召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
行動開始 (後編)
国防総省ペンタゴンの駐車場に車を停めて、M Mの最神玲と物部かすみ、そして神室霊華の何時もの3人に加え、ラハニ・カヤンの夫のロドニー・カヤンとその息子のタホマは、雪の積もった歩道を建物の入り口に向かって転ばないようにゆっくりと進んで行った。その途中で、ロドニーがここに足を運ぶのは初めてだということを3人に話した。そして案内板に沿って進むとやがて受付にやって来た。そこでロドニーが来意を告げると、暫くして陸軍の制服を着た人物がやって来て4人+1人をある部屋に案内した。
ところで、駐車場に車を停めてから部屋に案内されるまでの間、かすみは何やら召喚し続けていた。しかもかすみの隣で並んで歩いている神室霊華も、かすみの真似をしているのか、こちらも何かを召喚し続けていた。彼女たちの前を歩いている玲は最初気づかなかったのだが、カフリングを通じてかすみがブツブツ呟くのを耳にしたため、振り向いてかすみに何をしているのかを尋ねようとした。だが玲は直ぐにかすみと神室霊華が行っていることを理解した。と言うのは、視線をあちらこちらに動かして何かを探している様子と、そしてかすみの顔に悪戯をしているときの下卑たニヤニヤ笑いが張り付いていた様子から、直ぐに監視カメラに悪霊を張り付けているものと見てとった。そしてかすみに耳打ちされた神室霊華も面白半分に悪霊を監視カメラに張り付けていたのだ。悪戯とは縁のない神室霊華も、遂にかすみの毒牙にかかってしまったか、と玲は嘆かずにはいられない。
ちなみに、ペンタゴン内で監視カメラからの映像を随時チェックしているペンタゴン防護局(PFPA)は、ただいま絶賛パニック中であった。突然一部の監視カメラの映像に激しいブロックノイズが発生し、しかも立て続けに複数台の監視カメラの映像にも同じ現象が現れたからだ。当然、外部からハッキングされたかと局内は騒然となったのだが、そのような兆候は見られないことは直ぐに確認された。それよりもハッキングされた場合、全ての監視カメラが影響を受けるはずなのだが、現在進行中の状況は、ある一部の監視カメラの映像に異常が見られたに過ぎない。このような事例は過去に例がないためその対策に追われていたのだが、M Mの3人には勿論このような裏の事情を知る由もない。
さて、ある部屋に案内された一行は、部屋の主からソファーに座ることを勧められたので、そのまま部屋の中央にあるソファーに腰を下ろした。そして執務用の机で作業をしていた統合参謀本部第9部の責任者であるジェームソン中将がゆっくりとした足取りでソファーにやって来た。ところで、統合参謀本部には表向きは第1部から第8部までしか存在していない。ところが、非公式ではあるが、第9部と言う組織が存在する。そしてこの第9部が設立された裏には、ある事件が関係していた。その事件の原因を作ったのが、何を隠そうここにいる最神玲である。
統合参謀本部第9部が設立されたのは、今から数年前の事である。それは、丁度玲がCIAから送り込まれた超能力集団に襲われた時期と重なる。その時の玲は、彼らの襲撃に対し返り討ちにしただけでなく、あろうことかCIAと、そしてその大本であるホワイトハウスに殴り込みをかけたのだ。そしてその時のことは、先にかすみが面白おかしく説明したように、最終的には大統領をマキザッパでフルボッコにして玲は満足したのだが、実はこのことが引き金となって、大統領はCIA長官を解任した。しかもそれだけでなく、実は超能力集団も解散させようとしたのだ。ところが、これには首席補佐官を始め、国務、国防の両長官など主だった閣僚達が反対を示した。と言うのも、もしそのような特殊な人材が敵国にリクルートされたら、我が国に甚大な被害が及びかねないと懸念したからだ。そこで大統領は再考し、その集団を始め、特殊任務を遂行する部隊を集めて新たな部署を統合参謀本部の下に作り、そこに隠すことにしたのだ。それが第9部である。なお、現在の第9部の位置づけは、第8部の横並びではなく、統合参謀本部議長直属となっている。ある意味で特殊な位置づけなのであった。
そしてその第9部を統括する陸軍のジェームソン中将は、その場で簡単な自己紹介をするのだが、ちなみに玲とかすみと神室霊華の3人は、ラハニの家族として紹介された。ただし、家族が全員同じ服装と言うのは異様に思われたようだが、これは部族の喪服であると伝えて納得してもらった。それよりも時間がないため、早速ロドニーは妻のラハニの最期がどうなったのかを尋ねたのだが、やはりと言うべきか、軍事機密に抵触するため詳細は差し控えるとなった。ただし、実際にその場に死体はなかったことは確かだという。すると玲が何やら言葉を話し始めるのだが、当然彼は英語が出来ない。ただし彼は日本語で話している訳ではなく、実はサモナルド語で話をしていたのだ。こうすると、ネイティブアメリカンのどこかの部族の言葉を喋っているようにとらえられなくもない訳で、実際目の前で玲の話を耳にしたジェームソン中将は、そのように理解していた。ただし玲が何を言っているのかは分からないため、代わりに神室霊華が英語でこう伝えた。
「ラハニが亡くなった場所に花束を供えたいけど、
どこに行けばいいのでしょうか?」
実はこれは事前にかすみを交えて3人で打ち合わせしていたセリフである。そうとも知らないジェームソン中将は、やはりと言うか
「申し訳ないが、それも軍事機密に関わるので
お答えできない。ただし――」
何か供える物があれば、こちらで対応するとだけ答えた。ある意味、予想のつく答えである。そしてこれ以上無駄話をするのは意味がないとみた玲は、その場でジェームソン中将の魂を分離した。そして早速神室霊華の通訳を通じて作戦の詳細を聞くことにした。
10分後、玲はジェームソン中将の魂を戻した。するとジェームソン中将は、何やら呆気にとられたというか、けたような表情を示すが、ロドニーが「将軍にはお時間を取らせてしまい申し訳ありません。事情は分かりましたのでこれで失礼します」と言うと、ジェームソン中将は「そ、そうか、もし何か困ったことがあればいつでも相談してくれ」と型通りの返答をして、一行を見送った。駐車場に戻るまで、一行は誰も口を開くことなく、黙々と歩き続けた。そして駐車場に停めてあるレンタカーに乗り込んでから、漸く
「やっぱ玲の予想通りやったな」
「うん、でも思ったよりも実は
そんなに進展してなかったのには
意外だったけどね」
「それで玲さん、これからどうされますか?」
とM Mの3人はそんな会話を始めた。実はジェームソン中将が話した内容は、彼らの予想の範囲内にあった。むしろその準備段階にあったというべきだろうか。そんな状況に対し、ラハニは投入され、その命を失うことになったのだ。これには流石のM Mもその理不尽さに憤慨してしまう。
「でもね、軍隊ってそういう所だと思うけどな」
と玲はそんな感想を口にするが、玲と言うか、その中身のカーンフェルトは、実際にケンタリアでの軍事活動を目にしており、どこの軍隊も思ったよりも実はことを慎重に運ぶということを分かっていた。
「それよりもな、あいつが言っていた所に
行くんやろ?」
とかすみはジェームソン中将が口にしたある場所について、玲に尋ねた。玲は
「そうだね、ついでだから
このままそこに向かってもいいけど......」
既に目的は分かったので、後は具体的にどこにラハニが連れていかれたか、その情報だけが必要となる。そのためには
「みんなで押し掛ける必要はないと思うから、
僕がちょっと行って探ってくるけど」
と伝えた。するとかすみは
「玲、自分な、英語でけへんやろ。
ほな1人で行っても意味ないで。
それやったら――」
自分が神室霊華と2人で行ってくるわ、とかすみは申し出た。玲としては誰が言っても問題ないと考えているし、一方のかすみはと言うと
またまた、メッチャオモロイことが
あるんちゃう?
と何やらワクワクするような冒険ができることに期待したりする。そこで、
「じゃあ、この件はかすみに任せるよ。
ただし、ちゃんとラハニさんが
連れていかれた場所だけは特定してくれよな」
くれぐれも変な制約をかけたりすることが無いようにと釘を刺すことは忘れない。かすみは苦笑いを浮かべながら、
「そんなん分かってるわ。
心配せんと、ドーンと構えとき!」
と強気の姿勢を示した。そして方針が確定したところで、
「とりあえず、これからどないすんねや?」
とかすみが尋ねるが、まずは一度ロドニーの自宅に戻ることを玲は提案した。と言うのも、
「タホマ君にそろそろミルクを上げないと
いけないんじゃないの?」
と玲が指摘するように、タホマは先程から起き出して何やらぐずり始めていたのだ。そこで、神室霊華が再びアーリントン墓地まで運転し、途中で車から降りたところでそのまま転移してロドニーの自宅のあるシアトルに戻って来た。
ロドニーは自宅に戻ると直ぐに息子を抱いたままキッチンに向かった。そこでミルクを用意して飲ませるようだ。一方かすみと神室霊華はと言うと、これからある場所に向かうのだが、そのための準備をするというので、2人はラハニの私室に向かった。そして10分後に、2人は部屋から出てきたのだが、彼女たちは何やら着替えていたようだ。しかも
「これやったら、絶対に
軍人にしか見えへんやろ?」
とその場でクルリと回転しながら玲に尋ねた。かすみと神室霊華はアメリカ陸軍の制服に着替えていたのだ。ちなみに、神室霊華は髪をアップにして眼鏡をかけている。そしてかすみの階級は少佐、神室霊華の方は大尉である。玲は
「うーん、多分大丈夫だとは思うけど――」
やはり念のために、現役の将校であるロドニーの意見を聞いた方がいいだろうとかすみに伝えた。かすみは当然ロドニーの感想をもらうつもりである。それから更に10分程すると、キッチンからタホマと一緒にロドニーが戻って来た。そこでかすみが、この制服に問題がないかをロドニーに尋ねた。だがその時のロドニーはと言うと、神室霊華を見ててっきりラハニが帰って来たのかと思いビックリしたようだが、直ぐに気を取り直して少し緊張の面持ちのかすみと神室霊華の姿をチェックし出した。そして特に問題はないことを伝えると、ようやく2人は笑顔を見せた。その後は、ロドニーから敬礼の仕方や言葉使いなどの基本的なレクチャーを受けて、「ほな、玲、行ってくるな」と言って2人は転移していった。後に残された玲とロドニーだが、ロドニーはキッチンに向かい、直ぐに2つのマグカップを持って戻って来た。そして彼が持ってきたコーヒーを飲みながら、今感じている不安などをい日本語で玲に語りだした。