召喚術師を召喚したいのですが、どうすれば良いですか?
撮影所の怪異 (第5幕)
洋食屋[希望亭]で美味しい食事を堪能したところで、佐伯えりが
「そう言えば先輩、ここの店で
何か見えたりしませんか?」
とかすみに対しそう尋ねた。聞くところによると、この辺で古くから商いをしている店ではちょくちょく幽霊が目撃されるのだという。
「と言っても何か悪さする訳ではないみたいですが、
でも気になったりしますよね?」
と佐伯えりは雪野愛実に同意を求めた。雪野愛実は大きく頷いて、
「確かに、私も今撮影している映画の影響か、
よくそんな話を耳にしますね」
と言うことで、この問題には大いに興味がそそられているようだ。するとかすみは
「ん?幽霊なら、あっこにずーっといてるで!」
と別に大騒ぎする程でもないような素振りで後方のカウンター席の奥を親指で示しながら普通に答えた。かすみ達M&Mは、そこにスーツに身を包んだ年老いた男性が背筋を伸ばして前方を見つめながらただじっと座っている様子を目にしていた。一見すると注文した料理が届くのをひたすら待ち続けているようにも見える。そんな状況をかすみから聞いた佐伯えりは、「またまた、先輩。私を揶揄ったりしてませんよね」とかすみをジト目で見つめて来るのだが、それにはかすみではなく神室霊華が
「師匠の仰る通り、あそこで
じっと座られてますよ」
とかすみの意見を肯定したことで、俄然真実味が増してきた。そのためM&Mを除く3人は、一斉にその方向に視線を向けるのだが、残念ながら彼らの目には何も見えない。そんな時、かすみが
「まあ、普通の人には見えへんけどな、
これ掛ければ見えるようになるねんで」
と言いながら、椅子の背もたれに掛けていた自分のお洒落リュックの中から霊視グラスを3つ(召喚して)取り出して3人に渡した。佐伯えりは既に知っているその霊視グラスを早速かけると、「ひっ!」と引き攣ったような悲鳴を発した。佐伯えりの反応を目にした監物監督と雪野愛実は、その怪しげな眼鏡を手にして半信半疑ながらも黙ってその霊視グラスをかけた。そして問題のカウンター席に視線を向けると「わわっ!」「ひっ!」とそれぞれが悲鳴を発したのだ。そんな3人に向かってかすみは、
「まあ、あの霊体は多分なーんも害はないで」
と説明するのだが、そんなかすみの説明を聞いていたかどうか分からないが、監物監督は突然立ち上がり、そのままカウンター席の方に向かって行った。「か、監督?」と雪野愛実は不安げな表情で監物監督に声をかけるが、それよりもどうやら目の前の幽霊に大いに興味を持ったのか、彼女の言葉に反応することなく近くで観察し始めた。店内にて食事をしている客や従業員たちは、監物監督が何をしているのか興味津々になってその様子を黙って見つめている。そのうち、明らかに興奮した様子でかすみ達の所に戻ると
「あ、あの方は、まま、間違いなく、
しょしょ、昭和の名優の1人であられる
いい、出雲仙岳先生ですよ!」
と伝えた。実は監物監督が助監督をしていた数十年前に、一度だけ出雲仙岳と会っているというのだ。そして当時の物腰の柔らかい雰囲気そのままで、今そこに座っている様子から間違いないというのだ。ただ残念ながら、監物監督を除く5人の女性達は、出雲仙岳と言う名の俳優に心当たりがない。だがある映画のタイトルを伝えると、雪野愛実は「あっ、あの映画の方ですか?」と心当たりがあるようにそう口にした。そして監物監督は、自分の記憶を頼りに、出雲仙岳がここの撮影所にてある映画の撮影中、心臓発作か何かで倒れてしまい、そのまま命を引き取ったことを説明した。
「未だに彼の中では撮影が続いており、
そのためここら辺を彷徨って
いるんじゃないかなー」
と自分の推測を語るのだが、恐らくその推測に間違いはないだろうとかすみは感じていた。
とその時、監物監督の言葉を耳にした洋食屋の女将が、
「かか、監督。こここ、ここに
ゆゆゆ、幽霊がいるんですか?」
と恐る恐る尋ねて来るので、監物監督はかすみに断って自分の掛けている眼鏡を女将に渡した。そして女将はその眼鏡をかけてカウンターの奥に視線を向けた途端、口元に両手を当てて「ひぃっ!!」と引き攣ったような悲鳴を発した。だが直ぐに、その幽霊が誰かが分かった途端、「せ、仙さん!?」と言葉を掛けながら近づいて行った。だが残念ながら、その幽霊は女将の言葉に反応することなくただじっと前方を見つめたままである。その様子を目にした雪野愛実が、なぜ幽霊が女将の問い掛けに反応しないのかをかすみに尋ねた。
「それはね、単に認識でけへんからやで」
「こうすれば認識できんねんで」と言いながら、かすみは出雲仙岳の周りに召喚エネルギーを多くしてアニュラス型の降霊召喚門を設置した。すると、誰の目にもそこに霊体が存在することを確認したため、あちこちから悲鳴が上がる。だがかすみは、そんな状況を気にすることなく、霊体に近づき、彼の名前を尋ねた。
「・・・い、ず、も、せ、ん、が、く」
「おー、やっぱ監督の推測通りやんねぇ」
とかすみはニコニコしながら監物監督の方に振り向いて親指を立てながらそう答えた。そしてついでに、女将に対して霊体と会話ができることを伝えると、早速
「仙さん、仙さん、しのです。
覚えてますか?」
と霊体に対して話しかけた。すると、その霊体は女将の方に振り向いて
「・・・しー、ちゃ、ん、か、
げ、ん、き、か?」
と優しい眼差しで見つめながらそう問いかけた。女将は懐かしい声を耳にし、しかも自分が「しーちゃん」と呼ばれていたことを思い出すや、その場で出雲仙岳に縋りつくように泣き崩れてしまった。そんな女将に対し、出雲仙岳は女将の頭を優しく撫でながら、じっと彼女を見つめ続けた。そんな2人の感動的な対面を目にした客と従業員たちは、一様にその場で咽び泣くことに。その間、女将は涙声で出雲仙岳と何やら昔話に興じていたが、ふと厨房に向かってある料理を注文した。そして暫くすると、その料理が従業員によって運ばれてきて、それを受け取った女将は、
「仙さん、何時も召し上がっていた
メンチカツとビールですよ」
と語り掛けながら、その料理を出雲仙岳の目の前のカウンターに並べだした。すると
「・・・あ、り、が、と、う」
と出雲仙岳は女将にお礼を伝えた。もっとも、最早食べることは出来ないものの、目の前の料理をじっと見つめるその様子は、懐かしいものにやっと出会えて嬉しそうである。すると出雲仙岳は、これで思い残すことは無くなったかのように、穏やかな表情のまますーっと消えて行ったのだ。
「どうやら、成仏できたみたいやね」
とかすみはポツリとそう呟くが、恐らく誰の目にもそう映ったことだろう。そして女将は監物監督の所にやって来て、
「監督、仙さんと最後のお別れが出来たこと、
大変有難うございました」
とその場で頭を下げてお礼を伝えた。すると
「女将さん、それは私じゃなくて、
こちらの方々のお陰ですよ」
とかすみ達を紹介するのだが、かすみとしては何時ものことをしたに過ぎない訳で、
「まぁ、ちゃんと成仏できて
よかったんとちゃいますかねー」
と笑顔でそう答えた。そしてちょっとしたハプニングがあったものの、美味しい夕飯でお腹を満たした6人は、再び撮影所に戻ることにした。