召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
潜入
シアトルのロドニー・カヤンの住む官舎から転移してきた物部かすみと神室霊華だが、実は直接問題の陸軍基地にやって来た訳ではなく、なぜか神室霊華の自宅に来ていた。と言うのも、
[あっ、RINAさん、かすみやけど、
今からちょいおもろいとこ行くねんけど、
一緒に行かへん?]
[えっ、こんな真夜中ですよ。
こんな時間に開いてるところって、
ファミレスとかじゃないですよね?]
[ちゃうちゃう、日本やなくて、アメリカや。
これからな――]
アメリカ軍基地に潜入捜査をするということを伝えると、電話口のRINAの声つきが変わった。明らかに興奮している様子がスピーカーから聞こえてくる。
[あっ、いいい、行きます!
でもパスポートとか準備しないと
いけませんか?]
[んーにゃ、そんなんいらへんで。
ほな直ぐにそっちに迎えに行くな!]
と言って電話終えたところで、神室霊華と2人でRINAの自宅に転移した。かすみは、せっかくこれからスパイごっこというお楽しみタイムが始まるのに、自分たちだけで楽しむのは勿体ないと考えて、弟子のRINAを誘ったのだ。もし玲がここに居たら、間違いなく「かすみ、遊びじゃないんだぞ!!」とかすみの頭上に何かを落としただろう。だがここにはかすみを監視する人は誰もいない。まさにかすみのやりたい放題であった。そしてRINAの自宅に転移したかすみと神室霊華は、RINAにも早速制服を召喚して着替えてもらった。
「なんか、軍人のコスプレしている感じですね」
とニコニコしながら着替えている。そして着替え終わったところで、ロドニーから教えてもらった基本動作を伝え、「あっ、RINAさん、カフリング忘れんといてな。ほな、行こか!」とのかすみの合図で3人は問題の陸軍基地に向かった。
3人がやって来た所は、アメリカ中西部に位置するとある陸軍基地である。ここは中規模な基地であり、主に市街地を想定した実践訓練で使用する施設や設備が整っていたりする。そのため、陸軍を始め各軍に所属する特殊部隊の訓練が頻繁に行われているというのだ。そのような場所故に、統合参謀本部の第9部の実働部隊はここに拠点を構えているのであった。そして3人は、この基地内の今は使われていない倉庫に転移して来た。かすみが念のために転移門を使って外を確認すると、運よく誰も外には見当たらないため、そのまま外に転移した。
「さてと、これからどこに
向かうかやねんけどなー。
なーんとなくあっこの建物に
責任者がおりそうとちゃう?」
「そうですね、恐らくこの施設の
司令部でしょうか、そんな感じもしますね」
ほな行こか、とかすみはピクニックにでも行くような呑気な声で2人に伝えた。かすみと神室霊華は既にこういう任務を経験済みのため、至ってリラックスモードであるのだが、RINAはと言うと、当然この任務が初めてである。しかもいきなりアメリカ軍基地に潜入と言う、どう見ても初心者向けではなく、かなり高いハードルを感じていた。そのためか、RINAは緊張で唇を真一文字に結んでいる。そんなRINAに対し、かすみはニコニコしながら
「RINAさん、緊張するのは分かるねんけどな、
命が取られるとかはあらへんから、
安心してええねんで」
とRINAに対しそう伝えた。そして3人は問題の建物に向かうのだが、途中でかすみと神室霊華はまたしても監視カメラに悪戯を仕掛けていた。そんな2人の様子を見ていたRINAは、とりあえず黙って様子を見守ろうするのだが、それでもとうとう好奇心が勝ってしまい、かすみに何をしているのかを尋ねた。
「これはな、悪霊を監視カメラの近くに
召喚してんねん。するとな――」
監視カメラには激しいブロックノイズが発生し、それによって映像は使い物にならなくなることを説明した。更にかすみは
「こうすると、監視カメラを壊す必要ないから、
誰かが侵入したという痕跡はなくなるしな、
結構便利やねんで!」
「RINAさんもやってみる?」とかすみがRINAを誘うと、RINAは何やら面白そうと感じたのか「はい、やってみます!」と答えた。そこでかすみは、RINAの召喚の書に悪霊の術式を書いて、ショートカット化も済ませた。
「これでな、こう唱えると、
あっこにあぁいう感じで出てくるねんよ」
と言って実践した。RINAも同じようにやってみると
「うわー、本当ですね。
ちゃんと悪霊が出てきました」
と嬉しそうに答えた。ただし、RINAの召喚エネルギーが多くはないので、程々にすることは忘れないようにして、3人は監視カメラを無力化しながら建物の中に入った。
行く先々で敬礼されるためこちらも敬礼をしながら進んでいくが、やはりどこも同じような扉ばかりであるからか、問題の部屋がどこなのか分からなくなってしまった。そうやってうろうろしていると、「おい、君たち!」と後ろから声を掛けられた。神室霊華は直ぐに、かすみとRINAは英語が分からないものの、何となく呼び止められた気がしたので後ろに振り向くと、上半身を鍛え上げた男性将校が両腕を腰に当てて仁王立ちしていた。階級はかすみと同じ少佐である。3人は直ぐに敬礼し、神室霊華がここに初めて赴任したため、まずは司令官に挨拶したいが、部屋が分からなくて迷っていることを伝えた。すると、書類を見せるように要求してきたので、かすみが制服の胸ポケットから何かを取り出す風を装って、その少佐の魂を分離した。すると突然意識を失ったのか、その将校はその場にへたり込んでしまう。
「とりあえず、こいつをどこかに隠しておこうか?」
とのかすみの提案で、直ぐ近くの部屋の扉を開けた。そこは会議室のようで、3人は両手と両足を持って運ぼうとしたが、どうやっても持ち上げることが出来ないため、結局両足を3人で掴んで引きずりながら会議室に放り込んだ。そして念のために、かすみはその霊魂に司令官の部屋を尋ねると、最上階にあることを教えてくれたので、そのままの状態にして部屋を出た。
「師匠、戻さなくても宜しいので?」
「まあ、後で戻しとくわ。
そうせんと、今騒がれたら厄介やしな」
そんなことがありながら、なんとか目的の部屋に3人は到着した。そこには、[Colonel MacFarlane]と言うプレートがあったので、この部屋が問題の人物のいるところだとわかった。かすみはその場で転移門を設置し中の様子を確認すると、何やらパソコンの前で作業をする人物を目にした。「中に居てるな」とカフリングを通じて2人に声を掛けたところで、神室霊華にお願いして、中の人物の魂を分離してもらった。そして気を失ったのを転移門で確認したところで、3人は転移で中に入った。
30分後、3人は最初にやって来た倉庫内にいた。ただし、3人とも腕組みをして何かを考えているように見えるが、その表情には険しさがあった。否、憤慨しているといった方が正確だろう。と言うのも
「あのクソ大佐、自分の出世のことしか
考えてへんかったな!!
人の命を何や思うてんねん!!」
「かすみさんの言う通り、
私もあそこまで出世欲にかられた人を
見たことありませんよ!」
とRINAはかすみの憤慨に同意してそう口にした。一方の神室霊華はと言うと
「そうですね、師匠とRINAさんが
お怒りになるのももっともですが、でも――」
偉くなるとそういう人が多くなることを神室霊華は肌で感じて知っているため、特に驚くことはなかった。
「まあなー、霊華さんの相手するのは
一癖も二癖もありそうな人が
多そうやもんなー」
流石は人生経験豊富な霊華さんや、と何やら神室霊華を弄りながらそんな感想を口にした。これには神室霊華は
「師匠、それだと私が
相当に古い人に思われますよ!」
と頬を膨らませて抗議するが、勿論本気ではない。それよりも、
「RINAさん、どやった、初任務は?」
「いやー、緊張の連続でしたが、
でもあっという間に終わりましたね」
召喚術を使うと確かに潜入捜査などは簡単に行える。すると
「次の時は、少し縛りをいれよっかなー!」
とかすみは両手を頭の後ろで組みながらニヤニヤしてそんなことを呟く。これには神室霊華が、
「師匠、この間のような縛りは
勘弁してくださいよ!」
と釘を刺すのは忘れない。だが、そんなことで諦めるようなかすみではないのだが、そのうち何やら外が騒がしくなってきたようだ。
「やっば、気づかれたんかな!?」
「多分、さっきのマッチョが
チクったんじゃないですか?」
とRINAはかすみの言葉に対しそう答えた。「ほな、うちらも撤退しようか」と言うことで、かすみはRINAの自宅に戻ることにした。
「ほな、RINAさん、うちらは一度
ラハニさんの家に向かうねんけど、
恐らく明日の夜辺りに動き出すと思うから
準備しといてな!」
と言って、かすみと神室霊華はRINAに別れを告げてからシアトルのロドニーの元に戻っていった。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
とかすみと神室霊華は挨拶をしながらリビングに戻って来た。リビングでは玲が1人でスマホを見ていた。そして2人の挨拶を耳にするや、「かすみ、ちょっと遅くないか?」と帰りの遅さに不審な表情を漂わせた。するとかすみは直ぐに
「そんなん、しゃあないやろ。
用心しながら行ってんねんから、
な、霊華さん」
とかすみは神室霊華の方を向いて同意を求めた。神室霊華はかすみに調子を合わせて
「はい、やはり朝の時間は人が多いですから、
慎重な行動は必要となりますね」
と遅くなった理由をそのように伝えた。だが玲は「どうせ、かすみのことだから、また何かしら縛りプレイでもしたんじゃないの?」と言い出すと、すかさずかすみは
「あんな、玲、うちそんな暇人ちゃうし!」
と玲に向かってそう訴えた。玲は「ほんとかな~」と疑い深い表情をしながら横目でかすみを見つめると、かすみは「ほ、ほんまやし、なんか文句でもあるんか?」と遂には逆切れし出した。だが玲はこの時気づいた。かすみの小鼻がヒクついていることを。
まったくかすみの奴、困ったもんだ!
さて、何やらぐずりだしたタホマの面倒を見ていたロドニーがリビングに戻ってくると、早速かすみと神室霊華は、2人が得た情報を伝えた。すると途中で玲とロドニーの顔色が一瞬で変わった。やはり責任者であるマクファーレン大佐の自己中心的な言動に憤慨していたのだ。特にロドニーは、神室霊華の通訳した話を聞くうちに、驚きで口が開き、次第に眉間に皺が寄り、最後は鬼の形相とも呼べるくらいの怒りの表情になった。そして何やら英語でし立てているが、神室霊華が通訳するにはられるようなスラングを連発していたらしい。そして何とか落ち着きを取り戻したところで、玲は3人に向かって
「今日は時間的に無理だと思うし、
むしろ日本時間の夕方かな、
その時に続きの調査を行うことにしようか?」
とかすみと神室霊華にそう提案した。2人とも異存はなく、黙って頷いた。そして玲はロドニーに向かって、
「多分、早ければこちらの時間で
明日にはラハニさんの復活が
出来るかもしれませんから、
そのつもりでいてください」
と優しげな表情でそう伝え、それを神室霊華が通訳した。するとロドニーはまたもや驚きで目を瞬くのだが、直ぐに目に涙を溜めて「アリガトウ、レイサン。レンラクマッテマス」と伝えた。そしてM Mの3人はロドニーに別れの挨拶をしてそのまま日本に戻って行った。