召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
神室霊華、陶芸を始める (中編)
3月初旬の東洛総合大学心霊サークルの心霊動画コンテストが終わった数日後、本焼きが終わったとの連絡を受けた神室霊華は、早速陶芸教室に向かった。そして自分の作品を見た途端、思ったような感じに仕上がってないことに愕然とした。自分が思っていたよりも何やら器に肉厚を感じるのだ。自分としては結構薄く仕上げたつもりなのだが、どうやらまだ更に薄くする必要があるみたいなのだ。とは言え、まだ始めたばかりであり、そんな簡単に思い通りの作品が出来たりすると、”自分はもしかして天才なのでは?”などとれてしまい、結局後が続かなくなることも考えられる。それよりもこれから試行錯誤で自分の思った作品を仕上げることを考えた方が長続きしそうであり、それを新たな目標にすることができる。
その後、工房で釉薬の作り方を始め、焼き方のコツではないが素人でも出来そうなことを色々と聞いてそれらをメモした。そうなると、早速自分の工房を作って色々と試してみたくなってくるのだった。そこで、何時ものように美土路神社の師匠の所に向かって夕飯を頂くとき、最神玲に自分の離れの地下に工房を作ってもらえないかと言う相談を持ち掛けた。玲は快く引き受けてくれて、自分や物部かすみの使っている工房と同じくらいの大きさであれば、今度の週末に作っておくと提案してきた。そこで神室霊華は早速お願いして工房を作ってもらうことにしたが、その時に気になる点を玲に相談した。それは仮に後から本格的な焼き釜を作る場合、密閉状態の地下室に作る訳にはいかないため、それをどのように設置するか、と言うことである。これに対し玲は、
「まあ、後から地下室の一部を壊して、
そこに新たに焼き釜用のスペースを
半地下風に設置しても問題無いよ」
と言うことだった。本来であれば一度作った地下室の一部を掘削したり壊したりとなると手間もそうだが工数が結構かかる。だが、召喚術師は職人を自由に召喚出来るため、その辺の作業は短時間で簡単にできる。そこで神室霊華としては、本格的な焼き釜を作らず、専用の窯を持たない陶芸教室とかで使用される電気窯を設置することで当面は対応することにした。勿論、この電気釜は召喚物である。これでしばらくは試行錯誤で自分の作った作品を評価できると考えている。そして本格的にやるときは、やはりちゃんとした焼き釜を作る心算である。それと、折角山の中の別荘に工房を設けるので、この山中か自分達の管理する敷地内に陶芸に適した粘土がないか探してみることにした。
週末に玲が地下工房を作っている間は離れが使えなくなるため、その時間を利用して神室霊華は粘土探しをすることにした。先ずは別荘の近くで探してみたのだが、残念ながら粘土が露出したりする場所は見当たらない。まあ深く掘ったりすれば出て来る可能性はあるが、そんな所の粘土をどうやって地表に持って来るか、と言う問題が新たに生まれる。やはり自然に露出した所を探した方が無難なのだが、そうなるとなかなか見つからない。そこで少し遠くにまで足を運ぼうとするが、に動き回っても疲れるだけなので、先ずは転移門を使ってサーチしてみることにした。山肌が露出している所を見つけたらそこに転移するを繰り返すが、やはり粘土層は見つからず、結局その週末は徒労に終わってしまった。尤も、日曜日の午後には地下工房が出来上がったので、少しだけテンションが上がり、来週末の探索に期待を寄せたりするのだった。
ラハニ・エランの結婚式に出席するためにアメリカに向かう3月の3連休初日の土曜日がやって来た。神室霊華の離れの地下には、先週末、玲に作ってもらった立派な工房が完成していた。工房へはクローゼットの奥の秘密の扉から行くことになっており、ちょっとした秘密基地めいている。後は必要な道具をそろえ、そして肝心の粘土を見つけることである。この日はかすみの手が空いているということで、午前中だけだがかすみの手をを借りて探すことにした。今回は別荘から一番離れた山の中、かすみ曰く物部山での探索を試みたのだが、正午近くにかすみが何やら赤土っぽい所を見つけたと神室霊華にカフリングを通じて報告して来た。早速そこに向かって土の状況を確認すると、そこは確かに粘土層であることを確認した。これなら何かしら作れそうかな、と言う感触を得た神室霊華は、そこに転移門マーカーを設置し、バケツとスコップを召喚してバケツ1杯分の粘土を持って帰ることにした。今日はこれからアメリカに行く準備をするので具体的な作業は帰国後にお預けとなった。
ラハニの結婚式の感動の余韻にったまま次の週末を迎えた神室霊華は、早速別荘にやって来て、自分の離れで紺の作業用のつなぎ服に着替えた。それからクローゼットの奥から地下に作られた工房に向かい、工房内の作業台に載せられている粘土を練る作業を始めた。ところが、粘土に触れた途端「冷たい!」と叫び声を上げてしまった。どうやら置きっ放しの粘土が冷たく、しかも固くなっていたようだ。工房内は、離れの室内にある薪ストーブで温まった空気が工房にも流れてくるようになっているため、そんなに寒さを感じないのだが、粘土は先週末に採取したままここに置かれていたため、工房内の寒さで冷たくなっていたようだ。しかも本来は乾燥させないようにビニール袋などに包んでおくべきだったのだが、そう言う作業を怠ってしまった。後悔しても後の祭りである。こういう時は水を含ませながら作業台に叩きつけて柔らかくするんだ、と言うことを陶芸教室の先生から教えてもらっていたので、早速やってみることにした。ゴム手袋を召喚してそれを両手に嵌めてから、粘土に霧吹きで水を吹き掛けながら作業台に叩き続けること数十分程、何とか柔らかくなってきたので、その後は粘土を練る作業を始めた。陶芸教室で教わったように練るのだが、欲張って沢山の粘土を一気に練ることをしたため、なかなか思ったように進まない。やはり少しずつにすべきだったと反省し、粘土の量を減らしたうえで再度練る作業を始めた。それでも何とか陶芸教室で教わった感じの粘土に仕上がったので、早速を回して整形作業に移った。
やはり陶芸と言えば、この作業だな、と言う感じで神室霊華は一心不乱に全神経を手に集中させて粘土を整形して行った。そして4時間程して、神室霊華は4つの茶碗を作成した。意外と時間がかかったのは、途中で肉厚を薄くし過ぎて穴が開いたり、ぐにゃぐにゃになったりしてやり直したからである。その後、4つの茶碗を一度乾燥させることになるが、乾燥が不十分だと高台を削り難かったり、あるいは変形したりするし、乾燥し過ぎると固くなって削るのが難しくなったりすることを陶芸教室の先生から教えてもらっていた。かと言って急激な乾燥は歪みやひびの原因になるので、ゆっくりと乾燥させないといけない。とは言え、乾燥には1週間かかることもあるため、ここは召喚術で乾燥機を召喚することにした。それは玲が別荘を作る際に使用した木材乾燥施設の小型版である。それを工房の中に設置して乾燥させることにした。多分これで2,3日で乾燥する筈である。
さて3日後の平日、この日は午前中に何も予定は入っていないので、神室霊華は早速別荘にやって来て、作品の状況を確認した。程よく乾燥しているようで、これなら高台を削るのに問題ないと判断し、早速取り掛かることにした。一応自分のイニシャルも入れて、後は素焼きをすることになる。素焼きは昇温→焼成→冷却で大体10時間と言われており、今からであれば夕食後に来ても問題ないので、今夜中に素焼きの状態を確認することにした。
何時もの様に玲とかすみとの夕食を楽しんだ後、神室霊華は素焼きがそろそろ終わるからと言うことで、別荘の露天風呂に入りがてら状況を確認することにした。かすみも何やら面白そうと思ったのか、一緒についてきた。そして玲はと言うと、一人自宅で留守番となった。早速工房にて電気窯の状態を確認した神室霊華は、温度が下がっていることを確認して、恐る恐る扉を開けて中の様子を確認した。もしかして粘土の中に気泡があって爆発していないかと心配になったが、それもなく無事に4つの素焼きの茶碗が出来ていてホッと一安心であった。
「へぇー、何か霊華さんの性格なんやろか。
凄く丁寧に仕上げてんねんなー」
うちやったら、少しくらいの凹み気にせぇへんけどな、とかすみは神室霊華の素焼きの茶碗を眺めてそんな感想を漏らした。さてこの後は色付けと釉薬を塗る作業となるが、これはまた週末の楽しみに残しておくことにした。その後かすみと2人で露天風呂に浸かってその日の疲れを癒したのだった。