召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、旧友と再会する (第4幕)
東洛総合大学の心霊サークルで最神玲と物部かすみと同期だった稲垣悟が、ある国で身柄を拘束された。罪状は明らかにされていないが、かすみは何やらスパイでもしていたのではとの疑念を持っている。もっともだからと言って彼を助けないことにはならない訳で、日本時間の午前零時、玲とかすみは神室霊華を伴って稲垣悟が収監されている施設の塀の外側にある植え込みにやって来た。実は現地の収容所は1時間の時差があり、ここではまだ前日の午後11時である。とは言え、別に1時間の違いが彼らの作戦に支障を来すことはない。そして玲はそのままその場所にを召喚して立てかけて梯子を昇り始めた。だが、途中で立ち止まり、塀の上に設置されている監視カメラの傍にある物を召喚した。玲が召喚した物、それは一体の悪霊である。しかもかなりの霊力を持つ悪霊である。そのため、傍に置かれている監視カメラには激しいブロックノイズが発生し、結果として映像はほぼ使い物にならなくなる。そしてこれが今回玲が考えた監視カメラ対策であった。一見、面倒な方法に思われるが、残念ながら彼は念力や魔法の類を持っておらず、その為彼自身が直接的な行動をとることはできないのだ。そして無事に監視カメラを無力化したところで、敷地内にも梯子を設置し、かすみと神室霊華に声を掛けて3人は敷地の中に潜入した。
ところでもうお気づきかと思われるが、ここにいる3人であれば転移ですんなり敷地内に入ることはできるし、むしろこんな面倒なことをせずに直接目的の部屋に入って稲垣悟を救出することができたりする。だがなぜか彼らはそのような事をせずに、ご丁寧に梯子を使って上り下りをしている。なぜそのような面倒な事をしているのか?実はこれはかすみの提案とも深く関係していたのだ。かすみが提案したこと、それはゲームでお馴染の”縛りプレイ”であった。ではなぜそんな面倒な事をかすみは要求したのかと言うと、
「転移したら確かに簡単やねんけどな、
それやとなーんもオモロないやんかー」
と言うのが理由であった。折角こんなワクワクするような冒険をするのに、簡単に終わらせたりするとつまらない、と言うのがかすみの根底にあった論理である。そのため嫌々ながら付きあう羽目になった玲と神室霊華であったが、特に今回初参戦の神室霊華は気の毒としか言いようがない。
さて、そんな状況で3人は、建物の陰に隠れつつ途中にあった監視カメラを無力化しながら建物の入口にやって来た。そこには当然複数台の監視カメラがレンズを入口に向けて設置されいる。この建物の構造上出入口はそこの玄関しかなく、従って玄関を見張っておけば脱獄を未然に防ぐことが出来る訳で、そのために玄関周りのあらゆる所に監視カメラが設置されていた。そこでM Mの3人は、手分けして悪霊達を監視カメラ付近に召喚することにした。その後暫く待ってから玄関に向かうのだが、この玄関扉は金属製の重厚な造りであり、しかも特殊な構造となっていた。その扉は両開きの開き戸タイプであるのだが、ドアノブはない。外からは単に扉を押せば簡単に中に入れる。ところが中から出ようとすると、ドアノブが無いためどう頑張っても中から開けることは出来ない。そんな特殊な扉を持つ玄関を抜けた3人は、直ぐに玄関ホール内の監視カメラに対して悪霊を召喚して無力化した。
さて、監視カメラを無力化してから、次にある行動に移ることになった。それはこの建物の電源を落とすことである。玲は2人にここで待つように指示してから、事前に総理官邸での打ち合わせで確認しておいた場所に向かった。それから数分後、収容所内の明かりが一斉に消えた。どうやら玲が収容所内の電源設備の破壊に成功したようだ。なお念のために、玲はその場に感電死した少し太ったネズミを数匹置くことにした。これなら、少なくともネズミがケーブルをった影響で停電したと見なせなくもないのだが、問題は玲が召喚したのがネズミに見えるかどうかであろうか。もしかすみがこの場にいたら、即ダメ出しをしていたであろうリアリティの無さが伺えるのだが、今はそんなことを気にする余裕はないし、どのみち後で召喚解除するため、玲はそのまま放置することにした。そして2人の待つ所に戻ってから、
「じゃあ、打ち合わせ通り捜索にはいるよ」
との玲の指示で3人は最上階に向かうべくエレベーターの前に移動した。
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「そう言えば、電源落としたんやな?」
「はいそうなりますね」
「...?...!?......し、しまった!」
と気づいた時には既に手遅れであった。そして3人は肩を落としたまま階段に向かった。
10分後、最上階に到着した3人は、膝に手をついた状態で荒い呼吸をしていた。しかも玲に至っては、
「か、かすみの馬鹿に付き合ったために、
これかよー!!」
とかすみを馬鹿呼ばわりして嘆いている。この時、何時ものかすみであれば「はぁ?玲さん、うちのことディスって何が楽しいんやろなー」と言いながらマキザッパを召喚して玲に一シバキ加える所、今日は何やら不敵な笑みを浮かべただけであった。その様子を目にした神室霊華は、背筋に冷たいものが走る程の恐怖を抱いたのは事実である。そして恐らく帰宅してから何かあることは間違いない訳で、神室霊華とするとその時に玲が無事でいることをただ願うしかなかった。
ところでこの収容所だが、上から見るとカタカナの「ロ」の字型となっている。そして事前に入手した情報では、この収容所の責任者の部屋が最上階のロの字の建物の中庭に面した所にあることが分かっていたため、玲はかすみと神室霊華を伴ってその場所に移動することにした。彼らが歩いている廊下は、どうやら非常用電源に切り替えられたのか、薄ぼんやりとした赤色灯に照らされている。もっとも暗視ゴーグルをつけている彼らには暗さは特に問題ない。そして両開きの扉がある場所にやって来たのだが、恐らくここがこの施設の責任者の部屋であろうと思われた。念のためかすみがドアノブに手をかけて回すも、扉が開く気配はない。
「なあ、かすみ、転移して入っても
良いんじゃないの?」
と玲はかすみにそう訴えるが、かすみは無言で首を横に振る。玲は「まったく...」とボヤキながら、ロムリア兵を一体室内に召喚して扉の鍵を開けさせた。そして3人は扉を抜けてそのまま部屋に入った。
「さて、ここに恐らく収容者に関する資料が
あると思うんだけど......」
と玲はかすみと神室霊華に向かってそう呟きながら辺りを暗視ゴーグル越しに眺めていた。その部屋には中庭に面した窓の手前に大ぶりの机があり、その上にはノートパソコンとモニターが置かれているのが目に入った。そして壁際には大型のガラス扉のあるスチール製の書棚が2つ設置されており、中にはバインダーに閉じられた書類が保管されている。何が保管されているか分からないものの、スマホの翻訳アプリで写してみると、どうやら過去の収容者の記録などが保管されているようだ。ちなみにもう片方の壁際には書類等を保管するスチール製のキャビネットが複数台置かれているのを目にするが、やはりまずはノートパソコンを立ち上げてみることにした。だが残念ながら、当然ロックが掛かっている。しかも
「言語が全く分からへんからなー。
仮に入れたとしてもどうやって
調べるんや?」
とのかすみの指摘にもあるように、ここにいる3人は残念ながらこの国の言葉は分からない。すると神室霊華が
「こういう所って、恐らく
収容者リストや身元情報などの重要な情報は
電子化されていても不思議ではないのですが――」
もしかして本人の身分証明書などは別途保管されているのでは、と指摘した。確かにそのような物はパソコンに入る筈もなく、そうなると彼らの視線はある方向に向かうのだが、
「この中にそれが無いか調べてみようか?」
との玲の合図で壁際に設置されているキャビネットを調べることにした。だが当然鍵が掛かっている。
「ほな、机の引き出しに鍵があるんちゃう?」
と言うや、かすみは机の向こう側に再び回り込んで引き出しの中を探し出す。すると一番上の引き出しの中に鍵束を見つけたかすみは、早速それを手にしてキャビネットを開けられないか試した。
「おっ、これ開いたんちゃう?」
とのかすみの反応を見て玲はそのキャビネットを開けると、確かに鍵が開いていることを確認した。そしてすべてのキャビネットを開けたところで、3人は各キャビネットから稲垣悟に関する資料を探すことにした。