召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
再び召喚術談議 (最終幕)
北海道のある廃神社に残されたヘキサグラム型召喚門が霊道を作り出すことは分かったのだが、そうなると更に新たな疑問が生まれて来る。そこで最神玲は、今考えられる疑問点を挙げることにした。
「まずね、一体誰が何の目的で
ここに霊道を作ったのか?
本当に霊道が必要なのか?
それとも本当は違う術式を呼び出す筈が
間違って設置してしまったのか?
ということだね、それと...」
と少し間を開けてから
「霊道が作られたことと住民が消失したことの
因果関係は何だろうか?
この点はやはりはっきりさせる必要は
ありそうだよね」
と廃神社内のヘキサグラム型召喚門の第一発見者である物部かすみに向かってそう問い掛けた。かすみは黙って頷く。そこで玲は、先ず誰がという問題点を後回しにして、次のような仮説を皆に披露した。
本来は何かを祀るか守るために、かすみの言うところのドラちゃんを設置しようとしたのだが、設置した誰かは、故意なのか、それとも知らずになのか、似たような術式である霊道を設置した。そしてその設置者から、こういう呪文を唱えれば作動することを教えられた神社の管理者がそれを起動させた。すると守護者ではなく霊道が作られてしまい、そのため各地に散らばる多くの幽霊が霊道に導かれてこの地に押し寄せて来た。そのうち何体かはここの村に降り立ってしまい、その結果住人達がパニックに陥った。そして遂には住人達は恐怖心から夜逃げ同然で逃げ出したというシナリオである。するとかすみが
「それやったら、どっかにここの元住人がおる筈やな。
ほいで、その人達が真相を語れば
それで問題はなくなるけど、
そんな話は耳にしたことないって
山崎さん言うてたけどな...」
と玲のシナリオに対し自分が感じた疑問を伝えた。玲もかすみの意見に頷いて、
「うん、勿論夜逃げと言うのは一つの仮説で、
僕もそれに関しては余り納得してないんだよね」
と言うのだ。そして
「基本的な所は最初の仮説と同じで、
最後の所が少し違うんだけど...」
と断ったうえで、玲はもう一つの仮説を披露した。
「住人がパニックに陥った所までは同じなんだけどね、
その後彼らは恐らく神頼みをしに、
この神社にやって来たんじゃないかと思うんだ。
そうなるとね...」
この続きはかすみにも容易に理解できた。霊道に捕らえられ、そのまま抜け出すことが出来ずに霊界に引きずり込まれた、というシナリオである。
「玲、多分そのシナリオが一番しっくりくるな。
何と言ってもうちは実際霊道に入ったからな...」
と体験者のかすみが語る以上、かすみの目にはその光景がありありと浮かぶ。その時神室霊華が
「でも師匠、そこに霊道があるのって
見えませんかね?」
とかすみに尋ねるが、「んーにゃ、うち等みたいな能力が無いと無理やわ」と素っ気ない言葉を返した。確かに言われたらその通りである。とその時、かすみの中である一つ疑問が頭をもたげてきた。それは
「うちが去年体験した霊道やと、
最後の霊界への門か、あっこには
入らせてもらえんかってんけど、
ここは行けるんか?」
と玲に尋ねた。
「うーん、僕もそこまで詳しくないけど、
かすみの昨年体験したのは、
恐らく正規の霊道じゃないかな。
それに対しここに出来たのは非正規と言うか、
紛い物と呼ぶべき霊道だから、
普通の人でもそのまま霊界に
送っちゃうんじゃないかな?」
と言うのだ。確かに霊道でなくても、元は降霊転移門であるため、普通の人でもそのまま霊界に迷い込んでしまう。まあ尤も、その答えはこの霊道を通ってそのままヘキサグラム型召喚門を通り抜ければ確認できるのだが、そこまでして確認する心算は好奇心旺盛なかすみですら持ち合わせてなかった。ただし
「せやなー、玲のその説やったら、
この村の集団失踪の謎も
しっくりくる感じやねんなー」
と感想を伝えた。
そして残る疑問点は一体誰が設置したかである。
「やっぱ、あいつなんかな!」
とかすみが怒りを露わにして指摘する人物とは、言わずと知れたヴェルハムである。
「確かに、ヘキサグラム型はサモナルドの
古代遺跡からも出土しているから、
時代的にはその可能性は否定できないんだよね」
と玲はかすみの指摘に同意するが、何やら腑に落ちないようにも見えた。そこでかすみは、何か気になる点があるのかを玲に尋ねた。すると
「うーん、何というか、ヴェルハムと言うか
サモネル教団が絡んでいたとすると、
時期と目的がどうも合わないんだよね」
玲の指摘する時期とは、この廃村から住人が消失したのは今から数十年前だという点だ。
「その頃からサモネル教団が
あったかどうかは分からないけど、
もしあったとしたら、こんなやり方じゃなく、
もっと直接的な方法に訴えると思うんだよね」
例えば道の真ん中にヘキサグラム型召喚門を降霊転移門のままで設置するなどしてもおかしくないと指摘した。
「確かにな、あいつらの目的はまだ分からへんけど、
人を霊界に送り届けるのが目的やったら、
こんな面倒な事せぇへんよなー」
とかすみもその点は同意した。とその時、2人の意見を耳にしていたタチアナが
「召喚術師の始祖のヴェランと言うか
ヴェルハムでしたっけ、
彼とは全く違う古代の召喚術師が
日本に転生して来たとかって
考えられないかな?」
と驚くべきことを口にした。これには、玲とかすみは、お互いに見つめ合ったまま沈黙した。そして漸く玲が
「実はですね、タチアナさん、
その可能性なんですが...」
先日青木ヶ原樹海で見つかったヘキサグラム型召喚門の件をタチアナに伝えた。
「えっ、と、と言うことは、
今から200年以上前に既にこの術式と言うか
ヘキサグラム型は日本に存在した
ということなのね...」
と余りに突然のことでタチアナは声を詰まらせながら何とかそう呟くも、その後は沈黙したまま何も語らなくなった。そんなタチアナを心配したエンペラールが声を掛けてタチアナは漸く正気に戻るのだが、
「そ、そうすると、やはりヴェランとは違う誰かが
に、日本に転生して来たということなのかしら...」
「それとも、召喚術が生まれたのは
日本が最初と言う可能性も
捨てきれないんですよ...」
僕はこのために今、物凄く悩んでいます、と玲は胸の内を明かした。タチアナは、まさかそんなことがあるのかと眉間に皺を寄せて玲を疑いの目で凝視し続ける。そしてそのまま沈黙を続けるため、エンペラールは再びタチアナが思考停止になったことを心配して声を掛けた時、タチアナが
「そそ、その可能性って......」
と声を詰まらせながら下を向いて呟くも再び沈黙する。そして直ぐに「全く無いと言い切れないわね」とポツリと呟いた。そしてタチアナは、何とか自分の中で整理したことをエンペラールに伝えた。最初エンペラールは何を聞かされているのか理解できなかったようだが、少しずつタチアナの言葉が自分の中に浸透するにつれて、その重大さに暫し言葉を失った。そして漸く、
「そんなことって、有り得るんでしょうか...」
と誰にともなくそう尋ねた。だが残念ながら、ここに居る誰もそれに明確な答えを与えることは出来ない。そんな時に玲が、憑き物が落ちたかの如くスッキリとした表情を漂わせて、
「恐らく沖縄で見つけたのは、あれは間違いなく
サモネル教団が絡んでいたと思うけど、
昨年北海道で見つかったのは、
明らかにあいつらの仕業と言い切れない所があって、
ずっと引っ掛かっていたんだけど...」
その謎の転生者が関与していたのであれば、昨年、北海道の炭鉱住宅で見つかったヘキサグラム型召喚門を含めて、何となくだが辻褄が合うように感じることを指摘した。だがその謎の転生者の足跡を辿るための手掛かりが今は全くないため、これ以上先に進むことは出来ない。残念ながら今の段階での考察はここまでとなった。その時、ふとエンペラールがこんなことを呟いた。
「ヴェランにお会いできたら、
その謎も解明されるんでしょうけどね~、
残念ね~」
さて一応彼らの間では、誰が何の目的で設置したのかと言う疑問は依然として解決されずに残されたままであるが、残念ながら彼らの持つ情報ではその謎を解くことは出来ない。そして後はこの霊道をどうするかであるが、
「このまま残しておいても良いけど、
やはりこういう得体の知れないのは
撤去した方が良いかなと思うんだけど、
皆どうかな?」
と玲は4人に尋ねた。特に撤去に反対する意見は出ないので、玲はそのヘキサグラム型召喚門の召喚を解除した。そして境内に現れた霊体に対しては、降霊召喚門を設置して直ちにお見送りをした。もう辺りはかなり薄暗くなってきて、黄昏時を迎えようとしていた。とその時、あの人のあの機能が「ぐぅーー」と言う音と共に早速稼働を始めた。
「ははは、全くうちの腹時計は正直で困るわ!」
とかすみが照れながらそう呟くと、玲が
「今から別荘に戻って夕飯を作っても
時間がかかるから、
どこかに食べに行こうか?」
と提案した。するとかすみが
「ほな、皆で居酒屋とかはどうなん?」
とかすみは候補を挙げたので、玲はエンペラールとタチアナに尋ねた。エンペラールは日本の居酒屋にはまだ行ったことが無く、玲から酒と食事を楽しむ所だと聞かされるや、是非行って見たいということで居酒屋に決定した。場所については、かすみは神室霊華におすすめの場所とか尋ねるが、
「すいません、師匠、
私、居酒屋とか殆ど行かないので、
あまりお勧めは出来ません」
と頭を下げてかすみに謝罪した。かすみはそんなに畏まらなくてもええでと神室霊華に言葉をかけつつ、
「ほな、差間見の商店街のあっこはどやろ、玲?」
と2人がたまに利用する居酒屋を提案した。玲もあそこなら勝手知ったる何とやらで、安心して料理と酒を楽しむことは出来る。と言うことで5人は差間見町の居酒屋に向かうことにしたのだった。