召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 日本海恐怖紀行 (第6幕)
物部かすみ率いる捜索隊は病院長室の扉を開けて中に入るが、そこは先程除霊した時の状態のまま、床に書類や本が散乱していた。だが念のため一行は、扉近くに暫く留まりつつ、慎重に奥に向かって進みだした。ただし、外は夕方で少しずつだが薄暗くなってきたため、かすみはお洒落リュックの中からLEDライトを取り出し点灯した。念のため窓の前に設置されている病院長の立派な机の前まで進むも、特に何かしらの気配を感じることはなかった。
「こことちゃうんかなー?」
とかすみは誰にともなくそう呟く。そしてLEDライトの先を近くの壁に向けつつ一緒に視線を動かした時、視界の角に微かな違和感を感じた。そこで再び元の場所をLEDライトで照らすが、先程と何も変わらない状況を照らしていた。
”何や、気のせいか!”
と思いながら再び同じ様にLEDライトを移動させたとき、やはり視界の角で何かが反射した、と言うか空間が一瞬ぼやけた感じを受けた。そこでかすみは、恐る恐るそこに近づいて、そっとを手を差し出した。そこは丁度病院長の椅子の右横辺り、机の引き出しのある近くの空間である。すると突然かすみが「うわーー!!」と叫び出した。かすみの叫び声を聞いた他のメンバーはビックリして手にしていたスマホやカメラを落としそうになったりした。そして直ぐに神室霊華がかすみに近づいて、「師匠、どうされましたか?」と心配そうに尋ねてきたが、かすみはそれどころではなく、近くにいた呪いの動画スタッフの箕山ケイに向かって
「ケイさん、ちょっとビデオカメラ
貸してもらえへん?」
とお願いした。序に「これって、暗視モードありますよね?」と確認すると、早速箕山ケイはカメラを暗視モードに切り替えた。そしてかすみはそれを手にして先程の場所をカメラのモニター越しに眺めた。すると、
「こ、これや、これ、これ。
これが原因や!!」
と再び叫び出した。神室霊華は直ぐにかすみの隣にやって来て、カメラのモニターを眺めた。すると、
「こ、これって......もしかしてあのポータルですか!?」
とかすみをじっと見つめて問い掛けた。かすみも神室霊華の目をじっと見つめて
「そや、間違いないと思うで!」
と答えた。まさかここにもあのポータルがあったとは予想していなかったかすみと神室霊華である。だがこれがここにあるということは、
「ほぼ間違いなく、
この先に入っていったんやろな!」
とかすみは断言するが、神室霊華も黙ったまま大きく頷いた。そしてそのポータルは、恐らく病院長の机の引き出しに何か残ってないか確認しようとやって来た者達をそのままポータル内に迷い込ませる、そんな悪意を感じるような配置であった。
ところで、かすみと神室霊華が何やら見つけたようだということで、呪いの動画スタッフ達と心霊サークル部長のは直ぐにかすみの傍にやって来た。そして何が見つかったのか話を聞こうとした時、かすみが
「説明するより、見た方が早いで!」
と言うことで、ビデオカメラを暗視モードに切り替えてもらい、かすみが指差すところを見てもらった。すると、
「も、も、物部さん、
あ、あ、あれって、
な、な、何なのですか?」
とディレクターの京田美和子が悲鳴に近いような声を上げた。日比野太郎は京田が手にしているカメラのモニター越しにその様子を見ていたが、声には出さないものの驚きの表情を浮かべていた。箕山ケイはかすみから受け取ったビデオカメラで同じ場所を自分でも撮影した時、空間が歪んでいるのを目にした途端、「えっ!」と悲鳴を上げた。仁多牧は持参したビデオカメラに持ち替えてそこを撮影した時、やはり同様のリアクションをして茫然と佇んだ。そして念のためスマホで同じ場所を撮影すると、そこには何も映らない。不思議に思ってかすみに尋ねると、
「それはな、仁多牧、あれは可視光線とかでは
分からんようやねん!」
こうして暗視モードにした場合にそれが認識できることをかすみはその場の全員に伝えた。すると京田が
「も、物部さん、こ、ここから学生たちが
は、入り込んだということに
な、なるのでしょうか?」
とまだ目の前の現象に動揺しつつかすみにそう尋ねた。かすみは頷きつつ
「うちらはあれをポータルっと呼んでんねんけど、
要するに別の空間への入口になる門ですわ」
と説明しつつ、過去に起きた事例を話そうとした。その時神室霊華がかすみの耳元で「師匠、それよりも先ずはあれを用意しないといけないのではないでしょうか?」と伝えた。「あれ」と言われて直ぐにピンとこなかったかすみは、神室霊華を不思議そうな目で見つめていた。だが直ぐに、「そや、あれ準備せなあかんねんな!」と思い出した。それはポータルを起動するための呪具と呪文である。呪具のうち、は召喚物なので直ぐに用意が出来るが、それ以外に必要な物は手元になく、しかも唱えるべき呪文は全く分からない。そこで、
「ちょっと、玲にあの資料を
送ってもらうように連絡してみるわ」
と言いながらスマホを取り出した。ただしこの時間玲が日本にいるかどうかは分からない。時差的にはまだフランスにいる可能性が高そうなので、念のためLINE電話を使うことにした。何回かコール音が鳴った後、[どうした、かすみ?]と玲の声がスピーカーから聞こえて来た。そこでかすみは、現在探索中の廃墟内であのポータルが見つかったことをまず伝えた。そしてポータルを解除するのに必要な資料を直ぐに送って欲しいと要請した。玲は[わかった、直ぐにLINEで送るね]と言って一度電話を切った。それから1分もしない内にM MのグループLINEにあの資料の写真が添付されて来た。かすみと神室霊華は早速LINEのその画像を確認し出した。そして
「霊華さん、ここにある物って
この辺にありそうかなー?」
「ちょっと難しいですね......」
とM Mの2人は何やら悩みだした。その時京田がかすみに何か困ったことがあるのかを尋ねた。そこでかすみがポータルを制御するのに必要な物がここにあるかどうかが分からないことを伝え、念のため何が必要かも併せて伝えた。すると、
「それでしたら、藤波君が今旅館にいますから、
彼に持って来てもらってはどうでしょうか?」
と提案して来た。確かに旅館であればこれらの品々は確実にありそうなので、まさに渡りに船とばかりに、早速かすみは京田にお願いした。そして直ちに京田はスマホを取り出し、かすみから言われた物を直ぐに持って来てほしいことを藤波に伝えて電話を終えた。後は、独鈷杵であるが、これは召喚する予定である。ただし、リュックの中からそれが出て来るのは不自然極まりないため、かすみは一芝居うつことにした。
「後もう一つ重要なパーツがあんねんけど、
もしかしてこの部屋か別の所に
落ちてる気ぃすんねんな」
と皆に伝え、神室霊華には「霊華さん、ちょっとこの部屋で探してもらえへん?」とお願いした。神室霊華はかすみの芝居であることが分かったので、「分かりました、こちらで探してみます」と伝えた。そしてかすみはと言うと、「うちは他の部屋に探しに行ってくるわ」と言いおいて病院長室を出て行った。そして10分程してから、
「あった、あった。どうやら誰かが
持ち出したみたいやけど、
何や気持ち悪いからいうて
トイレの奥に放り込んでたわ」
と言いながら古そうな独鈷杵を手にしていた。勿論これは本物ではなくかすみが召喚した物であるが、新品を持って来るわけにはいかないため、かすみの独創性に頼ったウェザリングを行っていたのだ。実はこの時、神室霊華はまさか本当に独鈷杵が残っていたのかと目を疑ったのだが、後からこのことを聞かされた時、
「師匠の創成召喚は、
本当にずば抜けてますね!!」
と感嘆の声を上げたのだった。それ位に経年劣化をうまく反映させていたのであった。
後は藤波が必要な物を持って来るまで待機することになったのだが、その時にこのポータルに関わる話をかすみは皆に聞かせた。勿論オフレコを条件にであるが、果たしてその話をどこまで信じられるか、正直誰も分からなかった。だが当事者の1人である神室霊華が、自分の高校時代の親友がそこから見つかったこと、そして10年以上経つのにその姿は当時のままであったことを伝えた。その時箕山ケイが
「もしそうだとすると、その部屋と言うか空間は、
例えば受験生が受験勉強に集中するのに
向いたりするんでしょうか?」
との疑問を投げて来た。それに対しかすみは
「多分出来ると思うよ。ただな、
時間の感覚がなくなるから、
その空間から出て来た時には
試験が終わっていたとか、
場合によっては......」
何年後か何十年後になっていることもあり得ると答えた。すると仁多牧があの有名アニメを引き合いに出し
「そうなると、先輩、
ドラゴンボ〇ルに出て来る
[精神と時の部屋]
みたいに修行できたりするんですか?」
とかすみに尋ねた。ただしかすみはドラゴンボ〇ルは知っているが[精神と時の部屋]がどういうものか分からないのでそのことを尋ねた。そして
「重力は残念ながら地球の重力そのままやな。
あとな、確かに向こうの空間でも
普通に生活できるけどな、
時間の進み方と言うか、
そもそも時計が使えへんねんな。ただな...」
食欲や喉の渇きがなくなること、また尿意や便意もなくなることを伝え、そして、
「幾らでも修行してかまへんやろうし、
ほいで新陳代謝がなくなるからな、
多分疲れることもないやろし、おまけに
それで歳を取らへんちゃうかなー」
と予想外の答えが返ってきたことで、仁多牧は腕組みをして考え込んでしまった。もし[精神と時の部屋]みたいであれば、そこで筋トレして体力をつけたいと考えていたのだが、新陳代謝が無くなるとなると、幾ら筋トレしても筋肉はつきそうにないと見える。そしてもしその事実を知らずに只管筋トレに励んで、もういいだろうと思って出てきた時には100年後でした、とならないとは言い切れない。残念ながら仁多牧の野望は潰えてしまったようだ。そしてやはり、その部屋と言うか空間は一体何の目的で作られたのかと誰しも思う訳だが、
「多分な、仁多牧やないけどな、
修行のためちゃうか、とうちらは考えてんねん」
要するに僧侶がその空間で修業を積むことで、悟りを開くことが出来るのではないかと考えたのだ。
そうやって話し込んでいるうちに、藤波が戻ってきたようで、早速4階の病院長室にやって来た。そして
「言われた物ですが、
これで大丈夫でしょうか?」
と言いながらかすみに手渡した。かすみは「これで問題ないです。有難うございました」と藤波にお礼を述べた。そしてそれらを手にしたかすみは、「ほな、向こうの世界に行きましょか?」と言いながら、先ずは自分からポータルに足を踏み入れた。今の時刻は午後7時前である。窓の外は既に薄暗がりが広がっていた。