召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
再び召喚術談議 (第3幕)
物部かすみが設置した転移門マーカーを頼りに、5人の召喚術師たちは北海道の廃村にやって来た。そして廃神社の社殿を目の前にして佇む5人は、誰一人その中の物を感知することは出来ず、てっきりそこは何もない空っぽの社殿ではないかと錯覚しそうになる。だが、社殿の格子戸から中を覗き込むと、そこには正面をこちらに向けて社殿の室内一杯に広がり、しかも玲の背丈を越える程の大きなヘキサグラム型召喚門を目にすることが出来る。
「これが本物のヘキサグラム型なんですね~。
でもどうやら機能は停止しているようですが...」
とエンペラールが指摘するように、設置はされているが機能は停止していたために誰一人感知できなかったのだ。
「でも不思議ですね~。
停止したままで存在する召喚門って」
とエンペラールは改めて自分の感じた事をそのまま口にするが、確かに普段自分達が使っている召喚門ではありえないことである。と言うのは、アニュラスやペンタグラム、あるいはバレル型は、召喚門に術式を記入して設置すると、直ぐにスタンバイ状態で輝くのだ。一方、ヘキサグラム型のような古い時代の召喚門は、スタンバイ状態になることなくその場にあり続けることが出来る。ただしその理由は分かっており、ヘキサグラム型の周囲の6カ所に記述される降霊転移に相当する術式を1回しか書かない場合、何も機能することなくこのような状態で保留される。つまり、ヘキサグラム型は元々保留機能が備わっているものとして見るべきなのだ。そしてこれを起動させるためには、周囲の6カ所に書かれている術式をもう一度重ね書きする必要があるのだが、目の前のヘキサグラム型にはそのような痕跡は見られない。
「何となくですが、これを設置した人が
それを忘れたとかはないでしょうか?」
と神室霊華は素朴な疑問を玲に伝えた。その疑問に対し玲は
「うーん、それは無いと思いますね。
と言うのは、ここに書かれている術式は
完璧ですからね。だからうっかり忘れた
と言うことは考え難いんですよ。ただし...」
設置した人と管理する人が別で、管理する人が何らかの原因でそれが出来なくなったりしたら、この状態はあるかもしれないと答えた。あるいは、と言うことでもう一つの可能性も指摘した。それは
「これを設置した人が既にこの世にいないか、
でしょうかね...」
である。もしアニュラス型などであれば、設置した人がこの世界から居なくなった時点で消滅するのだが、ヘキサグラム型は消滅せずにスタンバイになるのではないか、ということである。するとタチアナがこんなことを口にした。
「何時かの時のバレル型みたいに、
タイマーがあったりしないかな?」
サモネル教団が心霊スポットの近くに設置していたバレル型の降霊転移門の幾つかで、タイマー機能が備わっているものがあった。恐らく時間か経つとその降霊転移門が消えるとか、そんな作用をするだろうと当時は予想したのだが、同じように時間が経ったら機能が停止する、と言うことも考えられなくもない。だが、玲はそのヘキサグラム型を隅々まで目を凝らして観察するも、そのような痕跡を見つけることは出来なかった。それよりも玲が気になる点は、この真ん中に書かれた術式である。
「この真ん中の術式ですが、
あれに似てんるんですよね...」
と呟くと、早速エンペラールがその呟きに反応して「それって、どれの事ですか、レイさん?」と尋ねるので、玲は一度外に出てその術式をその場に設置した。するとそこには、
「何や、玲。ドラちゃんを出すあれか?」
とかすみが指摘するように、ドラちゃん、またはバンディと呼ばれる守護者が現れた。そして玲が似ていると指摘した術式は、この守護者を召喚する術式であったのだ。エンペラールは直ぐにバンディの召喚術式と中にある未知の術式を比較し、
「確かに、部分的には同じみたいですね。
ただし、こちらの未知のタイプは
術式が少しだけ多いみたいですが...」
と指摘するように、やはり何かが違うようなのだ。
さて、色々と検討を重ねても結局答えは出てこない。そうすると残されたことは、
「これを作動させるかですよね~」
とエンペラールがニコニコしながら指摘するように、これを実際に動かすしかない。そしてそれが出来るのは玲をおいて他にはいない。
「じゃあ、ちょっと作動させますね」
と玲は断ったところで、周囲に同じ術式を設置し作動させた。すると、ヘキサグラム型召喚門の中心から光の束が現れ、それが真っ直ぐ前方に向けて照射された。5人は念のため、その光の束の外に移動した。その後少しずつその光の束は広がっていき、召喚門と同じサイズになったところで拡大は終わったが、先端に向かうに従い僅かずつだが広がり続けていた。丁度メガホンのような形であるが、残念ながら先端部分はここからは確認できない。それから光の束は少しずつ明るさを失うが、決して消滅することは無く、ある状態になった時点でそのままの状態を維持した。
「どうやら、これがこの召喚門の正解みたいですが、
何なんでしょうかね?」
と玲は腕組みしながら疑問を口にした。その時かすみは、「何かこれって、どっかで見たことあるけどな...」とこちらも腕組みしながら思案気にそう呟いた。そして視線の先を廃村の方に向けていた時、かすみは「あっ!!」と前方を指差したまま叫んだ。他の4人は一斉にかすみの指差す方向に目を向けた。すると、
「わわわ、ななな、何ですか、あれは?」
とエンペラールも指をさしながらそう叫ぶが、そこには誰の目にも明らかなあるもの達が現れたのだ。
「ししし、師匠、あれって、
れい、霊体ですか?」
と神室霊華も動揺しながらかすみに尋ねるが、確かにそこには首が捻じれたり、手足が明後日の方を向いたりする霊体がその光の束の中に現れたのだ。そしてその光景を目にしたかすみは、
「そやそや、思い出した!
これ、霊道や、霊道や!!」
と大声で叫んだ。かすみの叫ぶその言葉を聞いた玲は、「これが霊道なのか?」と感慨深げにその様子を眺めていた。一方エンペラールはと言うと、霊道と言う存在が分からないため、玲が簡単にその役割を説明した。だが
「うーん、ロムリアと言うかサモナルドでも、
霊道みたいな霊体専用の道?
そんな存在って聞いたことないけどね~」
とエンペラールはそう答えた。確かに玲と言うか、その中身のカーンフェルトも、ケンタリアに居た頃にそのような存在を示す文献などを目にしたことはない。だが霊道を否定するだけの証拠も無いため、やはり確認が難しい存在なのだろうと今ではそう思っている。
所で、玲とエンペラールのやり取りを耳にしていたタチアナはと言うと、霊道と言うのが存在することは聞いたことがあるものの、実物は見たことが無く、かすみの指摘で改めてそれを観察すると、確かに光の束の中を霊体がこちらに向かって進んでくるのを目にした。だが本当にこれは霊道なのだろうか?もし霊道であれば、この光の束の出発点、つまりこのヘキサグラム型召喚門の向こうは霊界になっているということなのだろうか?その点を玲とかすみに尋ねると、かすみは首を横に振るだけである。玲は
「その可能性は否定できませんね。
なぜならヘキサグラム型そのものが
降霊転移門として機能しますからね」
と答えるように、真ん中に何も記述しなければ、バレル型同様、降霊転移門として機能するのである。とりあえず本当にそうなのかを確認するため、5人はその場で観察を始めた。そして30分後には最初の一体がヘキサグラム型召喚門に到達するやそのまま吸い込まれるように中に入って行った。続けて2体目、3体目とそのまま入って行く様子を見た所で、これが霊道として機能することがはっきりした。