召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
M M心霊ファイル14: 消えた容疑者 (最終幕)
大阪から戻った翌日の日曜日、最神玲と物部かすみは、神室霊華も交えて、別荘の玲の離れの地下室にて、運び込んだ鏡を前に佇んでいる。念のため鏡面には布を被せている。これから何をしようかと言うと、その鏡に対する降霊術を行うことにしていた。やはり作者なり持ち主なりに直接聞く方が確実だろうとの判断からだ。そして早速玲が降霊召喚を行ったところ、そこには確かに霊体が召喚された。だがその様子はと言うと、
「どう見ても、こいつ日本人ちゃうよなー」
とかすみが直ぐに指摘するように、外国人男性の霊体が現れたのだ。そこで神室霊華にお願いして英語で名前を尋ねてもらうが、全く反応を示さない。するとかすみは
「あん時と同じやな。
となると、他の言語で聞くしかないで」
と指摘するのは、昨年のこの時期に行ったデルベッキオの絵画の事である。そしてかすみは、その時と同じように自分のスマホを使って、名前を尋ねるフレーズをスペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語などで試すことにしたのだが、
「何や、こいつドイツ人か?」
とかすみが呟くように、ドイツ語で反応したその霊体はどうやらドイツ人のようなのだ。だがそうなると神室霊華はドイツ語は話せない。玲とかすみは言わずもがなであろう。するとかすみは、「ほな、ラハニさんに聞いてみよか?」と早速その場でアメリカのシアトルに住むラハニ・カヤンにチャットアプリで連絡をすることにした。今シアトルは前日の夕方を迎えた頃である。すると直ぐにラハニから返信があり、ドイツ語は何とか分かるということのようだ。そこでドイツ人の霊体に対して話を聞いて欲しいことをかすみは伝えると、直ぐにでも対応するというので、かすみはラハニの所に向かった。そしてかすみは、ラハニとタホマを連れて戻って来た所で、早速玲がラハニに対して目の前の霊体に対する説明を行った。ラハニは驚きを示しつつ、そんな危険な鏡大丈夫なのかとの懸念を示すが、鏡を見なければ問題ないため、ラハニにそのまま霊体に対する尋問を行ってもらった。その結果分かったことはと言うと――
この鏡は19世紀後半にドイツ中南部で作られた、主に降霊術に用いられる特殊な鏡だという。降霊術に鏡と言う組み合わせは一見奇異に感じられるが、現代でも霊体を映し出して対話をすることに用いられたりするという。ちなみに、ここにある鏡は、本来は鏡に映る人物に憑依している悪霊や怨霊、あるいは守護霊を映し出すことに特化された特殊な鏡だと、その霊体は語った。そして本来の目的通りに作る場合、ガラスの内側の金属板、いわゆる鏡の反射面上に目に見えない程度の幾何学模様や呪文を描くというのだ。するとかすみが、
「それって、召喚術みたいなんかな?」
と疑問を呈するが、その答えを目の前の霊体は持っていないようだ。そして本来の目的通りに機能していたのであれば、今回のような現象は絶対起きないはずである。ところが、
「何や、こいつ、
何やら実験してたっちゅうことか?」
とかすみは憤慨するが、どうやらその幾何学模様や呪文を意図的に変更したというのだ。ただし、それがどのように機能するかは本人も分からなかったらしい。ある意味出たとこ勝負で作ったようだ。その結果は、今回の事件と言うか事故を招いたのだが。
「でも、その幾何学模様か、
何か凄く気になるけどね」
「そうですね。ちなみに、召喚術では
今回のようなことは出来ないのでしょうか?」
と神室霊華は玲の呟きに対し同じことが召喚術で出来ないのかを尋ねた。すると玲は、
「創成召喚で召喚するのは難しくありませんが、
それは倫理的に禁止されている行為ですね」
と指摘した。例えば玲が創成召喚でかすみを召喚し、そのかすみを使って銀行強盗や殺人などの悪事をさせる、と言うことが可能となるからだ。ただし、それを行った召喚術師は有無を言わさずに処刑される。一方で自分が自分を召喚する場合は、少し事情が異なってくる。
「例えば、追手から逃げている時、
自分の身代わりを召喚して
相手を惑わせることは、
全く禁止されてないからね」
と言うことである。ただし、その追手は非合法な人たちと言う制約はあるのだが。そして今回のケースはと言うと、殺人が行われた点からして禁止行為に該当する。ただし、
「今回のケースは生命力と言うか霊力と言うか、
そんな召喚された人物の持つエネルギーが
増幅されている訳でしょう。
そんな機能を持たせることは、
今の召喚術では不可能だね」
と指摘した。
その後、一旦召喚を解除して鏡の作者をお見送りしてから、この鏡の処遇を決めることになった。一応大阪府警での鑑定のためと言う理由で持ち出したため、大阪府警を通じて元の場所に戻すことになる。だが、勿論本物をそのまま返却することは危険なため、玲が創成召喚した鏡を返却することにした。ところが、
「うーん、何やろなー、
相変わらずセンスあらへんなー、玲」
とかすみはその鏡にダメ出しをする。神室霊華とラハニもその鏡が何となく違うと感じるのだが、かすみのようにダメ出しせずにかすみの意見に黙って頷いた。玲は少し、いやかなりショックを受けて項垂れてしまうが、自分ではこれは完璧に近いと思うため、どこがどう違うのかが分からない。するとかすみが
「何と言うかなー、玲の召喚した鏡は、
安っぽく見えるねんなー」
との感想を口にするが、他の女性陣もかすみの指摘にうんうんと頷いた。玲の召喚した鏡には、長い年月を刻んできた物の持つ重みが欠けていると言った方が分かり易いだろうか。そこでかすみがその鏡を自分で創成召喚すると、
「こんな感じやねんで、玲。分かるか?」
と玲にドヤ顔をして迫るが、玲は複雑な表情でかすみの召喚した鏡と自分の召喚した鏡を見比べる。そして
「うーん、同じにしか見えないけどな......」
とポツリと呟くが、かすみは玲の呟きに対し何も言わず、ただ心の中で
”こりゃ、重症やな”
と呟きながら首を横に振るだけであった。そして後日、玲はかすみがバレル型で召喚した鏡を持って大阪府警に赴き、滝沢に事情を説明した。序に特殊な加工でその幾何学模様は消したことも伝え、念のためその場で鏡を数分間見続けることも実演した。そして何事も起きないことを確認した2人は、元の場所に返却しに向かったのだった。