召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 樹海探索編 (第3幕)
翌朝、物部かすみは何時もの時間に目を覚ました。別に目覚ましを掛けていた訳ではないのだが、自然に何時も起きる時間に目覚めるのは、ある意味健康的と言うべきだろう。そして早速窓の外を眺めると、雲一つない青空の中に富士山が聳え立つ光景が目に飛び込んできた。そして丁度富士山の東側が赤く染まる光景を目にしながら、早速ベランダのガラス扉を開けた。すると朝のひんやりとした空気がかすみの頬を撫でる。 なんて気持ちのいい朝なんやろ! と感じながら両腕を上にあげて体を伸ばす。そして落ち着いたところでふと隣のコテージに目を転じると、そこには心霊サークルの部長のが片手を腰に当てて何やら飲んでいた。早速かすみは仁多牧に挨拶をしつつ、何をしているのか尋ねた。
「あっ、物部先輩、おはようございます
......こ、これですか、プロテインです!」
と言うのだ。どうやら早朝トレーニングを終えた所で、直ぐにプロテインを飲んでいるのだという。すると、かすみは
「毎年な、歴代の心霊サークルの部長たちは、
何故か知らんが、みーんな
朝早くからタバコ吸っててんけどな...」
「あの佐伯も何やら吸ってたで!」とぼやきつつ、今年はそうではないことに安心したとかすみは伝えた。すると仁多牧は
「うーん、僕も昔は少し吸ってましたが、
筋トレしてからは吸わなくなりましたね」
と答えた。何や、お前も吸ってたんかー、とツッコミを入れそうになるが、昔の話と言うことで良しとした。だが、
“うーん、やっぱ何やろな、
部長になるには何か吸うとか
飲むとかせなあかんのか?”
と変な事に疑問を持ち始めた。それでも仁多牧の場合は、空気を汚すことは無いので、かすみはそれを良しとして部屋に戻った。
2日目は午前9時に出発となっている。そこでそれまでに朝食を済ませ、更に昼食用のお握りとおかずを用意する必要があるが、そこは慣れた心霊サークルの上級生達が率先して準備を行ったお陰で、無事全員分の弁当が出来上がった。それを各自リュックに仕舞い、後は支給されたヘルメットを被って現地に向かうことになった。なお、M Mの3人は、ロムリアのTシャツの上にかすみが用意したお揃いのオレンジ色のオーバーオールに身を包んだ服装である。本当は虫対策と日焼け対策を兼ねて、オレンジ色のつなぎ服にしたかったのだが、玲から「それだと、アメリカの囚人服だよ」と指摘されたため、止む無くオレンジ色のオーバーオールで妥協したのだ。かすみとしては、玲に指摘されたことにかなり腹立たしさを感じる物の、確かにアメリカの映画やドラマで囚人服として描かれていたのを思い出し、その助言に従ったのだ。
ところでなぜオレンジに固執するかと言うと、よく猟友会のハンターがオレンジのベストを着用するように、自分達の居場所が直ぐに分かるようにするためである。特に緑の濃い青木ヶ原樹海においては、もし迷いそうになっても彼らの場所が分かるようにしたかったのである。ただし、神室霊華からするとオレンジ色のつなぎ服は慣れない色合いのためかやはり気恥しかったようだが、オレンジのオーバーオールであれば、下に着るTシャツで色合いを調整できるため、納得した上で着用している。そして全員水と食料を確保した所で、昨日と同じくマイクロバスに分乗して現地に向かった。
昨日と同じ駐車スペースにマイクロバスが停車し、一行は直ぐに外に出た。そして各班毎に分かれて点呼が行われた。その時、玲がかすみと神室霊華に通信用のヘッドセットを渡した。かすみは怪訝な表情を示すが、玲から
「僕らの場合、カフリングで問題ないけど、
それを使った通話を悟られないための
カモフラージュだからね」
と小声で説明を受けて即納得した。そしてかすみと神室霊華はそれを装着した。その時その様子を見ていた曽我真が
「皆さん、ここでトランシーバーとか
無線は繋がり難いですが、宜しいので?」
と聞いてきたので、玲は
「あっ、これはM Mで開発した
特殊な通信機でして。
僕らのように霊能力が強い者達が、
各自の霊能力を使って
通信できるようになってるんですよ」
なので、このような特殊な環境でも問題ないことを伝えた。それなら自分達にも供給してと思ったのだが、残念ながら自分達に彼らのような霊能力が備わっていないことに気づき、そのまま「そうですか」と言ってその場を離れた。そしていよいよ青木ヶ原樹海での本格的な探索、正確には失われた幻の村「村」探しが始まった。
昨日の段階で引き返した地点までは、ビニール紐の案内でスムーズに辿って行けた。時間的には30分程である。だがそこからは慎重に進む必要があるため、このペースで進むのは恐らく難しいだろう。しかも溶岩が冷えて固まったことで足場がした地面は非常に歩き難い。場合によっては、に足を突っ込んで大怪我したり、くなった溶岩の底が抜けて真下に落下する危険性もある。そんな時、玲はふと、昨年の惑星サモナルドで探索した火山地帯のことを思い出していた。
“あそこも相当歩き難かったけど、
あそこでは直ぐに空中に避難したんだよなー”
残念ながらここではそのような手は使えないため、只管歩くしかない。なお玲のグループは玲が先頭になって進んで行くが、各自の歩くペースを考慮してゆっくり慌てずを心がけていた。そして1時間歩くごとに5分程の休憩を挟みながら進むのだが、やはり自殺の名所としても有名な樹海である。所々に骨だけになった自殺者が横たわっていたり、首を吊って間がないような死体が張り出した木の枝からぶら下がる光景を目にすると、慣れない学生達は目を背けたり悲鳴を上げたりしている。
そして目的の場所まで半分となったところで、ランチタイムとすることになった。なおジー・プロジェクトのスタッフの1人が小まめにマッピングやベースキャンプとの連絡を取っていたが、ここまで来ると残念ながら無線は繋がらなくなったようだ。そしてGPS電波の受信も上手くできない状況になってきたと言う。そうなると、今現在、自分達がいる位置を正確に把握できないことによる不安と孤立感、そして樹海特有の心霊スポットのど真ん中にいるという恐怖心から、誰一人昼食のお握りを食べようとしなかった。
一方玲はと言うと、カフリングによる通信に問題はなく、また転移門によるサーチでM Mの3人の位置関係は分かるので、特に何も問題を感じていない。そのため、玲は普段通りの心境でリュックからお握りとおかずとペットボトルの水を取り出して昼食を摂ることにした。そんな不安も何も感じない玲の態度を目にした心霊サークル部長の仁多牧は、他の部員達を代表して自分達が迷子になったりしてないのか尋ねた。
「あー、それは大丈夫だよ。
僕とかすみと神室さんの位置関係は分かるし、
今もこの特殊な通信機で
彼女達と連絡取れているんで、
何かあればお互いにフォローできるし」
と穏やかな表情でそう伝えた。この何気ない玲の所作は、どうやら不安や恐怖心で押し潰されそうになっていた心霊サークルの部員達や同行するジー・プロジェクトのスタッフの心に好影響を与えたようで、「先輩がそう言うのであれば、大丈夫ですね」と安心してお握りを頬張りだした。そして全員が食べ終わったところで、リポーターのが、
「最神さん、目的の場所まで
どれ位なのか分かりますか?」
と尋ねて来た。そこで玲は、彼女が持参している地図で自分達がいる場所と、目的地となる場所を示した。そして
「目的地に関しては、恐らく
かすみの班が一番近そうだね。
僕らもそこに向かうように
進路調整しながら進むようにするね」
と伝えた。そしてランチタイムが終了し、一行はそのまま目的地に向けて探索を続けた。
一方神室霊華の班は、やはり神室霊華を先頭に、その後を神室霊華親衛隊とリポーターのらジー・プロジェクトのスタッフが続く。ただし神室霊華は、残念ながら玲が感じていた何かをいまだに感じ取ることが出来ないため、自分が思った方向に進むだけであった。そして時折転移門で自分の位置を把握すると、どうやら少し西にずれていることに気づいたりする。そして先程の玲からの連絡で、どうやらかすみのグループが近づいているということが分かったため、ここから東に進路を変更する必要が出て来た。ただし、今自分がどこを向いているのかが分からない。そのことをカフリングを通じて訴えると、直ぐにかすみが自分の所に転移門マーカーを設置した。それにより、神室霊華はかすみ達がいる場所が把握でき、直ぐに方向を修正できた。こういう機転を利かせた行動が直ぐにできるかすみに対し、神室霊華はお礼を伝えた。そして神室霊華の一行も、途中で昼食休憩を取り、再び探索行となった。
同じ頃、かすみの班は、かすみにしては珍しく黙々と道なき道を進んで行く。途中でいきなりくぼ地が現れて、危うく落ちそうになったりするが、何とか回避できた。一方の元相方の曽我真は、
「物部、道あってんのか?」
とかすみに突っかかるように尋ねて来る。そうなるとかすみも黙っておられず、
「はぁ?あってるも何も、
これ真っ直ぐ行くだけやろ?」
と挑戦的な態度で応酬する。だが曽我真が心配するのも当然で、GPSも上手く受信できず、無線も繋がらなくなった状況で、闇雲に動いているとしか思えないのだ。そんな主催者の曽我真が心配し出すと、一緒についてきた心霊サークルの部員達も不安を隠せなくなる。かすみは
“まったく、リーダーがちゃんとせな、
皆不安になるやろが!!”
と内心怒りまくっていた。だがこんな所で喧嘩をしても全く意味はなく、むしろ余計に不安を助長しかねないため、かすみは落ち着きながら
「うちもな、この辺に来ると
玲が感じていた何かを感じてんねん」
と伝えた。実は少し前から、かすみは確かに前方に何かがあることを察知していた。ただ、その何かの正体までは分からない。その時、カフリングを通じて玲から「かすみの所からだと大体2、3キロ先かな」と言う連絡が入った。そこで今の情報を同行しているメンバーに伝えた。すると、
「えっ、まだそんなにあるのか?」
と曽我真がへたれた表情でそう呟いた。平地の2、3キロであれば1時間もしない内に到達できるが、樹海の中だとその倍近い時間がかかると思った方が良さそうだ。となると急ぐのも禁物であるため、かすみはここで昼食にしないかと提案した。誰からも全く異存はないので、一行はその場で昼食を摂ることになった。そして栄養を十分に補給した所で、早速先を行くことにした。