召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
再び召喚術談議 (第2幕)
エンペラールはその間、一切口を挟むことなく最神玲とタチアナの行動を見守っていた。そして何やらタチアナが真剣な表情で悩みだしたの見ると、直ぐに
「セラちゃん、そんなに自分を追い込んでも
体に悪いだけよ。こういう時は、
リラックスよ、リラ~ックス!」
とタチアナの背中を優しく撫でながらそう語りかけた。タチアナも殺気ではないが、何か険しさが漂っていたと自覚したのだろう、エンペラールの言葉で我に返り、エンペラールの優しさに感謝した。そして、
「ちょっとまだ冷静になって
考えられないんだけど...」
と前置きをした上で、タチアナは恐らく今地球に残っている残留組ではなく、既にサモナルドに帰還した中にその人物が含まれていると断言した。と言うのは、
「そもそも宝石を扱うアーティファクトって、
レイ君も分かると思うけど、結構難しいのよ」
だがそんな難しいアーティファクトを作れる人物をタチアナは知っているという。そして
「私以外だと、多分あの人しかいないのよね。
ただね、彼は......召喚術師ではないんだけど」
召喚術師ではない人物がアーティファクトを作れるというのは驚きだが、タチアナが言うには、アーティファクト自体は、別に一般の人でも作ることは可能だという。ただし
「性能のテストは残念ながら
その人には出来ないけどね」
と言うことである。そして現在、その人物はロムリアで普通に暮らしているというのだ。そうなると、必然的にその人物がこれを作ったと見ているようだ。そうであれば少なくとも、今の段階でサモネル教団のスパイは自分達の周りには居ないということになる。ただ、もしその人物がサモネル教団と関わっていたとしたら、玲はもう一つ気掛かりな事をタチアナに尋ねた。それは
「以前、お二方に召喚術を唱える
アプリの話をしましたよね。
あれってその人が作るとか
可能なんでしょうか?」
であった。タチアナは苦虫を噛み潰したような渋い表情になるが、彼女のその表情から答えは簡単に導かれた。
「ええ、可能でしょうね。なぜなら、その人は...」
一時期ある有名な企業でコンピューターのの開発に従事していたというのだ。その後独立して自分で何やらゲームか何かのソフトを作って生計を立てていたらしいが、その後そう言った仕事を辞めて、ある地方で雑貨屋を営んでいたと言う。
ロムリアからの転移者で雑貨屋って...あっ!
と玲は心の中で叫び声を上げた。そしてそんな玲の驚きは顔に出たようだが、タチアナは黙って頷くだけであった。 そうか、彼が作っていたのか... と少し寂しさを感じる玲だが、彼の性格からして、もしかしたら積極的と言うよりも渋々協力したのかと考えたくなる。
だが何れにしても、彼にはあのアプリを作る技術はある訳だ。そして彼は古い時代の召喚術を研究していたという。ただし、彼の研究対象は、玲が最近夢中になっている古代の召喚術ではなく、それよりもう少し新しい時代の召喚術のようだ。そう考えるとあのアプリの言語は、確かに古代語とはかなり違うことを思い出す訳で、やはりロムリアが建国される少し前の時代の言語と見た方がしっくりくる。そしてその結果として、今まで謎だった点が全て一つに繋がったのだ。玲は、念のため、そのアプリに関してチーターから得た情報をタチアナに伝えると、
「そう、やはりね。その人は一時期
フランスに滞在していたんだよね」
そしてそのままフランスの旧植民地であったに移り住んだ。これであの召喚アプリを誰が作ったのか、そしてその裏ではサモネル教団が糸を引いていたことがこれではっきりした。そして今彼は
まさか、あのアーティファクトから、
長い間謎だったアプリの謎が解けるとは
と思わずにはいられなかった。だが彼の心の中は、謎が解けたことの喜びよりも、寂寥感に包まれていた。
ところで玲は、その人をロムリアで処罰するのかをタチアナに尋ねた。すると
「そうね、個人的にはそうしたい気持ちが
無い訳ではないけど、ただね......」
自分もそうだが知らない世界に放り出されて、もし何かの切っ掛けでそう言う組織と繋がっても、自分は文句を言えないと答えた。そして
「ロムリアに帰ってからは、
昔の生活に戻って幸せに暮らしているから、
今はそっとしておくのがベストだと思うんだよね」
と何か吹っ切れた感じでそう玲に語った。
さて、ルビーのペンダントはその役割がはっきりしたが、サファイアの杖についてはまだ何も分からない玲としては、その点を今一度タチアナに尋ねた。すると、
「先ずね、基本的にルビーもサファイアも
成分は同じなのよ」
と言うのだが、これには玲はビックリしてしまう。あんなに色の違う宝石が実は同じ成分と言うのは信じられないのだが、タチアナが言うには、元になる共通の成分に対し、別の何かが混ざった時、その混ざり具合でルビーになったりサファイアになったりするというのだ。実際、ルビーもサファイアも主成分は酸化アルミニウムである。ただしそこに微量のクロムが混ざることで赤く発色したルビーになるのに対し、鉄とチタンが微量に混ざると青く発色するサファイアになるという。尤もサファイアに関しては、元素の混ざり具合により、黄色や緑色に発色することもあるそうだ。そして、
「ルビーの場合は、純度が高いほど、
つまり赤みが強いほど
召喚エネルギーを多く蓄えるの。
だからエンペリアンも、本来は
ルビーで構成した方が効率が良いんだけど...」
サモナルドはルビーが貴重なので無理だとして、地球でもエンペリアンを埋めるほどのルビーを採取するのは大変だから、今の形になったという。ただ、タチアナは更に恐ろしいことを口にした。それは、
「ルビーの純度がさらに高まって、
深紅になる程のものだと、
召喚エネルギーの暴走を
引き起こすことがあるのよ」
と言うのだ。ただし普通に身に着けている分には何も問題なく、そのルビーに対し召喚エネルギーを注入するようなことをすると、それがトリガーとなって召喚エネルギーの注入が止まらなくなるというのだ。
「だからね、ルビーを扱う場合は、
その純度を常に気にする必要があるのよ!」
と言うことのようだ。一方、サファイアにはそのような効果はなく、ただしこちらはどうやら術式を記憶することが出来るというのだ。丁度、玲やタチアナやエンペラールが使う召喚の書と同じである。ただし
「こちらはね、純度によって
記憶できる術式の個数が
決まる見たいなんだけど、
このサファイアはと言うと...」
とタチアナは改めてその杖をに観察した。そして
「まあ普通程度と言う所ね。
となると、精々数種類を
記憶するのが限度かな」
と言うことのようだ。だが何れにしても、この2つのアーティファクトを持てば、一般人でも召喚術を行うことは出来るということだ。ただし、
「そのためには召喚エネルギーを
補充する必要があるけど、
それをどこで行っているかだよね」
とタチアナが指摘するまでもなく、その点は大いに懸念すべきところである。恐らくサモネル教団内に召喚エネルギーを補充する施設か何かがありそうで、それを破壊できれば、少なくとも彼らが降霊転移門を設置することは出来なくなると思われる。ただし、ヴェルハム自身が行っているとかだと、全く無意味だったりするのだが。ただその時は、ヴェルハムと直接話をつけるだけだと腹を括ってはいる。
その後、玲はこれらのアーティファクトの加工の仕方や、サファイアの杖に対する術式の書き込みと消去の仕方をタチアナから教えてもらい、タチアナが少し休みたいということで、ゲストルームに案内して休んでもらった。玲とエンペラールはと言うと、母屋に戻って昼食を摂った後、そのままダイニングで召喚術に関する談議を行って時間を潰した。
午後3時になった時、かすみと神室霊華が「ただいまー」と言って帰って来た。その声を耳にしたエンペラールは、直ぐに玲に向かって「レイさん、行きましょうよ!」とせっついた。流石に玲としては、かすみと神室霊華が帰って来たばかりだし、まだタチアナさんが休んでいるから、少し彼女達を休ませてあげませんか、とやんわりと制した。エンペラールは、少し頬を膨らませるも、確かに焦ったところでそれが直ぐに消えて無くなる訳ではないのを分かっているので、「もう、分かりました」と言って何とか落ち着きを取り戻したようだ。
そしてかすみであるが、先ずは露天風呂で疲れを癒したいと思ったので、神室霊華を連れて露天風呂に向かうことにした。すると、エンペラールも「私も入りに行こうっと!」と言ってかすみの後をついて行った。そこで玲は、かすみを呼び止めて、翻訳イヤホンを渡した。そしてそのまま彼女達を見送って、玲はリビングのソファーに腰を落とした。そして朝から衝撃の事実を伝えられたことで脳が疲れていたようで、そのまま寝落ちしてしまった。
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「レイ君、レイ君、...」
あれ?誰かが自分を呼んでるぞ、と思ったかどうか分からないが、何とか目を開けようとするも、疲れているからか瞼が重くて目を開けられない。それでも何とか強引に瞼を開けたところ、目の前に心配気な表情で玲を見つめるタチアナの顔があった。そのため思わず
「うわー、び、びっくりした、
タチアナさんですか!」
とぼやいてしまうのだが、タチアナはそんな玲の反応を無視して、エンペラールの姿が見えないことを玲に尋ねた。玲は時計を見ると、あれから30分ちょっとしか経っていないのを確認して、
「エンペラールさんでしたら、
今、かすみと神室さんと一緒に
露天風呂に行ってますよ」
と伝えた。そして丁度その時、露天風呂に行っていた3人が、体から湯気を立ち昇らせた状態で戻って来た。エンペラールはタチアナを見つけるや、「ほんと、温泉って気持ちいいわねー」と嬉しそうに感想を伝えた。タチアナもエンペラールの嬉しそうな姿を見てほっこりするのだった。その後落ち着いたところで、夕飯まではまだ時間があるため、玲はあれを調査に行こうかと提案した。エンペラールは待ってましたとばかりに目を輝かせて玲をじっと見つめた。かすみも早くあれが何なのかが知りたいため、玲の提案に賛成した。そこで着替えなどのため10分後にここに集まってからその場所に転移することにした。