召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
超常現象に関する国際会議 (第3幕)
午前中はこんな感じで心霊現象に関する発表とその後の質疑応答を聞いた物部かすみは、率直に行って、霊体が見える者と見えない者、あるいは感じる者と感じない者の差と言うかギャップを強く感じた。見える者からすると当たり前の事であっても、見えない者からするとそれは嘘か幻か、となるようであり、もし何らかの説明を加えようとすると、客観的な要素を加えないといけなくなる。だが残念ながら、ここで議論している者達には、その客観性を示す手立てが存在しない。それが心霊現象の恐らく唯一の問題であった。
“霊視グラスはその点理想的なんだけどなー”
とかすみは思うのだが、その霊視グラスも異世界のテクノロジーであり、しかも召喚物のため、客観性以前に信頼性に欠けることは認めている。となると、今の段階でビショップ・モルヴェインが指摘する様々な問題は、残念ながら誰にも答えを見出せないことになる。そのため、
“このまま平行線におわるんかなー”
とのかすみの懸念も現実的になってしまう。
一方でかすみは、ビショップ・モルヴェインが以外とよく心霊現象を理解しているだけでなく、霊体の本質をつかみ取っていることに驚きを示した。と言ってしまうと、何やらかすみが偉そうに見えるのだが、勿論かすみの知識は玲からの受け売りである。それでも真面目に心霊現象に対して議論しようとするなら、彼女は最適であることは間違いない。そのような感想をカフリングを通じて神室霊華とラハニに伝えるが、言葉にはしないものの、2人とも何かしら同じような印象を抱いていたようだ。そして予定より1時間程遅れた所で午前の部は終了となった。本来であれば、その後2時間程のランチタイムが設けられているのだが、結果的には1時間しか残されていない。そのため、3人は早速ランチを食べに向かうことにした。
ランチは超常現象に関する国際会議が用意した会場で取ることになっているようで、早速3人はその場所に向かった。ここでもやはりビュッフェ形式で好きな料理を手にして食べるスタイルであった。ただし朝食とは異なり、ランチは少しだけボリューミーな内容となったりしている。ある一角には、ラーメンをその場で茹でて作るということも出来るみたいで、意外と人だかりが出来ていた。と言っても玲ならいざ知らず、かすみと神室霊華とラハニは、特にラーメンに興味はないためそこはスルーした。それよりも見たこともない料理が次から次へと目に飛び込んでくるため、ついそちらに手を伸ばしたりしている。そして3人がそれぞれ料理を手にしたところで、空いたテーブルに向かいランチを堪能するのだった。
かすみはトウモロコシ粉で作られたトルティーヤに色々な具材を載せたタコスを小皿に載せて持って来ていた。見た目からして辛そうなのだが、かすみは何を載せたのか覚えておらず、
「何かな、見た目綺麗なもんを
適当に載せただけやねん」
と言いながら、トルティーヤを巻いて口の中に入れた。暫くすると、顔を赤くしながら
「うわー、辛、辛、辛ーーー。
みみみみ、水、水、水!」
と大騒ぎし出した。直ぐに神室霊華はかすみが持って来たオレンジジュースをかすみに渡して飲んでもらうのだが、それでも辛さを抑えることは出来ないようで、神室霊華のアップルジュースまで渡して飲み干したところで、涙目になりながらも漸く落ち着きを取り戻した。そんなかすみの挙動を不思議に思ったラハニは、かすみのチョイスした物を調べにビュッフェテーブルに向かった。そして直ぐに戻って来て
「カスミサンノエランダソース、
ハバネロデスネ!」
とニコニコしながらそう伝えた。それを聞いたかすみは「マジかー」と叫ぶのだが、時すでに遅しであった。
さて、漸く落ち着きを取り戻したかすみは、気を取り直して再びビュッフェテーブルに向かった。そして何やらスープを入れた器を手にして戻って来た。
「何やらスープが出てたから、
思わず手にしてしもうてんけどな――」
と言いながら、そのスープをスプーンでって口に入れた。すると
「うわー、これもあかん奴やんか!!
水、水、水!!」
と再び騒ぎ出した。神室霊華は殆ど呆れたというか、 困った妹だ と身内の困り者を目にした感じでかすみを一瞥するも、仕方なくビュッフェテーブルに向かい、水とオレンジジュースを手にして急ぎ戻って来た。そして漸く一心地ついたかすみは、
「ご、ごめんな、霊華さん」
と小さくなって神室霊華に謝罪した。そんなかすみを見ていると、何時もの元気のいいかすみが何処に行ったのか、逆に心配になって来たようで、
「師匠、余り無理して食べることはありませんよ」
と声を掛けたりする。ちなみに、かすみが持って来たスープは、どうやら風のスープであったようだ。そうとも知らないかすみは、何やら美味しそうな匂いだけで選んだようで、2人に向かって
「以後、気を付けます!」
としおらしい言葉で謝罪した。そんなかすみの態度に2人は、思わず目を見あって「ぷすっ」と吹き出してしまったのだった。
ところで、こんな騒がしいかすみに手を焼いていた神室霊華であるが、実はこの時の彼女はかすみに凄く感謝していた。と言うのも、午後一番で神室霊華の基調講演が行われるのだが、やはり大勢の前で話すとなると、流石の神室霊華でも緊張してしまう。こういう時は、心臓に毛が生えている位に堂々としたいのだが、神室霊華は生まれも育ちも超のつくお嬢様である。そのため開き直るということをけられたことは無いからか、緊張し出すとどうすれば良いのか迷うことがある。そんな時に、悪気の無いかすみの大騒ぎは、ある意味でこれからやろうとすることを一瞬でも忘れさせてくれた訳で、そのお陰もあり、今は平時と同じリラックスした状態を保っていた。もしこれがかすみの意図して行ったことだとなると、思わず唸ってしまうのだが、
“師匠がそんな高度な技を使うとは
到底考えられませんが”
と思うように、ほぼかすみの天然の技と思えてしまう。だが何れにしても、かすみのお陰で変な緊張感を持つことなく午後からの基調講演に望めるのは、神室霊華としてはかすみに幾ら感謝しても足りない位であった。そしてランチを終えた3人は、ラハニがタホマの様子を見に一度部屋に戻るということでその場で別れ、かすみと神室霊華は途中で洗面所に立ち寄ってから先程の半円形劇場に戻って行った。
かすみと神室霊華が再び講演室となっている半円形劇場に戻ってくると、ステージ上には何やら白い布を被せられた物が置かれているのを目にした。もう少し正確に言うと、イーゼルに載せられた絵画であろうか、シルエットからしてそのように見受けられる。そしてこれは、これから神室霊華が実演する時に使われる物になるのだが、そんなイーゼルの両脇には黒のスーツに身を固めたSP風の体格のいい2人の警備員が微動だにせず立っている。となると、余程高価な品物であることは想像に難くない。そんな様子を眺めていた2人はその場で別れて、かすみは最前列に座り、神室霊華はステージに上がって、何やら最終調整を始めだした。
その後開始5分前となったところでラハニの姿を目にしたかすみはカフリングを通じて、ラハニを最前列に誘導した。その時、かすみが何気なく後方を見渡すと、会場はほぼ満席となっており、更に座席の後方では立ち見が見られる。ただし最前列のかすみの隣は空席のままのため、ここに座ればいいのにな、と思ったりする。だが、かすみも何となく予想しているのだが、ここはビショップ・モルヴェイン一行の指定席のようなので、恐らく誰も遠慮して座らないのだろうと思われた。
“そんなん、遠慮せずに
座ったもん勝ちとちゃうんか?”
と思わずにはいられないが、どうやらこの分野では彼女達の存在はかなり重要であるみたいなのだ。そして開始直前になってビショップ・モルヴェインがやって来て、当然のように最前列に陣取るのだが、何故かかすみの左隣にはビショップ・モルヴェイン本人が座った。かすみはどうせ自分達の事は忘れてるやろうということで特に挨拶もせずに前方を凝視し続けていたのだが、何やら左側からの視線を感じて仕舞う。仕方なく顔を少しだけ左に向けると、案の定、ビショップ・モルヴェインはかすみの事をじっと見つめている。
”何やねんな、うちの顔に何かついてるんか?”
と疑ってしまいたくなるのだが、勿論そんなことはない(と思っている)。それでも何やら気持ち悪さを感じたかすみは、思い切って左の方に振り向いた。すると、
「カスミ・モノベさんですね?」
とビショップ・モルヴェインは英語で話しかけて来たため、かすみは「はい、そうです」と簡単な英語で答えた。そしてこの時のかすみはと言うと
何や、もしかしてあん時に売った喧嘩を
恨んでんとちゃうやろな?”
と疑心暗鬼に陥りだした。すると
「お久しぶりですね。また会えましたね」
とにこやかな表情でかすみに話しかけて来た。かすみもとりあえず無難な挨拶を交わしたところで、司会者からアナウンスが始まったので「また後で」とお互いに会話を交わしてステージに視線を向けた。先ず神室霊華の簡単なプロフィールの紹介が行われ、その後直ぐに神室霊華による基調講演が始まった。
神室霊華の講演は、聴講に訪れた人が飽きない様な工夫が随所に施されている。例えば、ステージ上に設置されている大型スクリーンには、自分の仲間を紹介するということで早速かすみの写真が大写しされたのだが、そこに写されているかすみは、ビール片手に上機嫌な様子が捉えられていたため、会場からは大きな笑いが起きた。そして本来であればそのような恥ずかしい姿をされたことで穴があったら入りたい心境となるところ、かすみの場合は、
“よっしゃー、メッチャうけてるやんか!!”
と心の中でガッツポーズをして上機嫌であった。流石は三度の飯よりもお笑い大好きなかすみである。早速その場で神室霊華に向かって親指を立てることは忘れなかった。実はこの写真のアイデアは、神室霊華ではなくかすみから出たものである。そして神室霊華とすると、この写真を使って本当に大丈夫なのか気が気でなかったのだが、会場からの大きな笑いが起きたことでかすみの目的を果たせたと、内心ほっとしていた。そして神室霊華の講演は、いよいよ本題に話しが移って行くのだった。