものを創成召喚することも可能なのだが(玲の場合は似て非なる物が召喚されるが)、仮に絵画が盗まれたとして、それが実は偽物で本物はここですよ、などと言った場合、なぜそんなことをしたのかを説明する必要が出てくる。しかも、偽物を用意できるような技術があること自体、いらぬ疑念を生みかねない。そのため、絵画そのものに対する召喚は避けていた。どのみち、盗まれた時点で追跡できるので、むしろ本物が犯罪者の手元にあった方が確実に逮捕できる。そう考えて玲とかすみは行動していた。
そして、彼らが仕掛けた罠にどうやら何者かが引っかかったのだった。かすみとしては直ぐにその配送業者を捕まえることは出来る。だがそうなると、その背後にいるであろう黒幕を捕まえることは出来ない。そのため、ここは警察が言うところの「泳がす」ことにした。ただし、玲には直ぐにスマホで連絡を入れた。だが残念ながら今は仕事中なので、 仕方ないLINEしておくか と言うことにし、かすみの方は直ぐにその配送業者のトラックに対し転移門での追跡を行った。幸いまだ差間見町から米野市に入った所なので、直ぐにその場所を確認できた。そこでそのトラックに転移門のマーカーを設置するとともに、カラスのレイちゃん(仮→採用)を召喚して追跡させた。
そのうち、玲から[こちらでも後で追跡する]とのLINEで連絡が入った。玲とかすみは相手の移動先に直ぐ転移出来るので相手を捕まえることは特に問題ではないが、唯一、平日だけは自由が利かないという問題があった。美土路神社の神職の手伝いをしているためであるが、玲が動き出せるまでまだ1時間弱ある。もしその間に連中がどこかで停車した場合、玲もかすみもその場に行くことが出来ない。だが幸いにも、トラックはどうやら東京方面に向かうようなので、万一の備えとして神室霊華にも連絡を入れておくことにした。
[もしもし、霊華さん。今大丈夫?]
[はい、大丈夫ですが、師匠どうされましたか?]
[実はな...]
と言ってかすみは現在の状況を手短に伝えた。神室霊華は驚きの表情に包まれた。まさか冗談ではなく本当に偽物にすり替えらていたとは想像できないようだが、かすみの切羽詰まった話を聞くにつれ、現実に起きたことなのだと漸く理解した。そして
[後1時間程すると玲が動けるから
そん時は一緒に行って欲しいねん]
[わかりました。こちらでも追跡しておきます]
「頼んだで!」と言って電話を切った。丁度その時、見送りに行っていた宗座衛門がゆっくりとした足取りで玄関に戻って来たので、かすみは血相を変えた演技をしながら大声で
「お、お、叔父さん!
この絵だけど、に、偽物や!!」
と叫んだ。 我ながらなかなかの演技やないか とほくそ笑んでいるかすみであるが、かすみの叫び声を聞いた宗座衛門はそれどころではない。早速かすみのいる応接室に慌ただしくやってきて、
「か、かすみ、どうしたんだ?」
と血相を変えてかすみに問いかけた。そしてかすみからその絵に降霊術をしたがデルベッキオ爺さんが召喚されないことを聞かされた途端、宗座衛門は目の前が真っ暗になり気を失う所であった。だが何とか踏みとどまり、早速その絵を調べることにした。どこからどう見てもあの絵と同じようなのだが、かすみが嘘をつく理由は全くない。そしてかすみが言うように、そこにデルベッキオ爺さんが現れないということであれば、
「か、かすみ、これって偽物か?」
となるのだった。かすみは、震えながら宗座衛門の問い掛けに素直に頷いた。勿論これもかすみの演技である。そして宗座衛門は意を決してその絵を額縁から外し、そして自分の膝の上でその絵を折り曲げた。すると、
「おー、ななななな、
なんだこれはーーー!!」
と叫び声を上げたのだ。そう、その絵画の中身は空洞になっていたのだ。そして表面の凹凸部分にだけ何やら彩色されているだけであった。紛れもなく、それは偽物であることが見て取れた。まさかそんなことが、と元は絵画であった破片を手にしながら、宗座衛門は震え出した。ただしその震えは、恐怖ではなく怒りから来る震えであった。そして、
「かすみ!!直ぐに警察に連絡して!!」
とかすみに指示を出した。そこでかすみは直ぐに警察に連絡を入れた。すると先程宗座衛門が見送った警官が10分程してから戻って来た。その後県警から知能犯や詐欺を扱う捜査2課の捜査員と鑑識課員が押し寄せてきたので、宗座衛門は早速彼らを応接室に案内し、先程破壊した絵画を彼らに見せた。捜査員一同はその破壊された絵画を見て茫然とした。そこにあるのは絵画ではなく、造形物であったからだ。念のため、その絵画の残骸は鑑識に調べてもらうとして、絵画の贋作及び窃盗事件と言うことで捜査本部が神薙家に設置された。そして早速問題の輸送トラックを追跡することになるのだが、現時点でその輸送トラックがどこを走っているのかが分からないため、直ぐに近辺の防犯カメラや監視カメラの映像を使ってその行方を追うことにした。そんな時、かすみが
「そのトラックなら、
今高速道路を東に向かってまっせ!」
と伝えた。なぜそんなことを君は知っているんだ?と言う表情で捜査2課の課長のはかすみを怪訝な表情で見つめた。そこでかすみは、自分は霊能力者で、その絵画には作者本人の霊が憑りついており、それを感知することが出来ることを説明したが、当然そんな話は信用される訳がない。ちなみに、もしここに捜査一課の係長と刑事の立花が同席していたら、まあ彼等ならそれもあり得るな、と納得してもらえたかもしれない。だが、彼らの代わりに隣の宗座衛門が、「姪のかすみの言うとおり、その絵には確かに作者のデルベッキオの霊体が憑りついてました」と言うに及び、半信半疑ながらも高速道路の料金所に設置されている監視カメラ映像を調べるように部下に手配させた。20分程すると槙枝の元に連絡が入り、確かに1台のトラックが料金所を通過して東京方面に向かっているということを伝えて来た。そして問題のトラックだが、まだ高速道路を走行中のようだ。
さて槙枝としては、直ぐにもトラックを止めて盗まれた絵画を回収すべきか?あるいはこのまま泳がせて黒幕を含めて逮捕すべきか?判断に迷っている所であった。だが、このまま進むとどのみち東京都内に入るだろうから、警視庁の協力は不可欠である。そこで一度神薙家の外に出てから携帯で県警の刑事部長に状況を報告し、本部長経由で警察庁と警視庁に絵画盗難事件の発生と捜査協力の依頼をしてもらうことにした。
午後5時を過ぎたところで、漸く玲が神社の仕事から解放された。早速自宅に戻るや、かすみが設置した転移門マーカーの痕跡を探すべく高速道路を東京方面に向けてサーチを開始した。すると首都高速に入る手前で転移門マーカーを見つけることが出来たので、玲は直ぐにそのトラックを追跡し始めた。丁度その時、かすみからLINEが入ったので、かすみの指示に従い玲は耳にカフリングを装着した。
「かすみ、こちらでも
トラックの場所が分かったから、
僕はアジトまで行くことにするよ」
「ホンマな、その美味しい所に
うちも行きたいねんけどな」
ここから離れると何言われるか分からへんから諦めるは、と愚痴を零した。ただし、
「霊華さんには事情を説明しているから、
霊華さんと一緒に行って欲しいねんけど」
と言うことで、玲はかすみの要請に従って先ずは神室霊華に電話した。神室霊華は何時でも出発できるという。そして彼らのアジトが分かった時点で、転移場所を設置するのでそこに転移してきて欲しいと要請した。神室霊華は緊張の面持ちで「わかりました。連絡待ってます」と言って電話を切った。さて、これからがM Mの最後の仕上げとなる。