召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
死の原因 (後編)
ラハニ・カヤン大尉は、ある特殊作戦に参加するために召集された。そしてその作戦とは、ラハニの能力を絶対に必要とすることであった。だが、ラハニの実践投入が少なくとも数年先になることは、ここにいる最神玲がアメリカ国防総省のダニエル・ヘンドリクソン国防長官との間で交わした約束事である。ところが、
くそっ、まさか長官が辞任するとは...
と玲が後悔の念を滲ませて悔しがるように、ヘンドリクソン国防長官は突然辞任したのだった。
その報道は昨年末に突然発表された。アメリカ合衆国の国防長官であったヘンドリクソンは、一身上の都合で長官職を辞任した。一説には、大統領との間で何やら意見の対立があり、結果的に更迭されたと言われている。勿論これは一部事実だが、それよりも実のところは彼の妻ヘレナが関係していた。ある銃撃事件により、ヘンドリクソンの妻ヘレナは危篤状態に陥っていた。そしてそんなヘレナを危篤状態から救ったのが、最神玲と物部かすみの2人であった。その後、無事に蘇生したヘレナ・ヘンドリクソンは夫と仲睦まじく生活をしていたのだが、昨年の夏に癌が見つかり、しかもその進行スピードの速さから、瞬く間に全身に転移したという。そのため、最早命の炎が燃え尽きるのも時間の問題となっていた。そしてそんな妻と最後まで一緒に居たいと願ったヘンドリクソン長官は、大統領に事情を説明して昨年末に辞任したのだった。
残念ながら玲にはヘンドリクソン前長官の辞任の理由は分かっていない。それでも、申し送り事項としてこの件について話しておいても良かったのではないかと、ヘンドリクソンへの恨みが募ってしまう。
まあこの落とし前は後でゆっくりと考えることにして、
今はラハニさんの復活だな
と考え直した玲は、直ぐに行動に移るべく、M Mのメンバーにこう伝えた。
「さてこれから、ラハニさんが消えた場所を
探すことにしようか」
と。するとかすみが
「それはそうやねんけどな、
どこにあるか分からへんやろ。
しかもやな、そもそも痕跡って
残ってんのか?確か――」
アニュラスとかペンタグラムだと、術者が亡くなった途端消えてしまうのではないかと指摘した。玲はかすみの意見に頷くも
「かすみの言う通り、転移門は
恐らく分からないだろうね。
ただ、その場所を選んだ人物はいる筈だから――」
そいつを見つけ出して尋問するしかないだろうというのだ。するとRINAが、不思議そうな表情を湛えて、玲とかすみにあることを尋ねた。それは
「2人ともどうしてラハニさんが
消えた場所に固執するんですか?
もしかして転移先に飛んで行ってしまった
とかってないんですか?」
と言うことである。これに対し玲は、
「まず、ラハニさんの召喚エネルギーで
数百キロの距離を転移するのは、
彼女一人であればぎりぎり
可能だろうと思うんだ。たけどね――」
軍隊であれば単独で行くことはなく、ラハニが語っていたように特殊部隊の隊員を連れて向かうため、
「恐らく、召喚エネルギー切れを起こしたか、
あるいは暴走したんじゃないかと思うんだ。
だとすると――」
ラハニの遺体は転移門を設置した近辺にあるだろうと推測した。すると神室霊華が
「でも、玲さん、ラハニさんの遺体は
その場所からは見つかってませんよね?」
と指摘するのだが、実は玲は恐らくラハニの遺体はあそこ、つまり霊界にあるだろうと推測していた。
彼の推測の根拠、それは彼が惑星サモナルドに召喚され、タチアナ・エグリスコバと一緒にネオエベレストの山頂に建つ観測小屋に転移で向かった時、タチアナからある話を聞いたことと大きく関係していた。それは
「私もね、レイ君のように召喚エネルギーが
暴走したケースの検証に立ち会ったことが
あるんだけど、少なくともこの世界に
その人の死体は存在しないんだよね。
でもね――」
今ならわかるが、恐らく霊界にあるのではないかとの推測をタチアナは玲に披露した。
「勿論ね、これは私の推測なんだけど、
でも恐らく間違ってない気がするのよね」
実際、大召喚術師のエンペラールも、タチアナの意見に耳を傾け「まぁ、そうよね~、セラちゃんの言う通りかもしれないわね~」と同意したという。玲は細かな説明は省略しつつ、召喚エネルギーが暴走した場合、可能性としてはその場にあることを伝えた。更に
「多分ね、これは僕の推測と言うか
まだはっきり言えないけど、
恐らくそこには何かしらの痕跡があると思うんだ」
つまり召喚術師だけが感じる痕跡があるのではと言うのだ。だとすると
「もしその痕跡があれば、恐らくそこから
霊界に向かったんじゃないかと僕は見ているんだ」
と言うのだ。するとかすみが直ぐに反応して
「ほほ、ほな、ああ、あれか。
ラハニさんって――」
問題なく蘇生できるのではないかと興奮して騒ぎ出した。かすみの導いた答えに対し、神室霊華は満面に笑みを湛えた。RINAはまだよく分かっていないが、かすみが完全復活できるようなことを喋ったとき、思わず「よっしゃー」と呟いてガッツポーズをしていた。
そんなM Mの4人に対し、ロドニーが一体どうなったのか気になって玲に尋ねた。玲はラハニが元気な状態で蘇生できることを伝えるが、ロドニーは何やら首を横に振りながら「ソレハアリエナイ」と否定的な言葉を口にした。と言うのも、ロドニーはネイティブアメリカンをルーツに持つ。そしてネイティブアメリカンの死生観は、部族にもよるのだが、魂は自然へ還るという考えや、死と再生を繰り返すという考えがあったりする。つまり自然の摂理に逆らわないという考えが根本にあり、むしろ死者を蘇らせるというのは禁忌として忌み嫌われたりするのだ。勿論部族の中には、シャーマンによる死者の復活と言う考えがない訳ではないのだが、その場合、夢の中で現れたり、動物や自然現象として現れたりするというものである。一方で、アメリカの多くの国民が信仰するキリスト教においては、蘇生や復活と言うのは、信仰の核心部分であり、神の力によって永遠の命を持つ存在に変わることを意味している。そのため、どちらの考えに基づいても、ラハニの蘇生や復活は考えられないことなのであった。
ロドニーは自分は学問がないから詳しいことは分からないと言いつつも、そのような背景を説明した。すると女性たちは、ロドニーの言葉に耳を傾けて頷いたりするのだが、残念ながら玲には彼の話す内容を理解することはできない。と言うのも、そもそも彼と言うか、その中身のカーンフェルトの住んでいたサモナルドには、神や仏のような自分達を超越する何かが存在することを信じている人はいないし、ましてやそれらを信仰することはないからだ。カーンにとって魂とは単なる電磁波を発生するエネルギー体であり、ただし生前の記憶を保持するという特殊なエネルギー体としか見ていない。そのため、もしそこに生前愛用した肉体があり、しかも腐敗することなく生前の状態を保持していたら、そこに魂を戻しても全然抵抗を感じないのだ。
もっとも、流石にこのような話をロドニーに披露する訳にはいかず、彼もロドニーの言葉に耳を傾けるだけなのだが、そんなときにかすみが、何気なくロドニーに対し
「でもな、ロドニーさん、もしラハニさんが
ゾンビとかやなく、ちゃんとした
生前のままの姿で生き返ったら、どないなん?」
最早そこには愛情が存在しないのか、とストレートには尋ねないが、そんなニュアンスを含ませてそう尋ねた。ロドニーは、神室霊華の通訳を介して伝えられたかすみの言葉に対し、目を閉じて沈黙してしまう。どうやら信仰を受け入れるべきか、現実を受け入れるべきか、そんなことを考えいたのであろう。そしてゆっくりと目を開けて、視線をかすみに向けて、
「ソノラハニヲ、アイシマス!」
と力強く答えた。かすみはその答えに満足したのか、満面に笑みを湛えて、
「せやろ、絶対そうやねんな!!」
信仰は大事だけど、その信仰が否定する出来事が目の前で起きたら、その現実をしっかりと受け入れる、それが本当の信仰ちゃうか、と言うようなことをかすみは伝えた。
さて、ロドニーがラハニの復活を受け入れたところで、これからなすべきことを全員で話し合うことにした。まず今回の作戦の実行責任者が誰なのか、その点を明らかにすることが最優先であると玲は考えている。作戦の詳しい内容が分かればベストだが、それは後で魂の尋問を通じて知ることが出来るので、今は重要視していない。それよりも責任者であれば、ラハニがどこに連れていかれたのか分かる訳で、その情報だけが今は何よりも重要である。そのことを玲は皆に伝えながら
「ロドニーさん、お願いできますか?」
と玲はこの件の調査をロドニーに頼んだ。ロドニーは「マカセテクダサイ」と胸を叩いて力強くそう答えるのだが、果たして玲の思惑通りに事が運んで、玲は満足した。実は玲であれば多少の手間はかかるが難なく責任者の所在を突き止めることは可能である。だがそれよりも、意気消沈しているロドニーに対し、希望を見いだせる行動をさせた方が彼にとっては精神的にもいい方向に作用するとみており、まさに彼に頼んだことは彼に対し生きがいと言うか、希望を与えたのであった。
また本来であればロドニーの所属と身分からは、その作戦に対して一切関与することはできない筈だが、ロドニーはラハニの夫であり、妻の最期を知る権利を有している。そしてラハニの最後に関与している人物から話を聞くことに対し、周囲から強く咎められることはないとみている。まさにこの仕事はロドニーしかできない最適な任務であったのだ。
さて、方針が決まったところで、M Mの4人はロドニーに別れを告げて、その場を後にした。残されたロドニーは、静かになった家の中で、また意気消沈して塞ぎ込むかと思われた。だが、ベッドでスヤスヤと眠る息子を目にし、絶対にラハニを生き返らせて、息子をその手で抱きしめさせたいと思うや、心の中で何かが少しずつ息を吹き返してきた。それはまた3人で暮らしたいというささやかな願いでもあった。そして早速、スマホを手にしてあるところに電話を掛けたのだった。