召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
再び召喚術談議 (第1幕)
物部かすみと神室霊華が東洛総合大学心霊サークルの夏合宿第三弾に参加するために北海道に向かった初日、最神玲はエンペラールを連れて日本国内にある色々な施設に向かい、そこで知識を吸収した。ちなみに彼らの言うとは、そこにある物に触れて召喚術式を呼び出し、それを召喚の書にすることを意味する。言ってしまえば窃盗行為ととられなくもないが、彼らは物自体を持ち帰る訳ではないため、今の地球にあるどの国の法律でも彼らの行為を裁くことは出来ない。それにこの行為はサモナルドにおいては古今東西、召喚術師の特権でもあるため、彼らは何ら後ろめたさを感じることなく召喚術式を頂戴するのだった。
その翌日、今度はM Mの別荘にて一日中2人で召喚術に関する議論を行っていた。そんなこと一日中やっていて飽きないのか?と思われるが、玲と言いエンペラールと言い、全く飽きることは無い。むしろお互いにもっと時間が欲しいと思っている位であった。そんな玲のスマホに、夕方かすみからのLINE電話があった。何かトラブルでもあったのかと心配になる玲は、エンペラールに断って電話に出た。そしてかすみの話に耳を傾けていた時、突然彼の目がカッと見開かれ、目の前のその場所に何かを発見したかのようにじっと凝視し続けた。そしてかすみの話が終わったところで、明日みんなが帰宅してから調査に向かうことを告げて電話を切った。玲の表情の凄まじさに驚いたエンペラールは、早速何があったのかを尋ねた。すると玲は、心を落ち着けるために一度深呼吸をしてから、
「今、かすみから連絡があったんですが、
北海道と言うところでヘキサグラム型召喚門を
発見したというんですよ!」
ただしどうやら機能はしていないため、その調査を明日2人が戻ってから行うことをエンペラールに伝えた。するとエンペラールも、最初は何の話か分からなかったようにキョトンとしていたが、みるみるその顔が興奮に包まれてしまい、遂には
「レイさん、直ぐに見に行きましょうよ!」
と言い出した。だがかすみを置いて行くと後が怖いからということを説明し、何とかエンペラールを落ち着かせたのだが、それでも
「やはり、本物のヘキサグラム型召喚門って
どうなんでしょうかね~」
と今からワクワクして明日を待ち望むエンペラールであった。
そして翌日、心霊サークル夏合宿第三弾の最終日であるが、玲は何時ものように朝食の準備をしている。一方エンペラールだが、今はリビングで翻訳イヤホンを耳に装着してテレビを真剣に見入っている。何かニュース番組でも見ているのかと思われるが、実は彼女が見ていたのはアニメである。なぜエンペラールはアニメを真剣に見ていたのかと言うと、そもそもロムリアにアニメや漫画やゲームに関する、いわゆるコンテンツ産業が全く存在しないため、物珍しさから見ていただけである。そして、やはりアニメを不思議な映像として捉えていたようで、なぜ地球ではこういったものが流行っているのか、と言ったことを玲に尋ねた。確かに、以前玲がロムリアを訪問した時、タチアナからロムリアにはアニメやゲームと言ったコンテンツ産業が存在しないということを聞かされた。一方で映画や演劇は娯楽の中心として位置づけられており、しかも映画に至っては360度のスクリーンの中で主人公になり切る仕掛けがあったりすると言う。そこでその時の玲の印象を踏まえて、玲はエンペラールの質問に答えた。
「恐らくですけど、ロムリアと地球の
テクノロジーの違いかなとも考えられますね」
つまりロムリアでは、全てコンピューターと言うかロムリアの何らかのテクノロジーでリアルな映像を全て作り上げることが出来るらしく、そのためわざわざリアリティの低いアニメなどを作る必要が無いのではと説明した。一方、地球では、今もってコンピューター上でリアルな映像による映画を作るには莫大な資金と時間が必要であり、そのため低予算でも工夫次第で色々な表現が可能なアニメが発展したのではないかとの意見を付け加えた。
「確かに、レイさんの仰るように、
私が生まれた頃から今の映像技術は
ロムリアにありましたからね。
わざわざアニメにする必要はないと言えば
そうかもしれませんね~」
と納得したようだ。仮に地球でもロムリアと同等の技術力があれば、恐らくわざわざアニメにする必要はなくなるかもしれない、と言うことを最後に玲はエンペラールにそう伝えた。
さて、朝食を摂った後は、再び召喚術談議といきたいところだが、この日はエンペラールとタチアナにある件に関して相談するつもりでいた。そこで、毎日のようにエンペラールの様子を見にタチアナがやって来るタイミングでその相談事を持ち掛けた。
「すいません、先ずは僕の使っている工房に
来て欲しいんですが...」
と2人に伝えてから、玲は離れの地下にある工房に2人を招いた。
「へぇー、何か面白い仕掛けを考えたんだね」
とタチアナが、クローゼットの中のスイッチを押したことでそこの扉が開いた時にそんな感想を口にした。そして3人は階段を下りて地下に向かう。
「ほぉー、これまた立派な工房だね、レイ君」
「そうですね、ちゃんと道具や計測機械も
備えられてますね」
と玲はタチアナとエンペラールからお褒めの言葉を貰ってかなり嬉し気であった。そして工房にあるロッカーの引き出しを開けて2つのある物を取り出した。そこには
「これなんですけどね...」
と言って彼女達に見せたのは、サモネル教団の幹部であったサワノが持っていたアーティファクト2点である。そして玲がそれらがどのように使われていたのかを解説するのだが
「こちらの赤いルビーの嵌ったペンダントは、
どうやら召喚エネルギーを
供給するものみたいなんですね。
そして青いサファイアだろうと思うんですが、
こちらで召喚門を展開するようなんですよ」
要するに召喚術師でない人間が召喚術が出来るようになるアイテムセットではないかと説明した。その2点のアーティファクトを興味深く真剣な眼差しでエンペラールとタチアナは吟味している。そして玲としては、そこに嵌め込まれている宝石がどういう役割なのか、そして他の宝石ではどうなのか、そう言ったことを知りたいということを2人に伝えた。
「うーん、確かに興味深いわね。
まずこのペンダントだけど...」
と言ってタチアナはペンダントを手にした。そして裏を返して目を近づけると何やら文字を見つけたようだが、どうも小さ過ぎて読めないため、ルーペを手元に召喚して読みだした。
「うーん、ここに書かれているのは、
何となくだけど、このペンダントを
機能させる術式みたいな感じがするのよね」
どうやら、単に宝石を嵌め込むだけでなく、それを機能させる術式をどこかに刻印する必要があるのだった。ただし、
「ただね、この術式と言うか......えっ、これって......」
とタチアナの言葉がそこで途切れた。そして師匠であるエンペラールを見つめて
「普通に私たちが使う召喚術言語じゃないかしら...」
と首を傾げながらそう説明した。エンペラールはタチアナからそのペンダントとルーペを受け取り、同じところを見ながら
「そうね~、確かにセラちゃんの言う通り、
私達の使う召喚言語が書かれてますね~」
と同意した。玲はこの時、特に何も感じることなく「あぁ、そうなんだ」としか思っていなかった。だが時間が経つにつれ、タチアナの言葉の重要性に気づき始めた。そして
「えっ、えー!ちょ、ちょっと待ってください、
タチアナさん。そんなこと有り得ないのでは?」
と声が裏返る程、玲は狼狽した。何が彼をそうさせたのかと言うと、
「僕は、そのペンダントも杖も、
てっきりヴェルハムからの贈り物と言うか、
そんな印象を持っていたんです。
もしそうなら...」
ペンダントには古代語で召喚術式が記述されている筈ではないかと指摘した。ところがタチアナの指摘では、玲やエンペラール、そしてタチアナが日常使うサモナルドの召喚術式だというのだ。だとすると、この矛盾は一体どう説明すればいいのだろうか?
玲の指摘に対し、タチアナだけでなくエンペラールも最初は特に何も感じることは無かった。だが玲の説明を聞くうちに、タチアナは、その唇が震える位に大きな衝撃に包まれ始めた。そして同じくエンペラールも、玲の指摘する意味の重大性に気づいて口元を手で覆った。
「ちょ、ちょっと待って、レイ君。
もしそうなら、このペンダントって...」
タチアナはその後の言葉を失ってしまったが、玲はその後の言葉が分かっていた。それは
“サモナルドからの転移組の誰かであり、
しかも召喚術を理解できる召喚術師が、
これを用意したということだろうか...”
と言う懸念の言葉であった。そして 3人の間に重苦しい空気が漂うが、そんな時に玲は
「尤も、タチアナさん。
偶々接触して来たのがサモネル教団と知らずに
協力したとかあったりしませんか?」
とタチアナの心境をってそんなことを口にしたが、直ぐにかったと後悔した。と言うのは
「レイ君の気遣いは有難いけど、
でもね、これって...」
とタチアナはまたも言い淀むが、玲はその後の言葉が直ぐに分かった。それは、
“自分達の中にサモネル教団に対する
協力者がいたということだろうな”
である。極端な言い方をすると、自分達の中にスパイが紛れ込んでいたということであり、だとすると、タチアナの正体もサモネル教団には筒抜けだ、と言うことになる。そしてその事実に気づいたタチアナは、このままの状態で地球に留まることが果たしてどのような結果を招くのか、必死に考えを巡らせていたのだった。