召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、昔の相方と再会する (後編)
1本約10分程に編集された動画が10位から発表され、次々とカウントダウンされながら会場に設置されている大型スクリーンに映し出されていく。すると会場からは悲鳴やどよめきが起きたりして、なかなかに雰囲気のあるコンテストとなった。
「しっかしなー、霊華さん、会場人多ない?」
「そうですね、60人は優に超えてますよね」
と物部かすみと神室霊華が会場を見渡してそう呟くのだが、確かにこの会場には心霊サークルのメンバーの数倍の聴衆が集まっていた。審査員席の傍に佇む佐伯えりに対しかすみがその理由を尋ねると、
「まあ、昨年もそうでしたが、
噂を聞きつけてやって来る人がいまして...」
そこで今年は部員以外は有料にして1人千円の入場料払ってもうことにしたというのだ。それと、
「実は他の大学の心霊サークルの人達も
来ておりまして...」
まあ敵情視察ではないが、有名な東洛総合大学の心霊サークルとコラボしたいとか、そんな相談に来つつ観覧しているというのだ。
「佐伯も結構大変なんやな」
とかすみが感想を漏らすと、
「そうなんですよ、先輩!
結局この対応や調整が面倒なんですよ!」
と愚痴りだした。かすみはうんうんと頷きながら愚痴を聞くしかなかった。
さてランキングの発表はいよいよ3位までやってきたが、その前にここで10分間の休憩を取ることになった。確かにそのまま見続けるのはしんどいと思われたので、この措置は正しかった。休憩中に曽我がかすみの所にやって来て
「物部、ホンマにお前霊能力者になったんか?」
とどうしても信じられず、疑念を持つ眼差しでかすみにそう問い掛けた。かすみは、
「まあ、お前にとやかく言われる筋合いは
ないねんけどな、知らんうちに
なってたのは事実や」
と説明した。横で聞いていた神室霊華は、確かにかすみが知らないうちに霊界に迷い込み、そこから奇跡の生還を果たしたのち今の召喚術を身に着けたことを知っているので、大雑把なかすみの説明ではあるが間違いではないと思った。それよりも神室霊華としては、かすみと曽我がどういう関係なのか知りたいので、そのことをかすみに尋ねた。すると
「まあな、こいつとは中学の時に
漫才のコンビを組んでてんけどな」
「意外とこいつおもろかったわ」と曽我に向かってそんなことを口にした。それに対し曽我は、
「いやいや、それはこっちの台詞やで。
何かしょうもないお笑い被れがおると
思っててんけどな、物部は勉強でけへんけど、
お笑いは意外とガチの奴やったわ」
と言うと、かすみがムッとするもそんなことに構わず
「こいつな、ホンマに勉強よりも
お笑いのことしか頭に無かってんよ、
な、物部!」
とかすみの肩を叩きながら神室霊華に向かってそう伝えた。すると、かすみはカチンと来たのか、
「はぁー?何言うてんねやろ、
このアホのソガシンは。
うちはちゃんと勉強も出来てたやないか!」
と指摘するのだが
「いやいや、物部、お前
絶対、絶対、ぜぇーったい、
大阪のあの養成所に入って
漫才師目指してた思っててんけどなー」
とかすみの進路は決まっていたように指摘した。もしこの場に最神玲が居たら、確実に同意していただろう。だがかすみは反論するかと思ったが
「まあなー、うちも真面目に
あっこに行こうか考えててんけどな、
まあ、親に止められたりしたしなー」
真面目に勉強してここの大学に入ったから、今の人生があることをとだが2人に語った。そんなことを話し込んでいるうちに休憩時間が終わってしまった。そしてその後は残りの上位3つの動画が発表されたのだった。
さて、会場が恐怖の絶叫に包まれた中で一般の部と言うか、素人が見て怖いと思った動画のランキングが終わり、次はいよいよM Mの選んだ最恐動画の発表となった。事前に幾つか霊視グラスを用意したかすみと神室霊華は、流石に全員に配ることは不可能なため、映像制作会社のスタッフと佐伯えりに渡すことにした。ところでM Mの3人が選んだ作品は、実は3作品しかない。そしてこの3作品こそが、かすみが言うところの「マジもん」ということになる。そして早速発表されると、会場の奥の方から数人が悲鳴を上げたのが見て取れた。恐らく彼ら彼女らは何かしらの霊能力を持っているのだろう。そして最前列で霊視グラスを掛けている者達は、悲鳴こそ上げないが、そこに映る映像を瞬きせずに目を丸くして見ていた。
ソガシンのやつ、
あいつ気ぃ失ってんとちゃうか?
とかすみは曽我を心配するくらいであった。一方、大多数の者達は、ごく普通の心霊動画を見ているだけで、霊が横から顔を出したというような類の、それこそ極有り触れた心霊動画であったと感じた。だが、M Mの3人は、そこに別の存在を目の当たりにしていたのだ。ある動画では、そこに映っている人物に憑依する瞬間が捉えられていたり、またある動画では、撮影者本人に襲い掛からんとしていた所を捉えていたりしていた。そんなことを説明していたかすみは、当事者をこの場に呼んで色々と尋ねた。すると、
「は、はい、確かに先輩が仰るように、
今、あいつとは連絡取れてないんです」
と近況を報告した者もいれば、
「せせ、先輩、
じょじょ、冗談じゃないですよね?」
とあくまでも否定しようとする者もいたり、あるいは
「ぼぼぼ、僕に何か
ととと、憑りついてるんですか?」
と泣き出しそうになったりした。一応、かすみは鞄の中から霊視グラスを取り出して、その場で見てもらったところ、卒倒して倒れそうになったりするのを何とか支えたりしながら、現状の問題をその場で伝えた。かすみが見た感じ、憑りつかれたと思っている本人は、特に問題ないのでそのことを伝えつつ、やはり連絡が取れないというケースはちゃんと確認すべきだということを、彼らに伝えた。そして、教室にいる全員に向かって、
「多分、彼らは細心の注意を払って
心霊スポットとかに向かっているとは
思うねんけどな、それでもこうやって
得体の知れない何かはやって来て
憑りつくねん」
だから行くなとは言わないが、もしどうしても行きたければ、それなりの覚悟を決めろ、とかすみは伝えた。普段のかすみであれば「近づくな!」と否定的な意見を言うところ、今回は何時もと違うことを彼らに伝えたのはなぜか?このかすみの言動に対し神室霊華もハッとしてかすみを見つめていたが、かすみのこの考えは、実は玲と2人でサモネル教団の司祭と対決した時の経験が関係していた。あの時、かすみは細心の注意を払いながら傭兵と対峙していたが、それでもやはり彼らの攻撃を受けただけでなくかすみ自身死にそうになった訳で、だが行かなければ解決しないことも事実であり、だから行く以上は覚悟を決めて臨むべきだ、と言うことをかすみは学んだのだ。そのかすみの経験を彼らもに伝えたということであった。
午後1時になって、今回のコンテストは終了となった。その後スポンサーの映像制作会社の面々と受賞した学生、そしてかすみと神室霊華と佐伯えりは、東洛総合大学内の[レストラン青葉]にやって来た。そこでランチを共にすることにしていた。かすみはソガシンと何やらお笑い談議を始めたようで、そのため神室霊華は映像制作会社の3人の経営者たちに囲まれて色々と相談を受けたりしていた。残るジーエックスの山崎と呪いの動画の藤波は、佐伯えりと学生達を交えて撮影時の状況などを聞きながら時を過ごした。そして佐伯えりからコンテストの協力に対する感謝の言葉が伝えられ、各自三々五々散会となった。神室霊華はかすみに対し、
「師匠、そろそろ戻りましょうか?」
と口にするが、かすみは何やらニコニコしながら曽我とお笑い談議に花を咲かせていた。こういう時のかすみは本当に生き生きとしているな、と感心するのだが、神室霊華からすると何がそんなに楽しいのかは別問題であった。尤もかすみの場合、心霊サークルの夏合宿の時もそうだが、ことお笑いのことになると何やら夢中になる癖がある。神室霊華も最近になってかすみの性格を把握するようになってきており、こういう時は邪魔しないに限ると判断し、かすみの耳元で「お先に行きますね」と囁いた。すると、
「あっ、そやな、もう戻らんとアカンねんな」
「じゃあまたな」と言って曽我とその場で別れようとした時、曽我から
「おい、物部、もう一回俺と漫才やらへんか?」
と思いもよらない提案がかすみに持ちかけられた。かすみは一度立ち止まり、だが曽我の方に振り返ることなくその場で
「まあ、考えとくわ」
と言葉を返した。そしてかすみは神室霊華と一緒に帰路に就いた。
洛王神社に向かう途中、かすみは何やら思い詰めたような表情をして俯き加減で歩いていた。それは曽我から最後に声を掛けられたことが関係していたのだが、
やっぱ、今の仕事辞めて漫才師になろっかな~
とかすみはふとそんなことを心の中で考えていた。勿論漫才師を目指したからと言って有名になれる保証はないし、そもそも自分の漫才が果たして世間に通用するかどうかも分からない。
でもな~、あれは所詮中学生の
お遊びやったもんな~
と、どこか達観したように呟くが、それはすなわち自分の限界を知ってのことだったのかもしれない。
ところで、かすみの中では、世間一般の漫才師達が売れて有名になりたいという情熱と言うか欲望みたいなものを実はあまり持っていない。そのため安易に曽我の言葉に乗って漫才師を目指しても果たして自分にとって満足のいく人生が送れるかどうかに疑問を感じている。そしてこんな気持ちで漫才すること自体、曽我に対して失礼だとも思っている。それよりもかすみとしては、毎日が楽しく、時にスリルのある人生を送りたい、と言う気持ちの方が今は勝っていた。となると、別に今のままでも良い訳で、むしろ漫才師よりも常に危険と隣り合わせの霊能力者の方がスリルがあって自分に合っていると感じていた。勿論、この間のことのように一歩間違えば死が待っていることもあるのだが、それでも一流の漫才師を目指す人生よりも、今の人生の方を選ぶだろう。
漸く心の中で整理がついて気持ちが楽になったかすみに対し、神室霊華はかすみがそのような事で悩んでいたとは知らずに、あることを尋ねた。
「そう言えば、師匠のコンビ名って
何なんですか?」
「あー、えっとな、
『太古の恨み』
っちゅう名前やった」
「えっ?」と神室霊華は思わず立ち止まってかすみに聞き返した。何だ、その恐ろしそうなコンビ名は?と思ったのだろう。普通に考えると有り得ないのだが、かすみが言うには、
「歴史でな、聖徳太子が居た頃やったか、
との戦争があったやんか。
あっこから来てんねん」
と言うことだが、これはの乱と呼ばれる飛鳥時代の内戦で、当時の権力者であったととの権力争いである。ちなみに、若き日のこと聖徳太子も蘇我馬子側で戦っていたと言われている。そして最終的には物部守屋が破れ、物部家は衰退していく。そんな歴史的背景を持つかすみとソガシンの苗字(曽我違いだが)からコンビ名が付けられたらしいのだ。ちなみに、コンビ名の生みの親は中学の社会の先生だったという。だが、そのコンビ名からすると、かすみがソガシンに対し恨みを持つようになってしまうが、当時の2人はそんなことを気にもしなかったようだ。
「まあ、ネタにはなるから、
そんな内容の漫才も
やったりしててんけどな~」
うんうん、と頷きながら当時のことを思い出して笑顔になるかすみであった。
「師匠、お笑いのことになると
何だか凄く生き生きしてますよね」
と神室霊華も笑顔になってかすみにそう指摘するが、
「ホンマはこっちでもやりたいねんけどなー
もっとも、あいつはお笑い分からへんから」
うちが一からあいつを鍛えなあかんねん、と答えるのだ。あいつとは、言わずと知れた最神玲である。だが
「そやかて、漫才は仕事っちゅうよりも趣味やし、
今の仕事が嫌かっちゅうと、それはないし」
まあ、今のままで十分やねん、と結論付けた。かすみもこうして言葉にすることで何かが吹っ切れた感じがしたようだ。
一方の神室霊華はと言うと、もし万が一かすみが「明日からお笑いの養成所に行くわ」と言ってあの家を出て行ったら、では私が代わりにお手伝いに参りますといってかすみの後釜についたかどうか。無くもないと思いながら、でもやはりそんなことを考えるのは師匠に対し失礼だと考え直し、神室霊華は良からぬ考えを頭から振り払うように首を振って、かすみの後をついて行った。