召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
Go to the Moon (中編)
M Mの別荘に集まっている何時ものメンバーである最神玲、物部かすみ、そして神室霊華の3人に加え、サモナルドからの賓客であるエンペラールとセラスティナことタチアナ・エグリスコバ、更にロムリアの第二王女であり、今はロンドンに暮らすヴェレニエラの6人は、別荘のリビングにて各自が召喚した宇宙服を早速着ようと試みるのだが、神室霊華は気になることを玲に尋ねた。
「玲さん、中に着る服装って
どうすれば良いんでしょうか?」
と神室霊華が着ている黒の半袖Tシャツにデニムという出で立ちで問題ないかを尋ねた。それに対して玲は
「そうですね、宇宙服の中は
ロムリアの特殊素材のお陰で
快適温度に設定されるので、
むしろTシャツと短パンか、
あるいは下着だけでも問題ないですよ。
あっ、そうか、僕は離れで着替えてきますね」
と言って玲はリビングを出て行こうとした。そして出て行く途中で一度振り返って、
「あっ、後ね、念のため
トイレは先に行っておいた方が
良いかもしれませんよ」
とアドバイスした。そこで各自トイレを済ませてから再びリビングに戻って来て、早速着替えを始めた。エンペラールは、白のロムリアのTシャツにデニムと言う、神室霊華と同じ感じのコーディネートだったので、その場でTシャツとデニムを脱いで下着の上に直接宇宙服を着ることにした。タチアナは、エンペラールの大胆さに驚きつつも、自分もエンペラールと同じように下着の上に直接着ることにした。神室霊華は既に下着姿で宇宙服を着ている所である。ヴェレニエラは紺のワンピースを着ていたが、彼女もそのまま服を脱いで下着の上に直接着るようだ。そうなるとかすみだが、何やら自分より年上の大人の女性達は大胆な格好で宇宙服に着替えるのを目にして、自分だけTシャツと短パンはちょっとどうだろうと悩みだす。そして最後は、もういいやと投げやりになって自分も下着だけになって宇宙服を着用した。すると最初は少しヒンヤリと感じたが、直ぐに馴染んでしまい、今は快適そのものである。そしてこの宇宙服は前側に特殊なジッパーがあるので、脱ぎ着するのが楽である。そして後はヘルメットを被るだけなのだが、それよりも先ずは生命維持装置の装着がある。これについては玲に聞くしかないので、玲が戻ってくるのをみんなで待つことになった。
暫くして玲が離れで着替えてから戻って来たところで、その後の手順を確認した。念のため玲が各自の宇宙服の着用状況を確認しつつ、出来た人から生命維持装置を取り付けた。これは前後に分けて装着するのだが、玲が言うにはそうしないとバランスが取れないらしいのだ。そして生命維持装置を装着後、ヘルメットを宇宙服に固定して、後は背中の所に空気ボンベをセットしたら準備完了となる。結構時間をかけて装備を着用するのだが、NASAが行うミッションの場合、この数倍かそれ以上の時間と手間がかかるらしいのだ。確かに100kgを超える宇宙服を着用するのにどれだけ時間がかかるんだと想像してしまうのだが。
その後玲は、今一度各自の状態を入念にチェックした。そうしないと、万が一空気が漏れていましたでは、取り返しのつかない事態を招くからだ。それから表に出た所で、玲は母屋の前の空き地に10畳ほどの小屋を召喚した。小屋と言ってもプレハブ小屋ではなく、かまぼこ型のシェルターと言ったらいいだろうか。そして空気ボンベをシェルター内に運び込み、全員がヘルメットを手にしてシェルターの中に入って来た。そして玲からの説明が始まる。
「このシェルターは、これから密閉して
徐々に室内の空気を抜いてゼロにします。
それから月へ転移することになりますので、
そのつもりでいてね」
各自ヘルメットを装着し、すべての確認が終了した所で、背中に背負うボンベから空気が宇宙服内に注入される。問題なく呼吸が出来る状態を確認したところで、玲はシェルターを密閉して、壁にあるスイッチを押した。すると真空ポンプが作動を始める。各自、備え付けの椅子に座り、中が真空になるのを待つことになるが、少し宇宙服が膨らむ感じを受けたことで、部屋の中の気圧が下がり続けていることを実感する。何時もはこういう緊張感漂う場面で何かしら話を続けるかすみも、今は押し黙ったままである。そして10分程すると玲が
「じゃあ出発するね」
と日本語とサモナルド語で伝えた。全員に緊張が走る。そして「着いたよ」と言う玲の何やら緊張感の全くない声がヘルメット内の通信装置を通じて伝わるが、誰もそこから立ち上がろうとはしない。玲は直ぐに立ち上がり、そのままシェルターの扉を開けて先に外に出る。その後直ぐに残りの5人が立ち上がると体の軽さを体感するものの、かすみと神室霊華、ヴェレニエラとエンペラール、そして最後にタチアナの順番で外に出ると、身体の軽さよりも目の前の光景に目を奪われてしまい、言葉を失ったままその場に立ち尽くしてしまった。見渡す限り白く輝く地面と、それとは対照的な漆黒の闇に包まれた空と言うか宇宙空間。どこかのスタジオのセットに居るのではと錯覚しそうだが、少し目を横に転じるとそこには
「これって......マジ凄ないか。
あれって...地球やんな?」
とかすみは誰にともなくそう問い掛ける。だがかすみの問い掛けに誰も答えない。と言うのは目の前の地球の光景に見惚れていたからだ。青く輝く地球とはよく言った物で、黒い幕で覆われた宇宙空間にポツンとその姿があると、まさに宇宙のオアシスかと思わずにはいられない。そんな地球は、地球から見た月とは反対側、つまり地球の右側が太陽で照らされており、しかも日本列島らしきシルエットが丁度右隅の方に見て取れる。恐らく日没ならぬ月没を迎えるからだろう。ただ残念ながら、雲に少し覆われているからか、日本列島の西半分ははっきり見えない。それでも地球から見上げる満月の14倍程の大きさなので、今地球のどこを見ているのかは直ぐに分かる。
ところで玲は、エンペラールが物静かなのが気になったので、エンペラールに大丈夫かと尋ねた。しばしの間の後、「えっ、ええ、大丈夫ですよ。有難うね、レイさん」と声が返って来たので玲は安心するのだが、どうやら余りに素晴らしい光景に見惚れていたようだ。そんな時、かすみが「玲、記念写真とか撮らへんか?」と言って来たので、玲はそう言うこともあろうかと、早速自律型兼自立型のカメラと三脚を召喚し、ウェストポーチからメモリーカードを取り出してカメラに挿入した。これで静止画と動画の両方が撮れるので、先ずは地球を背景に全員で記念撮影をするのだが、早速かすみが
「この、何やろ、金ピカのシールドって
外してもええんやろ?そうせぇへんと、
顔分からへんで!」
と訴えて来た。玲は
「いやいや、かすみはどこにいるか、
直ぐに分かるけどなー」
とつい口を滑らせてしまったが、後悔しても後の祭り。その後は月面史上初となる、かすみのマキザッパによるシバキが遂行された。それよりも、短時間であればシールドを外しても問題ないと思われるので、撮影時だけシールドを外すことにした。そして無事に6人による記念撮影は終わり、その後は1人ずつ、あるいは数人で思い思いのポーズを取ったりして写真撮影は続いた。かすみに至っては、手のひらに地球を載せた格好の写真を撮ったりして楽しんでいる。あるいは、かすみはヴェレニエラや神室霊華と一緒に両手で輪を作り、その中に地球を収めたりした。その後6人は地球の重力の1/6と言う小ささを実感すべく、その場でジャンプしたり走り回る真似をしたりするのだが、そんな時かすみが調子に乗ってしまい、石にいて転んでしまった。玲は心配になり直ぐにかすみの元に駆け付ける。そしてかすみは
「まあ、宇宙服のお陰で
怪我はせんで済んだけどな、
それよりも...」
宇宙服がどこか破れてないか心配し出した。玲は布切れを召喚し、布切れを倒れた所を中心にして確認するも、布切れが揺れる様子は見られないことから、大きな穴からの空気漏れが無いことを確認した。小さい穴程度であれば、ロムリアの特殊素材の性質により、自己修復するようなので、特に心配することは無い。そして
「見た感じ大丈夫だけど、とにかく、
気を付けるにこしたことはないからね」
とかすみに忠告をしておいた。そしてこのままだと、また走ったりして転ぶ危険性がありそうなので、玲はその場に電動式のゴーカートを召喚した。そして
「近場であればこれで移動できるから、
良かったら使ってね」
と言うや、早速かすみがやって来てそれに乗り込んだ。するとエンペラールも興味津々なのか、かすみの隣にやって来て、操縦方法を教えてもらいながら乗り込んだ。そして2人でそのままどこかに向かっていくのだが、このゴーカートは最大速度が精々時速10km程なので、ぶつかっても転倒して大怪我をする心配はない。その後神室霊華とヴェレニエラも何やら面白そうと思ったのか、2人でそれぞれのゴーカートに乗り込んで先行する2人の後を追い掛けた。後に残ったタチアナは、玲の傍にやって来て、
「先生があんなに楽しそうなのを見るのは
久しぶりですよ、有難うね、レイ君」
と玲にお礼を伝えた。それに対し
「それよりも皆が楽しんでくれて
嬉しい限りですよ。でも、あれですね、
エンペラールさんとかすみって
何か似てますよね」
特に好奇心旺盛な所とか、何かに夢中になると脇目も降らず何事も全力で対応するなどは、確かに似た者同士の印象を強く受けると玲はタチアナに語った。タチアナは、その言葉に大いに同意した。
さて、ゴーカートで遊んだ4人が戻って来た所で、玲は一度シェルターに戻ることを伝えた。そこで空気ボンベの交換を行うと言うのだ。そしてシェルター内で玲は早速1人ずつ空気ボンベの交換作業を行うのだが、この作業は卓上ガスコンロのガスボンベを交換する感じで、背負っている生命維持装置の所にあるボンベを外して新しいのをカチッと嵌めるだけである。至ってシンプルにしたのは、エンペラールがサモナルドに戻ってからのことを考えたからである。後は玲の空気ボンベを交換するだけなのだが、かすみが「うちがやったるわ」と言うので、玲は少し心配になりながら「かすみ、ちゃんと交換してよね」と呟いた。すると
「はぁ?玲さん、うちのこと信用してへんのかなー」
などと言い出すが、それよりも先ずは交換が先だと思って、背負っているボンベを取り外した。実はボンベが取り外されている間は当然空気が吸えないのだが、何やらかすみはゆっくりと作業を行っている。そんなかすみにイラついた玲が
「か、かすみ、早くしてよね!」
とせっついた。かすみは「ちっ、もう、少しくらい我慢せぇ」と毒づくが、確かに命に関わるからしゃあないな、と言うことで急ぎ新しいボンベをセットした。これで漸く全員の空気ボンベを交換し終えたところで、玲は次の予定を皆に伝えた。
「じゃあ、これから月の裏側へ
ピクニックに行こうかと思うんだけど、
どうかな?」
と全員に尋ねるが、特に異論は出ないため月の裏側に向かうことになった。その時かすみが
「なぁ、玲、どやって行くんや?
ここからやと結構距離あるんとちゃうんか?
あっ、転移か?でもこんなした所、
転移するのは結構危ないんとちゃうんか?」
と心配そうに尋ねて来た。かすみの指摘は当然で、月の裏側は表側よりも沢山のクレーターが存在すると言われている。しかも月面の場合、見渡す限り真っ白な世界が広がるため、転移門から覗いただけでは、そこが平らなのか、あるいは急斜面になっているのかを見分けることは難しい。すると玲は
「それも考えたんだけどね、
やはり安全に移動できる手段を取った方が
良いかなと思って」
と言いながら全員でシェルターの外に出た。そしてその場に玲は巨大なヘキサグラム型召喚門を地面に設置した。
「ま、まさか、レイ君、
これに乗って行くということ?」
とタチアナの驚く声が耳に届いたが、玲は「はい、そのつもりですよ」と呑気に答えた。しかしヘキサグラム型召喚門が6人を乗せて耐えられるのか?との疑問を実は皆が持っていたのだが、玲が言うには
「地球上なら難しいというか
多分駄目だろうけど、
月面だと体重が1/6だからね。
すると6人乗っても、
地球で僕一人が乗る分と変わらないんだ」
と言うことらしい。かすみは半信半疑になりつつも、その召喚門に乗った。そしてかすみの後から他の4人もそれぞれ乗るのだが、なぜか全員、玲の周りに集まってしまう。玲は苦笑しながらも、
「じゃ、じゃあ、行くよ」
と言ってヘキサグラム型召喚門を浮上させた。その後「前進」を命令すると徐々にスピードを上げていく。地球上であれば、風を受けてバランスを崩す可能性があるが、月面には空気が無いため、召喚門に乗ったままの状態で進んで行く。かすみは何やら楽しくなったのか、1人で召喚門の前方に四つん這いになって移動する。そしてそのまま視線を下に向けて、何やら観察し出した。
「うわー、凄ぉ。ホンマに
結構凸凹してるな、裏側って」
と感嘆の声を上げた。その後玲を除く面々は、それぞれ四つん這いになって落ちないように気を付けながらも周りや下の景色を眺め出した。
すると暫く進んだ時、かすみが
「あっ、玲、あっこで何か光ったで!」
と指差しながら声を上げた。玲はかすみが指差すところを目を凝らして見ていたが、確かに光の加減か、偶にピカッと光るのを目にした。そこで玲はそちらに進路を変更し、少しずつスピードを落としながら高度を下げた。