召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
異世界の大召喚術師、故郷に帰還する (中編)
この後、最神玲はエンペラールに向かって何時もの召喚術談議を始めようかと提案しようとした時、エンペラールから幾つかの案件に関して玲からの意見を貰いたいと伝えられた。その意見とは
「実はね、ロムリアで私が抱えている
大きな案件があるでしょ。
それなんだけどね~」
と、要するにロムリアにおける宇宙開発とサモナレイクの海底探索のことである。どちらも、今はロムリアに戻っているタチアナが深く関わっているのだが、現在の所は主に後者の方がメインらしい。そしてエンペラールからの相談内容だが
「宇宙開発の方はね、カスミさんのお陰で、
色々と手に入ったしね~」
と、ニヤニヤしながらこの場に居ない物部かすみを少しだけ弄りつつ、エンペラールは説明を始めた。
「後は、向こうで早速分解して
研究を進めることになるので、
そちらは問題じゃないのよ~」
と言うように、特に未知のテクノロジーの詰まった宇宙船と宇宙服(グレイ仕様)は、徹底的に調べられるという。なお、グレイ仕様の宇宙服のオリジナルはエンペラールが持ち帰るのだが、それを調査用に提供するのではなく、宇宙船と同様、召喚した物を調査に回す予定である。そしてエンペラールはこちらは問題ではないと断った上で、
「問題なのは、サモナレイクの
探索の方なのよね~」
とまさに今現在、タチアナが奮闘中の課題に関する相談である。だが玲からすると、それも解決したのではと考えてしまう。と言うのも
「エンペラールさん、深海用の潜水艇については
召喚術式が分かってますから、
あれを自律航行型に変更したりして
探索は可能になると思いますが......」
と玲が指摘するように、彼らは深海潜水艇の術式を既に得ていたのだ。一体いつどこで手に入れたのかと言うと、かすみと神室霊華が東洛総合大学の心霊サークルの夏合宿に同行すべく北海道に向かった初日に、玲はエンペラールを連れて日本各地にある様々な博物館や研究施設を見学した。なお、彼らの見学とは単に見るだけではない。隙を見て触れたりするのだが、その行為はまるで子供の悪戯のように見えなくもない。だがこれは召喚術師ならではの行為でもあり、触れることで召喚術式が表示れるため、それをそのまま頂戴するのが彼らの目的であった。
そして彼らが頂戴した品々の中には、自衛隊で使われていた戦車などの兵器を始め、深海潜水艇の術式まで含まれている。勿論そのままでは運用は出来ないのだが、玲が指摘するように自律航行型にすることで、無人探査を行うことも可能である。だがどうやらエンペラールの相談事とは、その運用面の事ではなさそうである。そしてエンペラールの暫しの沈黙の後、彼女の重い口から出た言葉が
「サモナレイクを調べて、
一体何の得になるのかしら......」
と言う、そもそもの目的をどうやら見失いかけているようで、その点についての相談をしたいということである。
もし日本で、海洋研究者が同じような疑問を呈したら、間違いなく
「散々我々の税金を使っておいて、
最後は何の得になるか分からないって
それはどういうことだ?使った分の税金を返せ!」
と暴動には至らないだろうが、国会で問題になり、最終的には組織は解体されるだろう。勿論、ロムリアでも一般市民が知ることになれば、間違いなく反対運動などが発生することは目に見えている。だがそれよりも、そもそも最初の動機は何だったのかが気になった玲は、その点をエンペラールに尋ねた。すると
「最初はね、あの広大な海の下に
何があるのか全く分からなかったのよ。
だから、ちょっとしたお宝探しの雰囲気で
計画したのよね~」
とかなり、いや、相当軽いノリで決められたらしいのだ。これには玲も返す言葉が見当たらない。かすみであれば、「何や、めっちゃオモロそうなことがあるんちゃう?と言う感じやねんな~」と同意して済ませて、その後はヒャヒャヒャと笑って誤魔化しただろう。ただし玲は、真面目な表情で先ずは日本に於ける深海探索の意義を自分なりの意見を混ぜながら説明を始めた。
「日本の場合は海に囲まれてますからね。
そこに何があるかを知ることは
重要らしいですね。例えば――」
食糧としての水産資源の調査を始め、最近では鉱物資源が海底に多く堆積していることが分かったりした事例を伝えた。そして、
「あと、日本は地震が多いんですが、
その原因が海底でのプレートの沈降が
関係しているらしいんですよ」
と流石に詳細を説明することは玲には不可能だが、そう言った自然災害を予測するためにも海底調査が必要なんだということを説明した。エンペラールは玲の説明を真剣な表情で聞き入っている。そして幾つか質問を挟みつつ、腕組みをして考え込んだりする。そんな時に玲は
「サモナルドの場合、水産資源の必要性は
そんなに高そうではないですよね。
むしろ鉱物資源の方が
魅力的なんでしょうけど......」
何か未知の鉱物資源が見つかるとか、そんなことを期待しても良いのではと指摘した。そして
「まあ、そう言う意味では、
エンペラールさんの最初の動機のお宝探しと
似たり寄ったりですかね」
ははは、と笑いながら話を締め括った。とその時、何かを思い出したのか、ハッとした表情になった玲は、
「そう言えば、海底生物って
高い水圧にも耐えられますよね。
その構造とか機構を調べることで、
自分達の生活にフィードバック
できたりしますよ!」
と海底生物から得られ知見が生活に役立つのではとも指摘した。これにはエンペラールは、目から鱗の心境で、一瞬ポカンとした表情で玲を見つめるも、直ぐに
「レ、レイさん。そう言うことは、
確かに大事ですよね~!!」
と満面の笑みを浮かべてそう答えた。そして漸く目的を持つことが出来たのか、安堵の表情を浮かべて玲に感謝した。そして漸く肩の荷が下りたのかスッキリした表情になったエンペラールは、一度自室に戻り、出発の準備を整えることにした。
エンペラールがロムリアに持って帰るものはそんなに多くはない。と言うのも、別に近所にお土産を配る習慣などはなく、勿論誰かにお土産を渡すこともない。そのため、かすみから貰った浴衣一式と、グレイ仕様の宇宙服一式、後は香辛料などの食材の素を少々である。特に食材の素については、かすみ特製唐揚げで使用する香辛料の素となる木の実は当然として、後はビールのお供に最適な枝豆も持ち帰る。そしてそのビールであるが、実はビールの原料であるホップも持って帰ることにしている。なぜホップを持って帰るのかと言うと、ロムリアではビールのようなアルコール飲料が存在しないからである。ただし似たようなアルコールはあるのだが、余りにも淡白過ぎて美味しいとは感じないのだ。そのため日本で味わったコクのあるビールを再現したく、その重要な要素であるホップを持ち帰ることにしたのだ。麦については、パクアを始めとした麦系の植物があるので、それらを使ってロムリア独自のクラフトビールを作り出そうと計画している。勿論作り方については、玲から教えてもらっている(正確には投稿動画に対し玲がサモナルド語でナレーションを入れたものである)。そしてこれらの品物を確認しつつ、整理出来た所で荷物を持ってリビングに戻って来た。その後、地球での最後の召喚術談議を玲と行って時を過ごした。