召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
ラハニのその後 (後編)
そして場面は再びラハニ・カヤンの蘇生から数日後の別荘に戻ってくるのだが、最神玲は
「かすみ、じゃあ、僕は仕事に向かうから、
後は宜しくね」
と言いおいてそのまま美土路神社に転移で向かった。残された物部かすみは、ダイニングテーブルで食後のコーヒーを味わっているラハニとロドニーに向かって、今後のことを話し合うことにしていた。
「ラハニさん、これからのことやねんけどな。
まず陸軍の仕事はどないする?」
とかすみは率直にその点をラハニに尋ねた。するとラハニは、
「ソノシゴトハ、モウヤメマス」
とかすみの目を見つめてはっきりと宣言した。すると隣に座っているロドニーが心配な表情でラハニに対しそれで良いのかと念を押して確認するも、ラハニの決心は変わらなかった。そしてかすみは、ラハニの言葉に後押しされる形で、今後のことについてある提案をした。それは、
「ラハニさん、ラハニさんがよかったら、
降霊術による鑑定をせぇへんか?」
である。実はこのアイディアは、神室霊華からもたらされたものだった。今現在、彼女の元には世界中から美術品の鑑定依頼が舞い込むのだが、その全てを対応することは物理的に不可能である。と言うのも、彼女の場合、言葉の問題が常に立ちはだかる。仮に依頼主が英語を話せても、召喚した霊体が非英語圏の霊体だと、その時点で意思疎通が出来なくなる。そのため、今は鑑定依頼をかなり絞って対応しているというのだ。
かすみは神室霊華の今の事情をラハニに説明し、その上で、ラハニであればヨーロッパの言語に精通していること、そして自分たちと同じように召喚術が使えることから、実はこの仕事に最適なのはラハニしかいないのではと考えていた。そして神室霊華の所に来ている鑑定依頼に関しては、全てラハニに回すことは出来るという。
「勿論な、今すぐに結論出すことはないねんで。
それとな、もし降霊術による鑑定を
するんやったら、当面は霊華さん所の仕事場を
借りることは出来るねんて。そこで――」
かすみは、ラハニとロドニー、そしてタホマの3人で日本に住んではどうかとも提案した。これにはラハニだけでなく、ロドニーも目を丸くした。と言っても、ロドニーはまだ現役の軍人である。もし日本に住むとなると、彼も仕事を辞めなくてはならない。だが
「ロドニーさんやったら、アメリカ軍での経験が
いろいろあるやろから、職探しに関しては
うちらも全面的にサポートするで。
でもそれよりもな、恐らく――」
現状の神室霊華への依頼数から判断して、鑑定料で月数百万円の収入が見込まれるから、年間で数千万円は稼げること、そしてその先には――
「ラハニさんが自分で会社を作るとか、
そんなんも視野に入ると思うねんなー。
そうするとやね、ロドニーさんが
会社の責任者に就任とかって、
あってもおかしくないねんなー」
とかすみは将来の展望まで含めて、2人にそのように伝えた。
一方でかすみは、念のために2人がアメリカに留まりつつ、降霊術による鑑定を行っても構わないとも伝えた。ただし、
「多分な、ラハニさんの国のトップが
それを許すかどうか、実は分からへんねん」
と懸念点を示すのだが、その点については、自分と玲で対処するから安心してとは伝えた。勿論彼らの対処とは、直談判である。ラハニは突然の申し出に対し少なからず混乱していた。そんなラハニを目にしたかすみは、今すぐに結論を出す必要はないから、ここでゆっくりと養生しながら考えて欲しいと伝えて話を終えた。
カヤン一家が別荘に滞在してから、毎日のように玲とかすみそして神室霊華の3人は、仕事が終わると直ぐに別荘に駆けつけて来る。そして全員で夕飯を共にして過ごすという日常がしばらく続いた。なお平日の日中は、ラハニとロドニーで今後のことを話し合ったり、それだけだと気が滅入るため近くを散策したり、あるいは神室霊華の時間が空いているときには、東京都内でショッピングしたりして時間を過ごしていた。そんなある日の夕食後、ラハニは玲とかすみと神室霊華の3人、そしてこの日はRINAが遊びに来ていたのでM&Mの4人に対し、自分の今後に関してある決心を伝えた。それは
「カスミサンノ、テイアンドオリ、
ニホンデカンテイシ、ヤリマス」
であった。ラハニの決心を聞いた4人は、顔を見合わせて安堵の笑みを交わした。そして静かに頷き合った。
「ほな、あとは、どこに住むかやけど......」
とかすみは思案し始めるが、そんなかすみに向かって神室霊華が
「それでしたら、私が暮らしている町の
マンションに住んで頂いたらどうですか?」
と提案した。神室霊華の地元であれば、都心と比べても家賃は安いため、比較的低収入であっても安心して生活できる。しかも
「外国の方達も結構多く住んでますから、
ラハニさん達が暮らしても、
不安に感じることは少ないと思いますよ」
と言うのだが、実はその町は大企業の工場が幾つか存在し、それらの工場で多くの外国人が働いていたりするということで、精神的な孤立感はあまり感じないのではというのだ。
「まあ、何れにしても、暫くは
霊華さん所に通って鑑定をすんねんから、
その方がええとは思うねんけどな」
とラハニに確認すると、ラハニも「ハイ、カスミサンノイウトオリデス」と頷いて同意した。そうなると住まいに関しては神室霊華に任せることにし、
「後は、あれやな、ロドニーさんの仕事を
どないするかやけどなー」
とかすみは腕を組んで思案し始める。だがかすみの思案を他所に、ラハニは
「カスミサン、ソレダイジョウブデス。
ロッドハ、シュフヲスルトイッテマス」
と突然そのようなことを口にした。するとかすみは「主、主婦?」と少し勘違いを含めながら目をぱちぱちと瞬いて驚くのだが、ラハニとかすみの言葉を受けて、ロドニーが
「ハイ、コンドハ、ワタシガ、
イエヲマモリマス!」
と元気よくそう宣言した。
実はロドニーは、ラハニが行方不明になってから、家に引きこもって何も出来ずに塞ぎがちになってしまったという。そんな時に息子のタホマが普段と変わらずミルクやおむつ替えを要求してくる。そのため、溜息交じりに重い腰を上げてタホマの世話を焼くのだが、そのうちタホマの世話を焼いている間だけは、妻の不在を考えることが無くなったという。それは全く気にしないとか気にならないというのではなく、他のことに神経を集中することで、思考が妻のことだけに向かなくなったというべきだろう。すると自然に家のことを少しずつするようになり、ラハニが行方不明になって1週間程すると、育児と家事をして一日を過ごすことに慣れたという。しかも別に苦痛とか面倒とか、そんなことは感じないらしいのだ。
「ヤハリ、タホマガイテクレタオカゲデス」
とロドニーは少し照れながらもそう口にするが、確かにタホマの存在はロドニーの生き方を大きく変えたのは間違いないかもしれない。
さて、そうなると当面の間の生活に関しての大きな問題は、これで無くなったようだ。だがそれ以降まで見添えると、まだ安心できないところがある。それは今後も日本で安心して暮らしていくための保証である。この場合の彼らの身の安全を保障するには、二つの選択肢がある。一つは自分の本国の国籍を所有したまま日本に住み続ける権利である[永住権]を持つということ、そしてもう一つは日本の国籍を取得して日本人となる[帰化]をすることである。もっとも今すぐに決めないといけない訳ではないため、かすみはラハニとロドニーに何れこの点は問題になるから自分たちの将来を考えて決めるように伝えた。ちなみに仮定の話になるが、もし最神玲が日本国政府の官房長官である古下に対し「召喚術師を1人保護してほしい」と要請すれば、古下は自国の利益に資すると認められると即断し、恐らく即日で永住権を与えたかもしれない。勿論玲は政府が自分たちのことをそこまで把握しているとは思っていないため、このような要請は架空の話であり、全くあり得ないのだが。
さてラハニとロドニーの今後の身の振り方に関して一応の方針が決まったところで、今宵の締めではないが
「ほな、皆で露天風呂に入って
疲れを取るとしよか!!」
とのかすみの合図で、全員が露天風呂に向かって一日の疲れを癒すことにした。