召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、陶芸を始める (前編)
M Mの従業員が誰でも自由に過ごすことが出来る別荘が出来て以来、最神玲と物部かすみ、そして神室霊華は毎週末この別荘にやって来て思い思いの生活を楽しんでいる。玲はアーティファクトの制作や召喚術の研究に余念がなく、かすみは洋服のデザインから、最近では生地の裁断と縫製まで行えるように勉強をしていた。そして神室霊華はと言うと、静かな環境での読書を楽しんでいるのだが、読書に関しては実は自宅でも何ら問題なく出来る。それをわざわざここに来てするのも果たしてどうなんだろうか、と考えてしまう。まあ、露天風呂に浸かりながらの読書もまた乙なものだと思えば、何やら風流人かと思わなくもないのだが。ちなみに、かすみに至っては、雪の降る夜に露天風呂に浸かりながら雪見酒を堪能するという贅沢を味わったりしていたが、とにかくここにいる間は自由気ままに過ごしても問題はない。だが、やはり空き時間ができると何かをしないと落ち着かないのは、日本人あるあるっぽい気もしてちょっと恥ずかしく感じたりする。ここはやはり何も考えず、心を落ち着けるような事をすればいいと自分に言い聞かせることにした。
だからと言って、やはり毎週末こんな調子だと流石に飽きてしまう。やはり何かしらしないと落ち着かないように出来てしまったようだ。だがそうは言っても、未だにかすみのように手に職をつけるような趣味を持っていないため、増々何をしようか迷ってしまう。かすみに色々と相談するも、
「まあ、好きな事をすればええねんけどなー」
とアドバイスされるだけである。かすみとしても、これ以上何かアドバイスすることは無いのが実情なのだが、そうなると増々神室霊華とするとやはり何か夢中になるものが欲しくなったりする。だが自分の人生を振り返ってみても、何かに夢中になったのは、やはり降霊術や除霊と言った今の仕事に繋がるものしかない。後はと言うと、
“うーん、まあ、料理をすることくらいかな~”
となってしまう。だが、料理研究家のように何やら新しい料理を作りたいという野望がある訳ではなく、あくまでも生活の一部でしかないため、それを趣味の域に持っていくのには何かしら抵抗を感じるのだ。後は何かを作る位かな、と思うのだが、玲とかすみから召喚術を学んで以来、自分の欲しいものは大抵召喚することが出来る訳で、敢えて何か欲しいものがあるかと言うと、今はない、としか答えられない。そうなると、かすみではないが自分も何やら洋服のデザインを学んで、自分だけのオリジナルの衣装を作ってみようか、と思ったりしてくるのだが。
“うーん、師匠と趣味が被るのは
気が引けるのよね~”
となってしまう。多分かすみは、神室霊華が同じ趣味を始めることに対し嫌悪感などは抱くことなく、むしろ同じ趣味の人が傍に居ることで気軽に相談相手になってくれることを喜ぶかと思われる。だが、
“自分の洋服の好みで言うと
どうしても偏るから、
やはり難しいかな~”
と二の足を踏んでしまうのだった。
そんな感じで自分の趣味を探していた2月のある日、パラレルワールドの件が落ち着いて心に少し余裕が出来た頃、ある依頼者が神室邸を訪れた。その依頼者は自分のご先祖の霊を降霊して欲しいというのだが、その理由が
「実は、ご先祖様の残した資料が
一部紛失しておりまして、
そのため肝心の所が分からず
再現できずに困り果てております」
と言うのだ。神室霊華に降霊術を依頼した人物とは、ある窯元で陶芸をしている何代目かの陶芸家であった。そしてその陶芸家は、何代か前の先祖であり人間国宝にもなった人物が作った唯一無二の作品を持参しており、これで降霊術をお願いしたいと依頼して来たのだった。神室霊華は早速その陶芸作品に対し降霊術を行うと、無事その作者である陶芸家の先祖が現れた。そして早速その作品に関することを陶芸家は先祖に尋ね、予想した以上の成果を得て満足したのだった。そして
「神室霊華様、本当に有難うございます。
長年悩んでいた謎が解けて、
今は胸がいっぱいです」
と神室霊華に感謝の言葉を伝えた。そしてお礼にと言うことで、その持参して来た陶芸作品を神室霊華に進呈したのだ。神室霊華は既に降霊術の料金を貰っているので、最初は丁重にお断りしたのだが、
「私も同じものが作れそうだという
自信が出てきましたので、
こちらは神室霊華様にお預けするということで
お受け取り頂けますか?」
と言われてしまい、神室霊華も無下に断ることができず、その申し出を承諾した。そして今は、神室邸の廊下の飾り棚に飾られているのだが、それを見ながら神室霊華は、
”こういう綺麗な器に料理を盛りつけたら
どうなんでしょうか?”
と思わずにいられなかった。そしてこの何気ない問い掛けが切っ掛けとなり、神室霊華は陶芸に少しずつだが興味を持ち始めたのだった。
ところでいざ陶芸をするにしても、何から始めるべきか当然分からない。インターネットで検索すると色々と出てくるが、やはりまずはどこかの陶芸教室に入って、陶芸のいろはを学んだ方が早いなと思い、早速地元の陶芸教室を探すことにした。だが地元には常設の陶芸教室がなく、不定期に公民館などで開催される陶芸教室があるだけだった。ただ、隣町には一軒だけだが常設の陶芸教室があり、そこでは小さいながらも窯元を営んでいるということで、神室霊華はそこに申し込むことにした。
そして数日後に何とか午後に空き時間が出来た所で、早速その陶芸教室に向かうことにした。なお、念のために(だて)眼鏡にマスクをし、頭は慣れないポニーテールに無地の黒のキャップを被ってちょっとした変装をして向かった。それと洋服は、汚れても良いように神室霊華が絶対着そうにない明るい色のセーターとデニムに着替え、コートを手にして車で出かけた。ちなみに車は何時もの外国の高級車ではなく、召喚した軽自動車である。ここまで徹底すれば、まあ恐らく神室霊華と気づかれることは無いと思いつつ、だがもし万が一そうなったらちょっと、いやかなり恥ずかしいことになりそうだ。かすみであれば、このちょっとしたスリルが堪らない、と言いそうだが。
「あのー、先日こちらの陶芸教室に申し込みました
と申します」
と名前を告げ、授業料をその場で支払った。本名のを知っている人は高校時代の同級生位であり、世間には霊能力者としての通り名である神室で通しているので、まず気づかれる心配はないと見ていた。そして実際、受付にいた40代後半の男性は、恐らくこの窯元の主だろうか、新しく来た生徒の1人と見なしているだけで、早速陶芸のいろはを教え始めた。そして、神室霊華は陶芸は全くの初心者のため、先ずは陶芸体験をと言うことで、教室が用意した土を使ってを回しながら成型することから始めることになった。先生の手本を見ながら見様見真似でやってみて、何となくそれらしい茶碗ができたと喜んだとき、油断してその茶碗の淵を触ってしまった。その途端ぐにゃぐにゃと変形してしまい、また一から作り直す羽目になった。こういう油断が命取りではないが、油断大敵と言う表現がピッタリくると神室霊華は反省した。その後は慎重に神経を集中して作業を行い、何とか茶碗らしきものを作ることが出来た。その後同様に作業を進め、あと2つ程茶碗を作ることが出来た。後はそれを一度乾燥させてから高台を削ったり表面に装飾を施したりする。その後素焼きをして色付けやを塗り、最後に本焼きをすることになる。ただし、それまでには何週間かあるいは月単位の時間が必要となる。とりあえず神室霊華としては初日は轆轤を回すだけにして、一度帰宅することにした。
それから1週間程して、しっかり乾燥した自分の作品の高台を削りつつ、特に装飾を施すことは考えてないのでそのままにし、余った時間を使って、粘土の選び方と練り方を教わった。とにかく粘土選びは一番大事なようで、粘土次第で作品が決まると言っても過言ではないらしい。そして粘土を選んだらその後は粘土をひたすら練る作業が始まる。これは粘土の中に含まれる空気を押し出すことを意味するが、これを疎かにすると小さな気泡が粘土の中に残ってしまい、焼いた時に気泡が膨張して爆発する危険があるという。それ位に重要な作業となる。なお、この粘土を練る作業をりとも呼ぶようだが、俵上にした粘土を片方の手で押しつつ、もう片方の手で捻りながら回転させることで、その痕跡が菊の花びらのようになることから菊練りと呼ばれるらしい。 ちなみに、これは粘土だけでなく、蕎麦打ちでも同様だとか。だがこの菊練りは高い熟練度が要求され、神室霊華も先生に教わりながら試すも、残念ながら綺麗な菊模様には未だ至っていない。この菊練りを綺麗に出来るようになることが先ず目標となった。その後さらに1週間程してから素焼きが行われ、表面をやすりで削って余分なバリみたいなものを除去し、表面を綺麗に整えてから絵付けや釉薬を塗り、最後の仕上げとなる本焼きとなって完成となる。