召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲とタチアナの召喚術談義1 (後編)
無事元の世界の元の場所に戻って来た玲とタチアナであるが、どうやら慣れない霊界の環境と降霊転移門の設置に対する召喚エネルギーの消費量の多さにより、タチアナはその場にへたり込んで目の焦点が定まらず呆然とした表情で固まってしまった。一方の玲も、タチアナと円空の間に交わされた会話の内容の重大さから、こちらも暫し沈黙するのであった。そんな二人を見ていたかすみは、一体何があったのか心配になって玲に尋ねようとするも、いいタイミングが見当たらず、こちらも押し黙ってしまうのであった。
「はー、お腹空いたわ。
レイ君、カスミさん、
何か食べましょうよ」
と言っていち早く復活したタチアナである。結局1時間半程の間、玲とタチアナは霊界に居たようだが、タチアナはとにかく疲労感もさることながら、いよいよ自分の最大の目的が達成できるという高揚感が遥かに勝っており、安心した途端に空腹に襲われたのであった。
そこで3人は、別荘の中に入ってダイニングに向かうのだが、ダイニング着いた途端なぜかタチアナはどこかに転移していった。タチアナの転移している間に、玲はかすみに対し、霊界であったことを掻い摘んで説明したのだが、流石にかすみも急な展開があったことに驚きを隠せない様子である。そして、タチアナは10分ほどしてから再び転移で戻って来たのだが、そこにはタチアナとゲオルグの姿もあり、更に彼らは食事を載せたワゴンを1台ずつ押してきた。
「さあ、テーブルに並べるから手伝ってね」
と言うタチアナの合図で、玲とかすみは魚料理がメインとなるフルコースのセットをダイニングテーブルに並べた。そして、ゲオルグは再び元の場所に転移して、3人で食事をとることになった。
「あれ、ゲオルグさんは、
一緒に食事をしなくて宜しかったんですか?」
とかすみはタチアナに問いかけたが、ゲオルグは愛妻弁当を持参してきており、何時もそれをランチで食べているのだとか。フランスでも近年は「ベントウ」が注目されているが、ゲオルグが元々日本に転移して来た関係からか、弁当文化には慣れ親しんでいるようで、それで毎日弁当を持参しているのだとか。その話を聞いたかすみは、
「玲、私も弁当作ってあげようか?」
と言うので、
「えっ、かすみって何か作れるのかい?」
と尋ねてしまった。これにはかすみも、少しカチンと来たようで
「はあ、このかすみ様に作れないものはない、
訳ではない」
と何やら曖昧な答えをするのであった。ちなみに、かすみはそれなりに自炊はするのだが、煮物とか揚げ物とか手の込んだ料理は殆ど、と言うか全くしない。と言うか、自分で料理できるのは目玉焼きくらいだろうか。
一同空腹が満たされたところで、午後からはタチアナの提案で、かすみの創成召喚のチャレンジ企画になった。これにはかすみ本人だけでなく玲も、「タチアナさん、それは無理だったんですが」と伝えたのだが、実はタチアナはかすみが創成召喚できることを確信していた。ただし、創成召喚するためのステップと言うか手順を正しく踏んでいないために、出来ないと錯覚していただけだと、玲とかすみに説明した。それを聞いて玲は、一瞬キョトンとするが、タチアナから方法を聞いた途端、自分の無知さ加減に腹が立つやら、恥ずかしくて穴があったら入りたくなるやら、何か感情がゴチャゴチャになって頭を抱えてしまった。だが、何とか気を取り直して、かすみの創成召喚を手助けすることにしたのであったのだが。
さてタチアナが示した手順、それは契約召喚をすることであった。言われれば凄く単純なことであり答えは目の前にぶら下がっていたようなものなのだが、玲と言うかカーンの先入観がそれを邪魔していたようだ。そう、契約召喚であれば、契約対象との契約を結べれば簡単に召喚できるのであり、契約召喚が出来たら、自ずと創成召喚に移行できるのである。何でこんな簡単なことが分からなかったんだと後悔するのだが、今更嘆いても後の祭りと言うべきか。ただし、カーンのこの先入観は、決して彼の責任ではなく、むしろケンタリアの養成学院の授業に問題があるとするべきだろう。養成学院ではまず創成召喚を先にきっちり教えて、その後で契約召喚の方法を学ぶのであった。これは元々契約すべき召喚対象が野獣や猛獣と言った子供たちに契約させることが不可能なものに限定されるためという事実と関係していると見た方が良いだろう。
「さて、カスミさん、
契約召喚だけど知ってるかしら?」
「はい、玲から聞いたことはあります。
何か契約したものを直接召喚するのでしたよね」
そうよ、と言ってタチアナは、ある物を召喚した。それは単眼鏡みたいな器具である。
「これはね、そこから覗いてみた対象を
契約召喚できるように術式を
表示してくれる器具なの。
これでそこに表示された術式を
召喚門に記述すれば契約召喚が出来るのよ」
とタチアナは説明したのであるが、残念ながらかすみには表示される術式を読むことが出来ない。それをタチアナに伝えると、
「あらら、そうだったのね。
ゴメンね。失念していたわ。
うーん、そうすると、
こっちの方が良いのかな」
と言って再び召喚したのが、固形石鹸を一回り大きくしたような粘土の塊。何だろうこれ、と不思議に思う玲である。すると、
「これはね、契約召喚初心者用の
玩具みたいな物ね。
例えば、召喚対象を犬とした時、
犬に関する術式はレイ君は知っているよね。
その術式をレイ君に予めこれに掛けてもらって、
カスミさんが契約召喚門から
その術式で召喚すると、
これが犬として召喚されるの。
残念ながら自我はないけど、
犬のように振る舞うことは可能よ」
へー、これはまた凄く便利と言うか面白いアイテムですね、と感心する玲である。勿論タチアナからは、このおもちゃの術式をしっかり教えてもらったのは言うまでもないが。ただし、玲は犬の召喚術式は分からないので、猫ならいけますよと言って、猫の術式をその粘土に掛けたのである。そしてかすみに、
「何時でも召喚していいよ」
と合図すると、かすみは早速アニュラス型の契約召喚門を作成し、そこに玲から教えてら貰った猫の術式を組み込んで、最後に「召喚!」と叫んだ。すると、
「うわーー、やった、やったーー!!!
猫だ! 猫を召喚出来たーー!!!」
と召喚した白猫を抱き上げて飛び跳ねて大喜びした。これを切っ掛けに、かすみは1時間ほどの訓練の末に、遂に創成召喚で石を自らの手で召喚出来た。たかが石、されど石。召喚した石は、かすみの記念の品となったのであった。
さて、かすみの創成召喚も成功したことで、玲とタチアナは、召喚術に関する談義を始めた。ちなみに、かすみはその隣で、新たな創成召喚のチャレンジ中である。
「タチアナさん、タチアナさんも
無事降霊転移門を召喚出来ましたが、
何かひどく疲れた感じでしたね。
やはり召喚エネルギーを
結構消費しましたか?」
「ええ、その通りよ。
降霊召喚と同じで召喚門の設置で
エネルギーを多く消費するのは
分かっていたけど、あそこまで多いとは、
少し予想が甘かったわね」
やはり降霊転移門は玲やタチアナが精通している一般的な召喚術とは明らかに異なるようである。そして、玲がバレル型召喚門に関して色々と試したことやその後の成果についての情報をタチアナと共有した。すると、
「うーん、本当に特殊よね、そ
のバレル型というのは。
そうか、単に創成とか降霊とかをしても
駄目なんだね。
それで、結局、今回の降霊転移の術式、
あれをベースとして他に追加で色々と試したら、
一部創成召喚が出来たということなのね?」
「はい、まだ複雑なのとか
大量の物とかの召喚は試してませんが、
どうも普通の創成召喚のように
召喚後に召喚エネルギーを消費することはない
気がするんですよ」
「ん?つまり、降霊召喚と同じで
召喚時に多くエネルギーを
消費するだけということなの?」
「なんかそんな気がします。
尤も、僕の召喚エネルギーがでか過ぎるので、
減ったかどうかを確認できないんですが」
確かに、玲ことカーンの召喚エネルギーは、タチアナ曰く変態的に膨大な量だとのこと。そこで、タチアナが試してみることにしたのだが、
「ちょっと、一緒に来てもらえる?」
とタチアナに誘われて別荘の地下室に向かう玲であった。隣で創成召喚中のかすみは怪訝な顔をしたが、「すぐに戻るよ」と玲に言われたので、そのまま創成召喚を続けることにした。さて、玲とタチアナであるが、転移して来た地下室に設けられた広い空間の只中にいる。
「ここはね、私が召喚術の研究をするところなの」
と言ってある場所にやって来た。そこには玲ことカーンが見たこともない器具や装置が地下室の壁一面に置かれていたり、隅の方にはアルメラ達が使っている転移用のアーティファクトがあったりして、確かに何かしらの研究室の雰囲気を漂わせていた。そして、地下室の中央には、床にアニュラス型を象ったタイルを敷き詰めた床があり、その周り4か所に何やらスタンドが立てられている。
「ここはね、召喚エネルギーを
正確に測定する場所のなのよ」
と言いながら、タチアナはスタンドを起動し、奥にある計器類を立ち上げて再びアニュラス型タイルの中心に戻って来た。
「では、始めるね」
と言って、先ずはバレル型で降霊転移召喚術が出来る状態にした。
「えっと、こんな感じで良いのかな?レイ君」
「はい、後は、バレルの底辺を含むブロックに、
創成召喚のタイプ名と召喚対象を記入してください。
そして、その最後の所に、
降霊転移召喚の転移に似た術式がありましたよね。
それと同じ術式を追加で記述してください。
・・・はい、それでOKです。ではお願いします」
と言われて、タチアナは直ちに「召喚!」と叫ぶ。すると、バレル型の召喚門から10名のロムリア軍兵士が召喚された。見たところ、ケンタリアの兵士とは印象が異なり、どちらかと言うと日本の自衛隊に近い兵装のようである。これを見た玲は非常に興味をそそられたのだが、今はそちらではないことは自覚しており、
「どうです、タチアナさん。
今の時点で召喚エネルギーが
減少している感じはありませんか」
「感覚としてはないわね。計器の方を見ると…
あー、やっぱりね、ほらレイ君の言った通りね。
召喚後には全く召喚エネルギーは
消費されてないようね。えっ、これって、…」
タチアナは絶句した。実は玲から召喚後に召喚エネルギーを消費しないことを聞いたときは、ゼロにはならないけど通常よりかは少ないだろう、くらいにしか考えていなかったのだ。と言うのは、タチアナことセラスティナのいたロムリアでも、契約・創成召喚時の召喚エネルギーの消費問題の解決は最優先課題として取り上げられており、大召喚師エンペラール自らがその先頭で指揮を執るプロジェクトでもあったからである。その問題が、若干20歳の召喚術師カーンフェルトによって解決してしまったことに、タチアナは彼に対する畏怖を抱くのであった。
「レイ君、あなたね、今凄い発見をしたのよ。
私の師匠エンペラール先生も
長年この問題に取り組んでいるんだけど、
なかなか解決の糸口をつかめないでいたのよね。
それをあなたは、僅かな手がかりから
それを突き止めたのよ。
凄いことなんだから。
あー、早く、エンペラール先生に報告したい!」
「でも、タチアナさん、
これは僕だけでは解決できなかったんですよ」
「えっ、どういうこと?」
「かすみがですね、的確と言うか
僕も思いもよらない解決法を提示しまして、
それを元に辿り着いたんです。
なので、この成果はかすみのお陰になります」
そこで、二人は元の部屋に戻って、かすみを大いに称賛した。なお、当のかすみは、何が起きたのか理解できず、また玲の奴タチアナさんに変なことを吹き込んだな、と疑心暗鬼になったのだった。
「かすみさん、あなたのお陰で、
サモナルドの召喚術は
飛躍的な進歩を遂げそうよ。有難うね。
この新しい召喚術式には、
是非あなたの名前を入れたいのだけど、
宜しいかしら?」
とタチアナに問いかけられたかすみである。ただ、流石のかすみも、「は、はい、どうぞ」としか言えなかった。恐らく、未来永劫、彼女には全く関わることのない話ではあったのだが。
こうして、タチアナは、その目的が達成されて十分かそれ以上に満足のいく結果が得られて上機嫌になった。また、玲ことカーンも、タチアナから転移に関する様々な術式を教えてもらい、更に幾つか創成召喚術式も取得できて、こちらも大満足。かすみに至っては、玲からは否定されてきた創成召喚が出来たことで、喜びを通り越して、今は興奮状態である。今回の彼らの会合は、お互いにウィンウィンの関係にあったと言っていいだろう。
夕方になって、「じゃあ、戻りましょうか」とタチアナが声を掛けたところで、今回の会合はお開きとなった。