召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲とタチアナの召喚術談義 (前編)
さて、パリ滞在4日目の朝を迎えた最神玲と物部かすみである。昨日のロムリアのファッションショーの豪華さと華やかさを堪能した玲とかすみは未だその余韻に浸っているのであるが、実は招待したタチアナにとっては、これからが本番を迎える。それは、玲ことカーンフェルトと召喚術に関する議論を深めることであった。
その日は玲もかすみも、前日の疲れからなのか何時もより遅くまで寝ていたのであるが、朝の10時にはタチアナが迎えに来ることが分かっていたので、玲は前日に頼んでおいた朝食のルームサービスを待つまでに何とか支度を整えた。一方のかすみはと言うと、ルームサービスの朝食が届けられた時のドアベルの音で漸く起き出してきた。
「玲、今何時?」
「朝の9時だよ。
あと1時間するとタチアナさんが迎えに来るよ」
と言った途端、
「えー、玲、何でもっと早く
起こしてくれなかったんだよ。ちっ」
おっ、何だ最後の「ちっ」は。ちゃんとかすみを起こしに行ったけど、爆睡中だったんだよ、君は、と抗議をするも全くかすみの耳には届かない。とりあえず、かすみも急ぎ支度を整えつつ、朝食のクロワッサンだけはしっかり口に運ぶのであった。何とかタチアナが迎えに来るまでにかすみも支度を整え、いざ残りの朝食を頂こうとした時に、ドアベルが鳴った。どうやら、ゲームセットを迎えたようである。これには、かすみも「ガーン」と項垂れてしまうが、元は自分の不摂生というか起きられなかったのが原因なのであり、誰も責められるべきではないのだが、なぜか自棄になって玲に八つ当たりするのであった。
「レイ君、カスミさんおはよう。
よく眠れました?」
「はい、よく眠れまして、
僕は何時も通りに起きたんですが、
かすみがどうも不機嫌なようで」
と言って、ニヤニヤしながらかすみを睨む玲である。くそ、玲の奴、覚えておけよ、と言ったかどうかは分からないが、全てはかすみの自業自得。タチアナには、
「すいません、ちょっと遅くまで
寝てしまいまして、
つい先ほど準備できたばかりです」
と告白する始末である。あー、玲の運命や如何に。
「カスミさん、何か急がせたりしてごめんなさいね。
明日はゆっくり休んで頂けると思うんだけど、
ちょっと今日だけは勘弁してね」
とかすみに謝罪するタチアナ。実は、タチアナ自身非常に忙しい身であるのだが、無理を言って今日だけはスケジュールをフリーにしてもらっていたのだとか。と言うことで、各々支度が出来たので、タチアナと行動を共にするのだが。
「じゃあ、これから私の別荘に行くわね」
と言って転移門を展開して、いざタチアナの別荘に向かった。
ところで、なぜタチアナは忙しい中、時間を作ってまでして玲とかすみと行動を共にするのか?実はタチアナにとって最重要かつ最優先で解決したい問題があったためである。それは、玲が以前タチアナに見せた降霊転移召喚術、実は何度か挑戦しているのだが、未だに機能しない状態なのであった。大召喚術師エンペラールの一番弟子でもあるセラスティナにとって、機能すると分かっている召喚術が目の前にあるのに、それを全く機能させれないという事態は経験したことが無く、しかも解決法が全く分からないと来ている。そして、この問題を解決できるのは玲ことカーンフェルトをおいて他にいないとの結論に至った。そこで、今回のパリへの招待旅行を機に、玲とかすみを自身の別荘に招待して、この問題の答えを見出そうとしたのであった。
タチアナの別荘は、フランス中部のとある森林地帯に位置し、広大な敷地面積を有する。建物は200平米程の広さを持つ2階建てで特殊な地下室もある。1階は主にタチアナのプライベート空間とリビング兼パーティールームがある。2階は4部屋あり、全てゲストルームになっており、各部屋のバルコニーからはただ森林が見えるだけ、と言う環境である。そのため、周囲からの視界を全く気にすることなく、玲、かすみ、タチアナの三人は、別荘地内にある芝生庭園に立って、気兼ねなく召喚を行える。そして今は、タチアナが召喚した召喚門を皆で眺めているところである。
「ねえ、レイ君、私の作ったこの降霊転移術だけど、
何か間違っている所とかない?」
「うーん、いいえ、問題はないですね。
術式は完全に僕のと同じですけど・・・!」
「何、どうかした?」
「いいえ、僕とタチアナさんの違いを考えた時、
2つの違いがあるんですよね。
あっ、術式の違いではなくてですね、要するに、
僕は転生者でタチアナさんは転移者と
言う違いが先ず1点目。
そして、もう一つは、
僕は霊界に行ったことがあるけど、
タチアナさんは言ったことが無い、これが2点目。
つまり、霊界との接点があるかどうかが
相違点かと思っただけなんですが」
「・・・」
沈思黙考するタチアナである。そして、徐に
「レイ君、もし1点目の違いであれば、
これは私にはどうしようもないことよね。
でも2点目の違いが影響しているのであれば、
一度霊界に行ってみたいんだけど、
協力してもらえない?」
「はい、それくらいは協力できますよ。
えーっと、何時始めますか?」
今から行きましょう、と早速玲を誘うタチアナである。そこで早速、玲は降霊転移門を召喚した。
「うーん、やっぱり私のと同じよね。
でもこちらの門は、こんな風に」
と言って、自分の右腕を玲が召喚した門の中に入れた。そして、その右腕は、こちらからは完全に消えた状態になっている。
「じゃあ、タチアナさん行きますけど、
あっ、かすみは残っててもらって良いかい?
多分、僕やタチアナさんであれば、
召喚エネルギーが豊富だからある程度
向こうに居ることは可能なんだけど、
かすみはまだそこまでのエネルギー量が無いから
ちょっと危険性が高くなるんだよね。いいかな」
召喚術に関しては、玲の言うことには素直に従うかすみである。当然、こちらで待ちますと返事をした。
「では、タチアナさん、行きますよ」
と言って、先に玲が、その後からタチアナが門の中に消えて行った。二人が消えたのを見たかすみは、うわー、私もあの時はこうやって消えたのか、と体を震わせながらその時の体験を思い出していた。
さて霊界に着いた玲とタチアナは、移動する前に玲は今居る場所に降霊転移門を召喚しておいた。残念ながら、玲が召喚できる降霊転移門は一方通行のようで、霊界から元の世界に戻るにはもう一度門を召喚する必要があった。そして、一応その門が元の世界に繋がっているかを確認しようと頭を門の中に入れた途端
「うわー、び、び、びっくりしたー。
もう玲、やめてよね、
そんな首だけお化けみたいなこと!」
というかすみの悲鳴と怒声が聞こえたのである。どうやら、問題なく元の場所に戻れることは確認できた模様。
「あっ、ごめん、ごめん。
ちゃんと元の位置に戻れるか
確認したかっただけなんだ、ははは」
と笑いだすので、
「もう、いいから、
その気持ち悪い頭を引っ込めろー」
と叫びながら、かすみはその頭に一発お見舞いした。「痛い!」と叫びながら頭を霊界に引っ込めた玲は「かすみにど突かれました、はは」とタチアナに向かって喋ったものの、隣に居るタチアナは何かキョトンとした表情のまま。あっ、そうか、霊界では音は何も聞こえないんだった。そうすると、タチアナとの会話はどうしようか?頭の中でタチアナに話しかけるも、応答せず。仕方がないので、召喚術で手持ちサイズのホワイトボードとマーカーを召喚し、サモナルド語で書いてタチアナに確認することにした。
[霊界では音が聞こえないのを
忘れてましたので、
これで意思疎通します]
タチアナも同じような物を召喚して
[分かったわ。
しかし何も聞こえないのは不思議な感覚ね]
と答えた。そして、玲はタチアナに向かって
[タチアナさん、僕が召喚した
召喚門の所に降霊転移門作ってみませんか?]
と言って、一旦玲の召喚門を解除したのである。次に、同じ場所にタチアナが降霊転移門を設置して降霊転移の術式を書いて召喚したところ、今までとは何か違う手応えがあったのか「!?」と一瞬たじろいだ。そして、恐る恐る門の中に手を突っ込んだところ、
「・・・・・!!」
と何やら叫んだようだが、恐らく「やったー!!」であろうことは容易に推測できた。つまり、タチアナの手は門をすり抜けて元の世界に現れた、と言うことだ。
[やりましたね。成功です。
おめでとうございます。
でも、早く手を引っ込めないと、
かすみに叩かれますよ]
とメッセージを送る玲。嬉しさで笑顔になった表情に口元だけは驚きを表すように片手を口に当てながら急ぎ手を引っ込めるタチアナであった。そのお茶目な表情には、何かしらの達成感も浮かんでいたのである。
次に玲は、霊界に居る序に円空を呼び出してみることにした。心の中で「円空さん、居ますか?」と問いかけたところ、前方の霧の中から僧形の円空が姿を現した。呼び出した玲も直ぐに現れるとは思ってもおらず、少しビックリしたものの、直ぐに隣に居るタチアナの肩をたたいて呼びかけた。
[タチアナさん、彼が円空です]
「円空さん、ご無沙汰しております。
カーンフェルトです。
以前は私とかすみを助けて頂き
有難うございました」
「これはカーンフェルト様、
無事に元の世界に戻られて何よりです。
それよりも、隣に居られるのは、
セラスティナ様ですね」
突然、タチアナは自分の本名であるセラスティナの名前を円空が呼んだことに困惑の色を隠せないのであった。そこで、タチアナも自分も頭の中で会話してみることにした。
「初めまして、私はセラスティナと申します。
円空さん、以後お見知りおきを」
ちなみに、彼らの会話は、そこに居る者全員が共有しているのだが、どうやら円空を介することで、玲とタチアナもお互いに心の中での会話が出来るようなのである。そして、ここでタチアナは驚くべきことを円空に伝えた。
「円空さん。私はこちらの
カーンフェルトさんと同じサモナルド人です。
ですが、私は彼とは違って、
サモナルドから直接地球に転移してきました。
こちらの生活にも慣れたのですが、
やはり故郷は忘れがたく、
最近では故郷に帰りたいというに
まれることが多々あります。
そこで、サモナルドのロムリアに
帰りたいのですが、ここ霊界を経由して
ロムリアに転移することは可能なのでしょうか?」
これには、玲も唖然とするだけである。確かに、タチアナことセラスティナは、元の姿のまま地球に転移してきており、逆にサモナルドへも転移で帰還することを考えるのは自然である。しかし、その転移を霊界経由で行う計画とは、玲も予想していないことであった。でも、時間と場所が分かれば、霊界から転移する方が確実なのは確かだと確信するのでもあるが。そして、円空の答えは、
「はい、可能です」
「・・・・・・・・」
後に大召喚師セラスティナとしてその名を留めるタチアナでも、即答で肯定される言葉を耳にすると、思考停止と言うかフリーズすることがあるんだな、と彼女の普通の人間らしい反応にホッとする玲である。そして、当のタチアナ自身は、今の円空の言葉が脳内を満たすに伴い、遂に感情を爆発させた喜びのガッツポーズをするのであった。
「と、と言うことは、私が指定した時間の
ロムリアにも行けるのですね?」
とタチアナは円空に尋ねるのだが、この答えは
「残念ながらそれは出来ません。
なぜかと言いますと、
セラスティナ様は生きているため、
時間の制約が発生します」
つまり、任意の指定した場所への転移は霊界から可能だが、指定した時間への転移はNGと言うことである。言い換えると、タチアナは現在生きた状態が進行中の事象であるため、その時間進行分はロムリアでも進める必要があるということになる。これについては、妥協するしかないのは分かっていたようで、タチアナも
「分かりました。場所だけでいいので、
そこを教えて頂けますでしょうか?
勿論、その際は、
こちらのカーンフェルトさんがされたように、
私の寿命と引き換えでお願いしたいのですが」
「では、セラスティナ様の申し出を
快く承ることにします。
それでは、今から出発されますか?
それとも、後日改めてからにしますか?」
流石のタチアナも今直ぐ行くことは全く考えてなかったため、「ご、後日改めてお伺いします」と返答して、その場で円空と別れた。そして、直ぐに玲とタチアナは霊界から元の世界へ帰還した。