召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル12: のケース (第1幕)
6月の美土路神社は只今梅雨の真っ最中である。今月初旬にM Mの慰安旅行が終わってから、漸く本格的な梅雨の到来となったのだが、こうも毎日のように雨が降り続くと、何となく気分がどんよりとしてくる。それでも昨年と同様、遠方からわざわざやって来る参拝客を笑顔で迎えることを心がけながら、何時もの2人、最神玲と物部かすみは今日も社務所で仕事をしている。だが雨が降り続くと流石に参拝に訪れる人も減るようで、昨日は延べ十数人、今日は数人程度にまで落ち込んでいる。いや、昔の美土路神社のことを思うと、漸く落ち着いたと言った方が良いのかもしれない。そして参拝客が少なくなると、決まってあの人は旅に出る。しかも昼ご飯を食べてから丁度1時間経った頃、ほぼ定期便の様に航海に出てしまうのだった。
“全く、かすみの奴、どうしてこうも
毎日昼寝できるかなー?”
と隣に座る玲はかすみの寝顔を見ていつもそう感じる。とその時、玲のスマホから「♪ピローン」とメールが入ったことを知らせるメロディーが流れた。ジャンクメールの類は迷惑メールとして処理するため音が出ないようにしているが、それ以外のメールはこうしてメロディーを奏でて知らせてくれる。早速自分のスマホを鞄の中から取り出して確認することにした。すると件名には[除霊の依頼]とあった。玲は一瞬
“あれ?あいつら懲りずにまた依頼して来たのか?”
とってしまった。と言うのは、M Mの連絡先は玲のスマホになっているのだが、そこに仕事の依頼が入ることは非常に少ないものの、だが過去には何件かあった。だがそれらのどれもが、玲とかすみをき出す罠だったことから、再びほとぼりが冷めたからということで依頼して来たと玲は思った。もしそうであれば、今度はきついお仕置きをしないといけないなと思う訳なのだが、それでも一応メールの中身を確認することにした。するとそこには次のような事が書かれていた。
[最神玲様、物部かすみ様
先日のおもちの件で大変お世話になりました
RINAです]
と書かれていた。玲は「あっ、RINAさんか!」と思わず声に出して呟いてしまうが、隣のかすみは何時もの様に「ん?玲、もう朝ご飯なんか?」とあの台詞を口にした。その後は何時ものお約束の展開となり、最後は玲がマキザッパを召喚してかすみを一発しばいた所でかすみは文句を垂れながらも正気に戻った。そして玲がRINAからのメールが来たことをかすみに伝えると、かすみの眠気が完全に吹っ飛ぶくらいにそのメールが気になるようで、玲に確認するようにせっついた。そこでその文面を玲はかすみにその場で読み聞かせた。
RINAには少し年の離れた高校生の妹がいる。名前はという。かすみは「何やろ、親は手ぇ抜いたんか?」と茶々を入れるが、その辺の事情は当人達にしか分からない。そしてその妹だが、ある深刻な病に侵されていると言う。その病だが、
「た、た、多重人格?」
とかすみは素っ頓狂な声を上げるが、玲は何のとこなのか理解できずにいる。だがその確認は後にして、メールの続きを読むことにした。その結果、どうやらRINAの妹は多重人格に悩まされており、そのうち自分が誰なのか分からなくなってしまい、今は学校にも通えず部屋に閉じこもっているという。そこで、RINAの依頼と言うのが、妹の多重人格がもし心霊的なことに由来しているのであれば、除霊して欲しいということのようだ。その時かすみが
「ただなー、多重人格とかって、
確か精神科の話やろ。
そんなんうち等の領分なんか、玲?」
と玲にそんなことを尋ねて来た。玲としては、先ず多重人格と言う症状が分からないので、その点をかすみに尋ねた。するとかすみは溜息を一つついてから、
「はぁ~、全く、宇宙人の君はね、
もう少し色々と勉強した方がええよ!」
「召喚術ばかりやらず、世間一般の常識っちゅうもんをちゃんと学ぼ!!」と玲を説教し出した。だが、当のかすみも多重人格を正しく伝えられるかと言うと怪しい所があるものの、一応
「一人の人間の体内にやな、
ぎょうさんの人の魂かなー、
そんなんが入り込むっちゅうことや」
と大雑把な回答を示した。玲は念のため、それは霊体なのか、それとも生霊なのかをかすみに尋ねるが、かすみはそんな違いを知る由もなく、
「そんなん知る訳無いやろ!!
まあ、とにかく霊体が入り込んでるんとちゃう?
知らんけど!」
と投げやりに答えた。
ところで多重人格とよく言われるが、医学用語では「解離性同一性障害」と呼ばれており、その主な原因は心的外傷、俗に言うトラウマだとか、あるいは自己防衛反応、これは精神的なダメージを避けるための防衛措置のようだが、そう言ったことが原因すると考えられている。そしてかすみの投げやりな答えと、ウェブで調べたことを総合的に判断した玲は、
「まあ、そういうことなら、有り得なくないな...」
と呟いた。かすみはこの玲の呟きを聞き逃すことなく、しかも何やら思い当たることがありそうな雰囲気を玲がしていたのが気になり、早速「玲、どういう事や?」と問い詰めた。そこで玲は仕方なく、ケンタリアであった事例をかすみに聞かせた。
「まあ、正直な所、どういう原因で
沢山の魂と言うか霊体が
人に入り込むかは分からないけど...」
と断ったうえで、結局は各々の霊体と言うか人格を持つ何かを成仏させるように仕向けるしかないというのだ。
「要するに、怨霊を成仏させるという感じだね。
ただ...」
時にを言う霊体もいるので、全てを除霊するのはかなり骨が折れる作業になるという。ただし、
「それはケンタリアでの話で、
実はこちらだともう少し
強制的に除霊できそうなんだよね~」
と玲は明るい表情でそう口にするが、その方法とは霊界で円空に手伝ってもらうということである。あるいは、かすみが行った自力で排除するかであろう。
「いやー、あれは結構大変やで、玲。
うちはともかく、日頃全く運動してへん
自分がやったら、腰やられるで!」
とかすみはニヤニヤしながら玲に忠告した。確かにこの頃の玲は、既に惑星サモナルドの恩恵が消失している。だが
「えっ、そんなの、何かアシストする物を
召喚すればいいんじゃないの?」
とかすみに対し
”そんなの、当然でしょう!
かすみ、馬鹿じゃないの!?”
と口角を僅かに上げて、少しかすみを小馬鹿にするような雰囲気を湛えながらかすみに伝えた。そして当のかすみはと言うと、
”何や?玲の奴ちょいちゃうか?”
と玲の態度が気に入らないのか、マキザッパを召喚してお仕置きをしようとしていた。が丁度その時、社務所に参拝客が現れて、御朱印帳への記帳を頼まれたので、かすみは仕方なく仕事に戻ることにした。そして、そんな不穏な空気に包まれていた社務所に定時が迫ったところで、玲とかすみは片付けの準備を始めた。
自宅に戻ったところで、かすみは夕飯の準備を始めた。そして玲は、RINAからのメールの返事を書いている所であった。自分が思っている状況であるなら、この問題は解決可能と見ている。そうでなければ、その時は何か他の方法を調べるしかないのだが、そんな時、かすみも先程のことが気になるのか、料理をしながら玲に
「なあ、そんなに簡単に解決できるんか?」
とその声に不信感を漂わせながら尋ねて来た。丁度その時、何時もの様に神室霊華が「師匠、玲さん、こんばんは」と声を掛けながらやって来た。そして神室霊華は早速かすみと一緒にキッチンに立って夕飯の準備を手伝うのだが、かすみからRINAが何やら玲の所に依頼をしてきたことを聞かされた。
「えっ!?た、多重人格って、
1人の中に複数の人の性格が
現れるあれですか?」
と神室霊華も驚いた表情でかすみを見つめた。かすみも神室霊華の方を見て頷いて、
「そうやで。どうやら彼女の妹が
多重人格症と診断されているらしいわ。
ほいで、M Mにメールで
助けを求めて来たようやねんけどな...」
「玲が多重人格症なら治せるっちゅうねん」とかすみは玲の方に振り返りながらそう指摘した。玲はダイニングテーブルに向かいながら
「いやー、別に治せると言うよりも
解決できるということなんだけどね」
要するに憑りついた霊を強制的にお見送りするだけだということを2人に伝えた。だが果たしてそう簡単に行くのだろうか?という懸念をかすみは抱いていた。かすみは今晩のおかずのかすみ特製唐揚げをテーブルに並べながらその点を指摘すると
「うん、かすみの抱く懸念も当然だね。
僕もまだその人の状況を見てないから
何とも言えないけど...」
と前置きをした上で
「一番の問題は、その当人の魂が
どうなっているかだね」
という点を指摘した。それから3人で夕飯を食べ始めるのだが、玲は食べながらもその魂の置かれている状況を挙げた。
「1つ目は、当人の中に自分の魂があり、
それらが他の霊体と同じ状況にある場合...」
これは当人以外の魂と言うか霊体をお見送りすれば済む。「相変わらずこの唐揚げは美味しいね!」とかすみを褒めた所で、もう一個を箸で摘まみながら、
「2つ目は、当人の中に自分の魂があるけど、
自分以外の霊体によって閉じ込められている場合...」
と玲が口にした時、かすみは唐揚げを頬張りながら、
「あっ、あれや! 熱っつ! のやろ!」
と熱い唐揚げの塊を口に頬張ったためか、熱さでながらかすみはそう口にした。その後ビールを口に流し込んで何とか事なきを得たかすみであった。「かすみ、食べてから話せよ!」と玲が指摘するがそんなことに構っていられないのがかすみである。そしてかすみの言わんとしたことを理解していた玲は
「うん、かすみの言うそのケースだね。
その場合は、少し慎重かつスピード重視で
除霊する必要があるんだよ」
と指摘するのだった。そして玲の考えている方法では、当人を一度霊界に連れて行き、その場で円空を呼び出して強制的に除霊してもらうことを考えている。なぜなら
「そうしないとね、当人が生きている訳だから、
早く対応しないと死んでしまうことになるしね」
と言うように、長時間生きた人が霊界に留まるリスクを指摘した。これにはかすみだけでなく神室霊華も驚いた表情で箸を止めて玲を見つめた。
「まさに、時間との戦いになるっちゅうことやな...」
とかすみが指摘する通りである。そして
「3つ目は、当人の魂が既に
肉体から外れている場合だね」
この場合は自分達で強制的に怨霊を取り出すのもありかな、と指摘した。ただし、
「当然、その当人の魂が何処にあるのかを
事前にチェックする必要はあるけどね」
と言うように、もし転生している場合、彼らの努力は無駄になるのだった。しかも全ての怨霊を取り出した時点で、その当人は死亡確定となる。
「果たして、家族としてはそれを
良しとするかどうかだけど...」
普通に考えればそんなこと絶対させないだろうことは、ここに居る3人は分かっていた。一方、もし転生していない場合は、
「神室さんのこの間の件みたいに、
後で魂を呼び出して蘇生させれば
それで解決となるけどね」
と言うことで、実は対応としてはこれが一番楽だと玲は思っている。さて、RINAの妹の月渚が果たしてどのパターンの状態なのかは、現場に行ってから確認するしかない。玲は食後に早速RINAに何時でも対応できるけど、自分達の仕事の関係から週末しか動きずらいことを伝えた。場合によっては、平日に神室霊華とかすみか自分が行くことでも対応出来そうだが、その日の晩にRINAから再び返信が届き、今週の日曜日に対応をお願いしたいということになった。そこでかすみにそのことを伝え、神室霊華にはLINEでその旨連絡しておいた。