召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 樹海探索編 (第1幕)
今年の東洛総合大学心霊サークルの夏合宿第一弾が終わった2週間後、次の第二弾が直ぐに始まる。そして第一弾の夏合宿を体験した学生達は、それぞれの動画の撮れ高に大満足であった。そのため第二弾に参加する学生達からすると、「今度は自分達がそれ以上の成果を上げてやる!」と息巻いたりしている。尤も、そう簡単に成果を上げられるかどうかは、はっきり言って運次第であるのだが。そして心霊サークル夏合宿第二弾では、M Mの3人が参加することになった。特に最神玲としては、昨年の廃施設以来と言うことで、少しばかり気合が入っていたりする......かもしれない。
そして迎えた夏合宿第二弾の初日。玲は準備万端整えて何時でも出発できる。一方、相棒の物部かすみはと言うと、何やらブツブツ呟きながらも、こちらも何時でも出発できるようだ。ところでかすみは何をブツブツ呟いているのかと言うと、
「何で、青木ヶ原やねん。
今更あっこに何かあるんか?」
といまだにジー・プロジェクトのディレクターを務めるかつての相方の、通称ソガシンの企画に文句を言い続けていたのだ。そんなかすみに玲は
「かすみ、そんなに文句言ってないで、
気持ちを切り替えて行くよ!」
と小言を言いつつ、そろそろ出発する時間だと言うことを伝えた。かすみも何やら玲に説教されたことにムッとするも、渋々ながらキャリーバッグを手にした。そして2人揃って転移して行った。
玲とかすみが転移したのは、神室霊華の自宅である。神室霊華も既に準備を整えて何時でも出発できる。そして玲とかすみが予定通りの時間にやって来て、今度は3人揃って転移することになった。ところで今回3人が転移した場所はと言うと、樹海のど真ん中である。そう、直接現地にやって来たのだ。ただし、樹海のど真ん中と言っても直ぐ傍には国道が通っている。そこでこの場で玲が神室霊華お気に入りの何時もの外国製高級車を召喚し、そこから直接車で宿泊場所となる樹海近くのキャンプ場に向かうことにしていた。だがかすみは未だに何か気に入らないようで、助手席に落ち着くやシートを少し倒し、頭の後ろで手を組みながら
「こんなんここで待ってたらええんちゃうの?
何でわざわざキャンプ場に
行かなあかんねんなー!」
とぼやき出した。とは言えかすみの言わんとすることも分からなくもないが、キャンプ場にて目的や注意事項の説明が行われるだろうし、そもそも今回の企画を立案したジー・プロジェクトとは、玲は全く接点はない。そのため
「まあね、かすみの言うことも分かるけどね...」
とまずはかすみの意見に同意しつつ、ジーエックスとか呪いの動画制作委員会のようにそれなりに長い付き合いがあれば、多少のでも聞いてもらえるであろうが、初めて仕事をする所なのでやはり最初はちゃんとすべきではないかと、玲は自分の意見を伝えた。運転中の神室霊華も玲の意見に大きく頷きながら、「確かに、玲さんの仰る通り、最初に相手に与える印象は特に大事ですよね」と賛成した。かすみも当然そのことは分かっており、だがやはり朝からの不機嫌さも相まって、ついそんなことをぼやいたりしたのだ。そして神室霊華の運転する車は、集合予定時刻より少し早く集合場所のキャンプ場に到着した。
キャンプ場には、既に心霊サークルの学生達やジー・プロジェクトのスタッフ達が集まっていた。そんな彼らの所に8気筒エンジンの奏でる重低音が轟くと、神室霊華親衛隊の面々は、すかさず整列して神室霊華を出迎える準備を整える。心霊サークルの他の部員達は、何時もの光景を目にして特に気にも留めないが、初めて目にしたジー・プロジェクトのスタッフ達は、統率の取れた彼女達の光景に興味津々な表情をしていた。そしてM Mの面々が車から降りるや、すかさず神室霊華親衛隊は神室霊華を取り囲み、長旅の疲れをいながら宿舎となるコテージに案内しようとする。だがその前に、ジー・プロジェクトに挨拶をする必要があるので、神室霊華は彼女達の志に感謝しつつ、先ずは挨拶をさせてもらうことにした。すると真っ先にかすみが、曽我真に食って掛かりだし
「おい、ソガシン、お前か?
こんな企画やろういうたんは?」
「そうやで、物部。何か問題でもあるんか?」
あるから言うてんねや、とかすみは朝からの不機嫌さのまま、曽我真に文句を言い出した。そんなかすみの暴走を止めるべく、玲はかすみの襟首を掴んで後ろに引っ張った。かすみは「玲、その手放せや!」と喚くが、そんなかすみに対し玲は、「かすみ、少し落ち着け。こんな所で言い合いしても何も始まらないだろ!」と説教をし出した。どうやら今回は、玲がかすみの監視役と言うか、説教係になりそうであった。
さて、かすみが文句を言いつつ落ち着いたところで、改めてお互いに自己紹介することになった。と言っても、やはり神室霊華は別格で、ジー・プロジェクトのスタッフ達も、本物の神室霊華を目にして浮き足立ったりしていた。そんな神室霊華と緊張しながら握手をしているのが、ポニーテールが良く似合うジー・プロジェクトの花形リポーターのと、こちらはツインテールで決めているもう一人のリポーターのである。何やらどちらも似たような名前で、しかも見た感じもよく似ているのだが、実は所属するタレント事務所が一緒で、似たような芸名をつけられたというらしい。そして今回もやはり、そんな彼女達を目当てにした男子部員達が、この企画にこぞって参加してきたと言うのだ。後はジー・プロジェクト側の参加者として撮影スタッフが5人おり、総勢8人体制で今回の樹海探索を行うことになる。そして今回の探索の目的を説明する前に、各自荷物をコテージへ運ぶことになった。今回は3棟のコテージを借りており、1棟は女子部員用、1棟は男子部員用、残りはM Mとジー・プロジェクトのスタッフ用に割り当てられた。そして荷物を置いてからスタッフ用のコテージに集まってもらい、早速ジー・プロジェクトが用意していた資料を手に説明を受けた。
今回の目的は青木ヶ原樹海に消えた幻の村
“村”
を探すことである。ところでこの樹海にそんな村が果たして存在したのだろうか?“映画ではあるまいし、そんなん嘘やでー”とかすみは独り呟いているが、かすみだけでなく、M Mと心霊サークルの学生達も実は皆そう思っていた。ところが、
「実はある案件で立ち寄った
山梨県内のある旧家で
古文書を見つけまして...」
と曽我真が説明を始める。彼の話によると、旧家で見つかった「」と言う古文書において、「久々羅村条」と言う項目があった。そこには、次のような一文が先ず記述されていた。
――の奥、
まれなる溶岩のに、
久々羅といふ里、かつて在りきと土人伝ふ
「この序文を読むと、久々羅村と言うのが
どうやら樹海のどこかにあったらしいと
書かれているんだけど、その村が
あった場所はと言うと...」
と曽我真は続けて
――村、大山の北麓、
黒木の海にりぬる小径の果、
風の絶ゆる処に在りと聞く
「そこに書かれている“黒木の海”とは
青木ヶ原樹海の古称とみられるんだ。
小径は地図には載らず、
そのためすでに所在不明なんだが、
“風の絶ゆる処”という表現は、
風の流れが止まる異常な地形を示す場所と
解釈できるんだよね」
と説明を加えた。その時かすみが、
「おい、ソガシン、まさかお前が
創作したんちゃうやろな?」
と再び曽我真に牙をむき始めた。だが曽我真はをニヤニヤしながら、
「物部、おれにそんな才能あると思うか?」
と尋ねると、かすみは速攻「絶対ないなー!!」と否定した。そんなテンポのいい掛け合いに、心霊サークルの学生達から笑いが起きた。かすみは心の中で“よっしゃ!”とガッツポーズをしていた。さらにかすみは畳みかけるように
「でもな、ソガシン、
お前そもそも昔の字読めたっけ?」
「あっ、ゴメン、今も普通に字ぃ読めてたっけ?」とニヤニヤしながらソガシンを弄りだす。それに対し曽我真は
「物部、字ぃ位は読めるで。ただ書けへんけどな」
とボケをかました。それよりも、そもそも曽我真は古文書を解読することは全く出来ないが、一緒に同行していたスタッフが趣味で古書店で古文書を見つけて買い漁ったりしており、そのスタッフが読んで訳したということであった。
そしてかすみとプチ漫才を終えて、曽我真は更に説明を続けた。
――久々羅の名は、
『もる』
より転ずと云ふ。村民、世俗と交はらず、
独り祠を守れり
「『隠れる・こもる』を語源とし、
村全体が外界から隔絶していたことを
示唆しているみたいなんだよね。
そしてを中心に
暮らしていたらしいが、
どんな神を祀っていたかは
記されていないね」
――年毎のに、闇ノ社にて供物を捧ぐ。
供物は“青根”より得たる物と伝ふ。
らかに述ぶべからず
「この一文は、多分元日に闇ノ社に
お供えをするということみたいなんだ。
ただその時のお供え物だけど
“青根”が地名なのか物なのかは
判断できないんだ。ただね...」
と言って古文書の余白に墨痕の薄い注釈があったことを指摘し、そして
「そこには、“青きもの、里人の足許に集まる”
とだけ書かれていたんで、
“の根”すなわち
樹海の根系にまつわる何かではないかと
考えたりできるんだけど、
確証はないんだよね」
と指摘した。そして実は次の記述がこの古文書におけるもっとも異様な部分と言えるのだが、
――天保の頃、里ごと忽然と失す。
探すれど家々の礎すら見えず。
ただ、風なき中に鈴の音のみ聞こえしという
「どうやら天保の頃と言うから
大体1800年代前半だね、
その頃に忽然と消えたらしいんだ。
ただ最後の“風のない樹海で鈴の音がした”
という不気味な証言が添えられているけど、
実はこの古文書を書いた人自身が
「人の」
つまり妄想だと否定していて、
どうやら確証はないんだよね」
「でも曽我さん、確か富士山って
江戸の頃に噴火してましたよね?」
と学生の1人から質問が飛んだ。曽我真も当然そのことは把握しており、
「うん、確か“宝永大噴火”と呼ばれてるけど、
あれは確か1700年頃の江戸時代中期に
起きた事件だね。
だからその宝永大噴火で消えたのとは
違うようなんだ」
尤もその後余震みたいなのが起きてそれで消失したことは十分に考えられると補足した。そして最後に、
「実は“久々羅村条”の最後に
変な記述が添えられてたんだ。
読むとね...」
――久々羅の跡を尋ぬること無かれ。
道をへば、日も声も失はる
「まるで久々羅村を探すな、
と言う警告と捉えられるんだけど...」
ただこの部分だけは、筆跡が異なるようだと、その古文書を解読したスタッフは曽我真にそう告げたらしい。そうなると誰かが後から何らかの目的か意図で警告を発した様にみられる。