召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
異世界の大召喚術師、故郷に帰還する (後編)
午後5時少し前に、神室霊華が別荘に戻って来た。リビングで寛いでいる玲とエンペラールを目にして、神室霊華は何とか見送りに間に合ったと、心から安堵した。それから直ぐにかすみも神薙家から戻って来たところで、エンペラールが皆で露天風呂に入らないかと提案した。この4人で露天風呂に入るのは今日が最後であるので、その最後の思い出を一番リラックスできる露天風呂で過ごしたいというのだ。勿論3人は快諾し、早速露天風呂に向かった。
「こうやって露天風呂でゆっくり出来るのも
今日が最後なのよね~。何だか寂しいわね~」
と何時もは楽しく入浴するエンペラールも、思い出の詰まったこの露天風呂に愛着があるようで、遠くを見るように視線を漂わせ、その口元が微かに揺れていた。誰も言葉をかけないが、エンペラールが感じるその思いは皆共通していた。ただ、やはりしんみりとした空気を嫌う人がいるようで、
「エンペラールさん、
うちらがロムリアを訪れた時は、
温泉に案内してもらえますよね?」
とかすみはにこやかな表情でエンペラールそう尋ねた。エンペラールは、
「勿論よ、カスミさん。
その時は貸し切りにしておこうかしらね~」
などと明るい表情でかすみにそう答えた。すると玲が
「そう言えばエンペラールさん、
最初はお湯に浸かるのを怖がってましたけど、
今はもう大丈夫なんですよね?」
「そんなこと大丈夫に決まっているでしょう!
もう、何だか人生の半分を損した気分よね~」
と玲にされたことに頬を膨らませて抗議するも、そこには玲を非難する口調は全くない。むしろ昔の事を思い出して楽しむ余裕すらあった。そして4人での入浴を終えた所で、母屋に戻って来た。
いよいよエンペラールが出発する時間が近づいてきた。日本では神室霊華は留守番となり、玲とかすみがパリまで送って行く。そして現地のパリでは、タチアナの愛弟子にあたる現ロムリア社長のエレナ・ニールバウムとゲラルド・エクセルガーの両名だけが見送りに来ることになっている。本来ならロムリアの現職の大臣を見送るために、地球残留組は総出で見送りすると思われるが、エンペラール自身がそのような見送りを控えて欲しいと玲に要請していた。そのため、それこそ召喚術師だけによる見送りとなるのだった。
「じゃあ、レイカさん。これでお別れですね。
お世話になりました」
とエンペラールは日本式に頭を下げてお辞儀をした。これには神室霊華だけでなく、玲とかすみも驚くのだが、どうやらテレビを見ていた時に日本ではこういう習慣があることを知ったようなのだ。そして意表を突かれた神室霊華だが、直ぐに、
「こちらこそ、余りお構いできませんでしたが、
エンペラールさんが楽しんで頂けたのであれば、
これ程嬉しいことはありません」
と挨拶を返した。そして2人はお互いにハグをして、「じゃあ、レイさん、カスミさん。行きましょうか?」と言って3人はフランスの旧タチアナの別荘に向けて転移した。
別荘では、既にエレナとゲラルドの両名が待っており、3人の姿を目にした途端、ゲラルドが直ぐに玲に向かって
「レイさん、エンペラール先生のことを
お任せしてしまい、申し訳ありません」
と謝罪の言葉をかけるが、玲は全く気にしておらず、
「ゲラルドさん、僕はむしろ
エンペラールさんととことん
召喚術の話をできたことに、
大変有難く思ってますよ」
だから全く気にしないでくれ、と伝えた。その後エンペラールは、エレナとゲラルドと少し話をし、そして、
「じゃあ、レイさん。お願いしますね」
と玲に召喚解除を要請した。その時「あっ、これ帰すの忘れる所だった」と言って耳に付けたままの翻訳イヤホンをかすみに返した。かすみはすっかりそのことを忘れており、「わっ、うちもすっかり忘れてた。ははは」と笑い出したりする。その言葉を玲はエンペラールに伝えると、エンペラールもつられて笑い出した。そして、
「カスミさん、有難うね。じゃあ来年待ってるね」
と言ってかすみとハグをした。かすみはそんなエンペラールの耳元で「こちらこそ、有難うございました」と片言のサモナルド語で返したため、エンペラールは目を丸くしてかすみをじっと見つめた。どうやらかすみは、数日前から玲からサモナルド語を学び始めたようで、簡単な感謝の言葉を何とか口にすることが出来たのだった。そして「じゃあ、レイさん、お願いね」と再び玲にそう伝えると、玲は大きく頷いて「召喚解除!」と宣言した。その声に合わせて、エンペラールの姿は消えて行った。
「あーあ、エンペラールさん帰っちゃったね」
「うん、そうだね。じゃあ僕らも戻ろうか」
と言うことで、玲とかすみはエレナとゲラルドに挨拶をしてから日本に戻って行った。こうして異世界の大召喚術師を招いた玲とかすみの長いような短いような夏休みは幕を閉じたのだった。
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惑星サモナルドの都市国家ロムリアの大召喚術師エンペラールは、ロムリアの日付が変わる少し前に無事帰還を果たした。エンペラールは、召喚された時に滞在していた自室にて、一瞬にして空気が変化した、より正確に言うと、空気の鮮度が格段に向上したのをまず体感した。
”ロムリアの空気ってこんなに美味しかったんだ”
と改めてそう感じてしまう。だがそんな幸せな気分もその後直ぐに吹き飛んでしまった。「うわー」と叫んだのも束の間、エンペラールはその場に四つん這いになってしまった。セラスティナと最神玲から、サモナルドの重力が凄いから舐めてかからない様に忠告を受けていたのだが、それでもいざ体感すると、半端ない程の重さを感じる。丁度、いきなり背中に誰かを背負ったような感じなのだ。だがそれでも何とか、玲が召喚された時のように気を失うこともなく、四つん這いの格好でソファーに辿り着いた。そしてそのまま仰向けになって天井を見上げているのだが、そのうちうとうとし出して、そのまま眠りに就いた。だが暫くすると、入口の扉がノックされたことで、エンペラールは重い瞼を何とかこじ開けた。そして「どうぞ」と声を掛けると、ガバッと開かれたドアの向こうに愛弟子のセラスティナが立っているのを目にした。
実はセラスティナは、毎晩こうしてエンペラールの部屋にやって来ては、誰もいない部屋を眺めて肩を落としてそのまま自室に戻る、という生活を繰り返していた。だがそんな生活も今日で終わったことで、”これで安心して枕を高くして寝られる”と思ったに違いない。そしてセラスティナは挨拶もそこそこに、早速エンペラールに近づいて、
「先生、御気分が悪いんでしょうか?」
と心配そうにエンペラールを見つめる。そこで重力の影響で立てないことを伝えると、
「このままだと体に差し障りがでますから...」
と言うことで、手元に羽毛の掛布団を召喚した。ちなみに、これはかつて自分がパリに居た頃に使っていた羽毛布団である。そして羽毛もそうだが掛布団そのものはロムリアには存在しない。ロムリア市民は自分用の睡眠カプセル内で眠るため、温度調節などは不要のためだ。だが本人が睡眠カプセルに入れないような状態の時には、こういう掛布団が役に立つ訳で、エンペラールも地球での睡眠を思い出したのか、「セラちゃん、有難うね」と言ったかと思ったら直ぐに寝息を立てだした。セラスティナはそのまま「おやすみなさい、先生」と囁くように伝えて、そのまま部屋を後にした。
翌朝、エンペラールは上半身を何とか起こすところまでは回復した。だが無理して体を起こしたために、頭から血液がサッと引くのを感じて、貧血を起こしたように顔が青ざめて行く。そのため、暫くはソファーのひじ掛け部分に頭を乗せた状態で横になるしかなかった。その時セラスティナが「先生、おはようございます。ご気分は如何ですか?」と朝の挨拶にやって来たので、エンペラールは今の状態をそのまま伝えた。そしてその状態のまま、エンペラールはセラスティナと別れた後のことを彼女に語った。
エンペラールは話に夢中になったためか、少しずつだが上半身を起こせるようになってきて、今ではソファーに普通に座ってセラスティナと会話をしている。そんな時もセラスティナはエンペラールをわりつつ、
「本当に、レイ君とカスミさんとレイカさんには、
感謝しかありませんね」
と3人の若者達への感謝を口にした。エンペラールも大きく頷いて、
「彼らのお陰で全く退屈することは
無かったわよね~」
と嬉しそうにセラスティナにそう伝えた。その後はセラスティナから仕事に関する話が伝えられたが、
「陛下から、先生が戻られたら
一度王宮に顔を出して欲しいと
言われてますが......」
と少し言い淀みながらそのことを伝えた。エンペラールも一気に現実に引き戻された思いを味わうのだが、これは絶対避けて通れないと、覚悟を決めていた。
「分かったわ。多分明日になれば
歩けるようになるでしょうから、
その時にでもお伺いしますと
伝えてもらえる?」
とセラスティナに指示を出した。そしてやはりまだ疲れているのか、そのまま目を閉じて眠りに就いたので、セラスティナはエンペラールをソファーに横たえてから羽毛の掛布団をかけて部屋を後にした。こうしてエンペラールの束の間の休暇は終わりを告げたのだった。