召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
心霊サークル夏合宿: 北海道恐怖編 (第1幕)
最神玲と物部かすみが待ちに待った自分達の夏休みに入った初日の土曜日、かすみは今、北海道を車で移動中である。何やら慰安旅行第二弾かと思われそうだが、確かに隣で運転しているのは、かすみの一番弟子の神室霊華である。更に後部座席に最神玲とかすみの二番弟子のラハニ・カヤンがいたら、まさしく慰安旅行となるのだが、残念ながら後部座席には誰も乗っていない。しかも彼女達はM Mの夏制服を着用している。つまり仕事で北海道に来ているのだ。そして彼女達は、待合場所として指定されている道の駅に向かっている。
「霊華さん、あとどれ位なん?」
「そうですね、10分か15分か、
そんな感じですかね」
とまだ少し車で走る必要がある。そんな時かすみは窓外を眺めて
「しっかし、ホンマ、なーんも無いな、ここは!」
とぼやくように、単調な風景が続いていた。と言うのも
「まあ、確かに、周りはジャガイモ畑ですからね」
と神室霊華が説明するように、彼女達は今、収穫間近のジャガイモ畑の真ん中を突っ切る様に車を走らせていたのだ。そしてこのジャガイモ畑のせいで、彼女達の転移場所は少し遠方にせざるを得なかったのだ。
「このジャガイモって、あれかなー、
ポテチになるやつなんかなー?」
とかすみは手を頭の後ろに組みながらそんなことを想像した。そして
「まさか、これだけのジャガイモで、
ポテチ1袋です、やったら、
めっちゃオモロイけどなー!」
と変な事を想像して一人で笑い出す。本当はここで神室霊華から「そんな訳、あるかー」という強烈なツッコミが欲しい所だが、かすみもそこまで神室霊華に要求するつもりはない。だがツッコミの代わりに、神室霊華はかすみにこんなことを尋ねた。
「師匠はどういった味のポテトチップスが
好みですか?」
するとかすみは、速攻で
「うちは絶対塩やな! しかも青い袋に入ったやつ。
あれが最高やな!」
とかすみはニコニコしながらそんなことを口にする。そして「あかん、思い出したら食べたくなってきたは、ははは」と笑い出した。一方の神室霊華はと言うと、
「私も塩も良いですが、
コンソメ味も捨てきれませんね」
と自分の好みに関してそう口にした。するとかすみは何かを思い出したようにニヤニヤし出して、
「そう言えばな、玲の奴も、塩が大好きやわ。
あいつ、ラーメンも塩ラーメンしか
食べへん位に塩に凝ってんねんなー」
とここに居ない玲を弄りながらそんなことを話した。神室霊華はなぜ玲がそんなに塩に拘るのか分からずかすみに尋ねると、
「何かな、あの中身のカーンの居た星では、
塩がメッチャ貴重なんやって。ほいで、
地球にやって来た途端、ぎょーさん塩が
あるのを見てびっくりしたらしいわ。
それから塩に凝りだしらしいねんて」
と玲の裏事情を説明した。ただ、余り塩を摂りすぎると高血圧になるので注意が必要なのだが、今の所は問題なさそうである。尤ももし仮に問題が起きたとしても、別荘に置いてあるあのカプセルに入ればすべてリセットされるので、玲は気にせず塩を取り続けているのだった。そんなことを話し込んでいるうちに、神室霊華の運転する車は、道の駅に到着した。
道の駅には、見るからにあの集団だ、と言う連中が集まっていた。神室霊華は空いている所に車を停めて、かすみを伴ってその集団の所に向かった。するとこちらに向かってくる神室霊華を見つけた神室霊華親衛隊は、早速神室霊華のお出迎えに走り出した。そう、ここは東洛総合大学心霊サークルの夏合宿第三弾の集合場所であったのだ。そして今回の主催者はと言うと、
「物部さん、神室霊華様、
ご無沙汰しております!」
とNYのロゴの入った黒のキャップを脱いで挨拶をしたディレクターの山崎真吾率いる映像制作会社ジーエックスであった。その後から黒のブランド物Tシャツと白のワイドデニムパンツとスニーカーと言うスタイリッシュな出で立ちのリポーターを務める上本ハンナが挨拶に来たのだが、更にその後ろには何やら見知った顔が覗いていた。かすみは早速
「佐伯、何でお前ここにおるんや?」
と呼びかけるも直ぐに、
「あっ、そっか、お前卒業でけへんかったんやな。
そっかー、まあ、長い人生、一度や二度の失敗で
めげたらあかんで!」
と腕組みして頷きながら心配気にそんなアドバイスを続けた。だが、
「物部先輩、何言ってるんですか!
私はちゃんと卒業しましたよ!」
とかすみの変なアドバイスを真っ向から否定した。更に、
「それと、今はちゃんと働いてますから、
どうぞご安心ください!!」
と睨み付けるようにそう答えた。かすみは目が点になりながらも、「いやいや、佐伯、無理すんなって」と佐伯えりの言葉を真に受けようとはしない。このままだと話が進まないと懸念した上本ハンナが、かすみに対し佐伯えりがちゃんと大学を卒業し、その後自分の所属する事務所に入って、今はタレント活動をしていることを伝えた。タレントと聞いたかすみは、再び目が点になって思考が停止してしまった。急に静まり返ったかすみを心配した神室霊華が、かすみの肘を掴んで
「師匠、しっかりして下さい。
それよりも、昼御飯にするんじゃ
ありませんでしたか?」
とかすみに伝えると、かすみは昼御飯の言葉で再起動し、直ぐに「そや、佐伯のこと構っている暇ないんや!!」と叫んでそのまま神室霊華と共に昼食場所に向かった。昼食は道の駅のレストランが用意した箱弁当を頂くことになっており、奥に用意された予約席に一行は向かった。そして何時ものように、神室霊華は親衛隊に拉致されて違うテーブルに連れて行かれ、かすみは独り寂しく違うテーブルで食べることになった。それにしても神室霊華親衛隊は、ほぼ均等に分かれて夏合宿に参加しているようだが、これでもしどこかの夏合宿で彼女が不参加となったら、一体どうなっていたか想像してしまう。
”絶対暴動が発生するな、うん”
とかすみは心の中で頷きながら、今日最初の北海道の海の幸と山の幸を存分に味わった。
昼食後、これから向かう場所の説明がディレクターの山崎から行われた。それによると今日の午後には先ず心霊スポットとして有名な炭鉱病院跡に向かうことになった。実は当日までどこに向かうかは心霊サークルの学生達は聞かされておらず、その炭鉱病院の名前を聞いた途端、恐怖で頭から血の気が一気に失せるような強い衝撃を受けたのか、少しよろける心霊サークルの部員達が何人かいたかと思えば、一方では嬉しそうな表情で「そろそろ、そこ行くんじゃないかなと思ったんだよな」と半ば予想していた上級生も何人かいたようで、反応が完全に二極化した様相を呈していた。
ところでM Mの2人はと言うと、特に何の感情も持っていなかった。と言って別に感情が麻痺した訳ではなく、彼女達からすると悪霊や怨霊がいれば除霊するだけ、そうでなければ放っておく、ただそれだけをするのだと思っていただけである。加えてそこで行方不明者が出たということはなさそうなので、その点では除霊にだけに集中すれば済むというのは彼女達にとっては有難い。そして各自の思いを乗せた車は、最初の心霊スポットに向けて進んだ。
心霊スポットとして超有名なその炭鉱病院跡だが、そこは過去にジーエックスの[心霊怪動画蒐]でも幾つか取り上げられており、また動画投稿サイトでも数多くの動画が投稿されるなど、北海道では超がつく有名な心霊スポットとなっている。そんな超がつく心霊スポットにやって来た東洛総合大学心霊サークルの学生達は、今までにない恐怖と言うか何かを感じ取ったようで、夏場であるにも拘らず、腕に鳥肌が立つ部員達がいたりする。そしてここを選んだジーエックスのスタッフ達も、気を引き締めて撮影に取り掛かるのだが、M Mの2人からすると、別段大袈裟に振る舞う程でもないと感じていた。尤も昔の神室霊華であれば、ちょっと、いやかなりやばいかな、と警戒することを怠らなかったのだが、召喚術を取得した後では、この程度であれば如何様にも対応できると余裕を持っている。そしてかすみはと言うと、いつもの調子で
「ほな、ぼちぼち探索に向かおか―?」
と近所のスーパーに買い物にでも行くような雰囲気で皆にそう伝えた。そのため、学生達の感じ取る恐怖とかすみのリラックスした態度との余りにも激しいギャップから、学生たちの心には少なくない混乱を来していた。そんな学生達の思いを知ってか知らずか、かすみと神室霊華は、何時ものように自分達の周りに降霊召喚門の結界を張り、直ぐにかすみは、
「一応な、うち等の周りに半径5mくらいの
結界を張ってんねんけどな、
そこから絶対出たらあかんで」
との注意を皆に与えた。続けて
「もしな、この結界から外に出ようもんなら...」
あいつらに憑りつかれるで、と言いながら、前方に召喚エネルギー多くした降霊召喚門を設置した。するとそこには憎悪を全身にらせた2体の悪霊が姿を現したため、学生達だけでなく、ジーエックスのスタッフ達も「ひっ」という悲鳴を上げた。尤も彼らにはその霊体の表情までは分からないが、とにかくそこに予想もしない幽霊が現れたことに驚いて悲鳴を上げたのは事実だった。
かすみからのちょっとしたジャブを浴びた一行は、二手に分かれて探索することになった。ただ今回は意外ときっちりと分かれたようで、神室霊華親衛隊は当然神室霊華に、心霊サークルの上級生達はかすみの班に集まった。そしてジーエックスのスタッフだが、リポーターの上本ハンナとカメラを担当するは神室霊華の班に、そしてかすみの所には
「何でお前がこっちに来るんや?」
と嫌味を言う相手、佐伯えりとカメラを担当するディレクターの山崎とが加わった。そしてかすみの嫌味に対し佐伯えりは
「そんな、そう決まったんだから
仕方ないですよ。私だって...」
とその後は言葉を濁すが、まあ佐伯えりとしても神室霊華様の班に加わりたかったのが本音のようだ。そんな2人に対し、山崎が
「2人とも、旧交を温めるのは
後にしてですね、早速行きましょう!」
とかすみと佐伯えりの背中を押しながら探索を始めた。尤も2人とも
“旧交温めるんとちゃうねんけどな!”
“この先輩と旧交を温めるのは勘弁してください”
お互いに心中では同じことを思って、こう毒づいていたのだった。