召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 北海道恐怖編 (第2幕)
北海道の心霊スポットとして超有名な炭鉱病院跡にやって来たM Mの物部かすみと神室霊華は、東洛総合大学心霊サークル部員達と映像制作会社ジーエックスのスタッフ達を引き連れて順調に探索を続けていた。そしてかすみの率いる班がある部屋にやって来た時の事である。相変わらず、かすみからすると動物園ならぬ幽霊園をガイドしている状況になるのだが、そんな時にある1年生の男子学生が「あっ、あそこに何かありますよ!!」と指差したかと思った途端、その場に駆け出して行った。その声を聞いて振り返ったかすみが
「おい、待て!!そこ...」
と注意する間もなく、その学生はしっかりとそこにいた浮遊霊に憑りつかれてしまった。そして何やら手にして戻って来たのだが、そんな時その学生が「何か、背中に寒気を感じるんだけど...」と呟いた。その言葉を聞いたかすみは額に手を当てて、
「それはな、自分にしっかり
浮遊霊が憑りついてるからやで!!」
と指摘するのだが、どうやら本人は真に受けていないようで、「またまた、先輩、そんな脅かさないでくださいよ」と言うのだった。仕方ない、本人に分からせないとあかんな、と思ったかすみは、その学生を少し離れた所に誘導し、彼の足元に少し強めの降霊召喚門を設置した。すると、彼の背後に何かが憑りついている様子を他の学生やジーエックスのスタッフも目にすることが出来たようで、一斉に驚きの声や悲鳴が上がった。だが当の学生はキョトンとした表情で佇むため、かすみがお洒落リュックの中から手鏡を召喚して取り出し、それをその学生に渡した。
「それで、自分の後ろを見てみ!」
とかすみに言われて手鏡を覗き込む学生。するとその表情はみるみる恐怖に覆われて行った。そして
「せせせせ、先輩。ゆゆゆゆ、幽霊が...」
と鏡の中に映る幽霊を指差しながら、恐怖で震え出した。かすみは
「だから、言わんこっちゃないやろ!
あんだけ気ぃ―つけろうたやんか!」
とその場で説教を始める。そしてこれはその学生だけでなく、今は無事でいる他の者達への警告でもあった。
「とにかく、こういう所は勝手な行動すると
命取りになる危険があんねんで、分かったか?」
とかすみの説教が続くと、学生は
「ははは、はい。わわわ、分かりましたから、
こここ、これを、ななな、何とか、
して、して、して頂けますか?」
とかすみに涙声で懇願し出した。かすみはその場でお見送りの術式を記述してから「召喚」と唱えた。するとその浮遊霊はそのまま霊界に去って行った。そしてかすみらもう一度手鏡を見てみ、と言われて恐る恐る覗き込むと、既にそこには何もなくなっているのをみて、その学生は安心したのか急に力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。「全く世話のかかるやっちゃな!」とかすみはボヤキながらもその学生の所に向かい、無理やり立たせて一行の元に連れ帰った。そして
「絶対にうちが張っている結界から
出たらあかんで、みんな!
彼に憑りついたんは、ただの浮遊霊やから
簡単に除霊できたけどな、
あれが悪霊とかだったら...」
とかすみはぶるように少し間を開けてから
「命を失う危険性があるからな、
十分に注意せなあかんで!!」
とその場の全員に向けてそう忠告した。勿論かすみとしては除霊は出来るので問題ないのだが、悪霊や怨霊の場合、この場で簡単に除霊できるとは思っていない。場合によっては霊界に連れて行って円空にお願いするか、自分で引っ張り出すかして対処する心算である。
さて、ちょっとしたハプニングがあったものの、その後はかすみの幽霊園の案内で、一行はそれぞれ満足の行く撮れ高を得たようだ。そして建物から出てきて駐車場に戻って来た時には、ディレクターの山崎がニコニコしながら「物部さん、今回も色々良い画が撮れましたよ!」と満足げな表情で頭を下げながらかすみにお礼を伝えた。ちなみにかすみはと言うと、実は殆ど除霊らしい除霊はしていない。ただ物凄くやばそうな悪霊が2体程いた所では、流石に何もしないのはまずいと考えて、降霊転移門を設置して強制お見送りをした。それ以外はこちらから接触しなければ問題なさそうなので、そのままにしておいた。これで暫くはこの病院跡も心霊スポットとして機能し続けるであろう。だがかすみの心境はと言うと、少し複雑かもしれない。
“いやいや、心霊スポットとして機能し続けるって
どないやねんな?”
神室霊華の班も無事戻って来て、特に大きなトラブルに見舞われたということもなく、今日はここまでにして、これから宿泊先に向かうことになった。
今回の夏合宿でお世話になる宿は、その歴史が明治初期にまで遡るという由緒あると言う北海道内でも有数の高級旅館である。そして到着した一行を出迎えたのは、その旅館の重厚な佇まいであった。この地方はどうやら冬になると雪が深く積もるようで、そのためか低く構えた切妻屋根が幾重にも連なっている。そして太い梁を支える柱は、長年の風雪に磨かれ、赤黒い艶を帯びていた。外壁は、煤と時が染み込んだ板張りで、ところどころに雪囲いの名残が見える。無駄な装飾は一切なく、正面に据えられたの玄関は控えめながらも品格があり、古い木札に記された宿の名が、静かに風に揺れていた。そんな歴史を刻んだ旅館を前にして、心霊サークルの学生達はただ茫然とその建物を見つめていた。かすみと神室霊華はこういう高級旅館に何度もお世話になっているので特に驚くことはなかったのだが、心霊サークルの部長のがかすみの元にやって来て
「せ、先輩、ここ、めっちゃ有名な旅館ですよ。
僕らこんな凄い所に泊まるんですかね...」
と興奮しながらそう呟いた。かすみは悪戯心が芽生えてしまい「うちらはこっちで、自分らは野宿ちゃうか?」と仁多牧を揶揄ったりする。そんなかすみの言葉を隣で聞いていた神室霊華は苦笑し、「師匠、そんな虐めてはダメですよ」とめる。そんなことをしているうちに、ジーエックスの山崎が先陣を切って建物の重厚な木戸を押し開けて入って行ったので、一行は彼の後について行くことにした。
室内に一歩足を踏み入れると、先程までの外の空気とは全く異なるどこか懐かしい木と畳の匂いが鼻先をった。正面には、低く抑えられた天井から吊るされた和紙のが、淡い橙色の光を落としていた。その光は決して明るすぎず、外の世界から来た者の視線を、自然と内へ、奥へと導いていく。そして靴を脱いで玄関を上がりスリッパに履き替えると、すぐ先に帳場がある。そこでは、ジーエックスの山崎が早速帳場のスタッフと話しをしていた。すると、そのスタッフは一度奥に下がって行く。暫くすると、派手さを抑えつつ、だが上品に和服を着こなしたこの宿の女将が姿を現し、山崎に対してお辞儀をしつつ丁重に出迎えた。かすみと神室霊華が彼の後ろで控えていた時、その女将が「神室霊華様は?」と山崎に尋ねるので、山崎は何やら困った表情をしつつ、「こちらの方です」と紹介した。そこで神室霊華は何も事情を知らないまま、宿の女将に挨拶をするのだった。すると神室霊華は女将から驚くような言葉を耳にした。
「本日は神室霊華様に当宿の封印された部屋の謎を
解いて頂けるということで、
私共、大変期待しております」
と言うのだ。これには神室霊華もそうだが、師匠であるかすみも寝耳に水であった。神室霊華は当惑しつつ、一方かすみは疑いの目で山崎を睨み付けてどういうことか問い詰めた。すると、
「す、すいません、実は...」
と言って語ったのが、全くもって呆れかえる話であった。
この旅館には開かずの間というか、長い年月封印された部屋がある。ところが今の女将もそうだが先代、先々代の女将もなぜそこが封印されているのか理由が分からない。そして何代か前の女将が戦後間もない頃、そんなの迷信だと言ってその部屋の封印を破って客を招き入れたというのだ。すると、その日の夜中に客が叫び声を上げてしまい、直ぐに部屋を変えて欲しいと訴えてきた。そしてそれ以後、何組かの客を同じように招き入れるも、全く同じような反応をするため、止む無くその部屋は再度封印されたということのようだ。そしてその封印された部屋の謎を解いて頂くのであれば、宿代を無料にするという申し出がされたのだった。そこでジーエックスの山崎は、有名な神室霊華が同行するので、彼女にお願いしてその原因を突き止めてもらうけどと話を持ち掛けて、交渉成立となった。そんな事情を山崎は、額に汗を浮かべながら必死でかすみと神室霊華に説明したのだが、かすみはと言うと、胡散臭い物を見るように目を細めて
「あんな、山崎さん、そう言う話しは
当人に先に言っておくべきとちゃうんか?」
もし霊華さんが今回行けませんとなったらどないするんや、と言うことを山崎に問い詰めた。すると山崎はおどおどしながらも
「そ、その時は物部さんが
神室霊華様になってもらおうかなー、
何て考えたりしまたが、ははは」
と無理やり笑顔を繕った。かすみはその考えに唖然というか、呆れてしまった。一方の神室霊華はと言うと、
“師匠が私に変装するのって...
何だか面白そうですね!”
とかすみの変装を少しばかり想像して楽しんだりした。尤もかすみも半ば呆れつつ、それでも
“うちが霊華さんみたいに
ロン毛になるんやろ...どうかなー?”
と自分のその姿を想像するも、なかなか思い浮かばずにモヤモヤしていた。それよりも
「あんな、うちが霊華さんになろうにもな、
向こうは混じりけなしの超がつくお嬢様やで。
そんなんできる訳無いやろ!!」
と切れ気味に文句を言った。それを聞いていた佐伯えりは、「ぷすっ」と含み笑いを漏らしながらうんうんと頷いていた。それを見ていたかすみは「さ、え、き!」と怒りの表情で佐伯えりを睨むが、直ぐに神室霊華が
「師匠、今ここで争ってはダメですよ!」
とめた。かすみは佐伯えりを睨み付けながら神室霊華の意見に従うが、それよりもこのままでは話が進まないため、神室霊華にどうするのか尋ねた。すると、
「やはり困っている人を見捨てる訳には
いきませんが、それよりも...」
とかすみをにこやかな表情で見つめながら
「師匠でしたら絶対面白そうだと言って
飛びつきますよね!」
とウィンクしながらそう答えた。かすみは照れ笑いするも、まさに図星であったので、神室霊華に
「ま、まあな、確かにおもろそうやもんな!」
と答えた。そして成り行きを見守っていた宿の女将と山崎に対し、神室霊華は
「分かりました。では荷物を部屋に置いてから
その部屋に案内して頂けますでしょうか?」
と答えたことで、女将は嬉しそうに「有難うございます!」と神室霊華に向かってお辞儀をして、直ぐにその場にスタッフを呼んだ。そして荷物はスタッフに運ばせますということで、かすみと神室霊華はキャリーケースをスタッフに渡した。そして神室霊華は女将に連れられて問題の部屋に向かった。かすみはその後をとことことついて行く。そして残された一行は、何やら凄いことがありそうとの期待を込めて、彼女達の後を追った。