召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
美少女降霊術師の心霊事件簿10: 妖怪との遭遇 (後日談)
物部かすみは、座敷童子との夜通しの真剣勝負が終わった最終日の午前中に、相田桃に電話を入れた。この時電話を受けた相田桃としては、かすみから「なーんもでーへんかったわ」と否定的な言葉を期待しており、やはり座敷童子などは存在せず、結果としてあの欲張り爺さんに対し「何も知らない素人だと思って、思いっきりふっかけたな!」などと抗議して契約をしない方向で進めつつあったのだ。ところがかすみからは、まさかの真逆の言葉が返ってきたため、相田桃は受話器を手にしたまま暫し言葉を失って茫然としていた。そして何とか「あっ、そうだったんだ。分かったわ」と答えたのだが、殆ど自動応答状態であったことに本人は気づいていない。そして更にかすみから、とんでもない話しが受話器を通じて伝えられると、相田桃は最早正常な判断が難しい状態になりつつあった。
「後な、桃。その座敷童子やねんけどな、
真剣に遊び相手にならんとあかんねんよ」
ちゃんと遊んであげれば喜ぶだけでなく、その見返りは十分に期待できるだろう、だがそうでないと二度とその人の前に現れないから注意するように、との忠告をかすみから受けたのだ。
かすみからの話しを聞き終えた相田桃は、受話器を戻して1つ深呼吸をし何とか正気を取り戻すも、やはりどう考えても自分をっているのではと思えてしまい、疑心暗鬼に陥った。だが、かすみが自分を揶揄ったり嘘をつく理由はどこにも見当たらないため、相田桃は上司と相談して確認の為にその家で泊まることにした。なお宿泊するメンバーは、相田桃と直属の上司にあたる先輩男性社員の谷山、そして同じく先輩女性社員の山根の3人となった。そしてその日のうちに3人は現地に向かった。
深夜になってから、かすみの指示通り座敷童子に一緒に遊ぼうと何度か呼びかけたところ、30分程した頃に「ふふふふ」と笑い声がどこからともなく聞こえて来た。相田桃はかすみからその時の様子を聞いていたので直ぐに「座敷童子さんですね?」と声に出して尋ねた。すると暫くしてから座敷童子が姿を現したことで3人は気が動転しそうになるくらいに大きな衝撃を受けた。実は3人は、この時まで本当に座敷童子が居るとは思っていなかったのだ。そして、相田桃が何とかかすみの言葉を思い出しながら一緒に遊ぶことを提案すると、何やら楽しそうに頷いた。それを見た谷山と山根は、恐怖で震えながらも相田桃の指示に従って4人で遊び始めた。最初は恐る恐るだった人間側3人は、持参した色々なゲームで遊ぶうち、どんどんのめり込んでしまい、そして白熱するに従い遂には座敷童子に対し真剣勝負を挑みだしたりした。そして何時の間にか夜明けが近くなった頃、座敷童子が「楽しかったよ」と言ってすーっと消えていった。それを見送った3人は、お互いに見合って「本物だったな」と言葉を交わした。
その後相田桃達3人は会社に戻り早速上司に報告するが、最初は全く相手にされなかったという。だが、その週末に相田桃が谷山の誘いで試しに馬券を購入した所、万馬券を的中させ谷山は数千万円、相田桃に至っても一千万円を手にした。そうなると、あの古民家に現れるのは幸運を招き寄せる本物の座敷童子だということが社内に広まり、早速古民家の主との契約を済ませることにした。ちなみにもう1人の参加者である山根は、実は絶賛婚活中であったのだが、後に良縁に恵まれただけでなく玉の輿に乗ってしまい、今年の秋には結婚式を挙げることまで決まったというのだ。
そして直ぐにリノベーションをしてから五千万円ほどで売りに出すつもりであったその古民家だが、社長の気が変わってしまい、自社で民宿を経営する方針に変更となった。と言うのは、やはり座敷童子が出る宿と言うのは宣伝効果としても抜群であり、しかも実際に座敷童子に遭遇して一緒に遊んだ社員全員が福を授かったとなると、これを赤の他人に売るのは勿体ないとなったらしい。
それから数カ月後の大型連休前のある平日の午後、かすみは1人でその民宿にやって来た。実はもっと早い段階で来るつもりだったのだが、かすみの用事もさることながら、この民宿の予約が全く取れない状況のため、民宿の臨時休業となったこの日にわざわざやって来たのだ。と言うよりも相田桃のたっての願いでここに呼ばれたのだった。
「桃、いるか!」
と古民家の引き戸を開けて早速奥に向かって声を掛けたかすみである。
「あっ、かすみ、来てくれたんだね」
とかすみを出迎えたのは、着物に身を包んだ相田桃である。ところでなぜ相田桃がここに居るのか?実は、相田桃はこの民宿の女将兼社長を任されたのだ。早速かすみが
「それにしても、桃さん、
えらい出世でんな~」
「なんてったって社長やもんな~」などと冷やかし半分で相田桃を弄りだした。
ところで、かすみがなぜ相田桃に呼ばれてこの民宿にやってきたのか?それはここの民宿で働ている従業員、全員相田桃が務める不動産会社からの出向者であるが、ここで働き始めて数カ月経つものの一度も座敷童子に会ったことがないという。もっとも、夜中などは宿泊客が優先のためそれは致し方ないが、会社からの出向扱いであっても黙って従ったのは、座敷童子に会えるのを楽しみにしていたからなのだ。だが、その座敷童子に会えないとなると従業員の働くモチベーションに関わってくる。そこで確実に座敷童子に会わせてくれる人を呼べば良いのではないかと考えて、社長の相田桃が早速かすみにコンタクトを取ったのだ。勿論かすみとしては、またあいつと再戦できると思うと嬉しくなり、二つ返事で引き受けた。そしてかすみは早速上がらせてもらうのだが、何やら大きなスーツケースを運んでいる。相田桃が
「かすみ、1泊するだけなのに、
その大荷物はなんなの?」
まさか、夜逃げでもしたのか?とかすみに問い掛けた。すると、かすみは
「アホか! なんでうちが夜逃げせなあかんねんな!」
と一応相田桃にツッコミを入れつつ
「ここにな、遊ぶ物がぎょーさん入ってんねん」
今晩は徹夜やしな、と言うことのようだ。そしてかすみは先ずは従業員達と自己紹介をした。ここの従業員は、男性2名と女性は相田桃を含めて2名の計4名で運営している。なお相田桃を含む従業員は、この近くに宿舎を建ててもらい、そこで生活しながら民宿で働いているという。ただし毎晩1名は当直に当っているのだが、残念ながら未だに座敷童子には遭遇していないというのだ。するとかすみが、
「うーん、確かにな、
あいつ人見知りと言うか、
人を見分けてるねんな」
「うちなんか、最初ガン無視されてたで、ははは」と笑いながら当時のことを語った。そして、スタッフと一緒に奥の部屋に向かうと、
「な、な、何なんこの部屋?寝るとこあるんか?」
とかすみが驚きの声を上げるが、それも無理もない。そこには所狭しと玩具などのお供えが飾られていたのだ。ただしかすみがそれらを目にしたところ、
「うーん、あいつな、
こんなんは喜ばへんねんけどなー」
と呟いた。相田桃がビックリして「えっ、そうなの?」とかすみに尋ねると、
「うん、あいつな、
こんなけん玉とかお手玉じゃなくて」
と言いながらかすみは持参して来たスーツケースを開けた。そして中からマキザッパとヘルメットを取り出した。
「あいつはな、これで殴り合うのが
めっちゃ好きやねんで」
と言うのだが、流石に座敷童子と殴り合いはないだろう、とこの時かすみを除く全員がかすみを白い目で見つめながらそう考えていた。尤も数時間後には、彼らの常識は根底から覆されるのだが。とりあえず、かすみはその部屋では狭いので隣の部屋に移動することにしたが、従業員の1人が「そこの部屋でも見えるんですか?」と尋ねてきた。すると、
「えーとね、あいつはこの家の中だったら
どこにでも現れるよ」
とさも勝手知ったる我が家の様にかすみはそう口にした。
さて、囲炉裏で夕食を共にした後、かすみは待ちに待った座敷童子との再戦をすることになった。そこで対戦を少し広めの部屋で行うことにし、そこに全員集まった所でかすみが、
「おーい、座敷童子、出てこーい。
かすみ様が帰って来たでー」
と大声で叫んだ。すると、「ふふふふ」と笑い声が木霊したと思ったら突然「かすみ、待ってたよ」と言ってかすみの前に姿を現した。これには相田桃を始めとした従業員全員、度肝を抜かれたように呆気に取られている。まさかこうも簡単に、しかも本当にどこにでも現れるのか?と今でも信じられない表情をしていたが、それよりもかすみも実は座敷童子を見て驚くことがあった。
「お、お、お、おい、お前!
何時からそんな格好になったんや?」
と指差しながらかすみは指摘するが、前回かすみと会った時の座敷童子の格好は洋装であり、しかもかすみ曰く名探偵コ〇ン君に似た格好であった。ところが目の前の座敷童子は、いわゆる古典的なザ・座敷童子の格好である。つまりの着物に帯を締めた定番のスタイルである。そこで座敷童子が少し不貞腐れた感じでかすみに訴えたのは、どうやらここに泊まりに来る客全員がこの格好の座敷童子しか相手にしてくれないというのだ。それを聞いたかすみは、
「まあ、そこはしゃあないわな。
洋服の座敷童子は有り得へんからな」
それこそ、子供の幽霊と勘違いされるで、と座敷童子にそう説明した。余り納得していない様子だが、これは時間をかけて洋装の座敷童子もいるで、と言うことを宣伝して貰うしかないと思った。一応隣の相田桃に「桃、ここは洋装の座敷童子がいます、いうことを宣伝しといたって」とお願いしておいた。これで座敷童子も少しは気が楽になったようだ。
さてかすみは、洋装に戻った座敷童子と早速「たたいて・かぶって・じゃんけんぽん」をする準備を始めた。相田桃は恐る恐る
「かすみ、それで本当に遊ぶの?」
と尋ねると、かすみは「勿の論や。こいつめっちゃ好きやねんで」と言うのだ。対する座敷童子もニコニコしながら今か今かと待ち望んでいる様子が伺える。そしていざ勝負の時が訪れた。
前回の対戦では、かすみの勝率が2割に対し、座敷童子の勝率が8割と圧倒的に座敷童子の勝利で終わった。だが今回はかすみも少しは頑張ったようで、勝率3割にまで持ってきた。だがまだまだ不十分であることを自覚している。その後従業員達に交代してかすみは暫し休憩することにした。最初のうちはと遊んでいた従業員達も、直ぐに真剣な表情になって、最後には「もう一回!」と懇願し出したりする。一方の座敷童子の方は、涼しい顔のままである。全く、あいつの顔を見ているとホンマ憎たらしいな、とかすみは思うものの、そこには憎悪の欠片は一片もない。座敷童子も久し振りに真剣勝負が出来たことを喜んでいることは間違いない。そしてその気持ちをかすみは受け取っていたのだった。その後、座敷童子と朝までしっかり遊んだかすみを始めとする面々は多少の疲れはあるものの、皆心から楽しんだことがその表情から読み取れた。そして座敷童子も、久し振りに真剣勝負が出来たことに喜んでおり、かすみに「また、遊ぼうね」と言ってそのまま消えて行った。
さてかすみと一緒に遊びつくした従業員達は、その後座敷童子のご利益を授かって、ある者は宝くじで高額当選、ある者は本社で出世、ある者は玉の輿に乗った、など相次いだという。そして相田桃も、収益が好調な事から、自身の収入が大幅アップしたことは間違いない。ただし彼女の場合は既にご利益を貰っているので、これはほぼ彼女の営業努力の賜物であるのだった。
そしてこの民宿の評判は徐々に口コミで広がりつつあったが、この宿の人気を決定付けたのは、ある俳優のSNSでの投稿である。この俳優、現在公開中の話題の映画の主役に抜擢されている人物であるが、売れる前の彼もこの民宿の評判を目当てにやって来て、運よく座敷童子に遭遇したという。加えて夜通し遊んだことから座敷童子のご利益を授かることが出来、その御利益がまさに話題の映画の主役であったのだ。そのため、この民宿は既に数年先まで予約が取れないという。そんな民宿のホームページには、この民宿に現れる座敷童子が紹介されているが、そこには「ここの座敷童子は洋装で出てくることがあります」と言う文言と「どの部屋でも座敷童子は出てきます。ただし運次第です」と言う文言が追加されていた。
最後に、最神玲である。実はかすみが相田桃にお願いされて座敷童子と対戦している時、彼も近くに転移でやって来て、屋敷の調査を行っていた。主に床下と屋根裏を調べたのだが、本人が入ると気配を感じ取られると思い、にくたまや自律型の召喚物を駆使して調査した。だが、残念ながら何の痕跡も発見できなかった。そのため、玲をもってしても座敷童子の存在理由は今もって分からないままなのだ。