召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、都市伝説を検証する2: ドッペルゲンガー (後編)
午後からの降霊術の依頼を1件こなしたところで、神室霊華は時間を見た。丁度午後3時を過ぎた頃である。これから着替えて現地に車で向かえば十分に間に合うので、念のため昨日の手順を確認することにした。と言っても特にそれらしいことをする必要は殆どないのだが、しかし
“最神玲と言う人は、ほんと凄い人だけど...”
“一体どういう頭をしているのだろうか”と神室霊華は考え込んでしまう。そもそも昨日の晩に玲が説明したことは、地球上のこの世界では誰もそれを証明していないし、当然認識すら出来ないことである。たまたま、召喚術を身に着けた自分達だからこそ、魂と電磁波の関係は何となくだが理解できるところはある。だが彼は、それが事実のように理路整然と述べただけでなく、実際に弱った魂の復活すら行ったのだ。よく師匠であるかすみが
”あいつは、中身が宇宙人だからな、へへへ”
と笑いながらそんなことを口にするが、かすみのことだから何時もの冗談かと思って自分も笑い飛ばしていた。だが、実は本当に宇宙人なのではないだろうか?そしてかすみのことだから、それを知っていて、っているとも受け取れる。まあ、かすみの場合、面白いことがあれば何でもネタにする性格だから、それもある意味頷ける。そんな物思いに耽っていたら、時刻は午後4時前であった。あっ、もう行かなくちゃ、と言うことで神室霊華は何時もの制服に着替え、使い慣れた何時もの車に乗って現地に向かった。
午後5時前に、神室霊華は近くのコインパーキングに車を停めてから問題のマンションの前にやって来た。既にとシスター向井の両名は玄関前で待機していた。そしてその傍にはもう一人の女性が立っていたが、その顔は酷くれていた。”えっ、もしかしてこの人でしょうか?”と勘繰ってしまいたくなるが、実はこの女性こそが問題の行動を引き起こした張本人である。そしてその窶れの原因は、冗談で招いた友人の1人をまさか死なせてしまったことに対する精神的なショックから来ていたのだ。そしてもしかしたらもう1人も死んでしまうのかと思っただけで、最近は食事も喉に通らない状況だとシスター向井から説明を受けた。だがこの責任は自分が取らないと駄目だと思い、何とか気力を振り絞ってここにやって来たのだとか。まあ、彼女はこれから自分が死ぬまで重い十字架を1つは背負って生きて行かないといけない訳で、そのためにはここで死ぬことなどは絶対に認められない。そんなことを神室霊華はその女性に対し伝えるが、一方で更にもう一つの十字架を背負わないようにするために自分がここに来たことも併せて伝えた。
そして早速シスター向井が先頭に立って目的の部屋に向かうことにした。玄関の鍵はその友人が持っているようで、早速玄関を開けてもらい中に足を踏み入れて奥の部屋に向かった。部屋の中は綺麗に片付けられており、こういう場所に特有の嫌な臭いは一切感じられない。恐らく友人の女性がに世話を焼いているお陰だろう。そして奥の部屋にやって来た神室霊華は、ベッドに横たわる殆ど骨と皮だけの状態かと思われる女性を目にして、少なからずショックを受けた。魂が衰弱するとこういう事になるのか、と思っただけで、身震いしてくる。
早速神室霊華は着ていたM Mのコートを脱いで玲に教わった作業の準備に入ることにした。そして今から行うことを、その場にいる3名に対し説明するのだが、予想通りと言うか、誰もそのような方法を理解できないようで、首を傾げている。まあ、百聞は一見に如かずと言うように、実際に行って見てもらうことにした。先ず何時もより多い召喚エネルギーを使って降霊召喚門を設置し、女性の魂を肉体から分離する作業を行った。これは神室霊華も既に何回か行っている処置なので問題なくスムースに行えたが、この光景を見たシスター向井が早速悲鳴を上げた。
「ここここ、これって、
そそそそ、その人の、
たたたた、魂ですか?」
と誰にともなく声を上げて叫ぶので、神室霊華は「はい、そうですよ」と平然と答えた。そして、やはりと言うべきか、その魂は昨日の霊体人形ではないが、ほぼ同じような色合いになっていたのだ。それを確認した神室霊華は、更に術式を追加して召喚を行った。後は自分の召喚エネルギーがこの女性の魂に充填されるのを待つだけである。何となくだが、愛車にガソリンを充填している印象を強く受けるのだが、感覚としては恐らく間違っていないだろう。そしてその注入時間だが、果たして実際の人に対して行う場合、どれくらいの時間必要なのかは分からないものの、時折魂の状態を確認すると少しずつだが青味が消えていくように見受けられた。そして20分程した時、漸く魂の色味が何時も現れる白っぽい感じに戻ったのを確認した所で、神室霊華は術を解除し、魂を肉体に戻した。
「恐らく、これでこの方の魂は
回復したと思いますよ」
と神室霊華は相変わらず平然とそう口にするが、シスター向井も、その師匠の正門も、今まで何が起きていたのか分からず仕舞いであった。だが、突然
「あっ、み、皆さん、わ、私のために、
な、何かして助けてくれたんですね!」
とベッドに横たわる女性が何とか首を回して顔をこちらに向けてそう口にした。その光景を見た神室霊華を除く3人は、ビックリして一瞬動きが止まってしまった。それまで何も喋ることが出来なかった女性が、首を動かして自分の言葉で喋り出したのだ。そして神室霊華は、どうやら処置が上手くいったと思ったようで、
「どうやら、元気になられたようで安心しました」
と1人笑顔になってそう伝えた。神室霊華としてはこれ以上ここに残る必要はないので、
「私の仕事はこれで終わりましたので、
お先に失礼させて頂きますね」
と言って後はシスター向井に任せることにして、神室霊華はその場を後にした。帰りの車の中で、神室霊華はあれこれと振り返るが、やはり玲の言っていたことが本当だったことには、今も正直驚いていた。本当にあの方は何者なのだろうか、そんな思いに囚われながら、夜の高速道路を走って行った。