召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、都市伝説を検証する2: ドッペルゲンガー (中編)
物部かすみと最神玲の間にあったな問題は、かすみの何時もの癖に原因があったことが分かった。そして無事この騒動を解決したところで、神室霊華はどっと疲れが出るものの、何とか平静を装いながら夕食を楽しんだ。そして夕食後、今度は神室霊華が先程の話しに関する相談を2人に持ち掛けた。
「その、ドッペルゲンガーってそもそも何なの?」
と玲は疑問に感じたことをそのまま口にした。そもそも、玲と言うよりも中身のカーンフェルトにとって、ドッペルゲンガーなる言葉を全く耳にしたことは無い。まあ、当然と言えば当然で、地球のドイツ語に起源を持つ「二重の歩く者」と言う言葉Doppelgängerから来ているため、そもそもドイツ語の分からない玲は知る由もない。だが、超常現象やオカルト好きであれば当然馴染みのある言葉であり、かすみはと言うと、
「自分にそっくりな姿の何かを見たら、
死ぬっちゅう奴やね」
と大筋その通りのことを指摘した。
「そうなると、鏡に映った自分とは異なる
別の自分に似た何かか、あるいは
もしかして自分の分身を見たら
死ぬということなの?」
と玲は再確認した。神室霊華は頷いて、
「はい、今回のケースは、
どうやらそんな印象を受けました」
と口にした。そして、2人のうち1人は既に亡くなっており、もう1人は意識ははっきりしているが衰弱が激しいということも伝えた。すると玲が腕組みをしながら
「まあ、そう言うことなら、
可能性はあると言えばあるかな...」
と何やら思い当たることがあるようで、そんなことをボソッと口にした。神室霊華は直ぐに「玲さん! 何か心当たりがあるのですか?」と玲を食い入るように見つめながらそう尋ねると、玲は頷いて一つの仮説を披露した。
玲と言うよりもカーンがサモナルドのケンタリアにいた頃の知識に基づくが、ケンタリアでは魂や霊魂に関する研究がある程度進んでおり、その結果霊魂は何かしらのエネルギー体であること、そしてそのエネルギー体は何かしらのエネルギー的な揺らぎと言うか振動をしているのではないかと考えられていた。残念ながらその振動の正体までは分からないままだが、地球に転生して来たカーンは、その正体が電磁波ではないかと考えた。例えば幽霊が近くに現れるとビデオカメラにノイズが入るとか、あるいはブレイカーが落ちた訳でもないのに部屋の電気が突然消えたり、電化製品がショートするなどの現象が報告されることがあるが、それらは霊体の持つ電磁波が影響していると考えると説明がつく。極端な例では電磁パルス攻撃(EMP攻撃)と言う攻撃手段は、強力な電磁波を用いることで広範囲で停電を発生させるだけでなく、電子機器をも破壊する力を持つ。勿論霊体の持つ電磁波はそこまで強い訳ではないが、それでも強いエネルギーを持つ霊体であれば、部屋の電気を消すなどは簡単に行えそうだ。
そしてこの電磁波はその特性から透過、回折、干渉などの物理現象を引き起こすが、今ここで問題となるのが干渉である。ケンタリアでは、電磁波的な性質が近いと思われる霊魂同士を近づけた時、片方または両方が消滅するという実験が召喚技術研究所の第5部で行われており、その成果は広く知られている。そして大抵は、似た者同士の魂が似たような揺らぎを観測することがあるため、そう言う人には近づかないこと、もし近づいて問題が発生した場合は召喚術師に連絡することが伝えられていた。だがそうなると、1卵生の双子や三つ子はどうなるのか?と言う問題に突き当たる。実は双子の場合は2人とも全く同じ揺らぎが観測されるということが報告されている。それは電磁波としての性質、つまり振幅と周期、が全く同じであるということを意味する。ここでもし双子の魂の電磁波としての周期性が正反対、すなわち位相が真逆である場合、双子は消滅する恐れがあるが、そうでなければ何も影響は生じない。むしろ同位相の場合、お互いの魂を強化し合うことが起きるとも言われている。
「つまりね、電磁波の特性が似た魂が近づくと
お互いに干渉しあってしまい、
結果的には魂が消滅を迎えるんだよ」
と流石にケンタリアの話を持ち出すことは出来ないが、彼の持つ知識を動員した結論だということで説明を終えた。そうなると当然幾つもの疑問が残る。
1. 普段こうして接している我々の間で
そのような魂の消滅が起きないのか?
2. なぜ今回のケースは片方が亡くなり、
片方は衰弱しながらも命を保っているのか?
3. そして、この問題を解決することが出来るのか?
これらの疑問に対する玲の1つ目の答えは
「そもそも、僕やかすみや神室さんの
魂の持つ電磁波の特性が全く違うから、
消滅するような干渉は発生しないはずだよ」
である。まあ、頻繁に発生していたら、そこら中死体だらけになってしまいそうである。そして2つ目の答えは、
「それは、周期が同じでも
振幅が違うからだと思うね」
つまり位相が真逆であったとして、どちらかの振幅が大きい場合、振幅の大きい方が生き残り、もう片方が亡くなるということである。ただし、生き残った方も、元々の魂の持つエネルギーが半減かそれ以下に低下するため、今の衰弱が起きていると推定される。そして3つ目の答えは、
「うん、それは多分問題ないね」
であった。この問題が簡単に解決できるとは思っていなかった神室霊華は、玲の言葉を聞いた時、半信半疑の状態であった。だが玲から具体的な方法を聞くに及び、神室霊華は
「れ、れ、玲さん。そ、そ、そんなことが
召喚術で可能なんですか?」
と驚きのあまり目を見開いて玲を凝視したままそう尋ねた。
「まあ、術者の召喚エネルギーを
分け与えるというイメージに
なると思うけどね」
それで減った電磁波的な振幅分を補えるというのだ。確かに、霊界での生存率は、その人の生命=魂の持つエネルギーに比例するが、召喚術師の場合そこに召喚エネルギー量が上乗せされる。そう考えると、召喚エネルギーを魂の持つエネルギーに置き換えたり補充することは不可能ではないということである。そしてここに居る3人であれば、それを行うのに問題はないという。そこで神室霊華はその方法を玲から教えてもらうことにした。かすみも何やら面白そうと思ったのか序に教えてもらった。そして、
「一度練習した方が良いよね」
との玲の提案により、3人は空き部屋に向かった。そして玲は、自分の召喚の書を呼び出して、何やら書き込み始めた。そして、「召喚」と言うと、ベッドの上に霊体が現れた。ただ、何となくその霊体の色が青っぽく見える。
「これは、何時も降霊召喚の練習で使っている
霊体人形なんだけど、魂の持つエネルギーを
減らしてあるんだ。ここに今行った方法で
召喚エネルギーを注入すると」
その霊体の色が普段見る色になるというのだ。そして
「恐らく、その人の魂を分離すると、
こんな感じの色になっている筈だから、
それで確認できると思うよ」
と言うことで、より実践に近い方法になったというのだ。早速玲は霊体の周りにアニュラス型の降霊召喚門を設置した。そして玲は
「この時ね、アニュラスかペンタグラムじゃないと
駄目だからね。
それと、召喚時の召喚エネルギーを多くすること。
これが肝だからね」
と説明するが、補足するとアニュラスやペンタグラムは召喚後も召喚エネルギーを消費し続けるが、この消費する召喚エネルギーの何割かを霊体に還元するのがこの方法の肝と言うことだ。逆にバレル型ではこの方法は使えない。そして還元する分を含めた召喚エネルギーを使って召喚門を呼び出すとこれで準備完了となる。
「これが終わったら、
この術式を追加して発動するだけ」
と言って玲はその術式を神室霊華に見せた。そして「召喚」と口にすると、特に何か変化がみられることは無く、ただその場に霊体が漂っているだけである。だが10分程すると
「おっ、何や霊体の色が
元に戻ったんとちゃう?」
とかすみが指摘するように、青っぽかった霊体が元の白っぽい感じの色に戻った。それを見届けて玲は召喚を解除した。
「多分これで問題ないと思うから、
一度神室さんもやってみてください」
と玲に言われたので、神室霊華も早速試すことにした。玲に霊体人形を召喚してもらい、神室霊華はその周りにアニュラス型を設置するが
「玲さん、召喚エネルギーは
どれ位使えばいいのでしょうか?」
と尋ねてきた。すると横からかすみが
「そんなん、一気に沢山使えばすぐにでも
元気になるんとちゃうん?」
と言うのだが、これには玲はNGを出した。するとNGを出されたかすみは一瞬ムッとするが、玲はそんなかすみにお構いなく、
「そもそもガソリンスタンドの給油みたいに、
満タンになったから止まります、
と言う機能はないからね。それと」
そのまま注入し続けるとオーバーフローを起こして、その魂が消えてしまう危険性があると指摘した。
「だから、ゆっくりと少しずつ
状態を確認しながら注入するしかないんだよ」
と言うことなのだ。もしこの作業をせっかちなかすみが行った場合、このちんたらするやり方にイライラするかもしれない。一方の神室霊華はと言うと、注意しながら少しずつ行う作業が、別に苦にならない。そして神室霊華は、早速玲の助言に従い、何時もの30%程多めの召喚エネルギーを使って召喚門を設置し、玲の書いた術式を記入して召喚エネルギーの注入作業を行った。すると15分程経った頃、霊体の色が変化して白っぽい色になったので、そこで召喚を終了した。その後何回か召喚エネルギー量を変えながら行って、これ位なら大丈夫と言う感覚を得た神室霊華は、玲とかすみにお礼を言って自宅に戻って行った。そして直ぐに正門宛に、その人への治療を試みることを伝えた。すると暫くしてから、シスター向井からメールが届き、明日の午後にでもお願いできないかと問い合わせて来た。明日は午前中に1件と午後の早い時間に1件予約があるため、その後であれば問題ないと返信した。その結果、明日の午後5時に都内の某所に向かうことになった。