召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、旧友と再会する (第1幕)
11月に入ると差間見町はどこも少しずつ赤や黄色に色づいた広葉樹が目立つようになり、秋本番の気配が色濃く感じられる。そして日中は過ごし易い日が続いたお陰で、美土路神社には多くの参拝客が詰めかけている。本来であれば、少しずつ色づき始める美土路山の紅葉を目にして楽しむことが出来たのだが、例の山火事の件以来、そのような光景を目にすることは叶わない。そんな美土路神社に再び目を転じると、普段は年配の参拝客を多く目にするところ、最近では若い男女の姿が目立つようになった。若者たちも信仰心に目覚めたのかと思われそうだが、実は彼らの訪問の目的は、絶大な人気を誇るシンガーソングライターのRINAが関係していた。と言うのも、9月に行われたでサプライズ登場した模様が動画配信されたことで、彼女のファンが美土路神社をまるで聖地のように崇めだしたからである。しかもRINAがお世話になったという2人の人物、最神玲と物部かすみに会って話を聞くこともRINAのファンにとっては今や一つのイベントと化していた。とは言え、玲もかすみも仕事があるため彼らだけの相手をしている暇はない。かと言って邪険に扱っては神社の評判にも関わるため、この辺のさじ加減が意外と難しい。そのため、お守りやお札を購入してくれた方達には、一緒にその場で写真に納まる位の対応はしようと心がけるようになった。何となくCDを買ったら握手できますのようなアイドル的商法に似ていなくもない。
だがそうすると、実は一番困るのがかすみである。かすみは何に困るのかと言うと、普段は簡単にメイクを済ませるだけで社務所に詰めていたのだが、写真や動画に撮られるとなると、ちゃんとメイクをした上で対応しなくてはならなくなる。尤も玲からすると、何時も通りで良いんじゃないと言うのだが
「はぁ?玲、お前な、女性は
顔が命なんや言うのが分からんのか!」
と怒り出す始末である。そして少し早起きをして入念なメイクをすることになるのだが、今まで簡単に済ませることに慣れてしまったからなのか、やはり長続きしなかった。だが簡単に済ませることも嫌なので、メリハリをつけるというか、ここだけはと言う所だけを押さえたメイクをする方法を編み出した。
そんな少しだけ忙しい日々を送っていた2人の所に、何時もの郵便配達人がやって来た。だが今日は何時ものようなDMではなく何やら彼ら宛てに速達があるようで、早速かすみがサインをしてその速達を受け取った。その封筒、白い厚手の封筒であり、宛先は日本語で美土路神社の住所と、玲とかすみの名前が書かれていた。だが裏を返すとそこには差出人の名前も住所も何も記されていない。そのためかすみは、何やら不敵な笑みを浮かべながら
「おやおや?また何やろなー、
怪しい招待状みたいなんが来てんけどなー」
と玲に向かってそう呟いた。2人の所に差出人不明の封筒が届くと、十中十の確率で怪しい招待状が入っていた。玲は無関心を装いながら仕事を続けているが、かすみはやはりどうしても気になるようで、「なぁなぁ、開けよっか?」と玲の耳元でそういた。玲は「仕方ないなー、開けて見たら?」と言うや否や、かすみは早速レターナイフを召喚して封筒を開けることにした。すると中には綺麗に三つ折りにされたA4サイズの紙が1枚入っているだけである。ここは何時もであれば、豪華な装飾を施したカードに勿体ぶったかのような招待状の文言が記されている筈なのだが、そのA4の紙にはシンプルにこう書かれていた。
最神玲様、物部かすみ様
拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて、突然このようなお手紙をめること
ご容赦ください。私、衆議院議員をしております
と申します。
実は、お二方に急ぎ内密な御相談がございますため、
恐れ入りますが、10月〇日(土)午後3時に
国会議事堂近くにございます衆議院の第一議員会館に
お越し頂きたく存じます。
なお当日は、下記にお電話頂けましたら、
直ぐにお迎えに上がります。
御多忙の折大変恐縮ですが、
何卒宜しくお願い申し上げます。
敬具
衆議院議員 山名昭正
電話: 090-xxxx-xxxx
追伸
旅費に関してはその場で精算させて頂きます。
「......ん?何や、国会議員からの招待状やな......
玲、何かしよったんか?」
「はぁ?それなら僕よりもかすみの方が
ありそうだけどなー」
「はぁ?何うてんやろな―、玲さんは。
うちがそんなん関わり合うことなんか
あらへんねんけどなー」
と言って、かすみは早速マキザッパを召喚して玲をしばこうとした。だがこの時の玲はいつもと違い、早速かすみに対抗すべくマキザッパを召喚した。こうなると何やらマキザッパによるチャンバラが始まりそうだが、そんな時に丁度タイミングよくと言うか、参拝客がこちらにやって来るのを目にした2人は、それぞれ元の体勢に戻って何時もの対応をするのだった。そして定時を迎えた所で、かすみが夕飯の準備をすべく先に自宅に戻り、玲は戸締りをしてから少し遅れて自宅に戻った。
玲が自宅に戻った時には既に神室霊華が何時ものように来ており、かすみの隣で夕飯の準備を手伝いながら「玲さん今晩は」と挨拶を交わした。そんなかすみと神室霊華は、やはり昼間に来た謎の招待状の話で盛り上がっているようで、
「あれな、絶対玲がなんかしよったんやで、
ホンマ」
とどうしても玲に原因があると言いたげな感じで神室霊華に耳打ちしていた。その言葉を耳にした玲は、
「いやいや、ここ最近何かあるとすると、
間違いなくかすみに原因があるからね!」
とかすみ原因説を唱えつつ、最近かすみが関係した出来事を列挙し出した。これにはかすみは呆れつつ
「玲、お前な―、そんなこと覚える暇が
あるんやったら、世間一般の常識を
もう少し勉強せぇよなー」
と玲に説教を始めた。確かにかすみの言うことも一理あり、玲は一般常識をもう少し身に着けた方が良いと、神室霊華も心の中で思っていたとかいなかったとか。それよりもこのままだと話が進まないため、
「その衆議院議員の山名って方でしたっけ、
どこかで聞いたことのある名前なんですが...」
と神室霊華は差出人の名前に何やら心当たりがあるというのだ。すると玲は、かすみに対しここぞとばかりに、
「神室さんが心当たりがありそうということは、
かすみは当然、に知っている筈だよね?」
何てったって、僕よりも一般常識に詳しい筈だもんね、と「絶対」と言う言葉を強調してかすみを挑発し出した。これにはかすみも黙っていられない。売られた喧嘩は値切らず即言い値で買い取るをモットーにしているため、
「そんなん、当たり前やろ! 衆議院議員やで。
国会議員やんか。と、当然知ってるわ!」
失礼なやっちゃな、あいつ、と玲を指差しながら傍らにいる神室霊華に同意を求めた。そんなかすみは、玲に対しては直ぐにクレームを入れるのだが、その眼が泳いでいることを見逃さない玲は
“ちっ、全く、かすみの奴、強がり言わずに
『分かりません』と言えばいいのに”
と心の中で舌打ちして毒づいていた。そのうち神室霊華が
「あっ!もしかして、少し前の与党の幹事長か
何かされてませんでしたっけ?」
と叫び出した。それを聞いたかすみは「うんうん、そんなんいたかなー」などと知ったかぶりで頷くのだが、勿論玲はかすみが何も分かっていないことを見抜いていた。そこで玲は
「かすみさーん、幹事長って何なのか教えてー!」
とやたら気持ち悪い甘え声でかすみに尋ね出した。かすみは、
”くそっ、玲の奴メッチャムカつく!”
と思うのだが、ここで分からないと言おうものなら、絶対そのことをずっと言い続けるだろう。そこで、
「か、幹事長。そんなん知ってるに決まってるやろ」
とつい口から出てしまうのだが、玲は
「かすみさーん、もしかして、
宴会の幹事の偉い人とかって
思ってないよねー?」
とかすみを下から覗き込むような感じで更に挑発し出した。だがその時のかすみは
”そんなん、宴会の幹事の偉い人の事やんか”
と言おうとしたのだが、機先を制されたため、言葉に詰まってしまった。そんなかすみのピンチを救うべく神室霊華が、
「幹事長って確か政党に配られる交付金の使い道や、
誰を選挙の候補者にするかを決める責任者
だったような...」
と何気なく思案する風を装いながらそう呟いた。それを聞いたかすみうんうんと頷きながら、
「もう、霊華さん、うちが言おうとしたこと
言ったらアカンやんか」
と僅かに口角を上げながら神室霊華にクレームを言い出した。かすみは心の中で”しめしめ”と思ったようだ。一方、クレームを言われた神室霊華は
「あっ、も、申し訳ありません、師匠。
出過ぎた真似をしました」
とかすみに向かって頭を下げて謝罪するのだが、心の中では少しホッとしていた。そして玲は
”全く、僕はこの師弟から
何を見せられているんだろうか...”
とぼやかずにはいられないのだが、勿論顔には出さず、ただかすみをじっと見つめていた。そんな不気味な佇まいの玲に対し、かすみが
「な、何や、玲。きしょいな、その顔。
ちゃんと幹事長を説明したやろ。
文句あるんか?」
と再び玲を挑発し出した。そんなかすみの態度に対し、玲ではなく、神室霊華が
「師匠、それよりも夕飯の準備をしませんか?」
と落ち着いた声でそう囁くのを耳にしたかすみは、「ちっ」と玲に向かって舌打ちしつつ、その後は黙って配膳を済ませた。そして何やらいつもとは違うピリ付いた雰囲気の中、その日の夕飯が始まった。
夕飯が終わってから、玲と神室霊華はそのままダイニングにて自分達のスマホを操作している。そして
「あっ、この人かな。山名って言うのは――」
と玲があるページを探し当ててそこにあるプロフィールを見ている。
「やはり、神室さんの言う通り、
元幹事長って肩書が出てるね。
でもこの人に見覚えは無いんだよねー」
と玲は何やら一人で呟いていた。更に玲は
「この人の選挙区って、九州の方みたいだね。
そうすると、差間見町もそうだけど、
大学のあった東洛市も全く関係ないんだよね。
うーん」
と腕組みをして考え込んでしまった。全く自分達と接点のない国会議員から、なぜ自分達が呼び出されたのか、その理由が全く分からないからであった。
丁度その時、かすみも食器を食洗器にセットし終わったようで、早速神室霊華の隣に座り、神室霊華の見つめるホームページを一緒に眺め出した。
「うちも、こんな爺さん知らんけどなー。
ちなみに今は...党の副総裁って...
メッチャ偉いんちゃう?」
「そうですね。党の総裁はそのまま
内閣総理大臣ですから、
その次の立場と言うことになりますね」
この時のかすみは、玲と同じように腕組みをして考え込んでしまった。やはりこの場であれこれ考えても前に進まない訳で、そのため今は中立的な立場にある神室霊華が
「師匠と玲さんは、如何されるので?」
と2人に向かってどうするのかを尋ねた。この時の玲は
”かすみの奴は、絶対オモロイことがあると見て、
この話に乗るだろうなー”
とみており、一方のかすみは
“こんなオモロイ話、乗らへん手はないなー。
でもなー、直ぐに賛成すると玲に何言われるか
分からへんから、少し黙っておこうっと”
と玲に対する変な意地を張ったりしていた。そんなことを心の中で考えていた2人に対し、神室霊華は2人の考えが既にお見通しのようで
“全く、この2人は、素直じゃありませんからね”
と心の中で溜息をつきつつ、仕方がない、自分から話を切り出そうということで
「やはり師匠は興味あり、と言うことですかね?」
と隣のかすみに向かって笑顔でそう投げ掛けた。かすみは「まっ、まあな」と照れ笑いして答えつつ、
「やっぱなー、このままスルーしたら、
何されるか分からへんしな―」
国家権力を握るような連中に目を付けられては敵わない、と言うことを神室霊華に向かって話した。玲もその点は同意して、かすみの言葉に大きく頷いた。そして
「まあ、後は当日向こうに行って
何を聞かされるかだね」
と誰にともなくそう呟いた。ここであれこれ考えても意味をなさないのは、かすみも神室霊華もその通りと感じていた。