召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
月で餅がつけるか? (第3幕)
さて、最神玲とRINAが外に出ている間、物部かすみは何をしているのかと言うと、彼女はキッチンにいた。そして何かを準備しているようだが、隣では神室霊華が心配気な表情を漂わせつつかすみを無言で手伝っている。そしてラハニ・カヤンは息子のタホマにミルクを飲ませながらそんな2人を更に不安気な表情で見つめている。一体かすみは何をしているのかと言うと――
「師匠、本当にされるんですか?」
「そやで、そんなん当たり前やし。
折角あっこに行くんやったら、
これは絶対せなあかんやんか!」
と師弟で何やら話し込んでいる。30分ほどすると、コンロから何かが蒸しあがったのか水蒸気が勢いよく立ち上る。そして
「よっしゃ、これで準備完了やね」
とかすみは嬉しそうに呟く。すると玲が外から戻って来て、「こっちの支度は出来たよ」と室内に向かって声を掛けた。するとかすみも「こっちも準備できたで」と言うのだが、玲は
「かすみ、本気でやるのか?」
と神室霊華と同じ質問をかすみに投げた。かすみは「やるといったら、絶対にやるで!」と少しキレ気味にそう訴える。玲は首を振りながら再び外に出た。
その時RINAはと言うと、まだ外にいた。そして上空を見上げて小指の爪の先端のような薄さの月を眺めながら
本当に、あそこに行くんかなー。
行ったらどうなるんだろうなー
と考えていた。最初は疑心暗鬼だったのだが、このグレイ仕様の宇宙服を着ていると、露出している頭の部分は確かに空気の冷たさを感じるものの、宇宙服に覆われている部分は全く冷たさを感じず、快適な状態にあった。だとすると、やはりこれを着て月に行くというのは荒唐無稽な話ではなく、現実にあり得るんだと考えると、途端に月面に佇む自分の姿を想像してしまうのだった。そんな物思いに耽っていたRINAの元に玲が戻って来て
「RINAさん、準備できましたから
いよいよ出発しますよ」
と声をかけてきた。RINAは、少し緊張気味に「はっ、はい、わかりました」と返事をして、一度室内に戻った。そしてグレイ仕様のヘルメットを手にして戻ろうとしたとき、彼女の足元で「にゃー」と鳴きながらおもちが擦り寄って来た。RINAはおもちを抱き上げて
「おもち、これからちょっと遠い所に行くけど、
直ぐに帰ってくるから待っててな」
と声を掛けた。すると何やら真剣な表情で「にゃー」と鳴くのだが、傍にいたにくたまが
「自分も連れていけ、と申しております」
とおもちの言葉を通訳した。すると傍にかすみがやって来て、
「流石に猫用の宇宙服は用意してへんからな、
また今度何か考えとくけどええかな?」
と声を掛けた。にくたまがそれを通訳しておもちに伝えると、おもちは少しだけシュンとした表情を見せた。やはりRINAと離れるのは寂しいのだろう。すると玲が再びリビングに顔を出して「どう、準備できた?」と尋ねるので、かすみがおもちのことを玲に話した。すると
「うーん、流石に猫用の宇宙服は
直ぐには無理だけど、例えば――」
と言いながら少し考えてから何やら不思議な乗り物を創生召喚した。それは透明な強化ガラスで出来た肉まんのような形をしている。その饅頭の底の4カ所にゴム製の球体が埋め込まれており、それが丁度タイヤの役目を担っている。そして中にはおもちが入って自由に動くことが出来るようで、動き回る方向に従ってゴム製の球体が回転し、その方向に進めるというのだ。更に
「一応、底のところに少し小さめの空気ボンベと
念のためにトイレ機能を設置したけど、
これでどうだろうか?」
とRINAに確認した。念のため玲は、にくたま経由でおもちにこれに入っていくけど大丈夫かと尋ねた。すると大丈夫との返事が来たので、本人はこれで問題ないみたいである。
「そしたら、後はこの小さいボンベに
空気を充填するから、
数分程待ってもらえる?」
と言いおいて、再び外に出て行った。さて、RINAはまさか飼い猫共々月旅行に行けるとは思っておらず、ついかすみに向かって「かすみさん、これって夢じゃないですよね?」と尋ねずにはいられなかった。ここで本来ならかすみは玲の頬をるという何時ものお約束をしたかったのだが、肝心の玲は今外にいるため、仕方なく
「うん、大丈夫やで。これはホンマのことや」
と言ってRINAを安心させた。そしてすべての準備が整ったところで、一同、必要なものを手にして玲が用意したシェルターに入った。
「ラハニさん、タホマ君は大丈夫?」
「ハイ。ベビーシッターショウカンシテ、
タイオウサセテマス」
「それならよかった。あと、みんな、
ヘルメットはちゃんと被ってる?」
大丈夫との声が返ってきたところで、玲と神室霊華はそれぞれに空気ボンベを背中にセットした。そして「じゃあ空気を抜くよ」と言うや、真空ポンプの作動音が室内に響いた。だが真空に近づくにつれて音が聞こえなくなり、やがて作動音が静かに感じられたとき、カフリングを通じて玲が「じゃあ転移するからね」と言うや、シェルターはその場から消え去った。