召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
撮影所の怪異 (第6幕)
スタジオ内では、既に次のシーンの撮影に向けての準備が進行中である。次のシーンからは、いよいよ物部かすみが怨霊達に憑りつかれた時の模様が再現されるという。そして本来は、その場にかすみが登場することはなく、かすみの目を通してと言うか、かすみの脳内で怨霊達の記憶が再現された訳だが、映画ではかすみ役の雪野愛実がその時代にタイムスリップと言うか、魂だけがタイムスリップする設定となっていた。とは言え、この設定に対しかすみは特にクレームをつけることはない。実際、食事の合間にこの点について監物監督から聞かれたかすみは、
「そんなん、うちは全く拘ってないし、
もしかしてホンマにうちの魂が
当時にタイムスリップしたかもしれへんしなー」
それ故に自由に想像して映像化するのは全く問題ないと伝えている。もっとも監物監督側からすると、今更変更しろと言われても無理なわけで、だが当人がこの場にいる以上、この点を確認しない訳にはいかなかった。そしてかすみのお墨付きではないが肯定的な意見をもらったことで、一安心したようだ。
午後8時を少し回ったところで、あるスタッフの元に「あのー、こちらで何か私が呼ばれたと聞きましたが...」と撮影所の警備員が話しかけてきた。そこで直ぐに監物監督に問い合わせると「あー、こちらに来ていただけますか?」と言うことで、その警備員は奥に案内された。同じ頃、かすみを始めとするM&Mのメンバーは、佐伯えりとエキストラの役者たちと車座になって何やら話し込んでいた。と言うよりも、正確には笑いが起きていた。なぜならかすみの独演会状態であったからだが、そんな彼女達の元にこの撮影所で起きた事故に詳しい警備員がやって来た。案内して来たスタッフから紹介されたかすみと神室霊華、そしてラハニはそちらの方に振り向いた。とその途端、彼女達は一瞬で険しい表情になった。そして直ぐにかすみが[これやな]とカフリングを通じて呟くが、2人は何も言わずに黙って頷いた。そして直ぐに自分達の周りに降霊召喚門の結界を設置した。だが不思議なのは、村木と言う名の年齢が60代半ば位のその警備員が、別段何か異常がある気配を見せていないことであった。かすみの経験では、悪霊や怨霊に憑りつかれた場合、寒気を感じるとか身体が重い、または頻繁に金縛りにあう、そして最悪なケースとしては生命力を奪われることがあったりした。かく言うかすみも、この映画のように自分の体に怨霊が憑りついた時、身体の自由を奪われて意識を失ったりした。だが目の前のこの警備員には、そのような兆候を微塵も感じない。それこそ何時も通りの平常運転中に見えてしまう。だがそれよりも、この目の前の怨霊か悪霊が原因なのかどうか、先ずはそれを確認する必要がある。そこでかすみは、警備員に目の前のパイプ椅子に座ってもらい、改めて自己紹介をしてから、早速過去にどのような事故があったのかについて尋ねた。
警備員の村木が語ったところでは、過去に何度となく事故が発生したという。しかも決まって、
「自分が当直の任務に就いている時に
よく起こりましたねぇ、はい」
という以上、やはり彼に憑りついている霊が何かしているとしか思えないのだ。ちなみに被害者は俳優なのかスタッフなのか、その点についてかすみは尋ねると、
「うーん、女優さんもいたし、
スタッフの方もいましたが、
そう言えば......」
と顎に手を当てて何かを思い出そうとするように少し天井の方に視線を移した。そして何かに思い至ったのか、視線をかすみに向けて
「女性が多かった気がしますねぇ、はい」
と言うことを伝えた。そこで神室霊華がなぜ女性が多いのかについて尋ねるも、「さぁ、分かりませんねぇ、はい」と言うことである。もっとも、村木が当番の時以外でも起きていそうな気がするのだが、「いやぁ、そのようなことは報告されてませんねぇ、はい」と言うのだ。ところで、このような事故が何時頃から発生したのかだが、
「自分がこちらの警備を担当してから
暫く経った頃だったと思いますねぇ。
なので――」
40年程前からだろうという。かすみは念のためにそれ以前には無かったのかを尋ねると、
「はい、それは無かったですねぇ。
と言うのもですねぇ――」
このことで自分が先輩から「お前、疫病神背負ってるんだろう?」などと揶揄われたからだというのだ。その答えを耳にした時、かすみだけでなく、神室霊華もラハニも
"まさに疫病神やなくて
怨霊背負ってんねんけどな"
とツッコミたくなった。その後、当たり障りのない質問をしつつ、序に今の体調に関して尋ねるが、持病の高血圧以外特に問題は無いという。そしてかすみは、村木にお礼を伝えて仕事に戻ってもらうことにした。
さて、かすみ達と警備員のやり取りを黙って見守っていた佐伯えりは、かすみが何やら分かったような雰囲気を目にしたため、早速かすみに尋ねた。
「うーん、まだ何とも言われへんけどなー」
と迷っている風を装うかすみである。と言うのも、村木に悪霊か怨霊が憑りついていてそれが原因ポイ気がする、とはまだ断言できないからだ。だが恐らく十中八九の確率で多分そうだと思いつつ、だが動機がよく分からない。単に襲うというか事故を起こすのであれば、それこそ誰でも被害に遭いそうなのだが、過去の事例を聞くとどうやら女性が主に被害を受けているようだ。そして今回も
「佐伯、念のため聞くけど、
今回の撮影で怪我をした人達って
全員女性なんか?」
「はい、そうですね。
確か女子大生役の子と、後は...」
スタッフも女性でした、と言うのだ。すると佐伯えりは、先程の会話から直ぐに
「えっ、じゃ、じゃあ女性だけが
事故に遭っているということなんですか!?」
と事の真相に突き当たったのか、目を丸くしてかすみにそう訴えた。結果としてはそうなりそうだが、なぜ女性だけが狙われるのか、それが全く分からない。そのことをかすみは佐伯えりに答えると、佐伯えりは自分も狙われると想像したのか、身体を小刻みに震わせ始めた。
とりあえず、状況が分かったところでこれからどうするかだが、
「霊華さん、うちはこのままここに残って
様子を見ようと思うねんけど――」
2人はどうするかを念のために尋ねた。特にラハニは家庭持ちなので、夜遅くまでここに残るとロドニーに心配をかけそうである。だが
「カスミサン、シンパイナイデスヨ。
ロドニーハコノコトワカッテマス」
と言うことである。念のためかすみからもロドニーに事情を説明することにしており、結局そのまま3人で状況を見守ることにした。
そして午後10時を過ぎた頃、スタジオ内ではまだあるシーンの撮影中である。しかも只今10テイク目に入ろうとしていた。ただし立て続けにNGが出たというよりも、監督の頭の中のイメージと今のシーンの雰囲気が合致しないようで、そのために何パターンもの映像を撮っている、そんな感じである。そんな監督の無理難題に対し、主役の雪野愛実は黙って従っている。と言っても呆れているとか、そんなネガティブな感情はなく、やはりかすみから実際の話を聞いたため、監督同様、自分なりに試行錯誤を続けている、そんな印象を受けたりする。そしてそんな雪野愛実にも、遂に魔の手が伸びようとしていた。