召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 日本海恐怖紀行 (第5幕)
廃病院の2階と3階はそれぞれ内科と外科に分かれている。そして各階では、ある方向の区画はナースステーションと病室で構成されている一方、反対方向の区画は主に手術室やICUとプレートがあったりするが、残念ながらその面影は一切ない。そして手術室や病室には何体かの浮遊霊が確認されたが、後からそこを訪れる班が除霊をするということで、一応全員が幽霊を目撃しつつ最後に除霊を行うようにしていた。そして最後の4階に到着した一行は、今までと同じように分かれて探索をしつつ、最後に訪れた班が除霊をしていった。そして物部かすみ達一行は、最後の部屋、病院長室にやってきた。その部屋に入る前、病院長室に通じる廊下の壁には今まで見たことない位の落書きが見られた。しかもその全てが
“入ルナ”
と油性のマジックやスプレー塗料で書かれていた。だが人の心理というものは、こういう禁止行為と言うか自由を束縛する行為に対し心理的な抵抗が発生するように出来ており、“入ルナ”とあれば絶対入ってやる、となってしまう。それは「リアクタンス」と呼ばれる心理学における現象の一つであるのだが、かすみであれば、直ぐにあのギャグ”押すなよ、押すなよ、絶対押すなよ!”を頭に浮かべるであろう。そして何の迷いもせずに押してしまうのだが、なぜかかすみはその部屋に入ることを躊躇っている。同様に、心霊サークルの学生達も同じであった。彼ら若者達は、そこに何があろうとも当然率先して入ろうとするのだが、この時はなぜか躊躇していた。特に、昨年あの廃施設をかすみと共に探索した心霊サークルの部員は、“入ルナ”の警告もさることながら、[○○長室]なるプレートを見た途端、あの時のことが思い出されたりして、体をブルブルと震わせていたのだ。そしてかすみも、昨年の事を思い出したのか、”何か危ないのがおるんか?”と怪訝な表情になるが、ここで怖気ずく訳にもいかず、意を決して扉を開けた。するとそこには確かに幽霊が何体か屯していたのだが、どれも浮遊霊の類で別段怖さは感じなく、そのため拍子抜けしてしまった。むしろ
「あの外科部長の部屋の方が
断然怖いやろなー」
と誰にともなくそんな感想を漏らすが、かすみがそう言うのも頷ける。と言うのは、ここを訪れる少し前、3階を探索中、[外科部長]の表札のある部屋に入った時、そこには今まさに首を吊ろうとする幽霊と出くわしたのだ。しかもその幽霊は首を吊ってブラブラ揺れ出したのだが、それを何度も繰り返すという、まあある意味、自殺者の幽霊あるあるではないが、自殺した状況をリピートしていたのだ。流石に心霊サークルの上級生でもなかなか慣れない光景ではあるが、新入生達に至っては、その場で嘔吐する者も出たりした。そんな悲惨な状況にあったあの部屋のことを思うと、ここはまだ穏やかだとかすみは思うのだった。ではなぜ入口近くに”入ルナ”の落書きが数多くあったのか?残念ながらその時は何も分からずじまいだった。それでもかすみは、その場の幽霊を除霊して
「これで一応除霊は終わったんで、
そろそろ戻りますか?」
と一行にそう伝えた。流石に新入生は疲労の色を濃くしており、このまま続けると倒れかねないところであった。そしてかすみ達一行は階段の踊り場に向かい、神室霊華一行と落ち合ってから病院を後にした。
駐車場に停められている大型バスまで戻って来た一行は、直ぐに点呼を取り出した。とその時、1年生の1人が
「あっ、う、内木さんと鳥飼さんと
宮尾先輩が戻ってません!!」
と声を上げた。直ぐにかすみは人数を数えだすと、確かに3人いないことが分かった。そこでかすみは、声を上げたに何があったかを尋ねた。
「じ、実は、う、内木さんが吐き気がすると
言い出しまして、そそ、それで...」
途中でトイレに行くと言い出したという。どうやらバスに酔ったのか、あるいは霊感が強いからか分からないが、何れにしても彼女を心配した友人のが一緒に付き添うことにしたのだ。その時、2年生のが昨年の事が頭にあったのか、彼女達だけで行かせるのは心配になったので、小田島加乃に事情を伝えた上でをどこかで休ませるために一緒について行った。だがその後3人はかすみ達一行に戻ることなく今に至るのである。かすみは腕組みして考えるが、その顔には悔しさが滲んでいた。もう少し自分が彼女達をしっかりフォローしてあげるべきだったのに、目の前の除霊の事にだけ気が向いてしまっていた。そんな自分に嫌気がさすのだが、そんな後悔は後ですれば良いのであり、今は3人を探すことに全力を尽くすべきだと考え直した。そうなると、かすみの決断は早く、
「分かった。今から探しに行くわ」
とその場の全員に伝えた。すると神室霊華も「私もご一緒しますね、師匠!」とかすみと一緒に探しに行くと決めた。かすみも心強い相棒が出来て嬉しそうに「有難うね、霊華さん」とお礼を伝えた。すると、学生達も自分も行きます、私も行きます、と言い出した。それに対しかすみは、
「みんなの気持ちはよく分かるねんけどな、
ただ異世界に迷い込んでいた場合、
ミイラ取りがミイラになりかねへんから、
そうなるとうち等もどこまで対処できるか
分からへんねや」
と彼らの申し出に対する感謝を伝えつつ、だが毅然とした態度で彼らの申し出を断った。確かに今の状況で自分達が動いて、更に誰かが行方不明になりかねないことを理解した途端、彼らは押し黙ってしまった。それでも一人、部長のが、
「先輩、自分はこのサークルの責任者なんで、
捜索班に加えてください!」
とかすみに頭を下げてそう伝えた。かすみも彼の思いはよく分かっているので、
「ほな、部長の仁多牧君には
加わってもらうとしてやな、
他の皆もな......」
各自が撮影した動画を再確認してもらい、何か気になる点とかあれば仁多牧に知らせて欲しいとお願いした。ただ黙って成り行きを見守らせるよりも、何か仕事を与えた方が落ち着くことをかすみは分かっていた。そして案の定、学生たちは早速バスに戻りながら自分達の撮影した動画のチェックを始めだした。
さて、心霊サークルの部員達の様子を見守っていた呪いの動画スタッフ達は、直ぐにかすみに同行することをお願いした。ただし、藤波智明は一度学生達を宿泊先の旅館に送り届けてもらうとして、それ以外の京田美和子、日比野太郎、そして箕山ケイの3人は捜索班に加わることになった。時刻は午後5時を少し回った頃である。日没まではまだ2時間程あるのだが、この廃病院の一角だけは、一段と暗さが増しているように感じずにはいられない。
ところで、これからこの廃病院内を捜索することになったかすみ達一行は、全ての部屋を見て周ることは考えていなかった。と言うのは、1年生の小田島が言うには、4階に上がって暫くしてから内木が体調不良を訴えたことが分かっている。従って
「捜索範囲としては、
4階が先ず中心と考えた方がよさそうやね」
とかすみが提案するように、先ずは4階に何か痕跡がないか調べることにした。すると部長の仁多牧が
「もしバス酔いとかだとしたら、
トイレで吐いてそうですが......」
と呟いた。その呟きに対しかすみは、
「せやな、その可能性ありそうやな。
確かにトイレは直接確認してへんかったしな」
と指摘するが、実はトイレには花子さんがいる訳ではなく、何も霊体がいなかったので、かすみも神室霊華もトイレの探索は完全にスルーしていた。そこで4階に向かうや、一行は何カ所かあるトイレを一つずつ調べた。すると、あるトイレで嘔吐をした痕跡を見つけた。
「と言うことは、やっぱここにいたんやな......」
とかすみの声は尻すぼみになってしまう。やはり自分がしっかりしていたらこんなことにならなかったと、つい後悔してしまうのだった。だがかすみは直ぐに気を取り直し、神室霊華に向かって
「もしここで休んだ後少し元気になったとしたら、
彼女達ってどういう行動するやろな?」
と尋ねた。と言うよりも自問している感じでもあったりした。すると
「そうですね、私でしたら、
直ぐに皆さんの後を
追い掛けるようにしますが......」
と答えたが、学生達の行動からすると、果たして大人しく後を追うことをするかどうか、多少の疑問が残った。その時、仁多牧が
「多分、彼女達は自分達が見ていない所を
見て周ろうとすると思います!」
と断言した。やはり心霊サークルに籍を置くものからすると、何かしらの怪異がありそうなところには、注意を払いつつそこに向かうというのだ。そしてかすみも、仁多牧の意見が何となくしっくりすると思い、
「せやな、仁多牧の言う通りに行動しそうやな」
「なんてったって、普通の学生とはちゃうからな自分らは、ははは」と笑いながら仁多牧の意見に同意した。そうなると、更に捜索範囲が狭められるようで、
「ここで休んだ後向かう所となると......」
とトイレから出たかすみは、その視線の先をある所に向けていた。
「病院長室か.....」
とかすみが呟く先には”入ルナ”の警告が壁や扉に描かれた病院長室である。しかもかすみが除霊した後であれば、霊に憑りつかれる心配はなく、自由に見て周れる。そんな心理状態を想像した途端、やはりあそこには何かがあるのではないかと不安になったかすみは、急ぎ病院長室に向かった。