召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
超常現象に関する国際会議 (第7幕)
さて、3日目の講演が終了すると、いよいよ待ちに待った晩餐会である。物部かすみはこの日の為だけに頑張って来た訳で、講演が終了すると早速神室霊華とラハニ・カヤンと3人揃って部屋に戻ることにした。かすみと神室霊華は寝室に直行し、着ている制服を脱いで晩餐会で着る衣装に袖を通した。そして2人でお互いのドレスの状態を確認し、その後は少しだけ派手な感じのメイクをし、更にヘアを整えることにした。そしてかすみは神室霊華から贈られたダイヤのネックレスとイアリングを身に着け、ヒールに履き替えれば準備は完了である。
一方のラハニは、部屋に戻ると直ぐに息子のタホマの様子を確認しに寝室に向かった。どうやら丁度今、召喚したベビーシッターによって哺乳瓶からミルクを貰っていたところであった。その様子を目にして、ラハニはタホマの額にそっと口づけをした。彼女も直ぐに着替えをしてから、かすみと神室霊華の所に向かった。そして3人が揃ったところで、お互いの身だしなみを再確認した。
「やっぱあれやなー、霊華さんのその色は、
何時もの黒の雰囲気を醸し出しつつ、
でもワインレッドの華やかさもあって、
メッチャええ感じやわー。
しかもボートネックにしたおかげで、
霊華さんの鎖骨のシルエットが際立って、
またセクシーになるし、ええよなー」
とかすみは神室霊華の姿をうっとりした表情で見つめていた。そしてラハニの衣装をチェックすると、
「ラハニさんも、うちが想像した以上に
その色は似あってんなー。
しかも背中が大きく開いてるから、
こちらもメッチャセクシーやし。
絶対人妻やて思わへんで」
とラハニの姿に見惚れていた。勿論自分のチョイスが完璧であることを強調してだが。一方のかすみに対しては、神室霊華とラハニが
「師匠のその衣装の色は、
独特な雰囲気を漂わせますね。
やはりタチアナさんは、
師匠の事をよく分かってらっしゃるのですね」
「カスミサンノ、ラベンダーシルバーノイロ、
スゴクミリョクテキデス」
とかすみのチョイスとタチアナのデザインの素晴らしさに舌を巻いていた。かすみは結局“星屑の祝祭”を選んだ。色もそうだが、晩餐会の雰囲気を神室霊華から聞いていたお陰で、自分の中のイメージとしてはこれしかないな、と思ったようだ。何といってもその衣装は、全体に星のようなスパンコール刺繍が施され、光に反射して柔らかな銀色のオーラを放つように輝くのが特徴である。しかも胸元は緩やかなカーブを描くハートシェイプでかわいさを演出しており、スカートは後ろに長くトレーンを引くことで、まるで流星の尾のように揺れるのも魅力的である。
「うちやと、絶対こんなデザイン
思いつかへんからな、
やっぱタチアナさんには敵わんわ。ははは」
とかすみは自虐を込めてそんな感想を漏らした。もっとも、タチアナに勝とうなどとは十年早いどころか永久に無さそうだが、それでもそこに近づくように努力することが大事であることをかすみは十分に理解している。そして全員の準備が整ったところで、折角なのでこの姿を写真と動画に撮ろうというかすみの案で、3人は一度ベランダに出た。丁度日が沈んで1時間も経たないが、外はもう既に夜の帳が降りていた。そしてそんな夜空を背景に3人はかすみが召喚したカメラマンに思い思いのポーズの写真を撮ってもらったり、動画を撮影してもらったりして楽しんだ。そして晩餐会の開始時刻となる午後7時少し前に、3人は揃って部屋を後にした。
今宵の晩餐会はこのホテルの最上階で開催される。そこは直径60m程の円型をしたスペースで、それはそのまま建物の頂上部分と一致する。そして中央部には直径15m程の円筒形のステージが設置されているが、実はこのステージでは、アクロバットサーカスの公演が行われたりする。勿論今宵の晩餐会でもサーカスの公演が開催されるのだが、ただし一般人向けではなく、超常現象の国際会議参加者限定である。そしてステージを囲むように沢山のテーブルが並べられており、そこには世界中の様々な料理がスタンバイしていた。更にステージを除く空間は、ドーナツ状に屋根で覆われており、しかも外壁部分は全面ガラス張りとなって、そこからラスベガスの街全体を眺めることが出来る。ちなみに、その屋根の更に上、所謂本当の屋上となるが、そこには回遊式のプールがある。そして宿泊客は、そのプールに入りながらステージ上の演目を眺めるという贅沢を味わうことが出来る。だが今日に限ってはプールは使用不可となっているようだ。
かすみ、神室霊華、ラハニの順番で晩餐会場に足を踏み入れた時、会場は既にタキシードやドレスで着飾った多くの人達で賑わっていた。3人はトレイを手にしたウェイターからウェルカムドリンクのベージュ色に輝くシャンパングラスを受け取り、そのまま窓辺に進んで行った。そして全周をぐるりと囲むように設置されているバーカウンターに腰を下ろした3人は、全面ガラス張りの壁面の向こうに広がる光景に思わず言葉を失ってしまった。夜のラスベガスが、まるで光の海のように広がっており、空にはまだわずかに群青色が残り、西の地平線には燃え残った夕焼けが細く横たわっている。その下から、街のネオンが次々と灯り、昼と夜の境界がゆっくりと溶け合っていくのを目にした。足元から放射状に伸びるストリップの通りは、光の帯となって遠くまで続いている。赤、青、紫、金......巨大ホテルの看板やLEDスクリーンが競い合うように輝き、まるで地上に敷き詰められた宝石のモザイクのようだった。遠くには観覧車の輪郭がゆっくりと回転し、その光が夜空に円を描いている。さらにその向こうには、ネオンの届かない砂漠の闇が静かに広がり、都会の喧騒を縁取るように深い黒が横たわっていた。
「何やろな、この光景。真っ暗闇の中に
光の塊があるっちゅうのは、
うち、初めて見るわ」
「私も、このような光景を目にしたことは
ありませんでしたが、何というんでしょうか......
夜の海に浮かぶ光の島と言うのでしょうか......」
「デモナンダカ、コワイキガシマス」
と3人はそれぞれ感想を口にするも、かすみはラハニの言葉は言い得て妙であると感心した。もしかして、既に世界が滅んでしまい、生き残っているのはここにいる自分達だけ。そんな生き残った人達はになって本能の赴くままに快楽を享受している、そんな世紀末物の光景をつい想像してしまった。
さて、主催者の挨拶で始まった今宵の晩餐会は立食形式で行われる。神室霊華が説明するには、どうもその年の主催者の意向で正式なフルコースディナーを楽しむスタイルもあれば、今回のように立食形式のスタイルもあるという。勿論どちらが良いとかはなく、その場所と雰囲気で選ばれるらしい。ただし、今回の晩餐会に供される食事は、何やら豪華で、しかも種類が豊富だというのだ。そこでかすみは、2人を伴って料理の品定めに向かう。そんな時も神室霊華の元には引っ切り無しに誰かがやって来ては挨拶を交わしていく。かすみはラハニに
「霊華さんは、もう有名人やんなー。
うちら気安く『霊華さん』って呼ばれへんで」
とニヤニヤしながら話しかけると、
「カスミサンノイウトオリデスネ。
ワタシモ、ドクターカムロ、
トイワナイトダメデスカネ」
とラハニはこれまたニヤニヤしながらそう答えた。そんな2人に良いように弄られているとも知らない神室霊華は、何やら話が終わったのか2人の元に戻って来た。すると、
「何やらお忙しいようでんな、神室博士は」
「ワタシタチ、ドクターカムロノ
アシヲヒッパラナイヨウニシマス」
と早速弄りだした。これには神室霊華は、頬を膨らませて「2人とも、いい加減にしてください」と抗議する。だがかすみもラハニも笑って神室霊華の抗議を受ける気はゼロである。そんな時も神室霊華の元には別の研究者がやってきたようで再び話し始めるため、かすみとラハニは料理を取ってバーカウンターに戻った。
かすみとラハニが美味しい料理に舌鼓を打っていた時、神室霊華が料理を手にして彼女達の元に戻って来た。そしてバースツールに落ち着いたところで、かすみが
「霊華さん、食べる暇あらへんとちゃう?」
と心配そうに声を掛けた。それは確かにそうなのだが、神室霊華はこの晩餐会の様子を熟知しているため、特に気にすることもなく
「何時もの事ですから私はそんなに
気にしてませんけど、お二方はちゃんと
召し上がりましたか?」
と逆にかすみとラハニの事を気遣う始末である。これには2人とも苦笑いを浮かべてしまうが、神室霊華の性格からして、それは仕方ないことである。
そんなことを話している時、中央のステージ上で何やら動きがあった。かすみは神室霊華に何があるのかを尋ねると、どうやら、何かの表彰を行うという。
「毎回恒例の、ベストプレゼンテーションの
表彰ですね」
と言うことである。要するに優秀なプレゼンや心に残るプレゼンをした人を表彰すると言うもののようだ。そして司会者がステージ上で名前を読み上げて、呼ばれた者達はステージに上がって表彰される。そして一通り終わったところで、どうやら特別賞があるという。そんなことを耳にしながら3人は何やら食事をしながらお喋りをしているのだが、「レイカ・カムロ」と言う名前を告げられた時、かすみは”ん?何か霊華さん呼ばれたような......”と遠くで神室霊華の名前が呼ばれたか、と言う感じでぼんやりしていた。その時もう一度「レイカ・カムロ氏、いますか?」と尋ねられた所で、果たして神室霊華が呼ばれていることに気づいた3人は、そのままバースツールを降りて、ステージに向かった。尤もかすみとラハニは呼ばれていないのだが、やはり仲間である神室霊華に何が起きるのかを目にしたく、一緒になってやって来たのだった。勿論その様子を撮影するために、彼女達の手にはスマホが握り締められている。