召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
凶報 (後編)
最初に正気を取り戻したのは最神玲であった。あんなに元気だったラハニ・カヤン、いつも陽気で笑顔を絶やさず、誰に対しても分け隔てなく接するラハニ、そして時に母親としてのとした姿を見せるラハニ、あのラハニが亡くなった......一体どういうことなんだ?病気か?否、絶対それはないと確信できる。と言うのも、今年の新年会で皆で月旅行をした後、念のためにロムリア製の医療カプセルでメディカルチェックを受けてもらった。そのため、体の中には癌細胞の1個も無いはずである。では事故なのか?それならロドニーは[じこでしんだ]と説明するのではないか?否、気が動転してそれどころではないかもしれない。何れにしてもこんなところでくよくよしている場合ではない。そう思ったところで漸く再起動したのだが、自分の部屋の中にもう一人いることに、その時漸く気づいた。玲のすぐ目の前で、かすみが床にれてしまい、声を出して泣き続けていたのだ。そんな状態のかすみに向かって玲は、「か、かすみ......」と声を詰まらせながらかすみに声をかけると、今度はかすみが「れ、玲!!」と叫ぶや、玲に抱きついてそのまま泣きじゃくった。玲はかすみの頭を優しく撫でながら、これからの対応を話し始めた。暫くしてかすみもようやく泣き止んで、涙で腫らした目を玲に向けて
「せ、せやな、まず、
ちゃんと確認せなあかんな!」
と手で涙をぬぐいながらそう訴えた。
「とりあえず、ロドニーさんに
今からそっちに向かうことを伝えておくよ」
と言って、玲はかすみが握りしめている自分のスマホをかすみから渡してもらった。するとスマホに、RINAからの電話があったことが表示されたため、玲は急ぎRINAに連絡を入れた。
RINAは、電気の消えた自室にて着替えることなくベッドに腰かけている。飼い猫のおもちは、無言で帰宅してそのままの状態でいる飼い主を心配して、RINAの足元にやって来て「にゃー」と鳴いている。だがRINAは全く何も反応しない。そんな彼女の手にはスマホが握りしめられているが、誰にかけても全く反応がない。まるで、この世界からあの3人が消えたみたいに感じていた。その時のRINAの心の中は深い喪失感で満たされていた。そんな感じでただボーっとした状態で前方の暗闇を見つめていたとき、突然スマホの電話が鳴りだした。突然の電話にもかかわらず、RINAは驚くことなくただゆっくりと視線をスマホに移した。すると、そこにはまさに待ち望んでいた人からの電話であることを認めた途端、RINAは息を吹き返したかのように急ぎ受話器ボタンをタップした。
[もも、もしもし、もしもし、RINAです。
れ、れ、玲さんですか?]
RINAは声を詰まらせながら応答すると、スピーカーから聞こえる玲の声に安堵の表情を浮かべた。しかも自分が一人残された訳ではないことに安心したのか、薄っすらと目に涙が滲んでいた。
[はい......はい、わかりました。
こちらは何時でも行けます!!]
と言って電話を切ると、直ぐに玲が目の前に現れた。RINAはこの時ほど仲間のことを恋しく感じ、そして仲間に会えたことに嬉しさを感じたことが無く、すると余りの嬉しさからそのまま玲に抱きついてしまった。玲は突然のことで驚きのあまり少し警戒するのだが、直ぐにRINAが自分の胸の中で泣き出したことから、彼女が不安と心配のあまりパニックに陥っていたのだと理解した。そして玲は、RINAの頭と背中を優しく両腕で包み込みながら、
「ごめんね、RINAさん。
不安にさせちゃったみたいだね」
とRINAに対して謝った。RINAはようやく落ち着いたところで、
「て、てっきり、み、み、みんなも、
な、何かあったのかと、
し、し、心配になったんで」
と少し泣きじゃくりながらもその時の心境を吐露した。そして今の状況を見たRINAは、直ぐに玲から離れて「ご、ごめんなさい」と謝った。玲は全く気にすることなく、それよりも
「直ぐに神社に戻って皆で
ラハニさんの所に向かうけど、
大丈夫ですか?」
とRINAに対しこれからの行動を説明して理解を求めた。RINAは迷うことなく、「大丈夫です。私も連れてってください」と玲に頭を下げてお願いした。そこで玲は、再び転移門を設置して転移しようとしたその時、「にゃー」と鳴きながらRINAの足元におもちがやって来た。先程から声を掛け続けているのに全く反応を示さないRINAを心配していたようで、RINAの足に体をり付けながら再び「にゃー」と鳴いた。RINAはおもちを抱き上げて
「ごめんよ、おもち。心配かけたみたいだね」
と伝えると、おもちは喉をゴロゴロ鳴らしてRINAに甘えだした。そんなおもちを優しく撫でながら、RINAは玲に対し、「おもちも連れていきますが、いいですか?」と尋ねた。玲は、現地には連れていけないが、美土路神社で留守番するのであれば問題ないことを伝えると、RINAは「それで大丈夫です」と笑顔になって答えた。そして玲は、2人+1匹を連れて自宅に戻った。
物部かすみは、神室霊華の私室にやって来た。勝手知ったる何とやらではないが、この時間は既に就寝しているだろうと思い、神室霊華の私室に直接転移してきたのだ。すると
やっぱ、寝てたんやな
と少しだけ呆れた表情を浮かべるが、直ぐに昨日は午後10時から降霊術の依頼があったことを思い出し、
そっか、流石に疲れ果てたんやな
と思い直した。そして横向きで寝ている神室霊華に近づくと、彼女が手にしたスマホが目に入った。そして
そっか、霊華さんもすぐに気づいたんやな。
ほいで、ビックリして意識を失ったんか...
と思い至った。神室霊華は神経が細やかで、ちょっとしたことでよく驚くことをかすみは知っていた。そしてあの知らせは、恐らく神室霊華の意識を失わせるのに十分なインパクトを与えたことは容易に想像できる訳で、そのため神室霊華に近づいて、「霊華さん、霊華さん」と優しく揺り起こした。暫くすると神室霊華が「うっ、うーん」と意識を取り戻したので、かすみは
「霊華さん、大丈夫か?」
とそのまま優しく撫でながら声をかけた。すると
「あっ、し、師匠。どうしてここに?」
と声をかけるが直ぐに「あーーー!」と何かを思い出して叫び声をあげた。そして
「し、し、し、師匠!!
ラ、ラ、ラ、ラハニ、ラハニさんが......」
とかすみに伝えたっきり、言葉を失った。かすみは神室霊華の目を見つめて
「分かってるで、霊華さん。
そのことで霊華さんを迎えに来たんや」
これから美土路神社の自宅で今後のことを話し合うけど大丈夫か、とかすみは神室霊華に尋ねた。神室霊華は「は、はい、大丈夫です」と何とか返事をしたところで、かすみは神室霊華を伴って美土路神社に帰った。
美土路神社の神職用住宅のリビングに集まった4人は、これからどうするのかについて話し合っていた。
「とりあえず、ロドニーさんには
これからそっちに向かうことは
伝えておいたけど――」
どうやらロドニーからの返信が無いようだということを玲は全員に伝えた。すると
「まぁ、状況がこんなんやから、
しゃあないとは思うねんな。
それよりも――」
やはりすぐに現地に向かうべきだとかすみは主張した。確かにここであれこれ考えるよりも、現地で何が起きたのかを知ることは非常に重要である。
「ラハニさんって、事故で亡くなったんですか、
それとも病気か何かなんですか?」
とRINAがおもちを抱きながら、誰にともなくそんなことを尋ねた。だがここにいる誰も、その原因については分からない。ただし、
「もし、事故だと僕らは手の打ちようがないですね。
むしろ病気とかであれば――」
例の医療カプセルでまだ何かしら手を打つことは可能かもしれないと玲は呟いた。するとかすみが
「でも、つい先月の新年会で、
みんなあの医療カプセルに入ったやんか。
そやから、その可能性は
かなり低いんとちゃうか」
ともっともなことを口にした。玲もかすみの意見に対し、力強く頷いて
「そう、かすみの言う通り、病死は有り得ないね」
と同意した。だとすると、最悪もう元には戻らないことになるのだろうか。そんな不吉な想像を振り払うように、玲は自分に気合いを入れて、
「とにかく、ここであれこれ考えても
悪い方向に想像しがちだから、
まずは現地に向かうことにしよう!」
と力強くそう訴えた。3人は玲の力強い訴えに心を打たれたのか、各自の顔にようやく生気が戻って来た。そしてかすみが「せやな、まずは向こうに行ってからやな」と言うことで、現地に向かう準備を始めた。
シアトルの現在の時刻は丁度1日前の朝を迎えたころである。外出着のままのRINAを除く3人は、パジャマの上に召喚したダウンコートを羽織って防寒対策を施してから出発する準備を終えた。
「RINAさん、おもち君は、
ここでにくたまと留守番となりますが、
いいですよね?」
と玲はRINAに尋ねるが、RINAは「はい、全然問題ないです。お願いします」と玲にお願いした。そこで玲はにくたまを召喚して、留守番するように伝えた。そして直ぐにかすみに向かって
「かすみ、ラハニさんの家への転移をお願いするね」
と指示すると、かすみは大きく頷いて、「ほな、行くで」と言うや、4人をラハニの自宅に連れて行った。