召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
賑やかな新年会 (前編)
年が明けた美土路神社は、昨年同様、大勢の初詣客で賑わっている。ちなみに昨年は、美土路神社の御利益を授かろうと、絵馬やだけでなく火除け札やお守りを求める初詣客で賑わっていた。そしてそういった初詣客のほとんどは、40代、50代以上の年配の人達で占められていた。ところが今年はと言うと、何やら初詣客がかなり若返っている。明らかに10代の中高生から、20代後半くらいまでの男女が多く初詣に訪れている。と言うのも、これは紛れもなく、昨年の9月に行われた美土路神社の祭が関係している。それは、若者達に絶大な人気を誇るシンガーソングライターのRINAが美土路神社でサプライズ公演を行ったためであり、美土路神社は彼女のファンの間では聖地の様に奉られているのだ。そして、その恩恵と言うか影響をまともに受けていたのが、社務所の主とも呼ばれる最神玲と物部かすみの両名であった。
そのように、例年とは若干異なる雰囲気の美土路神社も、正月三が日を過ぎると、少しずつだが何時もの状態を取り戻してくる。そしてやって来た週末。玲とかすみが待ちに待った新年会がM Mの別荘で今年も開催される。前日の晩から泊まりに来ていた2人に加え、今は神室霊華も加わってその準備に余念がない。今年も、神室霊華の実家の家から、高級食材を頂戴したようで、加えて有名シェフによるえ済みだったりするため、3人は出来上がりを待ち遠しくて仕方ないのだった。
そして何とか3人で手分けして別荘の正月飾りを終えたところで、かすみが早速RINAを迎えに行くことにした。「ほな、行ってくるな」と言ってかすみはRINAの自宅に転移していった。そして直ぐにRINAと猫のおもちを伴って戻って来た。その後直ぐに「ほな、今度はラハニさん迎えに行ってくるわ」と言って再び転移していった。そして玲は、早速何時もの様ににくたまを召喚すると、おもちは大好きなにくたまに会えて嬉しそうである。そしてにくたまを連れて、別荘内の探検に向かった。
そんなおもちの様子を微笑ましく見つめていたRINAは、リビングの一角で柔らかな火がぱちぱちと音を立てる暖炉を目にして、少し驚いていた。そこでRINAは玲と神室霊華に向かって新年の挨拶をしつつ、この暖炉が本物なのかどうかを尋ねた。2人とも同じようにRINAと新年の挨拶を交わしながら
「RINAさん、これはイミテーション
とかではなく本物だから、
近づき過ぎると火傷しますよ」
とにこやかな表情で玲が代表してそう答えた。RINAは暖炉のある家に憧れがあったため、本物の暖炉を目にして少し興奮し出した。そしてRINAが暖炉をじっくりと調べていたその時、かすみがラハニ・カヤンを連れて戻って来た。勿論、ラハニの息子のタホマも一緒である。そしてラハニは着いて早々、何時もの様に「ワタシ、オンセンニハイリタイデス!」と宣言するので、早速全員で新春の露天風呂を楽しむことにした。
露天風呂に通じる渡り廊下で、RINAは「わっ、ここって、雪が積もってるんですね!」と驚きの声を上げた。実は数日前から雪が降りだしており、今は少し落ち着いたものの、それでも数十センチは積もっている。すると少し遅れてやって来たかすみが、
「こういう日はな、これが美味いんよ」
と言いながら、両手には雪見酒セットとも言うべき日本酒の入った2本とお猪口を4つ載せたお盆を手にしている。徳利の中にはかすみの大学時代の親友であるの実家から贈られてきた榎原酒造の冷酒が入っているのだが、かすみのこの手際の良さに玲は苦笑を禁じえなく、早速かすみに向かって
「かすみ、用意早すぎだろう!」
とツッコミを入れていた。もっとも当のかすみは、そんな玲のツッコミを無視して、ルンルン気分で脱衣所に向かった。
「うわー、めっちゃ素敵な光景ですね」
「コンナロテンブロハイルノ、ハジメテデス」
とRINAとラハニは露天風呂から見える白一色の光景にハイテンションとなって感嘆の声を上げた。時折近くの山の杉の木立に積もった雪が風に舞う光景を目にすると、まるで雪国の温泉に来ているように錯覚してしまう。そして何時もの様に神室霊華が仕切りを開けると、隣の湯船では玲が同じように雪景色に見惚れている。そして何時もの様に、「なんや、玲も何か感じてるんか?」とほぼ喧嘩腰にかすみが指摘するも、玲は「あー、はいはい」と適当にあしらう始末。何時もならこのような不遜な態度を許さないかすみだが、今日は新年であり、大勢で楽しむため「ちっ、全く。風流を知ってから堪能しぃや」との捨て台詞を吐くだけに留めた。その後女性陣は、かすみが持ってきた雪見酒を味わいながら、雪の中の露天風呂を堪能した。ちなみに玲は、自分でお猪口を召喚して、雪見酒を味わった。
雪見酒と雪の中の露天風呂を満喫した5人+ベビーは、そのまま母屋に戻らず、体から湯気を上らせたまま着替えをするために各自の離れに向かった。ただしかすみは、RINAを呼んで、自分の離れに連れてきた。
「RINAさん、これな、
うちからのお年玉やねん」
と言ってかすみの部屋の机の上に置かれていた大小様々の大きさの箱をRINAに手渡した。RINAは「開けていいですか?」と尋ねるので、かすみは「もちろん、開けてみて!」と促すと、早速一番大きくて薄手の箱を開けてみた。すると、
「うわっ、まじ、やっば。
これって、着物ですよね」
とRINAは目を輝かせながら、箱の中の着物に見入った。だが直ぐに、
「これって凄く高いですよね。
こんなのもらって良いんですか?」
と心配になった。かすみは「そんなん心配せんでもええで。皆にもちゃんとあげてるからな」とニコニコしながらRINAに伝えると、RINAは「有難うございます」とかすみに頭を下げてお礼を伝えた。だが直ぐに俯き加減で、
「でも、私、着付けとか分からないんですが......」
と首を横に振りながら少し残念そうに呟いた。だが
「そんなん、心配せんでもええで。
うちも着付けとか分からへんけどな――」
召喚術で着付け師を呼び出せるから問題ないことをかすみはRINAに伝えた。するとRINAは
「そう、そうですよね。うんうん、
召喚術師って、マジで凄く便利ですよね」
と目を輝かせながらかすみにそう伝えた。こういうことは召喚術で解決できるということに、どれだけ彼女たちは助かっているか、改めて実感するのだった。ただし、RINAの力ではまだ着付け師を召喚できるほどの召喚エネルギーを持っていないため、かすみが代わりに召喚した。そして、かすみは
「何れはRINAさんもレベルアップしたら、
こんな風な感じで着付け師とか
召喚できんねんけどな――」
今は無理せずかすみが召喚した着付け師で我慢してほしいと伝えた。なおかすみは、ついでに振り袖姿に合う髪型にするための美容師も召喚した。そしてRINAはかすみにお礼を述べ、早速手にした着物を手にし着付け師達を伴って自分の離れに向かった。
30分ほどしてRINAがかすみの離れに戻って来た時、かすみはRINAの姿に見惚れてしまった。かすみが選んだ彼女の振袖は、銀を溶かしたような淡い藤色だった。袖に描かれた白梅と霞の文様が、冬の光を受けて静かに浮かび上がっている。そして銀藤色の振袖に合わせたのは、白金の袋帯だった。雪輪と霞が織り込まれた帯は、光を受けるたび淡い輝きを帯びる。その姿は、正月の華やぎの中でもどこか別の空気をっている印象をかすみは受けたのだ。
「ホンマ、RINAさんだからこそ似合う
色合いやねんな、うんうん」
とかすみは、自分が選んだ着物に満足しながら感想を伝えた。そこで既に着替え終わっているかすみと一緒に母屋に足を運んだ。
母屋のリビングでは、既にかすみとRINAを除くメンバーが着替え終わって談笑している。ちなみに、ラハニの息子のタホマは、赤ちゃん用の着物に着替え済みである。そんなタホマの姿を目にして、
「タホマちゃんも何だか頼もしい感じですね。
そういえば、ラハニさん、
タホマちゃんはハイハイはまだですよね」
「ハイ、レイカサン。タダシ、
ハイハイスルポーズ、シマス」
と神室霊華とラハニがタホマのことで何やら話しているが、タホマがハイハイまでは出来ないものの、どうやら四つん這いの格好は出来るようになったらしいのだ。そんな2人の会話を玲は不思議そうに聞いているのだが、残念ながら玲と言うかカーンフェルトには兄弟がいないため、赤ちゃんの行動がどういうものなのかを理解することが出来なかった。そんな3人の所に、かすみとRINAが戻って来た。そしてRINAの着物姿を目にした神室霊華とラハニは、その美しさに感嘆の声を上げた。
「流石は師匠ですね。ちゃんと全員が
被らないだけでなく、更に玲さんの
黒羽二重の着物の隣だと、何でしょうか......
RINAさんだけ冬の朝に感じる静かな明るさ、
そんな感じを受けますね」
と神室霊華は玲との対比を用いて、そのように表現した。これにはかすみは、予期しない感想をもらったためか、目が点になってしまう。だが確かに、神室霊華の言う通り、玲の黒羽二重姿が隣に立つと、その装いはまるで雪明かりのように際立って見えてしまう。すると
「ほな、あれやな、玲は今日一日、
RINAさんの引き立て役をしてもらうっちゅう
ことやな」
と早速玲をいだす。玲は苦笑いをするも、直ぐに
「まぁ、かすみの引き立て役じゃないだけ、
すごーく、すごーく、ましなんですが!!」
とかすみに対し嫌味を言った。すると、売られた喧嘩は値切らず即言い値で買い取るかすみとすると、早速玲に噛みついた。
「はぁ?何やろな、玲。
うちに喧嘩売ってんとちゃうやろな?」
と言いながら早速マキザッパを召喚した。すると玲もかすみに対抗すべくマキザッパを召喚した。新年早々、マキザッパによる対決が今始まろうとしていたが......
「2人とも、新年早々チャンバラごっこですか?
もう大人ですから少しは自重されては?」
と神室霊華による的確かつ鋭い指摘を受けた玲とかすみは、れながら神室霊華に向かって「ごめんなさい」と謝った。ただしかすみは、玲に鋭い視線を向けて、「覚えておけよ!」との捨て台詞は忘れなかった。全くかすみの負けず嫌いには困ったものである。
さてようやく落ち着きを取り戻した別荘内では、まずは恒例の記念撮影をすることになった。丁度外は雪が止んでいるため、雪景色をバックにかすみが召喚したカメラマンによってスチールと動画の撮影が行われた。振り袖姿のRINAがスチール撮影をしていたとき、かすみが
「RINAさん、それ宣材写真にしてもええで!」
とRINAを少し弄るような感じでそう伝えた。だが実はRINAは、 これって宣材写真にしてもいいよな と思っていたようで、かすみから改めて指摘されると、つい
「そうですね、ちょっと考えてみますかねー」
と照れながらそう答えた。その後各人、あるいは数人でのスチール撮影がされるのだが、神室霊華とラハニとRINAから、玲とかすみの2人で撮影したらどうかと促されたため、仕方なく2人バージョンを撮ることになった。すると早速RINAが
「なんか、若旦那と若女将、
と言う雰囲気に見えるんですが......」
と感想を口にした。そこには少しだけかすみを弄る気持ちが入っているのだが、神室霊華とラハニも、RINAの感想に対し大いに頷いて同意した。するとかすみが、
「はぁ?RINAさん、それやったら、
美人の若女将ととちゃうの?」
と自分を美化しつつ、相変わらず玲をめるようなことを口にした。これには全員苦笑を禁じえないのだが、かすみがそれで納得するのであればと言うことで、特に誰からも異論が出ることなく、撮影会は終了した。この後は、恒例と言うか、昨年も大好評だった餅つきが行われることになる。