召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
物部かすみ、最神玲の転生記念日を祝う
5月に入った大型連休中の5月4日。実はこの日はスターウォーズの日として(一部界隈では)有名だが、そうではない。昨年のこの日より少し前に最神玲が交通事故で意識不明の重体に陥ったが、その後宇宙のどこかにある異世界からやって来たカーンフェルトという宇宙人によって玲が乗っ取られたのが、この日、5月4日である。尤も、カーンとしては別に好きで乗っ取ったわけではないので、ここは穏便にカーンが地球に転生して来た日となった。と言うことで、何やら物部かすみは、朝から訳の分からないテンションで騒いでいるのである。
「ねえねえ、今日って、玲、
じゃないカーンの乗っ取り、
じゃない転生記念日だよねー。
どうですか、地球に来て1年経ちましたが、
何か感想をどうぞ」
と言って、お得意のエアーマイクパフォーマンスで玲にインタビューするかすみである。「いやいや、何が転生記念日ですか、それよりも乗っ取りってハイジャック犯かよ」、と突っ込んだりしてかすみを喜ばせる一方、別に好き好んで転生したんではないですよ、と一応忠告する玲であるが、かすみの耳には届かず。では、と言うことで、
「じゃあ、かすみ、何かお祝いしてくれるのかい?
それとも、僕に何かプレゼントでもくれるのかい?」
えー、なーんも無いよ、ただ聞いただけ、はは、と言ってリビングから立ち去ったのである。全く、何なんだよ、あいつは。
「そうか、あれから地球では1年経つんだ。
でもサモナルドではまだ半年程なんだよね。
何か変な感じだよな」
と一人呟く玲である。サモナルドではまだカーンが死亡してから半年しか経過していない。それにしても、地球での1年が何と濃く長く感じただろうか。これでは、まるで子供の時間感覚だな、と苦笑するのである。
今は普通にテレビを見たり、パソコンで業務日誌を書いたり(まだ一部音声入力に頼るが)、スマホでかすみとLINEしたり写真撮ったり、自転車で買い物に行ったり、電車に乗って調査旅行をしたり、飛行機で海外に行ったり、見たこともない料理を堪能したり、便利な調理家電で食事を作ったり、等々、今はごく当たり前にしているこれらの生活が、転生したての1年前は全くできず、分からず、で驚きっぱなしだっだんだよな、と感慨にる玲である。加えて、自分の居た世界では歴史上の偉人である召喚術師セラスティナに直接会えるなんて、誰がこんなこと想像できるか!と興奮したりもした。ただ、こうした経験を楽しく導いてくれたのが、他でもない物部かすみなのであった。これには玲も、かすみに感謝しかない。
さて、今日は連休中であり神社業務も連休中は特に行事らしきことが無いため、玲もかすみも休みを貰えてのんびりしているのであるが、そのかすみはと言うと、玲をったら、そのまま自室に戻ってしまった。何か気になるな、と言うことでかすみの部屋をノックした玲である。
「かすみー、入るよ。いいかい?」
「…」
あっ、そうか、
「かすみ、邪魔するで」
「邪魔するんだったら帰ってや」
「はいよー」
これでOK。で、扉を開けると、そこには
「おー、何か沢山召喚しているね」
そう、かすみは創成召喚に夢中なのである。最近では、触れた物の召喚術式が分かるようになったみたいで、色んなところで術式をゲットしては、召喚しているのである。そして今かすみの机の上にあるのが、
「それって、ミシン?」
そう、かすみの机の上にはミシンがあった。勿論買ったのではなく、召喚したものだ。
「あっ、そ、そうよ。これで何か作ろうかなー、
と思ったのね。
だって、タチアナさんの所でさ、
こういうミシンで洋服を作っていたじゃない。
それを見たら、自分も何か作りたいな、
と思ったわけよ」
そう言えば、パリ滞在2日目にロムリアを見学した時、ファションショー前日ということもあり、スタッフ総出で衣装の調整をしていたっけな。なるほどね。それに触発されたんだ、と玲は感じたのだが、一応念のために
「かすみ、多分分かっているとは思うけど、
布や糸は召喚したらダメだよ」
勿の論、ちゃんと分かってますよ、とかすみは返事をした。それなら、大丈夫。実は、ケンタリアの養成学院時代に、よく先生から面白おかしく教わった話として、わざと召喚した糸と布で作った衣装を同僚に送って、それを着たところで召喚解除して恥をかかせたが、結局それを送った者は刑務所暮らしになった、と言う話。それくらいに罪になるということである。勿論、召喚した食べ物を食べさせる罪に比べるとまだ軽いが、それでも立派な犯罪である。
ところで、かすみが何を作っているかは気になるが、それ以上にかすみの召喚エネルギーの方が気になる玲である。そこで、かすみに召喚エネルギー大丈夫かと尋ねると
「真っ赤じゃないからまだ大丈夫」
との返事。いやいや、油断していると危ないぞ、と一言脅しておいて、一応かすみのエネルギー補充を行った。
「かすみ、ちょっと、こっちを向いて。そう。
そして両手を出して僕の手を握って。
そうそう。いい」
と言って、玲はかすみに召喚エネルギーを注入するのである。
「よし、これで回復したと思うよ」
「えっ、どういうこと?玲が、
私のエネルギーを回復させたの?」
実は上級の召喚術師になると、自分の召喚エネルギーを使って相手の召喚エネルギーを回復させることが出来るようになる。この能力が無いと、初心者に陥りがちな召喚エネルギーの枯渇や暴走に対処できないのである。そういう事をかすみに説明したところ
「えー、じゃあ私が召喚エネルギーを気にせず、
あんたが補充してくれたらええんとちゃうん?」
などと言ってくる始末。そうではなく、やはり自分の限界を知る必要があることと、減ったらどれくらいで回復するかを知ることも召喚術師には必要な経験だよ、と言うことを言い聞かせて何とか納得させた。
「かすみ、召喚術って簡単にできるものでは
ないからね。
当然、そこにはリスクが必ず潜んでいる。
それを忘れたり疎かにすると、
痛い目どころか死に直結するから、
十分気を付けてね」
普段のかすみは、大概玲を揶揄うかることをするのだが、こと召喚術に関しては、玲の言葉を素直に聞くのである。
さて、かすみの創成召喚に付き合っていた時、玄関のインターホンが鳴らされた。「はーい」と返事して玄関に向かうかすみである。かすみの知り合いでも訪ねて来たのかな?
「おー、久し振りだね、モモ。
あっ、それとカズ。
あれ、ヒロはいないの?」
どうやら、かすみの友人らしい。かすみが町に移り住んでいるので、幼馴染たちが遊びに来たようである。
「あー、ヒロは、仕事の関係で
今は名古屋に住んでるんだ。
それで今年の連休は
返って来れないんだってさ」
「あ、かすみ、これお土産ね」
と言ってモモから手渡されたのは地元で有名な洋菓子店のクッキーである。
「おー、ここのクッキー、美味しいんだよね。
有難うねみんな、何か、気を使わせちゃって。
まあ、とりあえず、みんな上がって」
お邪魔しまーすと言って、一行はリビングに向かった。玲は一足先にキッチンに向かってお茶を淹れていたところである。
「あ、玲、皆を紹介するね」
と言って紹介されたのが、女性は少しぽっちゃり体系だが愛らしい感じの相田桃でかすみと同い年、今は大阪の企業に就職してそちらに住んでいる。一方の男性は玲と感じが似ているかすみの一つ年上の神田和利、今は米野市内にて飲食店を経営している。そしてかすみが「ヒロ」と呼んでいたのは、大江山でこちらはかすみの一つ下。彼らは、かすみが幼少の頃からの遊び相手だったとのことであり、相田桃が帰省したのを機に、皆でかすみのところに遊びに来たのであった。
「それで、こいつが、仕事仲間の最神玲」
おいおい、こいつ呼ばわりかとかすみに突っ込むのであるが完全スルーされ立場を無くす玲である。とりあえず、気を取り直し
「最神玲です」
と自己紹介することにした。
「ねえねえ、かすみー、パリコレ動画みたよ。
彼と一緒に映ってたよねー」
と桃がぐのをみて、かすみは照れ笑いしつつ、満更でもない風を装い
「あちゃー、モモも見てたのね。
うーん、何か恥ずかしいなー、はは」
と玲からすると、かすみ、わざとらしいぞ、と突っ込みたくなるのであった。そのとき、カズこと神田和利が
「そう言えば、かすみと最神さんは、
どうしてこちらに住まわれているんですか?」
と尋ねて来た。まあ、色々とね、というか就職できないからね、何だけど、一応かすみにバトンをパス!
「あー、私達ね、ちょっと訳ありなんだけど、
今はここで手伝いしながら、
別の事業をしているの」
と言ってかすみは自室に戻って自分のノートパソコンを持って来て、今作成中のホームページの画面を皆に披露した。と言っても業務内容と料金体系と連絡先だけが書かれている至ってシンプルな画面。これで顧客をゲットできるのか、非常に不安に思う玲であるが。
「へー、心霊研究ですか。
そうすると二人共霊が見えるということなのか?」
「うん、私も玲も、臨死体験をしていて、
その影響なのか、霊が見える様になったんだ。
何か不思議なんだけどね」
と、まあ地球人でも理解できそうな回答で纏めるかすみである。答案としては、90点かな。
「じゃあ、ここに霊とかはいたりする?」
あー、こういう輩は何となく鼻から信じてないタイプだな、と直感する玲である。まあ、ある意味、標準的な地球人だな。加えて、何かしら試してみたいタイプなんだ、とも納得するのである。そのとき、
「玲、あれ出してあげたら」
あいよ、と言って取り出したのは、霊が見える眼鏡、その名も霊視グラス(仮)。
「カズ、ちょっとこの変な眼鏡かけてみて。
それで周りをちょっと見てみて」
何だ、片方しかレンズが無いぞ、と文句を言いながらかすみに言われた通り眼鏡をかける和利である。そして、彼が振り向いた先に見たものが
「!?」
まあ、そういうリアクションになるよね、とは玲の感想。今回の対応は暗黙の裡だが、かすみに任せているので
「カズ、そこの隅に何かいるでしょう。
何なら、詳細を説明するけど」
と言って、かすみはその霊体、かずと同年代の女性で髪は肩にかかる程度、顔は少し釣り目だけど、見た感じはクールビューティーと称される美人顔の霊体を和利に説明した。そしてこの女性の霊体は、和利の背後をずっと付けていたということも付け加えた。すると、和利はその女性に心当たりがあるのか、かなり動揺して体を震わせるのであった。
「ねえ、カズ、あんたもそうだけど、
霊といって直ぐ偏見持つ人が
多いのはわかるんよ。
私も昔はそうだったからね。
でもね、今そこに霊体が居るのは事実で、
それをあんたが見ているのも事実なの。
まあ、あんたが頑なに否定しても良いけど、
その霊があんたに何かしても
私は知らないけどね」
とつっけんどんに和利に伝えるかみすである。後は、本人がどう捉えるか、どう考えるかだけなんだけど。
「な、なあ、かすみ、
ど、どうすれば良いんだ、俺」
「ん、簡単よ。私達に頼めば済むこと。
あっ、ちなみに、除霊の料金は10万円なので、
もし払えないなら、そのままでも良いんとちゃう。
多分、その霊体は、あんたに何か悪さする
感じでもなさそうなんで。
ただし、あんたの行くところには
憑いて行く感じだけどね」
と何やら恐ろしいことを言いつつ、和利と交渉するかすみである。こういう時のかすみは、本当に心強い。
ところで、かすみと和利のやり取りの間、桃は一切口をはさむことなく、ただ両者をキョロキョロ眺めているだけであった。
「モモもこれ掛けてみる?」
とかすみに言われて何となく頷いてしまった桃であるが、後悔しても後の祭りだった。玲から別の霊視グラスを受け取ってかけたとき、「キャー」と叫んで後ろに倒れそうになったのであるが、何とか玲にキャッチされて事なきを得た。
「へ、へへ、かすみ、そんなこと言って
俺を脅かそうとしても、無駄だよ。
全く、かすみに洗脳されて
騙されるところだったよ。全く」
と言って、眼鏡をかすみに放り投げた。まあ、しょうがないね。彼は典型的な日本人と言うか、地球人だもんね、と諦める玲であった。勿論、かすみも落胆しつつも、まあこんなもんか、と達観するのであった。
「カズ、別に自分の好きにすればいいんだよ。
私に何か言われたから、
それをしないとダメとかはないんで」
ちなみに、怪しい霊媒師なんかはここでダメ押しに「やばいから早く除霊しろ」的なことを言うけどね、と言い添えることは忘れないかすみであった。
場が変な空気になって来たので、桃と和利はこの場を去ることにした。
「かすみ、お疲れ様。まあ、彼の態度は、
平均的な日本人の態度だから、
気にする必要は無いよ」
「うん、それは分かってるよ。
心配してくれて有難うね、玲」
まあ、しかし、彼みたいな人をどのように説得するかは、もしかしたら今後必要になるかな、と自問自答する玲である。そんなもの思いに耽っていた時
「玲、これからあんたの
転生記念を祝うぞ。感謝しろよ」
と突然嫌な空気を吹き飛ばすくらいの大声で叫ぶかすみである。そして、自分の部屋から何やら白い箱を持ってきて玲に渡した。それって、まさかエスタシアのケーキか!?と叫んだ途端、アホか、玲!と一太刀で切って捨てられた。そんな罵声にもめげずに玲は箱を開けると、中から黒い手袋が出て来た。「ん?手袋?」実はかすみがミシンを召喚して作っていたのは玲にプレゼントするための布製の手袋であった。かすみはフランスから帰国後、この日に向けてせっせと作っていたのだった。ところで、何で手袋なのか?かすみが言うには、召喚術師たる者、何かしらアクセサリというかアイテムが無いと様にならないだろう、ということが始まりらしい。要するにかっこつけるためのアイテムが欲しいということ。そうなると、かすみは無いのではと玲は聞くのであるが、かすみは既にロムリアの手袋をゲットしていたのであった。えー、僕もそっちがいい、とは決して口が裂けても言えず、ただ横目でかすみの手袋を羨ましそうに眺める玲であった。
さて、翌日のこどもの日の午前、神田和利は玲とかすみの住む住宅に再びやって来て、除霊してくれと懇願した。その理由を聞くと…
和利とその女性は高校時代からの同級生で、二人は付き合っていたという。その後和利が京都の調理師専門学校に通うために別々に暮らすことになるが、和利はその専門学校で別の女性と知り合って深い仲になったという。それを伝え聞いた同級生の女性が和利に自分かその女かどちらにするのか迫ったところ、和利は同級生の女性を疎ましく思ってしまい、別れを持ち出した。その結果、その女性は精神的に参ってしまい、最後は自殺してしまったという。それが昨年の年末の事である。それから和利は、毎日のように自分の身の回りで自殺した女性の影というか気配を感じるのだという。更に寝ていても夢の中に毎晩出てくるようで、その時は苦しさから目覚めるのだとか。この話を聞いたかすみは、典型的な霊障だねとの判断を下したのであった。
まあ、何れにしても、除霊をお願いされたのであれば、こちらも仕事なのでそれを進めるだけである。今回はかすみが取り仕切ることにして、玲はサポートに努めることとなった。
「召喚!」
のかすみの合図で、その女性の霊は召喚門に吸い込まれて霊界に消えて行った。どうやら、強い怨念とか憎悪はなく、単に一緒に居たかったから簡単に済んだのだろうと玲は感じた。これで一件落着。
「カズ、終わったよ。何なら、あの眼鏡で確認するかい」
といって、霊視グラス(仮)を和利に渡した。和利も早速眼鏡をかけて周囲を見回し、序に鏡で自分自身も見て、何も見えないことを確認した途端、安心からか腰砕け状態となってへたり込んでしまった。
「まあ、ある意味君の自業自得なんだけどね。
付き合うならちゃんと付き合って、
別れるならちゃんと相手に理由を説明して
納得してもらって別れないと。
とにかく後腐れないようにすることだね。
でもね、そう言っても諦めない子はいるから、
そこは誠心誠意対応するしかないと思うんだけどね」
と、さも人生経験豊富なベテラン解説者の如く訓辞を垂れるかすみである。玲も思わず拝んでしまいたくなるのであった。
結局連休中も何だかんだと、かすみに引っ掻き回されたのか、自分のしたいことが出来ずにストレスを溜める最神玲であった。