召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
Go to the Moon (後編)
「なぁ、これって...張りぼてか!?」
「いやー、まあ、これが張りぼてだったら、
誰が作ったのか興味が出て面白いけどね」
「せやな~、これ、張りぼてやったら、
うちら、どこかのセットに居てることになって、
そのうち『はい、カット!』となるねんな!」
「でも流石に重力を制御する技術は
地球には無いからね!
となると、僕らはちゃんと月にいるから、
そうなると張りぼてとは違うんじゃないの?」
「せやな~、ほな、張りぼてちゃうか~」
と最神玲と物部かすみは何やら2人で漫才をしているかのように話し込んでいる。一体彼らはどうしたのかと言うと、かすみが見つけた謎の光源をってあるクレーターの中に降り立った。そして今彼らは、そのクレーターの内壁に突き刺さる謎の物体に見入っていたのだ。
「何かな~、無茶苦茶でっかいラグビーの選手が、
間違ってラグビーボールをここに蹴り込んだ
みたいやねんけど...」
とかすみは何やら訳の分からない比喩を持ち出して目の前の状況を解説するのだが、多分この説明で分からないのはエンペラール位だろうか。なぜなら、ラグビーそのものを知らないからなのだが、それよりも彼らが目にしている物、それは太陽光線に照らされて銀色に輝く巨大な楕円体の物体であり、それがクレーターの内壁に衝突して突き刺さっている姿である。
「確かに師匠の仰るように、
ラグビーボールが突き刺さった感じに
見えますけど...ちなみに、この物体の
高さは10mくらいでしょうかね?」
と神室霊華はそんな感想を漏らした。するとかすみは
「これって、間違いなくあの、
っちゅうやつやな?」
と言いながら、かすみが生まれる遥か昔に流行った「UFO」と言う歌の振り付けを真似て、頭の上で両腕を回しながら右手を頭上に掲げる、あのポーズをし出した。残念ながら玲は”かすみ、何やってんだ?”と呆れてしまうが、神室霊華は意外と知っていたようで、「くすっ」と笑ってしまった。そんな時、神室霊華は
“師匠って、何時の時代の人なのだろうか?”
と疑問を持ってしまったが、かく言う自分も何時の時代の人かと思われるのを自覚していない。とは言え、彼女達がなぜ知っているかと言うと、彼女達が子供の頃に昭和レトロブームが始まり、かすみの場合は何やら独特の振り付けと歌詞に”おもろいやんか”と言うノリで覚えたようだ。一方の神室霊華の場合は、その曲の雰囲気が気に入っていたから、と言うことのようである。
さて、かすみは丁度イントロ部分を終えた所で、これから「♪手を合わせて見つめるだけで...」と歌い始めるが、このままだとフルコーラスを歌いそうなので、玲は「かすみ、いい加減にして、これの調査を続けるよ!」と注意した。かすみも調子に乗ってしまったことに反省して「ごめん、ごめん」と謝りつつ、その物体の真下辺りまでやって来た。玲が「かすみ、気をつけてな」と声を掛けようとしたその時、かすみはその物体を見上げながら歩いていたため、何かにいてしまい、バランスを崩して前に倒れそうになる。そこで慌てて転倒を防ごうと両腕を前に出した時、どうやらその物体が支えになって転倒を防ぐことが出来た。「ふぅー、やばかった!」とのかすみの呟きが5人のヘルメットを通じて聞こえてきたが、ほぼ同時にかすみの声をかき消す位に大きな「えっ、うそ!?」と言う声が、かすみとヴェレニエラを除く4人の口から発っせられた。4人は何に驚いたのかと言うと、
「レレレ、レイさん、こここ、これって...」
とエンペラールは言葉を詰まらせてしまうが、タチアナがその後を引き継いで、
「しょ、しょ、召喚出来るの?」
とポツリと呟いた。4人が何に驚いたかと言うと、かすみがその物体に触れた途端、その物体に召喚術式が表示されたことである。それは、この物体をここにいる5人の召喚術師は何時でもどこでも召喚出来るということを意味した。そんな時、かすみは4人が何に驚いたのか理解できず、玲に
「玲、何かあったんか?」
と振り向き様にそう尋ねた。玲はまだ驚きから復帰できず目の前の光景をじっと見続けているが、条件反射的にかすみを手招きして前方を指差した。そこでかすみは玲の指差す方向を見ようとするが、残念ながらかすみの場所からは何も見えないので、少し後ろに下がってから改めて確認することにした。すると、
「うわー、まじかー!!
こんなん召喚出来るんか?」
と興奮しながらそう口にした。すると「よっしゃー、早速召喚の書に記入しよっと!」とかすみの声を聞いて我に返った4人は、自分達もかすみと同じように召喚の書に記入し出した。そんな5人の様子を黙って見つめていたヴェレニエラは、傍に居る神室霊華に皆が何をしているのか尋ねた。
「実はですね、この宇宙船と言うかUFOでしょうか、
これを召喚することが出来るみたいなんですよ」
なので急いで各自の召喚の書に術式を記入しているというのだ。ヴェレニエラは召喚術師ではないが、召喚術師が何たるかは理解している。そして彼らが召喚する物の中に、この宇宙船が登録されたということは、
「えっ、では、この宇宙船に乗ることが
出来るということなんでしょうか?」
と当然、誰しもが抱く疑問に行きつくのである。すると玲が
「まだ何とも分かりませんね。
とにかく動かす前に中に入る方法を
調べないといけませんしね」
と彼らしい慎重な答えを返した。
そして改めてその物体を眺めていたかすみだが、
「もしかして、中に宇宙人とか居てるんかなー」
と呑気な声でそう伝えた。
「師匠、どうでしょうかね。
でも確実に生きてはいないでしょうけど...」
と神室霊華は現実的な事を指摘する。するとかすみが
「ほな、転移門で見てみよか!」
と言うや、その物体の内部を転移門を使って確認し出した。かすみを除く4人の召喚術師達は、かすみの周りに集まって来た。ただ残念ながら、内部は真っ暗なため、何も目にすることは出来ない。
「ちぇっ、残念やなー。
折角宇宙人発見っていきたかってんけどなー」
とかすみの口調からはかなり残念な様子が感じ取れる。そして
「まあ、中身が宇宙人が傍に居るから、
それで我慢するか!」
と玲をディスりながらそんなことを言うかすみに対し、玲ではなくタチアナが
「あら、カスミさん、
私達は正真正銘の宇宙人よ!」
とお道化た感じでかすみに伝えた。かすみも「あっちゃー、そうでした、そうでした」と頭に手を直接当てられないため、ヘルメットに手を当ててタチアナに謝った。と言ってもタチアナもかすみに抗議した訳ではなく、玲が可哀想だから少し助け舟を出した程度に過ぎない。
その後、かすみはどこかに入口が無いかこの物体の周りを確認して歩くが、残念ながら何も見つけることは出来なかった。だがそんな時に、又もやかすみが、
「これにサインしとこっかな~」
と言いながら、バレル型召喚門で油性のマジックペンを召喚した。そしていざサインしようとするも何も書けない。
「あれ?何でマジックペン使われへんの?」
とかすみは不思議そうに手にした油性マジックペンを見つめるが、そもそも真空中ではインクが飛散したりするため、全く使い物にならない。ましてやペンキやスプレー缶はもっての外である。残念ながらかすみを始め、ここに居る6人にそのような知識はないのだが、それでも諦めきれないかすみは、あろうことか創成召喚を使ってステッカーを作り出した。そしてそのステッカーを謎の物体の表面に張り付けた。ちなみに、かすみが作り出したステッカーには、
[物部かすみ ここに参上 夜露死苦!]
と日本語で何やら昔の暴走族っぽい挨拶文が書かれていた。更に、何やら自分の所有物のように
[これは物部かすみの所有物だ。勝手に触るな!]
とこれも日本語で書いたステッカーをその下に貼りつけた。玲と神室霊華は、殆ど呆れた表情でかすみの行動を黙って見つめていた。
一方エンペラールとタチアナは、かすみが何をし出したのか把握できなかったが、玲がかすみのしていることを説明すると、エンペラールが
「えっ! それなら私も何か書いちゃおーっと」
と言いながら、かすみの創成召喚したステッカーを参考に、サモナルド語で何かを書いたステッカーを召喚した。ちなみに、玲はその言葉を理解できる訳で
[サモナルドの召喚術師 エンペラール
この地に降臨]
と何やらかすみの真似をして、だが少しだけ上品にそんなことを書いていたのを目にした。そしてこれを見ていたタチアナと玲は
“ほんと、かすみとエンペラールさんの思考って
似てるよなー”
と思わずにはいられなかった。
ところで、召喚したステッカーは、召喚解除すると消えてしまう。そしてアニュラス型やペンタグラム型の召喚門の場合、召喚後に召喚エネルギーが消費され続け、もし万が一召喚した本人が死亡したりすると、その召喚物は消滅する。ところが、かすみとエンペラールはこれをわざわざバレル型召喚門で召喚した。その意味するところは、召喚後に召喚エネルギーが消費されることはないため、召喚術師本人が死亡しても、誰かが召喚解除しない限り、そのステッカーはそこに残り続けることを意味した。そのため、
「このステッカーはこのままここに残しておくと、
うちの所有物や、言うことが明確になるねんで!」
とかすみが皆に説明するように、誰かが召喚解除しない限り、そのステッカーの文字は消えずに残り続けるのだ。そしてこのかすみとエンペラールの落書きは、後に人類に対し頭を抱えるような大問題を引き起こすことになるのだが、当の本人達は与り知らぬことである。
さて、かすみとエンペラールが落書きに満足した時、後10分程で空気が無くなりそうだと言う玲からの警告があったので、6人は最初に降り立ったシェルターに向けて転移した。だがシェルターにやって来るなりかすみが、
「そや、月の石を土産に持って帰ろーっと!」
と言うや近くに落ちている程の大きさの石を召喚した箱に納めた。そんなかすみの行動に玲が
「かすみ、それ持って行っても
ただの石にしか見られないけど、
それでも良いの?」
と尋ねた。すると
「ええねん、うちの思い出の品、
言うことやから!」
とどうやら自分が月に来た記念の石だということのようだ。すると神室霊華もかすみと同じように手近にある石を召喚した箱に入れて持って帰ることにした。そして
「確かに師匠の仰るように、
人にあげたりする訳ではないですものね!」
と誰にともなくそう呟いた。さて、残り時間も少なくなってきたので、6人は急ぎシェルターに入り、地球に転移した。そしてシェルター内に空気を送り込むまで暫し待つことになるのだが、地球にやって来た途端、体が急激に重く感じられた。
「うわー、普段はなーんも感じへん重力やけど、
こうして宇宙から帰ってくると、
結構きついねんなー」
「でもね、カスミさん、私達はこれから
もっときつい所に帰るんですよ」
とタチアナはかすみの言葉を受けてそう答えた。それに対し玲が
「うん、地球からサモナルドに行ったときは、
僕も半日以上立てませんでしたからね」
「あれはマジできつかったー」とその時のことを思い出してそう嘆いた。すると何やら一人心配し出した人がおり、
「セ、セラちゃん、私達、大丈夫かしらねー」
と不安げな表情でタチアナに確認するのだが、タチアナの経験上、この短期間であれば多分問題無いだろうということをエンペラールに伝えて安心させた。そして空気が充填された所で玲がシェルターの扉を開けると、先程の地球を飛び立った時のまま、空気充填装置などが置かれた別荘地に降り立ったことを確認した。
「これでヘルメット脱いでも大丈夫ですよ」
と玲が言うや否や、全員ヘルメットを脱いだ。そして地球の新鮮な空気を思う存分味わったところでそのまま母屋に入り、各自着替えることにした。日本の時間はまだ正午過ぎであった。