召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
撮影所の怪異 (第3幕)
さて、物部かすみを始めとするM&Mのメンバーは、撮影の本番に邪魔にならないようにカメラから少し後方の暗がりの中で待つことにした。そのうち「雪野さん入りまーす」とのスタッフの掛け声とともに、この映画の主役である雪野愛実が笑顔でスタッフに挨拶をしながら登場した。そして早速リハーサルに取り掛かるや、彼女の顔から笑顔がさーっと消えて、何時でも撮影OKの真剣な表情に早変わりしたのを目にすると、「さっすが、プロやな―」とかすみは感心してしまった。しかも
"あの人が、うちのこと演じるんやろー。
めっちゃ嬉しいがな!"
とかすみは舞い上がる心境になっていた。そして彼女の一挙手一投足を全て目に焼き付けんとばかりにただじっとその様子を見守るかすみだが、時折見せる彼女の凛とした表情に対し、言い知れぬほどの美しさと言うか気高さを感じたりして何やら圧倒されてしまった。
"確かうちと同い年位ちゃうか"
とかすみは心の中で呟くが、雪野愛実は若手俳優の中でも特に注目度が高まっている。と言うのも、ここ数年で何本もの映画に出演したり、あるいは主演したりしており、しかも国内の映画賞を幾つも受賞する程の実績を残しているからだ。そんな彼女の演技をじっと見つめていたかすみは、何やら夢見心地の様相である。そして「では本番に入りまーす」と言うスタッフの合図で、いよいよ本番の撮影が行われる。すると一気に辺りに緊張感が漂い始め、「シーン37、カット10、テイク1」と助監督がカチンコを手にこれから撮影するシーンを説明する。そして監物監督が「用意、アクション!」と声高に宣言すると本番が始まった。
およそ10分程のシーンだが、かすみを始めとしたM&Mの3人は、呼吸をするのを忘れるくらいに緊張しながらそのシーンを見つめていた。物音を立てて撮影の邪魔をしてはいけないという緊張感からそうなっていたようだ。そして「カーット」と監物監督の声がかかったところで、かすみは「ふぅー」と息を吐いた。このシーンはどうやら一発でOKだったようだ。その後カメラの位置を変えて、次のシーンの撮影に入る。そうやって撮影が進んだところで、一旦休憩に入った。
「うわー、まじで凄ないか。映画の撮影って」
「そうですね、何やら真剣勝負が
繰り広げられていた、そんな印象を受けました」
「ロドニー、コウイウノスキダカラ、
アトデジマンシヨウット」
とM&Mの3人は、何やら自分たちが感じたことをその場で伝えあっていた。するとそんな3人は監物監督に呼ばれたため、急ぎそちらに向かうことになった。そしてその場でM&Mの3人は演者とスタッフ全員に紹介されたのだった。
まず最初にかすみが紹介されると
「えっ...この役のモデルの方ですか!?」
と最初に驚きの声を上げたのは主役の雪野愛実であった。実は彼女は、呪いの動画制作委員会が制作している[呪いの動画コレクション]は見ていた。ただし、そこに映し出されるかすみはモザイクが掛けられているため、どのような表情でどういう心境だったのかが分からない。そんな折、まさか当人がお出ましになるとは夢にも思っていなかったようで、早速かすみに色々と尋ねようとした。だがその後でM&Mのメンバーが監物監督から紹介されると、やはり
「か、神室霊華様って、本物ですか?」
となるようだ。やはりこの場に本物の神室霊華が現れると、スタッフや演者に関係なく、特に女性陣からは大きな驚きを持って迎えられた。神室霊華の持つ気高さと、その佇まいから醸し出される上品さ、更に加えて霊能力者としての妖しさに、世の女性達は魅了されていたからだ。いや、それ以上に陶酔していたようだ。そしてこんな時こそかすみはあれを披露したいのだが、残念ながら玲を知る人物がこの中にはいないため、かなり悔しい思いを滲ませていた。
その後、何シーンかを撮影することになるのだが、M&Mの3人は一旦この場を後にして出直そうかと考えていた。と言うのも、過去にも同じようなことがあったかどうかを確認する必要があり、それを知る警備員は午後8時以降にならないと来ないという。そしてこのまま何もせずにここで演技を見続けるのも、"役者じゃないからあんま意味ないしなー"と思う訳で、かすみは
「ちょっと、その辺見て回ろう思うねんけどな」
と提案した。神室霊華もラハニも、確かにこのままここで演技を見続けても余り意味がなさそうと感じており、「では私たちも見回りをしましょう」と神室霊華も同意したことから、3人は佐伯えりに周辺の調査に向かうと言い置いてそのまま外に出ることにした。
この撮影所内には、大小様々なサイズのスタジオが何棟か存在する。とりあえず3人は手分けして各スタジオを調査することにしたのだが、そのうちの幾つかのスタジオは施錠されているため中に入ることは出来ない。とは言え
[まあ、暗くなったら転移で
中に入ればええんちゃう]
とカフリングを通じてかすみが指摘するように、彼女たちにとって施錠と言う行為は意味をなさないため、とりあえず後で確認することにした。そして30分程見て回ったとき、神室霊華から連絡が入った。
[師匠、ラハニさん。こちらに
祠のようなものがありますね]
と言うので、かすみとラハニは、神室霊華が設置した転移門マーカーを見つけてその場に駆け付けた。
神室霊華が見つけた祠は、地方で地蔵を祀るような感じのこじんまりとした祠であり、しかも敷地のかなり奥まった所の竹藪の中にポツンと存在していた。ただし長い間放置されて朽ち果てているかと言うとそんな感じはしないものの、だが十分な手入れがされているとは言い難いことから頻繁にここを訪れる人がいないと思われる。そんな寂しさを感じてしまう祠を前にして、
「多分、映画関係の何かを祀ってんのかなー」
とかすみは推測するが、それよりも何を祀っているのかが気になってしまうので、早速その場でお出迎えをすることにした。しかし
「ん?なーんも出てこーへんなー」
とかすみが指摘するように、その祠には何も祀られていないようなのだ。念のため祠の中を確認すると、中にはかなり古いお札が収められていた。残念ながら表面に書かれた文字はかすれて読めないため、何の目的があって祀られているのかは分からないままである。
「コノチイサイコヤ、
ユウレイトカンケイスルンデスカ?」
とラハニはかすみと神室霊華に尋ねるが、2人とも首を横に振るだけである。
「あるいは、もしかして、
あん時みたいに何かを
封印しているんかなー」
とかすみはニヤニヤしながらそんなことを口にするが、かすみの指摘する「あん時」とは昨年の富士山麓で見つけたある村での出来事を指している。すると神室霊華が
「えっ、では師匠、もしかして
ここに封印されていた何かか、
あるいは封印していた何かが徘徊して
事故を起こしたとお考えなのでしょうか?」
と昨年のことを踏まえてかすみにそう尋ねた。勿論その可能性は否定できないものの明確にそうだとも言い切れない。結局、祠の件は一旦保留として、3人は再び調査を行うことにした。