召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
最神玲と物部かすみ、旧友と再会する (最終幕)
旧友の稲垣悟の身柄が拘束されている収容施設にやって来た最神玲と物部かすみと神室霊華の3人は、今その施設の責任者の部屋にて、稲垣悟の収容場所に関する手掛かりを探している。そして探し始めて10分後、「あっ、これちゃう?」とかすみが何かを探り当てたようだ。玲と神室霊華がかすみの元に近づいてその資料を確認すると、そこには学生の頃よりも少ししさの増した稲垣悟の顔写真が貼られたパスポートを見つけた。他には彼の財布とバッテリー切れのスマートフォン、それと恐らく逮捕された当日に見ていたのか、映画のチケットの半券や適当に折り畳まれたコンビニのレシートなども納められていた。そして
「このフォルダーについている番号が、
恐らく管理番号でしょうか?」
「そうですね。それとその後の括弧の中の番号って
......もしかして収容されている部屋番号とかかな?」
と神室霊華と玲は、ファイルボックスに貼られている番号を目にしながらそう呟いた。最初の12桁は管理番号っぽい印象を受けるが、後半の括弧内の数字[7-368]の意味はよく分からない。そこで玲は
「ちょっと、確認してみようか」
とその場に転移門を設置した。するとかすみが、「玲、分かってるやろな」と玲を眼光鋭く睨み付けて来たのだが、玲は転移する訳ではなく、
「そ、そんなの分かってるよ。全く。
これで階下の部屋の様子を
見るだけじゃないかよ!」
と不貞腐れながらかすみに抗議した。かすみは怒った表情のまま「ふん」とそっぽを向くが、そんな2人の何時ものやり取りに苦笑を禁じ得ない神室霊華が、玲に向かって「何か分かりましたか?」と優しく尋ねた。すると玲は
「ちょっと薄暗くてよく分からいけど、
どうやらホテルの部屋っぽく、
階数と3桁の部屋番号のプレートが
扉に貼られているみたいだね。
......何だろうね、ここをホテルのような感じにして、
少しでも滞在させやすくしているのかなー」
と玲は変な事を想像するのだが、確かに無料で食事が付き、しかもセキュリティは完璧、更にある条件を満たせば無料で泊まれるであることは間違いない。ただしその条件を満たすと、自由に出ることは叶わないのだが。何れにしても、収容されている部屋は分かったので
「ほな、さっさと行こ......」
とかすみが2人に声を掛けようとするがその言葉が尻すぼみになってしまった。どうやら廊下の外が何やら騒がしくなったのを感じたからである。玲は確認のため転移門で外の様子を見てみると、
「うわー、見つかったんかな?」
と素っ頓狂な囁きをする。と言っても、電源は落としているため監視カメラが作動しているとは思われない。念のために、遅まきながら部屋の中を確認すると、部屋の角の天井付近に監視カメラが設置されているのを目にした。ただしその方向は机を含む窓の方向に向けられている。
「何だろうね、この監視カメラ。
普通だったら入口の方に
カメラを向ける気がするけど......」
と玲は何気なく呟くが、
「あっ、もしかして、あれちゃう。
ここの責任者を監視するためとかなんとかな」
「そうですね、この国ならありそうですよね。
何といっても多額の賄賂を受け取る高官や
政治家が沢山いますからね」
とかすみと神室霊華が各自の意見を述べあった。確かに、そう言った連中を捕まえては刑務所送りにしていることは、日本のニュースでもよく取り上げられているのは確かである。それよりも外の連中はどうしてここに来たのかが解せないのだが、
「もしかして、安全確認の為に
やって来たのではないでしょうか?」
と神室霊華が指摘するように、重要な部屋などを見回っているだけではないかというのだ。だが
「何れにしても入ってくるんちゃうの、玲。
どないするんや?」
とかすみは別段慌てることなくそんな感想を口にした。かすみを始め、ここにいる3人には、今もそうだが緊迫感は存在せず、何時も通りの雰囲気を漂わせていた。そして外にいる刑務官が扉の鍵を開けようとしたところで、玲はその場に転移門を設置して、この街の郊外に廃墟として残るショッピングモールに彼らを強制的に転移させた。そして静かになったところで3人は部屋を出ようとしたのだが、その時、玲は稲垣悟の所持品の事を思い出して再びキャビネットの所に戻った。そして念のために全ての物を手にして戻って来た時、かすみが、
「そのチケットの半券とレシートは
いらへんとちゃう?」
と指摘した。確かにそのままゴミ箱行きであろうが、
「いやー、分かんないよ。彼の事だから
もしかしてしっかり家計簿付けていたりしてね」
と玲は彼の几帳面さからそのように想像した。そして一応、彼の持ち物は全て持ち帰ってもらいたいとも依頼されているため、たとえゴミであっても置いておく訳にはいかないと、玲はかすみにそう伝えた。一方かすみはと言うと、最早その件に興味はなく、「玲の好きにしたらええんちゃう」と投げやりに答えた。と言うことで、玲は一度自宅の自室に向けて転移門をその場に設置し、稲垣悟の持ち物を自分の机の上に置いた。これらの品々は後で彼を国外に連れ出した時に返す予定にしていた。そして3人は改めて部屋を出て、そのまま階段を使って7階に向かった。
さて、玲とかすみと神室霊華の3人は、7階にやって来た。そして後は問題の部屋[7-368]を見つけて稲垣悟を連れ出せばほぼ任務完了となる。ところが
「な、なんなん、これ......」
「ははは、そんなこと普通やるかなー」
「うーん、脱獄対策とかなんでしょうか......」
3人がある部屋の前で口々にそう呟くのは、出鱈目に設置されている部屋番号を目にしたからである。例えば今彼らが目にしている部屋は[7-115]とあるが、その右隣りは[7-114]でもなく[7-116]でもなく、[7-013]とあるのだ。しかもそこだけではなく、周りのどの部屋の番号もバラバラである。これは一体どういうことなのか?
「やっぱ、霊華さんが言うように、
脱獄対策なんかなー。
尋問するために連れ出して、
戻ってきたら違う部屋に戻すとか......」
「確かにそれなら、脱獄対策としては
簡単かつ効果的ではあるよね。
でもなー、ここから脱獄って、
僕ら以外は不可能だと思うけどなー」
とかすみと玲はそんな感想を漏らした。それよりも、こんな所で呑気に話し込んでいる時間はない訳で、早速神室霊華の
「それよりも、早く問題の部屋番号を
手分けして探すことにしませんか?」
との提案に従って、二手に分かれて探すことにした。
途中で出くわした刑務官に対しては、廃墟と化したショッピングモールに強制転移させたりして探し回ること十数分、玲が漸く[7-368]と書かれた部屋を見つけた。直ぐにその場に転移門マーカーを設置してかすみと神室霊華を呼び寄せた。勿論走ってであるが。
「か、鍵って開いてんかな―?」
とかすみは息を切らせながらそう呟き、早速その部屋の鉄製の引き戸を開けようとするもビクともしない。そこで玲は直ぐに手元にある物を召喚した。
「玲、これって、あの回転する奴やな?」
とのかすみの問い掛けに対し玲は黙って頷きながら、扉の高さほどのヘキサグラム型召喚門を回転させて扉と壁の接触部分を強引に切断し始めた。すると1分もしない内に貫通したようで、玲は召喚を解除してから扉を開けて中に入った。そして
「稲垣さん、最神です。迎えに来ましたよ」
と声を掛けるが応答はない。だがそこは無人の部屋ではなく、暗闇の中ベッドの上でひざを抱えた状態で座り込んでいる人物が暗視ゴーグル越しに見えることから、稲垣悟がそこにいることは間違いない。そして玲が彼に近づこうとすると、
「く、く、来るなー。
おおお、俺、俺は何も知らん!!」
と大声を出しながら日本語で怒鳴りつけてきた。どうやら連日の過酷な尋問のせいで、精神がおかしくなっていたものと思われる。
「全く、酷いな、ここの連中のすることは!」
とかすみは怒りを込めてそう呟くが、それよりも彼を連れ出すことを優先させないといけない。だが、
「この状態で連れ出してもやな、
途中で暴れたりされたらやばいんちゃう?」
とかすみは玲にそう問い掛けた。玲もその点は心配するのだが、勿論その場で転移すれば何も問題はない。だがかすみの縛りプレイのためそれは出来ない。そこで玲は一旦稲垣悟の魂を分離し、静かになった体を召喚した車椅子に載せて運ぶことを提案した。かすみも神室霊華も特に異存は無いため、それで進めることになったのだが、神室霊華が
「移動させている肉体に対して
魂ってついて来るんでしょうか?」
と玲に尋ねた。
「はい、それは問題ないですよ。
そもそも完全に分離している訳では
ないですからね」
と言うことのようで、実際に魂を分離された稲垣悟は車椅子でぐったりしているように見えるが、彼の魂はそのまま肉体と一緒について来ている。そうと分かれば、後は彼を外に連れ出すだけなのだが、
「でもなー、エレベーター
動いてへんかったらどないしよっか?」
とかすみは呑気な事を口にした。玲は”お前が何とかしろよ”と口にしそうなところをグッと堪えている。するとかすみの願いが通じたのか、廊下が何やら普通に明るく照らされた。どうやら電力が回復した模様だが、
「ほな、エレベーター使えるから、
それで降りよっか」
とかすみは暗視ゴーグルを外しながら再び呑気な口調でそう伝えた。玲は首を横に振りながらも、仕方なく車椅子を押してエレベーターホールに向かった。
3人がエレベーターを待っていると、「ピンポン」とクイズに正解した時のBGMのような音を耳にした。そしてエレベーターの扉が開かれると、そこには銃を手にした2人の刑務官を目にした。玲はすかさずエレベーター内の刑務官を全員転移させた。と同時にかすみはエレベーター内の監視カメラの傍に悪霊を召喚した。そして一行はそのままエレベーターに乗って階下に向かった。
1階に到着するまでに途中の階で2回ほどエレベーターが停止したが、その時もかすみか神室霊華が外で待つ刑務官を転移させて事なきを得た。そして1階に到着すると、当然ロビーには複数の刑務官が屯していた訳で、それを目にした玲は直ぐに彼らを廃墟と化したショッピングモールに転移させた。これで彼らを邪魔する存在はいなくなったのだが、車椅子を押しながら建物の玄関に向かうと、中から開けることはできないあの特殊な構造の扉が一行の前に立ちはだかった。すると玲は、建物の外にロムリア兵を1体召喚し、それに押し開けてもらうことで無事外に出ることが出来た。そして一行はそのまま敷地のゲートに向かいつつ、ゲート付近にいた刑務官達を強制転移させて無事外に出ることに成功した。
その後は、かすみの縛りプレイは無くなったため、近くの植え込みに向かい、玲は直ぐにその場でどこかに電話を入れた。それから玲は稲垣悟の魂を元の肉体に戻してから、神室霊華を除く3人である場所に転移で向かった。神室霊華に関しては、これ以上関与すると彼女の今後の仕事に支障を来しかねないとの玲とかすみの判断により除外されたのだが、神室霊華も彼らの心遣いを十分に理解しており、「皆さん、気を付けてくださいね」と言葉をかけてから何時もの別荘に転移した。今の時刻は日本時間の月曜日の午前1時過ぎであった。