召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、旧友と再会する (第3幕)
予期せぬ首相官邸への訪問のあったその日の夕方、最神玲と物部かすみは何時もの別荘に戻って来た。そして別荘にて2人の帰りを待ち侘びていた神室霊華を伴って、先ずは疲れを癒したく何時ものように露天風呂に直行した。
「ま、まさか、日本政府が動くなんて......」
と神室霊華は温泉に浸かりながらかすみの話を耳にして絶句した。玲とかすみの大学の同期の稲垣悟が突然身柄を拘束されて監禁されているという事実もそうだが、その彼を救出するために日本政府が直接動くということ自体、考えられないことであった。勿論、与党の大物議員であり党の副総裁でもある山名昭正の孫が捕らえられたため、政府としても静観する訳にはいかないのは分かる。そこでこういう場合、政府としては立場上、相手国に対する懸念を表明するに留めつつ、その後は相手国と交渉して対応を進めたりする。しかしあの国に関しては、恐らくそれは通用しないであろうし、今の所、政府から邦人が拘束されたという情報が出されていないことから、どうやら稲垣悟の場合、公に出来ないような理由があって拘束されたのではないかと玲は指摘した。するとかすみが
「ほな、あれやな、スパイしてたとかかなー。
でもあいつがスパイできるような感じ
せぇへんけどな」
と頭に手拭を載せながらそう呟いた。すると玲が
「でも、人は見かけによらないとも言うけどね」
と答えるのだが、でもやはりかすみの言う通り彼の性格からしてどうだろうと考えてしまう。それよりもここで話し込んでいると自分達がのぼせてしまうため、3人は一旦話を切り上げて、母屋に戻ることにした。
「ほいで、玲、何時から始めるん?」
「うーん、まあ何時でも良いけど、
遅くなると稲垣さんの身に危険が及ぶだろうから、
早い方が良いとは思うけどね」
「せやなー」
と玲とかすみは、ビールを片手に、神室霊華が用意していたさんまの塩焼きを肴にしながらそんな話をしている。今日の献立は、さんまの塩焼き以外に里芋の煮ころがしと、後は栗ご飯に味噌汁が食卓に並んでいる。すると
「ほな、明日にでも助けに行かへんか?」
とまるでピクニックにでも行かないか、というような軽い調子でかすみは玲に尋ねた。玲はビールをテーブルに置き、腕組みをして考えるが、かすみが言うようにタイミング的には明日がベストと思われる。そこでかすみの案に同意するも、ただし
「時間的には恐らく夕方か夜にしたほうが
良さそうだけどね」
と指摘した。勿論、現地に向かう移動時間を考慮してのことだが、ここに居る3人に移動時間の心配は不要である。ただし、表向き日本政府にはそのような配慮をする必要がある訳なのだが。
そうと決まると、決行は明日の夜と言うことになったところで、玲とかすみは具体的な行動を相談し始めた。するとかすみの隣にいる神室霊華が寂しそうに
「し、師匠。私も何かお手伝いしますが......」
と口にしたので、かすみは額に手を当てて
「ゴメンな、霊華さん。また置いてけぼりさせたな」
と神室霊華に謝罪した。勿論神室霊華はそんなことを気にすることもなく、むしろ自分も一緒に行動できないかと言うことを伝えたかったようだ。これには玲が驚きの表情をするのだが、玲の代わりにかすみが
「霊華さん、何時もそやねんけど、
こういうのって、命の危険があんねんで。
それでもええんか?」
と神室霊華の目をじっと見つめながらそう問い掛けた。神室霊華はかすみの目をしっかりと見つめて
「はい、それはとうに覚悟しております!」
と力強く答えた。そして何時も自分が留守番をする時、2人が無事に帰ってくることを願っているのだが、そんな時に自分の無力さに嫌気がさしてしまうと、自分の正直な気持ちを吐露した。玲とかすみは黙って神室霊華の話を耳にするのだが、こういう事の最終決定権は実はかすみにはない。そこでかすみは、神室霊華の言葉に同情を示しつつ、玲に顔を向けて玲の言葉を待つことにした。玲は瞼を閉じて腕組みをした状態で暫く動かずにいたのだが、に目を開けて
「分かりました。ただですね、
自分の命は自分で守ることは
心がけてください!」
勿論ピンチの時は皆が直ぐに駆けつけて対応するのだが、そうできない場合は自分で何とかしないといけないと指摘した。かすみはスイスでの出来事を直ぐに思い出したようで、
「せやねんな、あん時も転移不可と言うことで
玲が直ぐに応援に来てくれへんかってんけどな、
もし一歩間違ったら今の自分は
ここにおらへんかも知れへんねん」
と語りだした。それ位に自分達の命が何時どうなるか分からないことをかすみは淡々と語った。神室霊華はそんな2人の話に真剣な表情で耳を傾けながらも、それでも自分の決意は変わらないことを伝えた。そして漸く玲からの正式な許可が出た所で、早速3人は明日の晩の行動をこの場で確認することにした。
次の日の日曜日、玲とかすみと神室霊華の3人は、別荘でそれぞれが好きな事をして過ごしている。それでも夕方になって晩御飯を3人で食べていた時は、誰と会話することもなく、ただ黙々と食べていたことから、皆がそれなりに緊張している様子が伺える。玲然り、心臓に毛が生えていると言われるかすみ然りである。神室霊華に至っては、少し苦し気な表情で無理にでも食事を喉に通そうとしているようだ。そんな神室霊華の痛々しい姿を目にしたかすみは、直ぐに
「霊華さん、そんな無理して食べんでもええで。
無理し過ぎて動けないとか気分が悪くなったとか、
最悪やからな」
あくまでも普段通りのマイペースで行くべきことをアドバイスした。神室霊華はどうやら気合が入り過ぎていたようで、そのために体が硬くなって食べ物すら喉を通らないようなのだが、かすみのアドバイスに従って、そのまま食事を終えることにした。それでも何時も通りの満腹感があったため少しホッとしていたのだが、玲とかすみはと言うと、こういう事には慣れているような雰囲気を湛えながら、ほぼ何時も通りの量を平らげていた。
決行30分前になったところで、3人は今別荘の露天風呂にて寛いでいる。
「こういう時は焦ってもしゃあないからなー、
こうやって何時も通りの事をするのが
一番やねん!!」
とのかすみのアドバイスに従っているのだが、こうして露天風呂に浸かっていると、これから行うことの重大性をつい忘れてしまいがちになる。ちなみに、このままここで過ごして後日改めて決行でも、実は問題はない。と言うのも、誰かに何時やります、と言うことは伝えてないからだ。ただし、捕まっている稲垣悟からすると一刻も早く助けて欲しいだろうし、玲とかすみも早く彼を解放してあげたいと願っているため、結局は適当な所で風呂から上がって支度を始めるのだった。
「全員支度は出来たよね?」
「はい、大丈夫です」
「うちも問題ないで」
と玲の掛け声で神室霊華とかすみはそれぞれが現地に向かう格好のまま別荘のリビングで点呼を受けていた。彼らは何時ものM Mの制服ではなく、黒のつなぎ服のような格好に黒のスニーカーを履き、頭には黒の目出し帽を被っている。そして額の所には、キモイ暗視ゴーグルを装着している。流石に自分達の正体を知られたくないとの配慮が働いて、このような格好になったのだが、かすみはと言うと
「何やろな、何時ぞやの
特殊部隊っぽい感じやんな―」
と1人上機嫌にいでいた。それを見た玲は「かすみさん、余りふざけないようにね」と注意をするのは忘れない。それと念のためにガスマスクを直ぐに召喚出来るようにスタンバイさせているが、当然相手は催涙弾などを使用することを想定しているためだ。そして玲は最終確認を行うことにした。
「僕らの目的は、稲垣さんを救出することだからね。
ただ、彼の居場所が分からないため、
先ずは彼の居場所を特定することが
最優先になるけど、とにかく迅速な対応を
心がけてね」
「そんなん、当たり前やで、玲。
それとな、ちょっと皆にお願いが
あるねんけどな――」
とかすみは最初は少し不貞腐れたように答えつつ、だが直ぐに何やら悪巧みをしそうにニヤニヤして玲と神室霊華にあるお願いをした。2人はかすみの話を聞いた途端、目をカッと開いた状態で絶句した。そして
「か、かすみ、バカじゃないの?」
とかすみを完全に馬鹿にするような言葉を玲は投げつけた。何時ものかすみであれば、即マキザッパによるシバキが入るのだが、今日のかすみは何やら違うようで
「なぁー、ええやんかー、
どうせ何時もの事をすると直ぐに終わるやろ。
それやと、何かオモロないねんなー」
と何やら緊張感ゼロを漂わせながら、なおも玲と神室霊華に手を合わせて懇願する。そして遂に神室霊華が根負けし、最後は玲も押し切られる形で、それでも首を横に振りながら「どうなっても、知らないからね」と捨て台詞を吐いてしまった。
さてかすみの意味不明なお願いに付き合わされることになった玲と神室霊華だが、気を取り直して先に進めることにした。
「い、一応ね、僕らの周りには、
何時もの召喚門シールドを展開するけど、
それに頼ることなく、敵が来たらとにかく
打ち合わせの場所に相手を強制転移させること。
くれぐれも相手を傷つけたり、
命を奪うことはしないこと、いいね」
「はい」
「分かってるで」
と神室霊華とかすみは同時に答えた。今回の救出作戦では、相手の命を奪うことは全く想定していない。そのため、本来ならその場で魂を分離すれば済むのだが、その数が多い場合、全てを元に戻すことは時間的に困難になるため、強制的にある場所に転移させることを選んだ。そして日付が変わった時、「じゃあ、行こうか」との玲の掛け声で3人は現地に転移した。